PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
12月25日 日曜日
深夜3時
夜明けまで3時間と30分
暗雲立ち込め、血の雨が降り注ぐ異界の空。そこに突如として現れた天の道。
シャドウワーカー研究員・丸喜拓人はそこを【クリフォトの世界】と呼んでいた。
人の可能性を鎖し、偽りの世界による隷属を強いる。
そんな陳腐な神様にはピッタリな名前だと、そう思った。
そんな世界の主を名乗る…偽りの世界の偽りの神。それに仕える天使達、そして隷属を良しとした人間達の
「邪魔っすんじゃねぇ!!」
「オマエラに構ってる暇はねぇんだよ!」
空には天使。地にはシャドウ。
一気に畳みかける様に、波の如く押し寄せる。
私達だけであれば、その全てを相手にしなければならなかっただろう。敵の打ち漏らしは即ち、地上の人間達…何も気付かずイセカイに放り込まれた無辜の大衆達の危険を意味するのだから。
だけど、私達の役目は今はただ進む事。
「イシュタル!」
名を叫べば、天の女主人が敵の波に風穴を開ける。
「リリス!」
名を呼べば、夜の化身が道を開く。
進め。進め。進め。
後ろを気にする必要は無い。
世界の状況に反して足取りは軽やかだ。
相反する二つの力は違和感無く、ニュートラルな自分が扱えている。
頼もしい仲間達が、背中を押してくれた大人達が、同郷の友達が。皆が居てくれるから私はもう迷わない。
そして何より。
(私には欲しい明日がある)
例え
「──我を通させて貰うよ。だって私、ワガママだから」
これは私の中にある確かな真実。
▼
「さて大詰めだ」
コートを脱ぎ捨て、レイピアを手に取る。
「彼らの血路を開くぞ」
桐条美鶴には…前身である【S.E.E.S】のメンバーは、これまで沢山の事を取りこぼしてきた。
それは友人であったり、肉親であったり。現在を獲得する為に、犠牲を払い、傷つき、迷ってきた。
だからこそ、仲間達の間に紡がれた絆は強く、戦いという行為そのものにも特別強い思入れが……責任感、疑問感に似た思いがある。
「ふっ、任せろ」
真田明彦が、勝利を確信した笑みで答えた。
「よぉし!可愛い後輩ちゃん達に俺っちのかっこいい姿見せてやりますかね!」
伊織順平*1が、帽子を逆さ被りにさせながら、口角を上げる。
「いや…怪盗団の皆さん、順平さんのこと知らないんじゃ……」
「ワン!」
天田乾*2がやれやれと肩を落とし、コロマル*3は同意する様に元気に吠える。
「アンタ…本当に……………………………。残念よね」
岳羽ゆかりが、本当に残念なものを見るような瞳で順平を見る。
「骨折り損のくたびれ儲け……順平さんを的確に表した言葉ですね」
アイギスが武装のメンテナンスをしながら、言葉のナイフをちらつかせる。
「あはは…。この感じ…久しぶりだね………」
山岸風花が頬を掻きながら、完全に順平弄りの流れになった空気に苦笑を零した。
「お前達……ちょっとは空気を読んだらどうだ……」
「いや、裸マントのアンタに言われたくねぇですよ!」
「明彦、伊織。そこまでだ。────来るぞ」
緩んでいた言葉がシンと研ぎ澄まされた。
美鶴の言葉、一つで。全員が己の得物を構え、精神を研ぎ澄ませる。
対峙するは大天使。
剣を携えた炎を司る【死罰の宣告者】
シャドウワーカー…否、S.E.E.S.はそれぞれこめかみに銃を当てる。ペルソナを召喚する為の儀式、即ち自死のシミュレーション。
「たかが人間と…そう甘く見るなよ」
S.E.E.S.。
それは第一の滅びを退き、死の恐怖に打ち勝った先駆者達。
ここに居るのは皆、歴戦の猛者達である。
▼
「頑張ってね。雪ちゃん…みんな」
久慈川りせはその小さくなっていく姿を、聖杯に突き進むその背中を見送った。
危険は百も承知。本当であれば、一緒についていってフォローをしたい。
でも、これは怪盗団の…彼らの物語。
過去に自分達が可能性を開き、示した様に。今度は怪盗団がそれを為す番。
「いやぁ、若いって良いよな。こんな状況だけどよ。どうにかしてくれそうって感じがするぜ」
花村陽介がクナイをクルクルと遊ばせながら言った。
「そうだね。花村君、老けたもんね」
「あー分かる! 白髪とかさ! 増えたし染めきれてないもんね! ……アンタ…将来禿げるよ?」
「るっせぇ!? 真っ当に歳喰ってるだけだっつーの!」
雪子と千枝。
水を得た魚の様に、嬉々としてアレコレ言う二人に、陽介は怒りを顕わにする。
「でも…花村センパイ…確かに言われんのもわかりますよ…。なんつーか…。もう茶髪がキツイってーか、若作りが過ぎるってーか……」
「オメーに髪の事だけは言われたくねぇよ!! いつまで黒髪眼鏡してんだ!? 全然キャラじゃねぇって!」
「んだと!? 誰が生徒会長だコルラァ!」
黒髪に七三。そこに眼鏡を掛けたガタイの良い漢・巽完二が顔をすごめる。
「ヨースケを苛めるのはそこまでクマ! ヨースケだってぇ、まだまだ若さ爆発・パワーもりもりクマよ!!」
「例えば?」
「昔に買ったナースさんの本を今も夜な夜な………」
「だぁー!! クマてめぇ!余計なこと喋ってんじゃねぇって!!」
もごもごと喋ろうとするクマの口を抑える陽介。
女性陣から「うわぁ…」と引かれた視線を向けられ、その背中にはびっしょりと汗をかいている。
「……まぁ、何時も通りの陽介で安心したよ」
「フォローになってねぇって、悠!」
そんな相棒を……辱めを受けて涙目になっている相棒を、鳴上悠は地母神の様な笑みで受け止める。
その優しさが、今の陽介にはとても辛かった。
「…兎も角、今は雪雫ちゃん達の支援に徹する……。それでいいですね、皆さん」
コホンと咳払いをし、脱線しまくった空気を直斗は本筋へと戻す。
「おい、直斗…。頼むから目合わせてくれ」
その頬を僅かに紅く染め、陽介と何とか顔を合わせない様に、視線を逸らしながら。
「もぅ。花村センパイがエロいのは何時も通りでしょ! みんな気抜きすぎだよ!」
直斗に同意する様に、たるんだ空気を律する久慈川りせ。
「お前にだけは言われたくねぇっつーの! この万年発情アイドル!」
陽介の言葉に皆が内心で「確かに」と頷く。
全員知っている。りせがさっきまで何をしていたか。雪子の反応を見れば想像は難くない。
「うっさい! 花村センパイ!! ──ほらもう、敵来ちゃったじゃん!」
「俺の所為かよ!」
間抜けな雰囲気の中、殺気立って降り立つ大天使。
手には一輪の花。顔には母性的な笑みを浮かべた【責苦の告知者】
「……折角の雪雫の大舞台だ。邪魔をしないでくれ」
横に流された銀の前髪の奥に、鋭く光る髪と同じ銀色の瞳。
かつて真実を手にし、少女の可能性を信じ見守ると誓った者の凄み。
鳴上を合図にそれぞれのメンバーもその瞳の奥の意志を燃え上がらせる。
神に可能性を示し、二度目の滅びを回避した真実を追い求める者達。
「神とか、天使とか…そんな小さいもので私と雪ちゃんの生活を脅かすなって―の!!」
「───特捜隊…行くぞ!」
そう、この者達もまた歴戦のペルソナ使いである。
▼
「足りねぇ…足りねぇよ! 俺を飼い慣らしてぇんならさぁ! もっと連れて来いよ! 失望させんな!」
ヒャハハハハ。と嗤い声を挙げながら大立ち回りをする黒い仮面の少年・明智吾郎。
「凄いね…彼…。大丈夫? カウンセリングした方が良いかな?」
「多分、この件終わったら、呼ばれるんとちがう?」
そんな彼を一歩引いた所で、若干引いた様子で見ている丸喜拓人。
そしてそんな彼に同情を返すラビリス。
獅童のみならず、自分自身を駒として扱っていた聖杯。知らぬ間に自らの運命を操った神や天使に、明智は沸々と殺意を滾らせていた。
雑魚なら雑魚らしく、していろ。この俺を弄んだのなら、それなりの力を示せ。
他者に虐げられる事を良しとしない明智は、それを原動力に大暴れを見せていた。
そして一方も。
「あぁ、もう!」
忌々し気にレイピアを振るう、こちらも黒い仮面を付けた少女・芳澤かすみ。
「あんなん目の前で見せられたらさぁ!! もう───」
あんなん…とはメメントスでの出来事。追い求めている雪雫とその幼馴染の久慈川りせの蜜月。
「もっと欲しくなっちゃうじゃん!!」
手が届かない…それこそ高次の生き物の様な雪雫が、あろうことか、地に足付いた人間…たかがアイドルに射止められた!
即ち、これは同じフィールドに立つ私も手が届くと言う事!
欲しい。
夏の出来事で手を伸ばせば届くと分かった。今回の件で、それまでの道筋が鮮明になった!
手が届きそうで届かない。それくらいの距離感なモノほど、欲してしまうのは人の性!
過程がどうであろうと関係ない!
最終的に、雪雫が振り向いてくれればいい!
芳澤かすみにとって、嫉妬と渇望が心の原動力。
「滾ってきたぁ! あははははははははは!」
「………」
いや、あっちもカウンセリング必要やろ。
ラビリスは心境を吐露する。
(……帰りたい…)
明智吾郎という犯罪者。芳澤かすみというルーキー兼問題児。それのお目付け役としてラビリスは派遣されたが、余りの二人のハイっぷりに居心地の悪さを感じていた。
(そもそも丸喜センセも何でこんなニコやかで居られるん!?)
丸喜も丸喜だ。
ちょっと二人の様に驚きを見せているが、それくらい。若いからそういう事もあるよね。とすぐににこやかな笑みを浮かべて、理解を示す様な態度を示している。
きっとラビリスにも寄り添ってはくれるだろうが、同じ視野視座での会話は望めないだろう。
彼も彼で少しズレているのだ。
「───ん」
「センセ? どないし……」
言葉は続かなかった。
丸喜が感じ取った異変を、ラビリスも感じたから。
大暴れしていた二人も手を止め、上空を見つめる。
雲が割れた様に上からは後光が差し、光と共に大翼を携えた大天使が姿を顕す。
それは癒しを司り、悪を祓う者……【潔癖の掃討者】
「随分とごっついのが出てもうた」
地面に刺して立てかけていた斧を取り、ラビリスは姿勢を低くする。
「丁度良い。雑魚ばかりで飽き飽きしてたんだ。ちょっとは楽しませてくれるんだろうなぁ?」
ユラユラと幽鬼の様に大天使へ向かう明智。
「天使が何? 私、雪雫以外の存在認めて無いから──退いてくれる?」
冷気をレイピアに漂わせて、突き立てるかすみ。
「やれやれ…荒っぽいのは…苦手なんだけど……。そうも言ってられないか…」
肩を竦めながら眼鏡を取り、ボサボサの髪をかき上げる丸喜。
「来るで……気張りやぁ!!!」
▼
「おや、まぁ。これは随分と……」
都会を一望できるビルの屋上。
天を埋め尽くす天使達。地上に蔓延るシャドウの群れ。
そしてその中心を陣取る大天使。神の如き者【終末の導き手】
それをビルの上から見下す黄金の瞳があった。
「茶沸き菓子踊る……違う……血沸き……? 足踊る……? ────兎にも角にも。久方ぶりにエリザベス、心の高揚を感じております」
彼女は一冊の本を携え、続けざまに言葉を紡ぐ。
「ベルベットルームでは直接的な介入はご法度……。本来であれば、お姉様に折檻されるところではありますが……」
エリザベスの脳裏に浮かぶお姉様。
「生憎、私目は絶賛、職務放棄中の身であるが故。柄にもなく恩返し……というものを試みるであります」
エリザベスの言う恩…とは怪盗団のこれまでの旅路。
本来有り得ざる少女の覚醒、その少女を中心に一同に会したペルソナ使い達。本来、バラバラであった筈の彼らは、たった一つの特異点。天城雪雫によって集められ、この地でまた一つの人間の可能性を示している。
それはエリザベスにとって……否、ベルベットルームの住人にとって、正に驚愕すべき光景。
「短い関りではありましたが。非常に……えぇ有意義なモノでありました。この場を借りて、お礼を一つ」
そう言って、エリザベスはビルを飛び降りた。
重力に従って急速に落下していく身体。だと言うのに、彼女はそれを物ともせず、笑みを浮かべながら、手に持つ本を開く。
「では皆々様。ご唱和、くださいませ……。ドロー、ペルソナカード」
本から取り出した一枚のカード。
それは死神のアルカナ。
「────メギドラオンでございます」
▼
深夜4時2分。
夜明けまで後 2時間と28分。
地上の乱戦と時を同じくして。
「よぉ。クソ神野郎」
クリフォトの世界のその最奥。浮上した神殿の扉を蹴破る。
「随分な真似…してくれたじゃねぇか……あぁ!?」
スカルは怒りに突き動かされるまま咆哮する。
見上げる先に佇む巨大な杯。
都会のビル群と比べても引けを取らない大きさのソレは、地下で見た時よりも幾分も輝きを増していた。
「借りを返しにきた。これまでの分…その全て」
スカルを制止し、代わりにジョーカーが口を開く。
結末が決まった出来レース。それに巻き込まれ運命を狂わされた仲間達、大勢の人々。
ジョーカーは…稀代のトリックスターは拳を握り締め、神に吠える。
「──お前を倒し、頂戴する。より良い明日を!」
パロディ、小ネタ、伏線等の解説書は必要?
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欲しい!
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要らん!