PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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149:Jaldabaoth.

 

 

 ペルソナ使い。

 確立した自己を………集合無意識というコロニーから外れ、己の内海にフロンティアを持つ者達。

 

 その中でも取り分け、怪盗団という集団は厄介であった。

 少なくとも、今の統制の神にはそう見えた。

 

 他のペルソナ使いと比べて、知識も経験も無い。己が力量も、限界も分からない。

 しかし、それ故に恐れ知らず。確かな尺度が、判断材料が無い分、常に彼らの動力は、信頼、意志、願望という不確かなモノ。恐怖を、絶望を知らない心は無尽蔵にその不確かな希望を紡ぎ続ける。

 

 

『人間如きが、またしても歯向かいよるか』

 

 

 統制の神には分からない。

 通常の人間であれば、怠惰に塗れた大衆であれば、楯突こうなどと考える事すらしないから。

 脳内でシミュレートしても、結果は怪盗団の敗北。だと言うのに、未だにその瞳には意志が消えていないのだから、その厚顔無恥な様に苛立ちすら覚え始めた。

 

 

「それはこっちの台詞。神サマ気取りのオタカラ風情が。大人しく壊されてよ」

 

 

 この天城雪雫という少女に対しても同様だった。

 統制の神の胸中は、さらに苛立ちでかき乱される。

 

 

『愚かな…。結果はもう分かり切っているというのに……。貴様らの行動は救いにはならぬ』

 

 

 神からすればこの少女こそ、真なる愚者であった。

 既に主導権はこちらに移ったとはいえ、一時は大衆に統制を促したモノ。既に結末は、破滅は免れないと分かり切っている筈なのだ。

 答えが分からぬのなら、無知であるのならば幾分マシだ。そう再評価をしてしまう位には少女は無謀で無鉄砲。

 

 

『……選ばずともよい自由。考えなくともよい自由。だが、皆が誰かに肩代わりをさせた気でおれば、実際は誰もしておらぬが当然の道理』

 

「何が言いたい?」

 

 

 フォックスがきつく瞳を細め、聖杯の、その巨大な体躯を見上げる。

 

 

『そこに広がる巨大なひずみを、誰が引き受ける? それが我…望まれし者……。つまりは人間自身が聖杯に神であれと────』

 

 

 その時、聖杯の言葉を遮り、影が空を切り裂く。多分な魔力を帯びた、両断する黒の一閃。

 

 

「御託はいい。道理もいらない。そもそも。私達は皆を救おうとか、そんな高尚な考えは持ってない」

 

 

 下手人はウィッチ。

 魔女の名に偽り無し。放ったのは神を嘲り、天を穿つ一閃。

 

 

「私達はただ。お前の創る世界はしょうもないって。異議の申し立てに来ただけ」

 

 

 しかしその一閃は、神に届く前に掻き消された。

 天から舞い降りる大天使の手によって。

 

 

「誰にも望まれてない事は分かってる。大衆の望み何て、嫌ていうほどね。でも気にしないで」

 

 

 それは偉大なる大天使。数多の異名を持ち、最も謎に満ちた【神の代理人】

 

 

「────元より義賊、はみ出し者。とやかく言われるのは慣れている」

 

 

 そして、駆け出す。

 

 神と人。何処まで行ってもその考えが交わる事はない。会話が成立しているだけでマシな方だ。

 だから言葉など無意味。対話は論外。ウィッチに言わせてみれば、それこそ無駄な事。

 

 銃を構え、神を直接狙う。

 ───が、物言わぬ大天使がそれを防ぐ。

 

 動きは高速。そして無駄の無い。判断もスマートで、不意打ちを予想していたのか、後ろから飛び掛かるクイーンとスカルの攻撃をもいなし、瞬く間に反撃に躍り出た。

 

 

「ハハっ。哀れ。とうとう言論の自由すら無くなった?」

 

 

 大天使とかつての自分を重ね、嘲笑する。

 神に使われる事が最善と考えたかつてのイヴ(自分)。大天使の物言わぬ様をみる感じ、口がきけただけ自分はマシだっただろう。

 

 

「引導、渡してあげるよ。主もろとも、ね」

 

 

 イシュタルとリリス。天と地。光と影が、融和する。

 本来交わる事の無い力。本来は人ならざる象徴。それらは人の器を介して混ざり、溶け合う。

 

 双方の力が織り成す魔力の戦慄。

 

 

「夢幻崩壊」

 

 

 天で光は波打ち、影が地で蠢く。

 天輪広げる少女が祈る様に手の平を合わせれば、その力の嵐となり荒れ狂う─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ったく、夜通し勘弁してほしいわ」

 

 

 場所は四軒茶屋。

 診療所のその上の階……武見妙の自室。

 

 大欠伸をしながら武見は忌々し気に窓越しに外を見る。

 建物が立ち並び、入り組んでいる四軒茶屋。道路も狭く、一見すればここだけ独立した街の様な雰囲気を醸し出しているが、例にも漏れずここも異界の異変に襲われていた。

 

 血のような雨。四茶にひしめく背の低い家屋など、余裕で呑み込めてしまうほど大きい骨。

 加えて、渋谷の方面の空はより重く、暗い。

 

 

「寝れないっつーの」

 

 

 止めてた筈のタバコを吹かし、文句と共に空に吐き出す。

 きっと異変の中心で戦っている、とある少女とその仲間達を思い浮かべて。

 

 

「これ、どれくらいの人間が認知してるのかしら」

 

 

 異変が起きた時はそれはもう目を丸くしたが、より驚愕したのは街行く人たち。

 寸分変わり無く普段の営みを送る皆に底知れぬ恐怖を覚えたのは記憶に新しい。

 

 

「ま、所詮は一夜の異変。夢幻の類ね」

 

 

 だがその怖さもすぐに消えた。 

 通常の人間で知覚出来無い現象、それ即ち。大体あの子…雪雫絡み。そして、きっと雪雫も…蓮も、それに他の皆も。これを放っておく様なたまでは無い。

 

 ともすれば文句はあれど、絶望は無い。

 だって武見には結末が分かり切って……いや、明日を信じているから。

 

 

「とはいえ心配な事には変わり無いし、早い事終わらせて欲しいわね」

 

 

 武見の心配は怪我の有無、その一点。

 戦いが終わって、もし怪我でもしてて。その時に診療所が開いて無かったら、それは医者として…主治医としての矜持に関わる。

 

 再びタバコを吹かす。

 総合病院時代は忙しさを誤魔化すように吸っていたタバコ。いつしか新人から担当医になった頃に、彼女の健康を想って止めたタバコ。

 

 

「はっ。────不味」

 

 

 顔を顰めて、まだ半分以上残っているタバコを消した。

 

 

 空の白みが増す黎明…5時56分。

 夜明けまで30分ほど。

 

 これはそんな時間帯の一幕である。

 

 

 

 

 

 

「────はぁ…はぁ」

 

 

 小さな肩を上下させ、息を整える。

 

 足元を見下せば、先程まで大天使として動いていた神の使い(木偶の棒)。既にそれに天使たる威厳は無い。機体は上下に分離され、そのうえ、上はその半分が融解。辛うじてかつての形が残っているのはその無表情な顔だけ。

 それも今、魔女の手によって刃が入れられた。

 

 神の代理人。

 名に負けず、強敵であった。怪盗団全員の猛攻をいなし、反撃に転じ、名の通り神の威厳を示そうと猛威を振るっていた。

 

 だが。

 

 

「いい加減。他人任せやめたら?」

 

 

 つばの広い帽子が影を差し、完全にはその顔は拝めない。だが、その紅い瞳。血のように紅く、宝石の様な深い輝きを持つ瞳が、闇の中でもその存在を主張していた。

 

 ウィッチは手に持つ大翼……乱雑に切り落とされた大天使の羽根を、神の前へと放り投げる。

 己が脚の下。地面に転がる天使の体躯から降り、神…聖杯の前へ。

 

 

「足りねぇな。全っ然。人任せで、ワガハイ達を止められると思うなよ?」

 

 

 続く形でモルガナが…それぞれのメンバーが挑発的な笑みを浮かべる。

 確かに消耗は強いられた。息を切らし、気を抜けば座り込んでしまいそうになる身体。しかし五体満足だ。疲労に反して精神はより研ぎ澄まされている。

 

 

『いいだろう』

 

 

 世界が鳴動する。

 聖杯がその衣を破り、真なる姿を見せる。

 

 

『我が名は統制神・ヤルダバオト』

 

 

 頭上には転輪。顔は表情すら分からぬのっぺらぼう。頭部含めて、全身がプレートの様な装甲で構成されており、映る全てを反射させている。まるで、愚かな人類のその様を、見せつける様に。

 腰にはビル一棟分ほどの大きさの翼が二対。それを携える体躯は遥かに大きく、計測するのも億劫。

 

 

「──ホント、虫唾が走る」

 

 

 形だけで言えば、イヴに非常によく似ていた。

 

 

『我が統制に歯向かう反逆者よ……破滅せよ』

 

 

 神のたる者の本領。

 それは非常に強大で、人間など念じるだけで圧し潰してしまいそうな程。

 

 

「おい。オマエラ……ビビってねーよな?」

 

 

 しかし、恐れは無い。絶望も無い。

 

 モナの問いに対する回答は、最初から全員決まっていて。

 

 

「ったく。オマエラ全員、アホでサイコーだぜ!」

 

 

 何もジョーカーやウィッチだけでは無い。

 怪盗団は全員が愚者であった。

 

 

 しかし、とは言え敵は強大。

 その見た目の質量通りに、神という称号通りに、ただの我武者羅が通用するとは思っていない。

 

 少なくともウィッチは……この場に居る誰よりも聖杯を知る彼女は思考を巡らせる。

 

 何時も通り怪盗団のメンバーは散開。

 ヤルダバオトからの攻撃を散らす為、そして数の利を活かした畳みかけを行うため。

 

 仲間一人一人の行動に目を配り、観察する。

 

 銃、武器による攻撃は論外。

 象に蟻が歯を立てるが如く、効いている様子は無い。

 

 じゃあペルソナは……有効ではあるが、やはり効果は薄い。使い走りの天使と違って、敵は聖杯そのもの。大衆の望みが一点に集まった存在。個の質はこちらが勝っていても、量に圧し敗ける。いずれはジリ貧。向こうが倒れる前に、こちらが力尽きるのは必然。

 

 

『我は解き放つ──色欲の大罪を』

 

 

 ヤルダバオトはそう言い、新たに生成した黄金の腕。それが持つ銃が、クイーンを狙う。

 

 

「リリス!」

 

 

 光速の…少なくとも、ウィッチの眼ですら追う事は困難なほど早い弾丸。

 辛うじてリリスは間に合い、クイーンの盾となったが。

 

 

「ウィッチ!? 無理しないで!」

 

「ん、問題ない──?」

 

 

 ドクン。と跳ねる心臓。動かない筈の心臓が、躍動し、心がざわつく感覚。

 憶えのある感覚に、雪雫は首を傾げた。

 

 

『我は解き放つ──虚飾の大罪を』

 

「──イシュタ……っ」

 

 

 言葉と共にまた新たに出現した腕と、その腕が持つ鐘。

 攻撃の予兆を悟りペルソナを顕現させようとしたが、異変は鐘の音と共に訪れた。

 

 急に力が抜ける様な感覚にウィッチは襲われる。

 全力で坂道を駆けた後の様な強い脱落感。

 

 

「色欲…虚飾……。七つの大罪か」

 

 

 動きが鈍くなったウィッチを狙った正確な狙撃。

 避ける事はせず、ウィッチはそれをペルソナで受け止める。

 

 再び襲う胸の高揚…そして指から痺れる様な感覚が新たに加わる。

 

 

(ともすれば)

 

 

 三度にわたる攻撃を貰えば、彼女は気付く。

 物理的な攻撃というよりも、精神面…そのペルソナを生み出す心そのものを揺るがす攻撃だと。

 

 

(回避は論外と考えた方がいいか)

 

 

 聖杯の、ヤルダバオトのやり口は今まで見てきた中だけでも検討は付く。

 

 七つの大罪……時代背景や説いた人物によって解釈は分かれるが、大まかに言えば七つの死に至る罪。要するに、人間の破滅には必ずその要因となった感情や欲望があるという教え。

 我欲によって破滅する人の様……まさに今の状況に近しい。

 

 ヤルダバオトはことある事に、この破滅は人間の罪によるものと主張し、まるで鏡合わせの様に怪盗団(人間)大衆(人間)の対立を煽っている。

 それがかの神の破滅に対する認知であるならば、この攻撃もきっとそういうモノなのだろう。

 

 人が人であるが故に抱える罪。その先に待つ破滅。

 そんな概念的な認知を利用した攻撃であるならば、感情や欲を生み出す心を持っている時点で、それは必中。

 

 

(そんな攻撃が全部で七つ…いや八つ……と考えた方が良さそう)

 

 

 一般的な教養としての七つの大罪には虚飾という罪は無い。

 虚飾があるのは七つの大罪の元となった考え方である【八つの枢要罪】の方。こちらも今と比べたらニュアンスや内容が若干異なるのだが、全体数としてはこちらで想定していた方が良いだろう。

 

 

(最低でもあと六種の攻撃。私やモナは兎も角、他のメンバーは身体は純人間だし、当たった時点で致命傷? 物理的な畳みかけは厳しいし……やはりこちらが不利か)

 

 

 物理的な攻撃も罪を模した攻撃も、当たれば戦闘不能は免れない。

 

 

「は…ははは。クソ神のクセにクソしぶてぇなコラ」

 

「まだ…まだよ!」

 

 

 語気は強いが既にボロボロのスカルとクイーン。

 他の皆も同じような状況。数時間前に突入してから沢山の雑魚、大天使、そしてヤルダバオト。

 もっと言えばメメントスからずっと休まずのこの状況。寧ろ、ここまで持っているのも奇跡としか言えない。

 

 

(統制神には慢心が見える。まぁそうよね。盤上だけ見れば敗ける要素は無い)

 

 

 チェスで言う所のチェックメイトが、あと数手で打たれる様な局面。

 ここで言うチェックメイトとは、怪盗団の敗北…もしくは、影時間が終わる事による完全な世界の融合。

 

 空は既に白み始めていた。影時間の内部からでも外の様子が分かるくらいには、影時間という異界は崩壊しかけている。

 

 

「─────やるか」

 

 

 ウィッチは鎌を床に刺すと、その帽子、コート、仮面。

 魔女たる証を脱ぎ捨てた。

 

 風に揺れる白髪。前髪の隙間からちら見えする黄金の瞳。

 魔女は……いや天城雪雫は、髪を揺らす風に言の葉を乗せる様に言葉を紡ぐ。

 

 

───私の歌を聴け

 




武見先生って煙草吸ってそう(偏見)


神の代理人とは何ぞやコーナー

所謂メタトロンです。
原作で四大天使はボスで居たのにメタトロンいなかったので、登場させました。すぐ退場しました。描写してないだけでめっちゃ強いので、相当、消耗を強いられました。

以上!!!!!
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