PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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150:The world calls it love.

 

 

 日が上がる。

 朝日が影の夜を溶かしていく。

 

 

「く……っ」

 

 

 ────間に合わなかった。

 ジョーカーは苦虫を潰した表情を浮かべる。

 

 

『なんと無駄な事よ』

 

 

 地上から響くのは大衆の困惑、悲鳴、怒号。

 影時間によって隠されていた渋谷の異変……クリフォトの世界を認知したのだ。

 

 一人が声をあげれば、連鎖的にその認知は広がっていく。

 

 

 誰かが言った。

 

「警察なんだからどうにかしろよ」と。

 

 

 誰かは祈った。

 

「神よ…どうか我らを救い給う…」

 

 

 人知の理解を越えた現象に対して、無力感に打ちひしがれ、より上位の者に己が選択を委ねるのは古来より変わらない。

 今回はその相手がヤルダバオトである。

 ただ、それだけ。

 

 だから神の勝利は必然なのだ。

 そうヤルダバオトは嗤う。全てが予想通り────。

 

 の筈であった。

 

 

 

 

 真実を知った。

 

 

 命を無くした地の道《過去》こと。

 無くしたままの天の道《現在》のこと。

 

 ───日常に焦がれる人の道(未来)こと。

 

 正直、反吐が出そうだ。

 自分のことは正直、今も好きになれそうにない。

 

 皆に心配を掛けた。迷惑も掛けたし、傷つけもした。

 そもそもとして聖杯という歪んだシステムを産んだのも、元はと言えばこの私。

 

 だから()()()()で決着を付けたかった。

 皆を巻き込んで、傷つけた。その過去は変わらないけど、せめて。例え刺し違えてでも、皆だけは何にも縛られない明日へ送り出したかった。

 

 それが私の勝利条件。

 

 だけど、この後に及んで私は明日を望む。

 命も無いのに、醜く足掻いて、皆と…りせと笑い合う。

 そんな未来を、私は夢見てしまっている。

 

 

「───勝てないね」

 

 

 一人ポツンと呟く。

 どうも勝てそうになかった。私の当初思い浮かべていた勝利。それは手を伸ばしても掴めない程遠いもの。

 一度敗北を認めてしまえば、笑っちゃうくらい心が軽くなって澄んだ気持ちになった。

 

 このどうにもならない、面倒臭さが。きっと人間の心なのだろう。

 

 

「───私、独りではね」

 

 

 鎌を突き立て、叛逆の象徴を脱ぎ捨てる。

 ちょっとした反抗だった。プライド…と言っても良いかもしれない。

 だって新たな可能性を開いたとか言われたから。見て見たいじゃない。物語の主人公のように。過去の自分が起こした不始末を、未来の私が解決する…みたいな展開を。

 

 でも死に至る罪とはよく言ったもので、そんなプライドに拘っていたら、みんな死んじゃう。

 

 だからそんなプライドはもう捨てた。

 自分の敗北を種にして、皆との未来を咲かせよう。

 

 

「始まりは一緒だったんだ。貴方達にも、責任は取ってもらうよ」

 

 

 今一度、世界を…大衆を巻き込もう。

 

 これは賭けだ。

 ヤルダバオトの管理下にある大衆をこちらに引き込む。

 

 異界と融合している今だからこそ、神が目の前に出現している今だからこそ、出来る荒業。

 大衆の精神は蜘蛛の糸の如く繋がっている。つまり弦を弾けば全体にその音が伝わる。

 

 

「沢山かき回して、目を覚まさせてあげる」

 

 

 大衆は決して変わらない。

 それがヤルダバオトの認知であり力の根幹。盤面が変わらないなら…土台を崩す(ノーゲーム)にしてやるさ。

 

 影時間…渋谷区を隔離している異界の崩壊と共に、大衆に贈ろう。

 

 ここからはヤルダバオトによる世界の完全な融合が先か、大衆に私の声が届くの先かのレース。

 

 時刻は現実時間で6時29分。

 あと一分。日の出が合図。

 

 

「世界同時ゲリラライブだ。───私の歌を聴け」

 

 

 

 

 

 少女を中心に吹き荒れる突風。

 思わず手を前に構えてしまうほどの風は、雪雫の白髪をかき上げる。

 

 

「この瞬間を、待っていた」

 

 

 雪雫の前に現れるアルカナカード。

 黄金の瞳でそれを見つめ──力強く掴む。

 

 最初はアリス…否、リリスの召喚だと、ジョーカー達は…神でさえも、そう思った。

 

 

「大衆が、私達に気付く時を」

 

 

 朝日を塗り潰すほどの輝き。その顕れし者の背後には輝きがあった。

 

 

『……なんだ、それは』

 

 

 後光に対して片手には不気味なしゃれこうべ。もう一方には鉄扇。

 

 

「決まっているでしょ───」

 

 

 顔は無貌。黒くドロリとした絵の具の様な影で塗りつぶされている。辛うじて、その顔の形は美しく、パーツ次第では傾国の美女になるだろう。そう予感が出来る形だ。

 髪は黒で艶やか。その全長を覆う程の長さから、目測を見誤ってしまうが体躯も随分と大きい。

 そんな女性を模した異形が、大岩の上に鎮座している。

 

 

「私自身よ」

 

 

 極めつけは身に纏う煌びやかな着物、そして頭部の獣耳と、二対の尻尾……それが彼女の正体を端的表していた。

 

 

「タマモノマエ!」

 

 

 これは天城雪雫という人間が持っていた本来の真実。

 

 彼女は天の自分を知り、地の自分を知った。

 相反する力は、激突する主張や結末は。己にとっての異物では無く、影であると──受け入れる事によって手に入れた等身大の力。

 

 

「もう着飾らない。下手でもいい。音程を外してもいい。嫌われたっていい。──完璧じゃなくていい。これがお前達が持ちあげた天城雪雫の新たな方向性だ。それでも聴け。その後どうするかは──お前達自身で決めろ!」

 

 

 空気を震わす叫び。溢れ出る魔力。迸る閃光。

 これが、私であると、そう叫ぶ。

 

 

 

 

 

 歌が聴こえた。

 力任せで、感情を振り回す様な歌。

 

 ある人間には騒音の様に聞こえた。

 ある人間は聴くに絶えないと耳を塞いだ。

 

 それでも、歌は届いた。

 

 

 ある人間は、呆然と聴き入った。

 ある人間は、最初は鼻で笑ったが、次第にその矛を収めていった。

 

 

 小手先の技術を越えた何かが、人を惹き付けた。

 

 

 一人、また一人とその歌に気付いていく。

 十人十色の批評が、称賛が、感想が飛び交う。

 

 人によって抱く感情は違う。

 時と状況、性別、宗教、人種、文化、言語。

 その全てに対応する歌は、芸術はきっと人間には生み出せない。

 

 それでも、少女の声は届いていた。

 神への信仰に、ネガイに縛られた心の鎖を打ち砕いていく。

 

 誰もが目を向けた。

 音が響く遥か上空、人知を超えた世界。

 

 そして気付く。

 この歌は決死の叫びであると。

 この惨状に嘆いた誰かが…怪盗団が代わりに戦っていると。これはそれに気付かない自分達への警鐘であると。

 

 

「ふっ。精々頑張りなさい。傷くらいなら、何時だって診てあげる」

 

 

 頑張れ。

 

 

「頑張ってね。雪ちゃん…みんな……! りせちーが応援してあげる!」

 

 

 頑張れ。頑張れ。

 徐々に増えていく声。

 

 一見すると無駄なこと。だってそうだろう。

 地上から遥か上空の世界に、声が届くはずがない。それでも声は徐々に増えていく。

 

 今出来る精一杯を、そう心が叫ぶんだ。

 

 

 

 

 

 

『…バカな…有り得ない………。大衆が…改心していく…!?』

 

「偽神よ。これが答えだ」

 

 

 コツコツと。

 ジョーカーは踵を鳴らして笑みを浮かべる。

 

 力が満ちていくのを感じる。

 

 

「人は変わる。やがて岩を穿つ水滴の様に。小さな奇跡が大きなものを突き動かす」

 

 

 自分がこの世界に居ると、誰かからその存在が認められていると、そう確信を持って言える。

 

 

「ここがお前の限界だ。拡張性の無い世界の終焉」

 

 

 ジョーカーは仮面を振り払う。

 振り払った仮面は、空で塵となり、また集まる。塵の集合は渦となり、空間を歪めていく。

 

 矮小だった筈の存在が、大きなもの影を生み出していく。

 

 

「───サタナエル!!」

 

 

 ジョーカーの背後に…いや怪盗団の背後に現れた異形の悪魔。

 腰は六つの黒欲を携え、うねり曲がった角を生やしたソレは、余りにも巨大であった。それは神すらも矮小に見えてしまうほどの体躯。悪魔、というよりも魔王にすら見える。

 

 

「……ざまぁみろ」

 

 

 やがて歌は止む。

 少女は喉に手を当て、地面に倒れ伏す。彼女とて既に限界。長時間肉体を酷使し、持ち得る魔力を目一杯放出したのだ。既に身体を動かす力すら残っていない。

 しかし、そんな中でも、その瞳は神の最後を見届けようと、未だ光を保っていった。

 

 震える右手を前に出し、細くしなやかな細指を、突き立てる。

 

──死んでくれる?

 

 と。

 

 

『否定するか…! 人々のネガイを───』

 

「………失せろ!!!」

 

 

 当に対話は不要。

 ジョーカー…雨宮蓮は、その引き金を神に向け、放った。

 

 空間に亀裂を走らせるほどの魔弾。

 正確無比に、ヤルダバオトの無貌に風穴を空ける。

 

 

『────』

 

「……やった、の…?」

 

 

 風穴を通して、見える温かな朝日。

 偽りの世界の終焉。それは真の世界の訪れの様。

 

 

「──帰ろう。皆」

 

 

 少年はそうして、真のトリックスターへと至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 12月25日 日曜日 雪

 

 

 重い瞼を、いつまでもくっついて離れようとしない瞼を、明ける。

 

 

「今……なんじぃ?」

 

 

 遮光性のカーテンから覗く光はやや鈍い。天気が悪いのかもしれない。

 サイドテーブルの時計は午後二時過ぎを指していた。

 

 夜明けが六時半くらい。そこから何やかんやで家に帰ったのが一時間後。そして床についたのがその三十分後だから……大体六時間くらいは寝たらしい。

 日本人の睡眠時間としては平均くらいか。

 

 

「んーでもまだ足りなぁい」

 

 

 でも平均くらいじゃあこの疲れは取れない。

 夜通し戦っていたし、信じていたとは言え、実際心境が落ち着く場面など無かった。

 

 だから私は自分の腕の中にすっぽり入ったお姫様…まぁ、雪ちゃんね。足りない分を彼女の存在で埋める様に、ぎゅーっときつく抱きしめる。

 

 

「……んっ…」

 

 

 当の雪ちゃんは僅かに身じろぎを取るくらいで起きる気配はない。

 それは当然とも言えた。後からエリザベスさんに聞いた話だけど、どうも雪ちゃんの回復の仕方は人と違うらしい。

 

 と言うのも───。

 

 

 

 

「魔力切れ…ははぁ。これは一大事でございます」

 

 

 糸が切れた様に眠る雪ちゃんを見て、エリザベスさんは言う。

 

 

「雪雫さんの身体は魔力を元に動いている状態。その魔力が切れたとなれば…つまり死体と言っても過言では無い」

 

「え!?」

 

「ご安心くださいませ。すぐに、とはなりません。やがて、そうなると言う事です。魔力とは心から生まれるもの。つまり、ペルソナ能力と同様に、回復に必要なのは心の充足」

 

 

 例えば睡眠とか、食事とか。

 心への負荷…つまりストレスを回避してあげれば自然とその治癒能力も高まるらしい。

 

 

「────肉体的な接触、快楽なんかであっても同様の効果が認められるかと」

 

「何そのエロゲー*1みたいな都合の良い設定!?」

 

「いえ、当然の事かと。寂しさを親しきものとの接触で無くす。一時的な高揚で気を紛らす…人間としては当然の行為かと」

 

 

 始めはなに言っちゃってるのこの人。とか思ったけど。まぁ、確かに言われてみれば…と思う所もある。

 恋人とのハグでストレスが半減するとか言うし。

 てゆーか雪雫が人との距離感近かったり、スキンシップが多かったりするのって──。

 

 

「嗚呼、その辺りに付随した肉体的疲労感…雪雫さんは体質状、あまりそれを感じませんから……えぇ、遠慮なくヤってしまってもよいかと。ベ~ルベルベルベルベル………」

 

  

 そうして聞いた事もない笑い声?をあげながらエリザベスさんは去った。

 

 

 

 

 

 と、言う訳で。

 私は雪雫とキスをします。

 

 寝てるけど、まぁ身じろぎはしていたし、外部から得る情報は切ってないんでしょ?

 じゃあ、した方が良いじゃん。私も嬉しい、雪雫ももしかしたら回復する。

 

 ぐへへへへ。

 

 薄い呼吸で揺れる、これまた薄い唇。

 舌先でちょっと触れる。

 甘い。実際にそうなのか、私がそう感じているだけか。分からないけど、上品な果実の様な甘みがして、心がもっともっとと叫んでいる。

 

 割れ目を開いて、もっと奥へ侵入。

 手持ち無沙汰になった両手を、小ぶりながらも弾力性のあるお尻に添えて───冷たい腕に掴まれた。

 

 

「……よく、姉の前でキスできるねぇ……りせちゃん?」

 

 

 雪雫を挟んで底冷えした怖い声がした。

 

 

「うぇ!? 起きてたの!?」

 

 

 クソっ。

 折角寝てると思ったのに。

 チャンスだと思ったのに!!!!!

 

 

「りせちゃんがいつ暴走するか分からないからね!」

 

「いやいや! 普通、最終決戦後って言ったら二人の蜜月を温かい目で見守るものでしょ!!」

 

 

 百歩…いや千歩譲って、雪ちゃんの体調を心配して同じ家に帰ったとしても。

 

 

「てゆーか、一緒のベッドで寝るってなに!?」

 

 

 雪子センパイはいきなり現れたのではなく、始めからここに居たのだ。

 雪雫を真ん中に川の字で寝たのが朝の八時。そこから少しの間、どっちが雪雫の前側を制するかで格闘したのだ。結局私が前、雪子センパイは後ろから抱きしめる形で決着したのだが。

 そもそも恋人の寝室に姉が乱入っておかしくない?

 

 

「私は何時だって実家でそうしてきました!」

 

「だからって裸は無しでしょ!」

 

「それも何時も通り! 雪雫は人肌が好きなの!」

 

 

 ギャーギャーと繰り広げられる言葉の応酬。

 ここまで来ると雪子センパイも折れる事をしらない。

 

 だから私は切った。とびっきりのジョーカー。

 私だけの、優位性!

 

 

「もぅ。何時までも雪子センパイだけのモノじゃないんだから!! 私、雪雫のハジメテ貰ったんですけど!」

 

「それなら私だって…! 雪雫のファーストキス貰いましたから!」

 

「は?」

 

「は?」

 

 

 ナニソレ。

 聞き捨てならない!

 

 

「じゃあ上書きしてやるし!」

 

 

 雪子センパイの制止を振りほどき、先程の続きを!

 

 

「え、それあり!? じゃあ私も──!」

 

 

 負け時と雪子センパイは、先程まで私が堪能していたお尻に手を置いて──。 

 

 

「いや、それはもう姉妹愛超えてるって!!!」

 

 

 やば。この人目マジじゃん。

 ホント、雪雫の事になると暴走するというか、短慮になるというか!!

 

 

「てか、何時まで雪子センパイ居るつもり!?」

 

「え。陰陽終わるまで。あ、いや、陰陽終わって、初詣行って、三が日は美味しい物食べて。それ以降は初売り行って──」

 

「長! 思ったより倍は長い!」

 

 

 ちょっとはイチャイチャする時間頂戴よ。

 そう私は心で叫ぶ。

 

 

「──んぅ。うるさ……ぃ」

 

 

 そうして私達の日常は、再び戻ってくる。

 ほんの少しだけ、小さな変化を携えて。

*1
花村陽介から受けた悪影響。雪雫の所為で白髪低身長スレンダーでしか興奮出来無くなった

パロディ、小ネタ、伏線等の解説書は必要?

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