PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
15:Vindication of justice.
6月10日 金曜日 晴れ
棚に飾られた数々のトロフィー。壁に掛けられた額縁に入れられた賞状の数々。机に置かれたPrincipalと書かれたプレート。
他の教師とは文字通り立場が違うという事が目に見えて分かる校長室。
その校長室で、生徒会長である新島真と学校の長である校長が対峙していた。
「心の怪盗…、まだ見つからんのかね?」
まるまると肥えたその顔に脂汗を浮かべ、何処か焦った様子で彼女に問い詰める。
「申し訳ありません」
「……はぁ…」
収穫が無いと分かると、彼はあからさまに落胆の色を浮かべて溜息を吐く。
その態度に、心の底で何か湧き上がるモノがあった真だが、努めて冷静にと堪える。
「あの…、何故そこまで怪盗団に拘るのですか? 実在するかも怪しいのに……」
「余計な詮索はせんで良い!! 君は言われた通りにやってくれれば良いんだ」
釈然とした態度を崩さない真だったが、彼から紡がれた言葉を聞き、顔を曇らせる。
「期待しているんだよ、新島君」
続いた校長の言葉が、真の頭の中でリフレインする。
期待。聞こえは良いが、実際はそんな生易しいものでは無く。その言葉は確かに彼女の小さな背中に重く圧し掛かっていた。
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場所は変わって生徒会室。
真と雪雫を含む、4人の生徒が書類と筆記用具を広げ、なにやら話し込んでいる様子だ。
「――ちょう? 会長? 聞いてます?」
「え、あ、ごめんなさい! 何だったかしら?」
珍しく上の空の真を訝し気に思い、顔を覗き込む女子生徒に対して、真は誤魔化しの笑みを浮かべる。
「最近、噂になってる渋谷の恐喝事件ですよ。生徒から相談が来てて……」
「学生を中心に、お金を巻き上げてるやつ……」
女子生徒の言葉を補足する様に、雪雫が口を開く。
「あ、ああ。私も聞いた事あるわ。因縁つけてお金巻き上げたり、無知な学生に付け込んで夜の仕事を斡旋したり……」
「あとは、犯罪の片棒を担がせたり……。秀尽にも被害者が居るみたい」
目元の資料に視線を落としながら、雪雫は眉を顰めながら呟く。
「どうにかしろって言ったって。僕らだって怖いし……」
「……私が止めてって言ってくる?」
「雪雫ちゃん、絶対それだけで止めないと思うよ……」
学内での出来事ならまだしも、繁華街で起きている犯罪の解決を、同じ生徒である生徒会に頼むのはお門違いではあるが、真の正義感がそれを無視できる訳も無く。
「分かったわ。何とかしてみるから。安心して?」
「………」
穏やかな笑みを浮かべながらそう呟く真を、雪雫はただただ心配する様に見つめていた。
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6月13日 月曜日 曇り
「あ、天城さん…ですか……? 少し、私はあまり…。その近寄り難くて…」
「天城さん、話しかけようとしてもすぐに何処かに行っちゃうんですよね。猫みたいに」
「生徒会長と一緒に居る所はよく見ますけど……」
「この間、生徒会長と仲良さそうに話していましたよ」
「え、同学年で仲良い人…? あまり思い浮かばないですね……。というか、居ない?」
「新島会長と…、ああ、あとは川上先生と一緒に居る所はよく見ますね」
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段々と上昇していく気温と、梅雨特有の空気が交わる6月。
秀尽の制服も冬服から夏服に代わり、夏の訪れが肌から感じ取れるこの時期。
怪盗団の面々は先日の会議で出ていた問題の少女、天城雪雫について聞き込みを行っていた。
「だぁー……、収穫ねぇなぁ……」
自動販売機の横のベンチに乱暴に腰掛けながら、竜司は溜息を零しながら天井を仰ぐ。
「そっちはどうだ?」
「俺も、あまり。その…、怖がられて」
「あー、俺も似たようなもんだったわ……」
「まぁ無理も無いな…。お前達、表向きは問題児だからな。特にリュージ」
「んだと、このネコ」
蓮と竜司、そして杏。
それぞれ分かれて、1年生を中心に聞き込みを行っていたが、返って来る返事の大半は知らぬ存ぜぬの一言。
「アン殿はどうだった?」
「私の方も特に……。生徒会長以外に仲良くしてる人は居ないって。あと、試しにアーティストの方の天城さんの事についても聞いてみたけど、やっぱり同一人物とは誰も思っていないみたい」
「じゃあやっぱ生徒会長サマに直接聞くしかないかぁ?」
「いや、それは極力避けた方がいいだろう。生徒会長…、ニージマだったか。あいつは相当頭がキレるみたいだ。お前達だって目を付けられているんだろう」
じゃあ後は誰に聞けばいいんだよ……。と竜司は項垂れる。
「あと天城さんとの交流があるのは―――」
「雪雫に何か用かしら?」
ふと、少女の声が加わる。
その少女を見て、モルガナはその場から姿を消し、3人はバツが悪そうに顔を見合わせた。
「新島、先輩……」
「問題児が揃いも揃って雪雫の詮索? 確かに不思議な子ではあるけど、余計なトラブルに巻き込まないで欲しいわね」
「いや、そういうわけじゃねぇよ…」
「じゃあどういう訳よ。まさか友達になりたい、なんて言わないわよね。それだったら聞き込みなんてする必要無いもの」
腕を組み、仁王立ちをして、問い詰める真に言葉を返す者は無く、彼女は溜息を吐きながら言葉を続ける。
「全く、ただでさえ怪盗団の件で学校中が浮足立っているんだから。こっちとしては大人しくしていて貰えると嬉しいんだけど」
「怪盗団…」
「ええ、怪盗団の正体とか次の標的とか。もう聞かない日は無いっていうくらいよ。鴨志田先生の件が蒸し返されるのも時間の問題。警察の捜査も本格化するみたいだし、貴方達ただでさえ目を付けられているんだから、気を付けた方が良いわよ」
丁度タイミングを見計らった様に、真が言い終えると昼休みの終わりを知らせる音が校内に響く。
「授業、ちゃんと出なさいね」
チャイムが鳴り終わると、真は一言そう言い残し、踵を返してこの場を去る。
真が視界から完全に消えたのを確認した後、杏がおずおずと口を開いた。
「そっか、警察……。明智君も言っていたけど、私達がやっている事って、世間一般的には悪い事なんだよね…」
「怪盗団は法で裁かれるべき……、か。確かそう言っていたな」
「アホくせぇ! 俺達は何も間違ったことはやってないつーの! 人を守る事の何がいけないんだよ!」
興奮収まらぬといった様子で竜司は続ける。
「なぁ、そうだろ? 俺達の力で救える人が大勢居るんだ。今更、警察位で怪盗止めるとかありえねぇよ!」
「そっか、そう、だよね。迷っている暇なんて無いよね」
「ああ。世間に目に物見せてやろう」
竜司の言葉で僅かに迷いが生まれていた心に再び火が付いた杏。
3人は決意を新たに、怪盗団を続けることをお互いに誓い合う。
――その会話を録音されているとは知らぬまま。
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同日 放課後
渋谷にしては人々の往来がまばらな、駅へ直接繋がる連絡通路。喜多川祐介を新たに加えた怪盗団の待ち合わせ場所。
竜司、杏、祐介の3人は、リーダーである蓮の到着を待っていた。
「……遅いな」
「蓮、大丈夫かな。生徒会長からの呼び出しって言っていたけど…」
「まぁ、あいつなら上手くやるだろ――――。お、噂をすれば」
竜司の言葉に誘導される様に、視線を向けると、いつもの制服を着た蓮の姿。
そして―――。
「斑目の門下生だった洸星高校の喜多川君、だよね?」
「え、嘘…」
蓮の後ろに追従する様に現れた、生徒会長の新島真。
「君は?」
「初めまして。秀尽学園高校3年、新島真」
「どうしてここに居んだよ」
「……これを聞いて欲しくて」
そう言って彼女から取り出されたのは何も変哲の無い一台のスマホ。
しかし、そのスマホから再生された会話が、一同の顔を青くする。
『今更、警察位で怪盗止めるとかありえねぇよ!』
「なっ………」
「聞いていたの……?」
それは真が去った後に交わされた会話の全容。
「警察が聞いたら、どう思うのかしらね」
「……目的は何だ? これから、警察に通報しますとでもわざわざに報告しに来たのか」
祐介と真の鋭い視線が交差する。
「確かめさせて欲しいの。貴方達の正義を」
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「この事はまだ私しか知らない。正義を証明してくれれば、これを捨てる」
手に持つスマホをヒラヒラと揺らす真の手に、3人の視線が集まる。
「……取引か」
「具体的に何をしろって言うの?」
「改心させて欲しい人が居るの」
「誰だ?」
出来ない、とは言わない蓮達の態度に、真は僅かに口角を上げる。
「ある犯罪グループのボス。所謂、フィッシング詐欺や薬物売買の元締め。最悪なのは、一度目を付けられたら弱みを握られて、徹底的に脅され続ける事」
「おいおい…、まるでマフィアじゃん………」
「そのボスの名前は?」
「……分からない。脅されて誰も証言しないから、警察ですら把握出来ていない事が多いそうよ」
「何処に行けば会える?」
「犯罪グループの活動の中心はこの渋谷。決まって裏通りをふらついている学生に声を掛けてくるそうよ。バイトと称して、運び屋をやらせたりするらしいわ。後で脅迫のネタにする為にね」
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「カラオケ…、やはり素晴らしい。個室、防音。飲み物は飲み放題。そして何より……安い!!!!」
「まーたなんか言ってるよ、このお稲荷………」
両手にグラスを持ち、交互に飲み物を口に運びながら、祐介は感動した様に叫ぶ。
どうやらカラオケに対して並々ならぬ思いある様だ。
「まぁユースケは置いといて。そっちの収穫は?」
「全然ダメ。会長が言っていた怪しい人も居ないし、それに関わってそうな生徒も無し」
「俺も似たようなもんだなぁ」
「右に同じく。……蓮達はどうだった? 新島真と共に行動してたようだったが」
飲み終えたグラスをテーブルに置き、先程とは打って変わって至極真面目な様子で祐介は口を開く。
それを、横に居た竜司が「切り替え早っ」と呆れた様子で呟いた。
「一応、それっぽい奴らには声を掛けられた…けど……」
「ニイジマが探りを入れた途端に、逃げちまった。…どうやら思っていたよりも慎重らしい」
「この様子じゃあ、天城さんの調査は後回しだな」
「だね、学生ばかりを狙う犯罪組織何て、放っておけないもん」
「正体がバレたのは痛手だが、ニイジマに協力する事自体は、こちらにとっても好都合だ。現状、学内でアマギセツナに一番近い人間はあいつだ。この機会に恩を売っておけば、自ずと彼女にも近づける」
そうは言ってもなぁ。と竜司はソファに背中を預け、だらんと四肢を投げ出す。
「この人数で聞き回って、進展ゼロ……。なーんも進む気しねぇ……」
「諦めるには早すぎるぞ、リュージ。吾輩は今回の件、少し臭いと睨んでいる」
「というと?」
「渋谷全体を活動拠点に置く、犯罪組織のボスだろ? それも警察さえも尻尾を掴めていない……。ここまでの悪党、パレスでもあるんじゃないか?」
パレス。
人並外れた強い欲望を持つ人間が産む、認知によって歪んだ異世界。
「言われてみれば…。可能性はあるかも…!」
「やり口も相当歪んでやがるみたいだしな!」
「確かめるためにも、まずはボスの名前だな」
「あー……」
歪んだ認知世界、パレスに入るのには、相手の名前が必要。
しかし。
「けどもう、足で探すにも限界があるぜ?」
「ネットの情報も当てにならん。今必要なのは、特大のクラスの大ネタだ」
「そんな、マスコミじゃ無いんだし……!」
「マスコミ……」
ふと、蓮は自身の財布から名刺を取り出す。
斑目のあばら家を探っていた時に、偶然出くわした新聞記者の名刺。
「1人、心当たりがある」
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同日
時間は少し遡ってお昼過ぎ。
秀尽学園の制服を着た1人の少女が、白い壁に囲まれた廊下を歩く。
その小さな手に少量の花を携えた少女、天城雪雫。
雪雫は、目的の病室に着くと、その乏しい表情に笑みを浮かべて、ドアをノックする。
「は~い」
「…入るよ」
ドアを開けると、目の前に広がるのは広めの個室の病室と、その部屋にぽつんと設置された大きめのベッド。
そしてそのベッドに横たわる髪の長い小学生くらいの少女。
「雪雫ちゃん!」
「美和」
美和、と呼ばれた少女は、雪雫の顔を見るや否や、人懐っこい笑みを浮かべる。
その笑顔に迎えられながら、雪雫はベッドの横のサイドテーブルに置かれた花瓶を手に取り、慣れた様子で花を取り変え始めた。
「今回のお花はなーに?」
「トルコキキョウとカスミソウ。花言葉は―――」
「わ、待って待って! 後で自分で調べるから!!」
「そう」
笑顔を絶やさず、良い反応を返してくれる少女に、つられて穏やかな笑みを浮かべる雪雫。
その姿に、思わず故郷に居る友達の妹を重ねていた。
彼女もどんな時も笑顔を絶やさなかったな、と。
「体調はどう?」
「元気だよ。皆優しくしてくれるし。…ただちょっと、寂しいかな。友達とか居ないから」
美和という少女は幼い頃からずっと入院を繰り返しており、まともに学校に通えていない。
仕方ないと言えば仕方ないかもしれないが、この歳の彼女には辛い事だろう。
「雪雫ちゃんはどうしてたの? 入院してた時」
「私は本ばかり読んでた。お伽話から、伝記まで。同じ病院の患者さんのお兄さんが、沢山の本、教えてくれたの」
「本かぁ」
「苦手?」
「眠くなっちゃうの」
「慣れれば楽しい。今度、読みやすい本持ってきてあげる」
「わーい!」
美和は再び満面の笑みを浮かべて声を上げる。
少女たちの穏やかな時間は、ゆっくりと過ぎていった。
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美和が居る病室を後にし、帰路に付く雪雫だったが、ふと思う事があり、その足は病院の出口とは逆の方向へと向かっていた。
向かう先はこの病院の医局長である大山田が居るであろう部屋。
(……美和の容態が気になる)
本人には聞いたものの、彼女は彼女で気丈に振る舞う性質が多々見られる。
美和の両親が居れば、その2人に聞くのだが、生憎今日は平日だ。
あまり関りたくは無いが、担当であり医局長である大山田に聞くのが手っ取り早いだろう、と考えたのだ。
「………」
しかし、そうは言っても気持ちはあまり乗り気では無い様で、その足取りは重い。
重りの様な脚を何とか運び、何とか部屋の前まで辿り付いた雪雫だったが、扉をノックしようとした直前で、その手を止める。
「………?」
扉越しに聞こえる僅かな男の声。
大山田本人の声で間違いは無い…のだが、その声は何処か怒気を含んでいる様子だった。
「モルモットが用意出来ないだと! ふざけるんじゃない…! なんの為にお前達に大枚をはたいていると思っているんだ!?」
目を閉じ、耳を澄ませば聞こえてくる大山田の怒号。
耳の良い雪雫には、一字一句漏らす事無く、届いていた。
「人を攫う事くらい、お前達には容易い事だろう!? 借金漬けでホームレスになった奴でも、学生でも、誰でも良い! 金城に伝えておけ!!」
「………金城?」
眉を顰め、訝し気な表情を浮かべ、雪雫は小さく呟いた。