PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
6月14日 火曜日 雨
「……ここか」
「なんかパレスよりもやばそうだな……」
斑目の家を張っていた新聞記者、大宅一子に連絡を送った翌日。
意外にもあっさりと了承の2つ返事を貰った蓮達は、指定されたバー、にゅぅカマーの前で呆然としていた。
場所は都内屈指の繁華街、新宿。
共に来た竜司を犠牲にし、ここまでは来たものの……。
「入りにくさマックスだな……」
「…でも、行くしかない」
目が眩むほどのピンク色のネオンの看板と、ハートに形作られた電飾に面を喰らうが、ここで立ち往生していても仕方が無い。
意を決して、蓮はその扉に手を掛け―――。
「いらっしゃ~い………。 ――――坊や、幾つ?」
この店の主らしき人物、恰幅の良いメイクを施した大男……、いや、女性…?
まぁ、今のご時世、性別等どうでも良いだろう。
兎に角、店の主人が訝し気な表情でこちらを見ている。
「いや、あの……」
「ララちゃーん、ごめ~ん! その子、私の連れぇ!」
店主の圧の強さに狼狽えていると、カウンターに座っている黒髪の女性が、機嫌良さそうに助け船を出す。
そう、この女性こそ、今回の目的の人物、大宅一子だ。
「アンタ…、
「いやぁ、人気者は辛いねぇ!」
「未成年にお酒飲ませないでよ」
「分かってるってぇ~」
ララと言われた店主と大宅の様子を見るに、彼女はこの店のかなりの常連らしい。
「良いか、吾輩達の正体に勘付かれない様、あくまでも自然に聞き出すんだぞ」
「……ああ」
バッグの中で、モルガナが何時もの様にひそひそと口を開く。
そう、今回の目的は、大宅から次のターゲット…、渋谷に蔓延る犯罪グループのボスの情報を聞き出す事。
「ララちゃん、奥の席借りるねぇ~。ほら、君も行った行った。お姉さんが水を奢ってあげよう!」
それは奢るとは言わないのでは?
「あ、そうそう。もう1人、連れが居るけど気にしないでぇ」
「もう1人……?」
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「んで、2人は仲良いの? 同じ学校だったよね?」
「よく会うけど、そういう訳じゃない」
「学年も違いますし……」
内緒話には持ってこいな人目の付かない店の奥のテーブル席。
テーブルを囲み、大宅の一方的な質問攻めを蓮、そして雪雫は受けていた。
「ふぅん、そんなもんかぁ…。2人で合わせてきたのかと思ったけど、たまたまかぁ」
「どうして天城さんがここに?」
「……大宅に聞きたいことがあるから。そっちも?」
「う、うん」
並々に注がれた酒を、大宅は一気に飲み干す。
「雪雫ぁ。それじゃあ多分、先輩に半分も伝わって無いぞぉ~。そんなんだからコミュ障って言われちゃうんだぞ~」
「……コミュ障じゃない、多分」
「さてさて、口下手な雪ちゃんに代わって、お姉さんが教えてあげよう」
身を乗り出し、大宅はやはり機嫌良さそうに口を開く。
「酒くさっ!!」
「………? ネコ?」
鞄の中に居るモルガナにも大宅の酒臭さは伝わったらしい。
「えーっと、雨宮君が聞きたいのは、渋谷で絶賛活動中の犯罪グループの事だよね?」
「あ、はい。そのボスの名前が分かれば、それも」
「んで、雪雫がメールで言っていた男の事だよね」
「うん。」
これまた奇跡みたいな巡り合わせだわぁ、と何処か感心した様に大宅は首を縦に振る。
「2人をここに呼んだのはねぇ、お互いがお互いの知りたい事を知っているからよん」
「お互いが」
「知ってる……?」
先程まで、茶化す様に笑みを浮かべていた大宅だが、その表情も消え、神妙な顔つきで俺達を見つめる。
「雪雫、電話で言っていた男の名前、なんだっけ」
「………金城」
「そう、それ。その男。私も、その名前を聞くまでは私もピンと来なかったんだけどね~」
今度は水が入ったグラスを一口。
それ、さっき天城さんが口を付けていたやつじゃ……。
「金城潤矢。少年、君が知りたいのって金城の事だと思う」
「金城…、それがボスの名前……」
「んで、雪雫。少年の言う通り、金城の正体は犯罪グループのボス。とんでもないビッグネーム引き当てたわね。」
「……生徒から相談来てたやつ…」
「私が教えて上げれるのはここまで~! 後の事は知らなーい!!」
ララちゃーん、日本酒~!と調子を取り戻した様に再び酒を頼む彼女を余所に、天城さんは思考を巡らせているのか、俯いたまま顔を上げる事は無かった。
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・
・
名前を知るや否や、そうそうに席を立ち、店を去った蓮。
残された大宅は、新しく注がれた日本酒を飲みながら、黙りこくった雪雫を横目に眺めていた。
「雪雫さぁ」
「…………何?」
一応、上の空というわけでは無いらしい。
すこしラグは合ったものの、呼び掛けられた彼女は、しっかりと大宅の目を見つめ返す。
「金城の名前、何処で知った?」
「…ネットの――――」
「ネットは有り得ない。警察だって手を出せて無いのよ? ネットに転がってたら、あいつらも苦労はしないわ」
「でも、大宅は知ってた」
「黒い噂のあるやつは大体チェックしてるの。特に裏社会と関わってそうな奴は。私はその中から、貴方達の持ってる情報から当て嵌まる人をピックアップしただけ。私が聞きたいのは、あくまでも一般人の貴女の口から、どうしてピンポイントで金城の名前が出たかってこと」
マジマジと見つめる大宅の瞳から逃げる様に、雪雫は視線を逸らす。
彼女にしては珍しい行動だ、と大宅は思った。
「言えない…、いや、言いたくないって顔ね」
「…………」
「雪雫、これは大人としてのアドバイスだけどね。貴女はもう少し、自分を優先しても良いと思う」
「……………帰る」
「……タクシー呼んであるから、それで家まで帰りなさい」
ありがとう。と言い残し、荷物をまとめて雪雫も蓮と同じ様に店を後にする。
「…強情な子ね」
呆れた表情を浮かべ、大宅は再び酒を口に運んだ。
◇◇◇
6月17日 金曜日 曇り
「真、今日は―――」
「ごめん、雪雫! 今日は用事が……、また今度!」
「………あ…」
彼女にしては珍しく、ドタバタと慌ただしく音を立てて、生徒会室を後にする真。
ポツンと1人残された雪雫は、訝し気な表情を浮かべていた。
「………用事…」
最近、真の様子がおかしい。
生徒会にも碌に顔を出さず、かといって図書室で勉強している様子も無い。
彼女の様子が目に見えて変わったのはここ最近の話だ。
そう、丁度生徒会で渋谷の恐喝事件の話題が上がった辺りから。
「…………」
一抹の不安が胸中を過ぎる。
「……渋谷、か」
机の上に広げていた荷物を鞄に仕舞い、雪雫も続く様に生徒会室を後にした。
▼
都会の割には人の往来が少ない連絡通路。
その一画で、5人の男女と1匹の猫がそれぞれ神妙な顔持ちで言葉を交えていた。
「メメントス……?」
聞き覚えない言葉に、真は小首を傾げる。
「ああ、今から向かう所だ。大衆版のパレスと言っても良い」
レクチャーはお手の物、といった様子でモルガナは得意げに口を開く。
「金城パレスの攻略は良いの?」
「幸い、タイムリミットまでは時間があるからな。本格的に仕事に掛かる前にマコトを慣れさせたいって、こいつが」
モルガナが視線を送ると、それに応えるように蓮が頷きを返す。
「金城の様な大物以外のターゲットは、このメメントスで改心させている。今日は皆との連携の確認も合わせて―――」
「本番前の一仕事って訳ね。腕が鳴るわ」
自身の拳を手の平に合わせて、彼女は勝気な笑みを浮かべる。
「メメントスは無数の人々の心が入り混じった世界……、つまりは―――」
「決まった形が無い…、憶えるよりは慣れろってことね」
「り、理解力半端ねぇ~……」
「私、こんなすんなり理解出来無かったよ……」
真の順応能力の高さに竜司は唖然とし、杏は肩を落とす。
「それで、ターゲットは?」
「ああ、今回は―――」
そう言いながら、蓮はスマホの画面を皆に見せる。
怪盗お願いチャンネル。
蓮達の同級生、三島が管理・運営を行う、匿名サイト。
怪盗団への改心依頼、次の標的のランキング投票などの機能を持つ。
今回の仕事は、そこに寄せられた依頼の解決だ。
「標的の名前は中村利一。職を失った事を皮切りに、恋人に暴力を振るう様になったらしい」
「DV彼氏……! 許せないね!!」
「異論は無いな?」
蓮の言葉に、全員が頷きを返す。
「良し…、行くぞ!」
怪盗団の面々は文字通り、虚空へと消えていった。
▼
同日
怪盗団がメメントスに降り立つほんの少し前。
「……来たは良いものの」
絶え間なく流れる人の波。
人々の往来を眺めながら、雪雫は忙しなくその視線を動かしていた。
「連絡したけど、返事は無し」
溜息を吐きながら、手に持つスマホに視線を落とす。
数十分前から変化の無いトークルーム。
「はぁ…」
何度目か分からない溜息。
普段、連絡がマメな彼女の事を考えるに、暫く返事が無いだろうと、雪雫は諦めてアプリを閉じる。
「…………? 何、このアプリ?」
アプリを閉じて、ホーム画面に戻れば、そこには見慣れないアプリアイコン。
禍々しい赤黒いカラーリングに、目のような模様。
ハッキリ言って気色悪い。
新しくアプリをインストールした記憶は無い。事前登録をしているゲームのリリースもまだだった筈だ。
雪雫は最近の自身の行動を思い返すが、このアプリに対する回答は持ち合わせていなかった。
「イセカイ、ナビ……?」
怪しいモノに無暗に触れないの!とりせとか雪子辺りに怒られそうだな。とぼんやりと思いつつも、好奇心には勝てず、アプリを起動させればこのアプリの名称らしきものが画面に映し出される。
「何これ?」
『候補が見つかりません』
ポツリと雪雫が呟けば、それに反応する様にスマホから出力された電子混じりの女性の声。
どうやら音声入力に対応している様だ。
「……新島真」
『候補が見つかりません』
ナビ、という名称だが、どうやら探し人を見付けてくれる様な代物では無いらしい。
それならば一体何をナビしてくれるのだろうか?
人物がダメなら、後は場所か――――。
「――――何を真面目に考えているんだろ」
得体の知れないアプリについて思考を巡らせていた雪雫だったが、次第に馬鹿らしく思ったのか、呆れ顔を浮かべて視線をスマホから外す。
「そんな事よりも真を―――」
『6月度、月間邦楽ランキング! 1位は、ANAのmementos! 累計販売本数は―――』
「ん……」
思考を現実に戻せば、不思議と今まで届いてなかった都会の喧騒がクリアに聞こえてくるもので。
人々の声を割る様に、交差点を見下ろす街頭モニターから、ランキングの結果を知らせるアナウンサーの声が雪雫の元へ届く。
そこまで気にしていない、と言っても、やはり自身が身に置く業界の出来事は気になる様で、雪雫の意識はそのモニターへ注がれている。
「メメントス……」
確かりせがそろそろ新曲を出すらしいが、この1位の曲を超える話題を獲得することが出来るだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていると――――。
『候補がヒットしました』
「……? 何!?」
電子混じりの女性の声が響いたと思ったら、次に雪雫を襲ったのは墜ちるような感覚。
ぐにゃりと視界が歪み、平衡感覚が奪われ――――。
「………!」
次に目を開けば、眼前に広がるのは地下鉄の改札の様な場所。
しかし、ただの改札では無い。
暗闇を照らす照明は赤く、壁や地面には植物の根っこの様な触手がそこら中を這いずり回っている。
ハッキリ言って、普通じゃない。
「何、ここ」
現実離れした風景。
絶え間なく雪雫を襲う不快感と疲労感。
鳴りやまない動悸。
「この感じ…、まるで……」
いつの間にかに流れていた冷汗を拭い、フラフラとした足つきで、改札の先の地下へと続く階段を見下ろす。
「……こっち?」
胸が恐怖で押しつぶされそうになりながらも、雪雫は何かに導かれる様に、その足を地下へと向けて、歩き始めた。
怪盗団サイド
14日 金城の名前を知る
15日 金城パレス潜入
16日 真加入
となります