PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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17:We are crony.

 

 

 私が子どもの頃……、正確には8歳とか9歳くらいの頃。

 

 生まれた時から身体が弱かった私は、本格的な治療をする為、地元の稲羽市立病院から都内の病院へと移された。場所は巌戸台港区にある辰巳記念病院。

 当時の私は1年間、その病院へ身を置いていた。

 

 りせや雪子からは毎日の様に連絡が来ていたし、一緒に入院していたお兄さんや、時々会いに来てくれていた月光館学園の生徒達。

 沢山の人達に囲まれて、温かい言葉を掛けられて。

 決して1人じゃないんだ。って、子どもながら理解していた。

 

 辛かったが、寂しくは無かった。

 ――――ある一点を除いては。

 

 

「……はっ…、は、………また、これ………」

 

 

 鳴りやまない動悸と収まらない咳を必死に抑えていたのを、今でもよく憶えている。

 こっちおいでと、誘惑する様に囁く化け物の声も、身体を襲う不快感も。全てを鮮明に憶えている。

 

 この時間を知覚したのは丁度この病院に入院してすぐの事だった。

 毎晩、決まって0時以降に訪れる悍ましい時間。

 

 全ての電子機器が停止し、病院内の私以外の人間は決まって棺桶の様な姿へ変化する。

 私以外の誰も、知る事の無い秘密の時間。

 

 その時間を私は毎晩毎晩、決まって1人で過ごしていた。

 

 

「一体……、何なの、…ゴホッ……はッ………。うぅ…」

 

 

 人と変わる様に闊歩し始める怪物の目を掻い潜りながら、病室の隅っこで息を潜めて終わるのを待つ。

 見つからない様に、襲われない様に。

 信じてもいない神様に必死に祈りながら。

 

 

『…遊ぼう…? 一緒に遊ぼうよ』

 

「……やだ…、遊びたくない……!」

 

 

 頭に響く少女の声を必死に無視しながら。

 震える四肢で自身の身体を抑えて。

 

 誰かに言ってしまおうか、と考えた事もある。

 しかし結局、この事は誰にも言っていない。

 

 だってそうでしょう?

 誰も存在を知らない時間を知っている何て、頭がおかしくなったと思われちゃう。

 もしかしたら、りせも雪子達も、皆私から離れてしまうかもしれない。

 そう考えたら、言える筈無くて。

 

 結局、入院してから10回目の満月が終わるまで、私はたった1人でこの時間を乗り切った。

 

 私の事を見付けないで。

 

 そう必死に祈りながら。

 

 

 

 

 

 メメントスの攻略も順調で、早くも3つ目のエリアの終盤。

 真…、クイーンの加入により、広がった戦略の幅、彼女の観察眼によって、以前よりもシャドウとの戦闘が楽になった。

 

 メメントス内を這いずり回るシャドウを文字通り蹴散らしながら、モルガナ=モナの案内に従って奥へ奥へと足を伸ばすが、問題のターゲットは今だに見つかっていない。

 彼曰く、このエリアの最深部に居る可能性が高いらしい。

 

 

「…ん……? お前ら、待て!!」

 

 

 最深部へと続く、エスカレーターに足を掛けようとしたその時、モナからストップの声が掛かる。

 

 

「んだよ、モナ。ターゲットはこの下だろ?」

 

 

 皆の気持ちを代弁する様に、竜司=スカルが頭を掻きながら疑問を口にする。

 

 

「そうだ、そうなんだが……」

 

「何か問題でもあるのか?」

 

 

 釈然としないモナの言葉に、今度は祐介=フォックスが口を開いた。

 

 

「……モヤモヤしていて、ハッキリと感知出来た訳では無いのだが…。ターゲットとは別にもう1つ、下の階に微弱な反応がある」

 

「シャドウとか?」

 

「いや、違う。…この反応は……、お前達と同じニンゲンのモノだ」

 

「はぁ……?」

 

 

 スカルの素っ頓狂な声が辺りに反響する。

 しかし、彼の反応は間違っていない。声には上げなかったが、俺だって同じ気持ちだ。

 

 

「人間…、それって私達と同じペルソナ使い……、とか?」

 

「それも分からん。何しろ反応が弱すぎるんだ。靄が掛かったというか、掴み所が無いというか……。しかし、用心しろよお前ら。マダラメが言っていた黒い仮面の奴かもしれん。どんな奴かは知らないが、逃げる事も視野に入れておけ」

 

 

 モナの言葉に、メンバー全員が緊張した顔で頷きを返す。

 

 鬼が出るか蛇が出るか。

 俺達は意を決して地下へと続く道を歩き始めた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 メメントス第3エリアの最深部。

 従来と同じく地下鉄のホームを模した空間。

 地下へと続いていると思われるエスカレーターは、例にも漏れず、幾何学模様が浮かんだ壁に遮られていた。

 

 しかし、そんなことよりも目を引く存在が中央に居た。

 

 

『なんだぁ?』

 

 

 1人は今回のターゲットである中村と思われる黒髪の男性。

 そしてその前には。

 

 

「…はっ、はっ……、は……!!」

 

 

 地べたにペタリと座り込み、荒い呼吸を必死に抑える白髪の少女。

 

 

「雪雫!!!」

 

 

 その姿を見て、真は敵が目の前に居るのも忘れて天城雪雫に駆け寄り、その顔を覗き込む。

 

 

「どうしてここに…、いや、それよりも大丈夫なの!?」

 

「その声は……、真…?」

 

 

 顔は青く、目の焦点は合っておらず、息も絶え絶え。

 明らかに普通じゃない状態に、真は雪雫を横抱きにして、蓮達の後ろへ下がる。

 

 

「……シャドウでは無いんだな?」

 

「…ああ、間違いなくアマギセツナ本人だ。どういう経緯でここに来たかは分からないが―――。まずは目の前のナカムラをどうにかしないとな」

 

 

 雪雫の状態を見るに、この環境に適応出来ていないのは明らかで、敵意の様なモノも感じない。

 そう判断した蓮達は、雪雫と真を庇う様に、ナカムラへと銃を向ける。

 

 

「中村利一だな。その歪んだ欲望、俺達が頂戴する」

 

『何、やる気? どいつもこいつも俺を見下しやがてぇぇぇぇ!!』

 

 

 ナカムラの顔が膨れ、四肢が膨れ、胸が膨れ。

 次第に内から食い破る様に、中から影が溢れ出す。

 

 

「っ!」

 

「大丈夫、大丈夫だから…。私達に任せて」

 

 

 そんなナカムラを見て、雪雫は思わず自身を抱く真にしがみ付き、声にもならない悲鳴を上げ、真はそんな彼女を落ち着かせるように優しい声を掛けながらその頬を撫でる。

 

 

「クイーンは彼女を頼む」

 

「ええ」

 

 

 ナカムラから溢れ出した影は次第に巨大な体躯を形作り……。

 

 

『お前らも潰してやる!』

 

 

 深紅に染まる肌色に、巨大なこん棒。そして最も目を引くのは頭部から伸びる一本の角。所謂、オニ。

 そんな姿に変貌したナカムラは、殺意を剥き出しで、蓮達へと襲い掛かる。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 蓮の言葉を合図に、真以外のメンバーはナカムラを取り囲む様に散開した。

 

 

 

 

「……!」

 

『効かねぇなっ!』

 

 

 武器による物理攻撃、銃による銃撃、ペルソナによる魔法攻撃。

 各々のメンバーが、状況に応じてそれらを繰り出すが、ナカムラを倒す決定打には繋がらない。

 

 

「危ないジョーカー! カルメン!」

 

 

 蓮に向かって振り下ろされる棍棒に向かって、杏は炎属性の魔法を繰り出す、が。

 やはり深い傷を負わせることは出来ず、その軌道を僅かに逸らすだけだった。

 ――尤も、攻撃を避けるだけならそれだけで十分なのだが。

 

 

「決定打が足りないな」

 

 

 モルガナが口を噛みしめながら、歯痒そうに呟く。

 

 

「認知の影響か?」

 

「いや、攻撃自体は届いている。単純にこちらの力不足、としか言えないな」

 

 

 忙しなく繰り出される攻撃を躱しながら、モルガナからの分析結果を聞く蓮達。

 

 

「見た目通りというべきか、物理攻撃に耐性がある様だ。その証拠に、スカルの攻撃がそこまで効いていない」

 

「なら魔法、か」

 

「ああ、だが一番火力のあるパンサーでもあのダメージだ。魔法自体に、というよりは炎に耐性があるんだろうな」

 

 

 蓮は思考を巡らす。

 パンサーの次に魔法攻撃の威力が高いのは、現状クイーンだが、彼女は現在、回復などの支援に徹している。雪雫からクイーンを離す訳にはいかない以上、彼女を攻撃には参加させられない。

 

 

「他の属性ならある程度通るだろうが…、フォックス、スカルはそこまで魔法は得意では無い。吾輩も支援に回っている。後はジョーカー、お前次第だが…」

 

「……済まない。今はこの状況を打開するペルソナは持ち合わせていない」

 

「…手詰まりだな。最悪、アマギセツナを連れての撤退も視野に入れた方が良い」

 

 

 雪雫が今この場で役に立つ事は無い。

 冷静に考えるのなら、彼女を一度地上に返してから、日を改めて挑んだ方が賢いだろう。

 

 

「そうだな…、ここは一度―――」

 

『お前ら、ちょこまかちょこまかと面倒くさいわ』

 

「……不味い! 警戒しろお前ら! デカいのが来るぞ!」

 

『おらぁ!』

 

 

 ナカムラが力一杯、根棒を地面に叩きつけると、伝播する様に衝撃の波が、怪盗団を襲う。

 あまりの威力に、彼を取り囲んでいたジョーカー達は姿勢を崩し、地面に膝を付く。

 

 

「皆っ!」

 

 

 真の悲痛な叫びがメメントスに響く。 

 

 

『ああ? 手応えねぇな……。お前か』

 

「!」

 

「ま、不味い! ナカムラがクイーンに気付いた!」

 

 

 相手もバカでは無い様で、背後で支援の魔法を掛けていた真に気付き、厭らしい笑みを浮かべる。

 

 

『死ねよ』

 

 

 ナカムラの言葉と同時に、彼から繰り出されたのは呪いと言える様な禍々しいモノ。

 蓮の最初のペルソナ、アルセーヌが得意とする呪怨属性の魔法。

 

 

「クイーン!」

 

 

 真っ直ぐ真に向けられて放たれた魔法。

 彼女1人であれば、問題無く避けれたであろう、攻撃。しかし、今の彼女の傍には。

 

 

「ごめん…、雪雫!!」

 

 

 庇う様に真は雪雫をきつく抱きしめる。

 2人の少女に向かって、世界を呪う攻撃が真っ直ぐ飛んで行き―――。

 

 

「………! アリス!」

 

 

 少女のか細い声を共に、その攻撃は霧散した。

 

 

 

 

 身体を圧し潰す様な重圧を持った赤黒い靄が、こちらに向かってくる。

 

 

「…はっ……、はッ――――」

 

 

 先程から、正しくはこの世界に踏み入れてから、五月蠅く鼓動する心臓。警鐘を鳴らす様に絶え間なく頭を襲う頭痛。

 

 

「……いやっ――!」

 

 

 不快だ。全てが不快だ。

 激しい動機も、鳴り響く頭痛も、私を呼ぶ声も。

 

 恐い、恐い、恐い。

 

 あの異形の怪物をその目で見た時、心は恐怖で凍り付いた。

 だって、あれはまるで。

 病院を闊歩していた化け物の様じゃないか。

 

 見つかってしまった。

 関わってしまった。

 私の祈りは、届かなかった。

 

 

『遊ぼう?』

 

 

 と再び声が聞こえる。

 

 

『私から目を逸らさないで?』

 

 

 あの時と同じ少女の声が。

 

 

『あの時から、貴女と私は友達でしょう?』

 

 

 まるで知らない私を知っているかの様な彼女の声。

 

 

『こういう時、どうすればいいか。貴女は知っている筈よ。だって私の友達だもの』

 

 

 そんな記憶、私には無い。

 だがしかし、それでも、彼女の言う通り私は知っている。

 それは知識か、経験か、本能か。

 

 分からない事だらけだけど。そんな中でも分かる事が1つ。

 

 ―――ここで何もしなければ死んでしまう。

 

 

それは、嫌。

 

 

 だって私にはまだ心残りがあるから。

 好きな人に想いを伝えていないもの――――。

 

 

「…………」

 

「せ、雪雫?」

 

 

 弱々しく伸ばされた小さな腕。

 その先の手に平の上に、蒼い炎が揺らめく。

 

 

「…ペ…ル……ソナ……!」

 

 

 蒼い炎の中には一枚の()()()()()()()

 それを握り潰す様に、雪雫は勢い良く小さな手を握り占める。

 

 

「……アリス!」

 

 

 

 

『何……?』

 

「あれは…。」

 

「おいおい…、マジかよ…。」

 

 

 ナカムラから放たれた攻撃は、確かに2人を捉えていた。

 絶体絶命。その言葉がピタリと当て嵌まる様な状況だったのは、誰の目から見ても明らかだった。

 しかし。

 

 

「ペルソナ、か? いや、しかし……」

 

 

 体制を立て直した蓮達は、目の前にナカムラが居るのも忘れて、思わず少女に目を奪われる。

 先程まで弱々しく項垂れていた雪雫とは打って変わり、今度は私が守る番とでも言う様に、真の前に立ちふさがる小さな少女。

 力の奔流による影響か、その白い髪はふわりと煽られ、身に着けている()()()()()も同じように揺れていた。

 そして背後に控えるのは、病的に肌が白い金髪の少女。

 

 

「考察は後で良い! 今は退くぞ!」

 

 

 一早く現実へと意識を戻したのはモルガナで、彼は呆然とする仲間に向かって声を上げる。

 

 

「あ、ああ。そうだな!」

 

「今は雪ちゃんを安全な所へ連れて行かないと、だもんね!」

 

「………。」

 

 

 彼の声に気付かされ、体勢を立て直したメンバーがそれぞれ、ナカムラから距離を取る。

 

 

『逃がす訳ねぇだろ!!』

 

 

 出口へと向かう怪盗団の面々を追って、棍棒を構えて追いかけるナカムラだったが、雪雫の顔を見てその動きを止めた。

 

 

『な、なんだよ。お前』

 

 

 この場において完全に上位者だった彼が、初めて狼狽えた。

 恐怖。

 そんな色が彼の顔に浮かんでいる。

 

 

『なんだその気色悪い笑みは!!』

 

 

 揺らめく白髪を携えた小さな少女は、小馬鹿にする様な無邪気な笑顔をこちらに向けていた。

 そんな表情を浮かべながら、彼女は静かに、ナカムラへ一指し指を向けていた。

 そして一言。

 

 

『「死んでくれる?」』

 

 

 白髪の少女と金髪の少女がシンクロする様に共に告げる。

 無邪気で、残酷で、何処までも楽しそうな声。

 

 ナカムラの頭上に現れた狂った様に長針と短針が回り続ける懐中時計と数多のハートのトランプカード。

 彼を取り囲む様に、踊る様にそれらは地面に落ちて行き、次第に巨大な影を形作り―――。

 その影の中から現れた無数の槍がナカムラを貫いた。

 

 

「エグっ!!」

 

「凄まじいな……。」

 

 

 声にもならないナカムラの悲鳴が響くのを、静観する蓮達。

 敵とは言え、少し同情してしまう程、何処までも無邪気で残酷な光景に、若干蓮達は引いていた。

 

 

「……終わった様だな」

 

「みたいだな」

 

 

 アリス、と呼ばれた少女の形をしたペルソナが雪雫の中へ消えると同時に、ナカムラを貫いていた槍も消えていた。

 蓮達の視線の先には、人間の姿に戻り、地面に這いつくばったナカムラ。

 

 

『職を失ってむしゃくしゃしていたんだ…。誰も俺の言い分を信じてくれなくて、それで……』

 

「それで彼女に暴力か。最低だな」

 

『ああ、そうだな……。返す言葉も無い…』

 

 

 神にでも懺悔するかの様に、ナカムラは話し続ける。

 

 

『もう一度、頑張ってみるよ。……しっかりと彼女に謝って、お前達の様に声を上げ続けようと思う』

 

「ああ、しっかり向き合うんだな」

 

『そこの白髪の女の子……』

 

「………私?」

 

『大山田には気を付けるんだな…。俺を切り捨てた大山田には』

 

 

 そう言い残して、ナカムラのシャドウは、スッキリした様な表情で消えていった。

 

 

「……大山田…」

 

「知り合いか?」

 

「……一応」

 

「兎に角、今日はこの辺りにしておこうぜ。彼女の事もあるし、一旦情報を整理する必要もあるからな」

 

 

 力が抜けた様に再び座り込んでいる雪雫を連れ、怪盗団の面々はメメントスを後にした。

 

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