PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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1:You are laziness.

 

 人類は皆一様に、怠惰である。

 

 

 人はその怠惰さ故に、死を望んだ。

 

 

 人はその怠惰さ故に、一つとなる事を望んだ。

 

 

 ()()、人類は、その怠惰さ故に、滅亡を招いた。

 二度である。短期間に、二度。

 

 

 怠惰、実に怠惰。

 

 

 是を私は判断せざるを得ない。

 

 

 今日この日を持って、その怠惰、人々の総意として受理しよう。

 

 

 お前達の望み通り、私は神と為ろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 姉と人形遊びをしていた時、ふと思ったことがある。

 

 

 私達の住む世界は、誰かにとってのおもちゃ箱に過ぎなくて、空の向こう側から私達を見て、時折操り、同じ様に遊んでいるのではないか、と。

 

 

 そう思った日から、空を見上げるのが癖になった。

 空の向こう側に居る『何か』が見えるのでは無いかと思ったから。 

 

 毎日毎日、空を見上げた。

 晴れの日も、曇りの日も、雨の日も。

 怪しげな満月が浮かんでいたあの日も。

 霧に包まれたあの日も。

 

 そして今になっても――――。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

2016年4月4日 月曜日 晴れ 

 

 

 一人の少女が、校門の前で空を見上げていた。

 

 

「…………」

 

 

 白い髪、白い肌、赤い目。日本人離れした風貌の、まだ幼さが残る身長の低い少女。

 黒いブレザー、中に白いタートルネック、チェック柄のスカート。

 学校指定の制服だ。

 幾分、服装の自由が認められている高校ではあるが、少女の服装にそういった遊びは見られない。

 

 特に個性が無い服装がかえって少女の風貌を引き立てるのであろう。

 少女の横を通り過ぎる際、生徒達は皆一様に少女に視線を向けていた。

 しかし、興味の視線に晒されようと、気にした様子は見せない。

 

 

「ああ、おはよう! ……おはよう!」

 

 

 恰幅の良い体育教師の様な見た目の男の元気な挨拶が、絶え間なく辺りに響いているが、やはり少女は気にした様子は見せない。 

 変わらない表情、何にも興味を示さない様子、人形の様な整った顔立ち。

 誰もが奇異に思い、遠巻きに見ている中、少女の様子に変化をもたらした人物が一人。

 

 

「っ。鴨志田の野郎…。相変わらずここを自分のモノだと思ってやがる…。―――ん?」

 

 

 悪態を吐きながら歩いていた金髪の少年は、白髪の少女の横で足を止めた。

 

 

「おーい。こんなとこでどうしたんだ? 何か見えるのか?」

 

「…………」

 

「……おーい………」

 

 

 校門を前にして一切動く様子の無い少女を不思議に思い、金髪の少年は声を掛けるも、少女からの反応は無い。

 自身の存在に気付いていないのか、と少年は少女の横から正面に移動して、その顔をまじまじと見つめる。

 

 

「……あ? その顔…、どこかで……」

 

「……何も、見えない」

 

 

 少年が疑問を浮かべたその時、一切変化の無かった少女の口から初めて言葉が紡がれた。

 小さいながらも良く通る綺麗な声。

 その声はしっかりと少年の耳まで届いた。

 

 

「うぉっ! なんだよ、ちゃんと喋れんじゃねぇか」

 

「朝からナンパ? 新学期早々、問題起こさないでよね」

 

 

 急に発せられた少女の声に驚きの声を上げた少年の元に、新たな声がもう一つ。

 2人の様子に見かねた女子生徒が、どうやら校内から出てきたらしい。

 

 

「貴方、只さえ目立つんだから、大人しくしていなさい」 

 

 

 茶色寄りの黒髪のショートヘア、品行方正を体現した様な少女が、呆れながら金髪の少年に声を掛ける。

 

 

「次何かあれば、退学だって―――」

 

「ハイハイ、分かりましたよ。生徒会長サマ」

 

 

 生徒会長と言われた少女の言い分に嫌気が差したのか、少年は不機嫌な様子を隠す事無く校門へと向かう。

 

 

「全く―――。ほら、貴女も。いつまでもそうしてないで教室に向かいなさい? 初登校で遅刻とか、冗談でも笑えないわよ」

 

「………ん」

 

 

 生徒会長の少女に短く返事をして、白髪の少女も校門へと足を運ぶ。

 段々と小さくなっていく少女の背中を見送るうちに、生徒会長は違和感を口にする。

 

 

「ちょっと待って、天城さん、日傘は!? 」

 

 

 慌てた様な少女の声に、天城と言われた白髪の少女は足を止めて振り向く。

 

 

「貴女、入学前に学校に提出してたでしょう。その、アルビノ…って。こんな晴れた日に日傘無しなんて――」

 

「………、忘れた」

 

「忘れたって、自分の身体の事なのに……。ここまでどうやって来たのよ」

 

「すぐそこまで、車で…」

 

 

 ああ、と納得がいった様子で溜息を吐く生徒会長。

 

 

「…もう。鞄を貸しなさい」

 

「……?」

 

「校内まで私が鞄で影を作ってあげるから、ほら」

 

「…ありがと」

 

 

 先程までとはまた違った視線に晒されながら、2人は校内へと足を踏み入れる。

 天城と言われた少女が今日から三年間、通う事になる学校へと。

 

 名を秀尽学園高校。

 

 心から信頼できる仲間を、そして自らの在り方を得られる場所。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 日も傾き始め、夕日が差し始めた頃。

 天城は1人、校門に寄り掛かり、自身のスマホに忙しなく指を滑らせていた。

 

 

「新入生は午前で終わりじゃ無かった?」

 

 

 そんな天城に声を掛けたのはボサボサの髪の女教師

 

 

「………先生?」

 

「そう、ここの教師。川上貞代よ。担当は2—Dだから、一年の貴女とはあまり関り無いかもだけどね」

 

「……ふぅん」

 

 

 興味が有るのか無いのか、川上から再び自身のスマホへと視線を戻す。

 

 

「……ずっとそうしている様だけど、帰らないの?」

 

「迎え、待ってる」

 

 

 そっか、と言いながら川上は天城の横に座り込む。

 

 

「……? 川上は、帰らない?」

 

「先生に呼び捨て……、まぁ良いわ。帰りたいけど帰れないのよ。先生って案外忙しいの」

 

「その割には、暇そう」

 

「何時までも帰らない新入生が気になってね」

 

 

 興味を持ったのか、天城はスマホを鞄に仕舞い、川上の横にちょこんと座る。

 

 

「どうして、一人で都会の高校に来たの? 実家の旅館のある八十稲羽に居ても良かったんじゃない?」

 

「……私の事、知ってるの?」

 

「これでも教師だからね、新入生の事は粗方……」

 

 

 ボサボサの髪、眠そうな目。全体的にやる気を感じられない川上ではあるが、教師としての芯は持っている様だ。

 それを感じた天城は、目尻を柔らかくして、微笑を浮かべる。

 

 

「川上は良い人」

 

「え?」

 

「芯がある人は好ましい」

 

 

 上から目線な物言いではあるが、不思議と嫌な印象は受けない。

 天城の言葉に若干絆されかけたその時、学校の前に一台の車が停まった。

 

 

「……迎え、来た」

 

「そう、それは良かった。今度は自分で学校来るのよ。悪目立ちしたくないでしょ?」

 

「……善処する」

 

 

 そう言うと、天城は嬉しそうな表情を浮かべて、立ち上がり車に駆け寄る。

 

 

「全く、不思議な子だわ」

 

 

 運転手は見えないが、彼女の様子を見る限りかなり親しい間柄の様だ。

 車に乗り込む少女を見送りながら、川上は笑みを浮かべる。

 

 

「天城雪雫(せつな)、か」 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、(せつ)ちゃん…。迎えが遅くなっちゃって」

 

 

 ラジオから近頃世間を賑わす廃人化事件についての報道が流れる車内で、茶色のロングヘアーをツインテールにした少女は申し訳無さそうに口を開く。

 

 

「ん、大丈夫」

 

「でも待ったでしょ?」

 

「私がりせと一緒に帰りたい、って言ったから。何時までも待てる」

 

 

 淡々と、しかし僅かに嬉しそうに。白髪の少女、天城雪雫は口を開く。

 

 

「んんんんん、私の推しが可愛すぎる…」

 

 

 にやける口を手で隠しながら、茶髪の少女、久慈川りせは小さく呟く。

 

 

『続いてのニュースです。

本日14時30分頃。都営バスが乗客を乗せたまま車道を逆走―――』

 

「またこの手の事故かぁ。最近多いね」

 

 

 先程まで悶えていたりせがいつの間にか調子を取り戻したらしく、ハンドルから手を離し、うんと伸びをしながら呟く。

 

 

「渋滞の原因…」

 

「みたいだね」

 

 

 2人の乗る車は、渋滞に巻き込まれ一向に進まない。

 どうやら、ラジオで報道されていた事故の影響らしい。

 

 

「ああ、もう。早く帰って雪ちゃんの制服姿を写真に収めたいのにぃ」

 

「……本物じゃ、ダメ?」

 

 

 頬を膨らまして文句を垂れるりせに、首を傾げる雪雫。

 

 

「そりゃ本物に勝るモノは無いけど…。その、私個人の癒しの為と言うか、何時でも見れるようにというか……。寝る前のお供、というか…」

 

「……? りせの頼みなら何時でも着る」

 

「あ、うーん。そうじゃないというか、何というか……。えーっと、そう。みんな雪ちゃんの制服姿を見たいって言っているの!」 

 

 

 何故か少し慌てた様子で、りせはあたふたとしながら少し早口で言葉を紡ぐ。

 

 

「ほら、雪子センパイとか、千枝センパイとか!」

 

「雪子と千枝?」

 

「そうそう! 雪ちゃんあまり連絡しないでしょ? だから私に―――」

 

「雪子とはこの前電話で話した。けど、写真欲しいとは言っていなかった」

 

「あー……」

 

 

 車内にはラジオの音だけが響く。

 

 

「ほ、ほら…、言うの忘れてただけかも……。雪子センパイ、天然だし…」

 

「……む、確かに、そうかも」

 

「で、でしょ? 皆に雪ちゃんの成長した姿、見せてあげようよ!」

 

「ん、分かった」

 

 

 はぁ、とりせは小さく溜息を吐く。

 得意でも無い言い訳を並べるなら素直に写真撮らせて、と伝えれば良かったとりせは思った。

 

 

(…用途が用途だから、素直に伝えにくかったんだよね……)

 

 

 天城雪雫という少女は、りせからすれば純真無垢を体現した様な少女だ。

 活動している業界が業界にも関わらず、その黒さも裏も知らず。人の言葉は素直に聞き、自身の思った事は隠さず口にする。

 下の話なんてもってのほか、殆ど伝わらない。

 そんな身も心も純白な少女を汚す……、という事に一切の快感を覚えないことも無いが、いざという時に彼女に対してはヘタレを発動してしまうのが久慈川りせという少女だ。

 

 

「りせ…、前」

 

「……あ、やばいやばい」

 

 

 思考に更けている内に前の車が進んでいたらしい。痺れを切らした後ろの車にクラクションを鳴らされない内に、りせは車を進ませる。

 

 

「そういえば、学校どうだった?」

 

「……まだよく分からない」

 

「まぁまだ初日だしね。担任の先生はどんな人だったの?」

 

「鴨志田、っていう体育教師」

 

 

 鴨志田…、と小さく呟いて、りせは記憶を巡らせる。

 確か学校のパンフレットで紹介があった様な……。

 

 

「元バレー選手の人、だっけ。金メダリストの」

 

「多分、そう」

 

「学校の評判とか見る感じ、良い人そうだったけど…。その顔を見ると気に入らなかったみたいだね」

 

 

 りせの視線の先には、僅かに眉間に眉を寄せて外を眺める雪雫の姿。

 

 

「ん、私は好きじゃない」

 

 

 雪雫は雪雫なりに思う所があったのだろう。

 

 

「でも、生徒達は鴨志田をもてはやしてる。疎外感」

 

「ふふ、雪ちゃんもそう感じること、あるんだね」

 

「……私だって、人間」

 

「それはそうだけど、何となく、ね。雪ちゃんって強い子って気がするから」

 

 

 信号に引っ掛かり再び車は止まる。

 車が停まったと同時に、りせは視線を雪雫へと向けた。

 そこには普段の様子は崩して、年相応の寂しそうな表情を浮かべた彼女の姿。

 

 

「……強くない。私は――――」

 

「……雪雫?」

 

 

 途端に言葉を止めた雪雫を不思議に思い、りせは彼女の名を呼ぶ。

 呆然と外を見つめる雪雫の視線の先には、渋谷の駅前広場。

 犬の銅像の前で待ち合わせをする人達、セントラル街へ向かうであろう学生達、広場の中央で演説する政治家、エトセトラエトセトラ…。

 何時もの渋谷駅と変わりない。

 

 

「――――――」

 

「一体何が気になって…、ああ、分かった!」

 

 

 合点がいったと、りせは両手を合わせて嬉しそうに口を開く。

 

 

「今週の邦楽ランキングでしょ!」

 

「…え?」

 

「この前の雪ちゃんの新曲、大好評だったもんねぇ。並み居る強敵を跳ね除けて、堂々の一位!」

 

 

 自分の事の様に喜ぶりせの視線の先には、中央広場を見下ろすビルに取り付けられた巨大なモニター。

 そこには日本で人気の音楽を知らせるランキングが映し出されていた。

 一位の欄には自身の名前と、先日公開した曲のタイトル。

 

 

「あ…」

 

「雪ちゃん一生懸命考えてたもんねぇ。私も嬉しいよ~!」

 

「………うん」

 

 

 何か思う所があって外を見つめていた雪雫であったが、自身の功績を喜んでくれているりせを見て、そんな考えも吹き飛んだようで。

 

 

「りせのお陰」

 

 

 朗らかに笑みを作り、りせを見つめて口を開く。

 

 

「~~~! 可愛すぎ!!!!」

 

 

 我慢ならない、と言った様子で助手席に座る雪雫に抱き着くりせ。

 彼女の顔に頬ずりをし、呼吸を荒くするりせのスキンシップは、クラクションが鳴らされるまで続いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『対象、全人類。

 罪状、怠惰。

 

 

 ――――承認。

 

 

 これより、ナビゲーションを開始します。

 

 

 我が権能を用いて、必ずや、主神の元へと――――』

 




Q:P5が舞台なのにりせ?
A:作者の趣味です。

Q:百合のする必要は?
A:作者の趣味です。
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