PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
6月23日 木曜日 雨
「あ」
「どうした、雪雫?」
カネシロパレスもいよいよ大詰め。
地下へと続いているであろうエレベーターのロックを解除する為のキーを探す為、行内を駆け回っていた所、たまたま見つけた頭取の執務室。
その部屋を手分けして物色している中、PCと睨めっこしていた雪雫が声を上げた。
「解除出来たのか?」
「ん」
執務室の中央にあるデスク。その上に置かれた見るからに怪しいパソコン。
この場所にある以上、重要なデータが入っている事が想像出来るが、ロックが掛かっていて開ける事が出来ない―――。
と思われていたが、どうやらロックの解除に成功したらしい。
「す、すげー……。どうやって分かったんだよ…」
「ブルートフォースアタック」
「………ブルー……?」
「ブルートフォースアタック、日本語で総当たり攻撃。理論上、考えられるパスワードのパターンを全て試すっていうやつ。パスワードが長い分、試行回数も増えるからあまりこの手のタイプには向かないものだけど……」
クイーンの補足説明を聞き、納得する者も居れば、未だにピンときていない者も居る様で。
スカルに至っては「ブルートゥース…?」と呟いている。
「ここが現実世界なら上手くいかなかった。でもここはパレス…、認知世界。金城の考えを読み取れば良い。まず最初に考えるのは金城が現実で何をしているか。答えは簡単、お金を巻き上げている。でも現実で直接取引はしない。真に来たメールがその証拠」
「ええ、確かに。指定の口座に振り込む様に催促が来てるけど」
「それがここの認知の表れと言っても良い。ただ座っているだけで自分の元にお金が集まる。そしてそのお金を自分が管理している。殿様気分。現実の銀行とはまた仕組みが違うけど、そんな細かい所は関係無い。大事なのは自分の事を頭取だと思っていて、自分の組織は銀行だと認知している事」
「ふむ」
「ここまで来れば簡単。銀行と関連深いパスワードと言えば、口座の暗証番号。ここまで類推出来れば後は0000から9999の10,000通りに絞られる。後はそれらしい数字の組み合わせを試すだけ。携帯電話の下4桁、語呂合わせとか」
「それで、全部試したのかよ?」
「ううん。流石に時間が無い。でも5回目くらいで開いた。ラッキー」
「その暗証番号は?」
「0101」
「お正月って…。呆れた。何処までもお金が好きなのね」
子ども達が1年で最も多くの収入を得られる年の始まり。
金城が子どもだった時の記憶が強く結びついているのか、それとも巻き上げる対象が増える事による執着か。
どちらにせよ、お金に依存する彼らしいパスワードとも言える。
「もしアカウントロックが掛かってたらどうしてたのよ……」
「諦めて叩き割る」
「わーぉ、大胆!」
「大胆って言うのか、それ?」
女って時々怖いよな。とジョーカーとフォックスに同意を求めるスカルに対して、2人はイエスともノーとも返さなかった。いや、返せなかった。
現実に戻った時に何されるか分かったもんじゃない。
「それで、中身は何だったんだ? セツナ」
「ん、お目当てのモノでは無かった。でももっと凄いモノ」
そう言いながら、雪雫はデスクのPCを反転させ、皆の方へ画面を向ける。
「金城銀行の顧客リスト。つまり、金城の取引相手」
画面に映し出されているのは名前とその人物との取引で用いる口座の番号。そして、入出金の履歴。
「例えば、これ」
雪雫がマウスを動かしてある名前をクリックすると、そこに映し出されたのは皆もよく知る少女の顔写真が。
「私…。ここに載ってる口座番号も覚えがある。メールで指定された口座と一緒だわ」
「そう、真。入出金の履歴無し。きっと現実の金城とやり取りをしたら、ここに反映される仕組み」
「被害者リストってことか」
「いや待て。ここに載ってる奴らが全員被害者なら、入金の履歴だけで事足りる筈だ。アイツのやり口はとことん金を絞りつくす事だろう」
「ん、モナの言う通り」
雪雫は再びマウスを動かす。
次に表示された人物は―――。
「え、嘘」
「マジか!」
怪盗団第2の標的であり、フォックスにとって因縁深き老人。
「斑目……だと…!?」
「斑目一流斎。随分長い付き合い。彼とは頻繁にやり取りを行っていたみたい。取引の内容は大体同じ。斑目からの入金の後に、それから5%位引いた額を彼に出金してる。それの繰り返し。全部口座は違うけど」
「あー? それじゃあ斑目が損じゃねぇか。違う口座つっても、相手が斑目である事には代わり無いんだろ?」
「………いや、そうとも限らんぞ」
フォックスの言葉に、パンサーはどういう事?と首を傾げる。
「斑目は言っていた。偽のサユリを闇オークションで売りさばき、多大な利益を得ていたと。つまり―――」
「マネーロンダリング……、ってやつね。非合法の手段で得たお金の行方を眩ます為に、架空の口座を何個か経由して送金を繰り返すっていう。5%…は手数料って所かしら」
「じゃあアレか? 金城と斑目はズブズブだったって事か?」
「……班目だけじゃない。リストの何人かが、斑目と同じ様に取引してる」
「おいおい…、とんでもない特ダネじゃねぇか! そいつら全員、改心の対象になり得るって訳だ!」
興奮を隠し切れないモナの声に、怪盗団の面々はハッとした顔を浮かべる。
「確かに…。班目と金城。歪んだ欲望を持つ悪人が繋がっていたんだもん。他の相手も同じくらいの欲望持っていても不思議じゃないよね…」
「雪雫、他に素性が分かる者は?」
「―――――」
ジョーカーの言葉が聞こえていないのか、パソコンの画面を見つめたまま唖然としている雪雫に、一同は首を傾げる。
「雪ちゃん?」
「――え、あ。…なに?」
「他に名前が分かるやつ、居るか?」
「………ううん。居ない。顔と名前が出てるのは被害者と斑目くらい。あとは顔写真も無ければ名前も適当」
「カネシロ本人も知らない、って事だろうな。何にせよカネシロとマダラメに接点が合ったというのを知れただけでも収穫だ。良くやったぞ、セツナ!」
「―――うん」
何か言おうと僅かに口を開く素振りを見せたが、思い留めたのかそのまま口を閉ざし、雪雫は小さく頷きを返す。
「………?」
そんな彼女の様子を不思議に思い、ジョーカーは首を傾げるものの、その場でそれを言及することはしなかった。
「途轍もない収穫だったが、エレベーターのキーは結局分からず仕舞いだな」
「まーた銀行中を駆け回んのか? もう探すとこ無くね?」
「……多少目立っても良いなら、一つ方法あるよ」
「雪雫。何か良い案あるの?」
先程の様子とは打って変わり、何時もの通りの調子で呟いた雪雫に皆の視線が集まる。
何時もの無表情ながら、仄かに得意げに、そして真っ直ぐな瞳で。
彼女は言葉を静かに紡ぐ。
「――――拷問」
「「「「「「………………」」」」」」
「拷問」
怪盗団は無事にエレベーターのキーを手に入れた。
▼
同日 夜
心地良い温度の水が、頭上から降り注ぐ。
昔観たアニメのキャラが「風呂は命の洗濯よ」と言っていたが、言い得て妙だと今なら思う。
だって、このまま水と共に嫌な気持ちも排水溝へ流してくれそうだから。
「はぁ……」
降り注ぐシャワーを止め、肌に纏わり着く髪を纏めて。
自分の身体を湯船に沈める。
「…………」
小学生の頃から成長しないこの身体には余りにも広すぎる浴槽。
りせという背もたれが居なければ、私はこのスペースを十分に活用することは無いだろう。
「顧客、か」
私は今日、嘘を吐いた。
得意でも無い嘘を。
他に素性が分かる者があのリストの中に1人居た。
それは私が幼い頃から良く知る人物で。文字通り私の命を救った医者の中の1人。
「恩は、ある。でも彼の今の行いが間違っているのを私は知っている」
大山田省一。
妙と共に私を担当した男。
そして、今もなお病床に伏す美和を担当する医師でもある。
大体は予想が付いていた。
金城の名前を聞いたあの日から。
何か良く無いモノと繋がっているって。
今思えばあの時、斑目展のチケットをくれたのも、彼が言う人付き合いも真っ当なモノかどうかは疑問に残る。
でも、それでも。
「2人の人生と私の我儘。どっちが大切か、って言われると―――」
浴槽に背中を預け、天井を見上る。換気扇に少しずつ吸い込まれていく湯気をぼんやりと眺める。
そう、彼は確かに悪人ではあるが、それ以上に医者なのだ。
人々の命を預かる医師。
「私が我慢すれば良い。それだけ」
頭の中で否定を続ける自分を必死に抑え込む。
「……洗濯には程遠いな…」
私の心のモヤモヤは相当頑固な汚れらしい。
◇◇◇
6月24日 金曜日 雨
「良し、いよいよオタカラ前の最後のフロアだ」
ジョーカーの言葉と共に一同は目の前に聳える巨大な壁…、いや金庫を眺める。
さながら要塞の様で、はたまた巨大迷路の様で。
「第3の課題だね」
「マリポタか」
パレスの様子に妙に興奮した様子の白髪の少女と、彼女にツッコミを入れる金髪の青年。
「雪雫ってあれなの? 意外とそういうの好きなの?」
「うん。前にインタビューでそう言ってたよ」
そんな2人の様子を眺めながら小声で話す2人の少女。
「材質を感じさせない美しい曲線美……! 素晴らしい!!」
そんなメンバーを余所に、自身の指で構図を切りながら、聳え立つ金庫に見とれる青年が1人。
「緊張感ねぇな、お前ら!」
「……まぁ、これが長所とも言える」
そして生徒を引率する教師の様に、それを見守る猫とリーダー。
「良いか。オタカラまではあと少しなんだ。当然、敵も今までより手強い。この様子じゃ、セキュリティも相当のモノだろう」
「わーってるって! 要は何時も通りに行けば良いんだろ?」
スカルの言葉に全員が頷きを返す。
「良し、行くぞ!」
・
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「えっと、Rに対応する数字は……1だったか?」
「………0…」
「フゲってどういう意味だ?」
「フゲじゃなくてヒュージよ、このモンキー! HUGE!」
「D=G、L=U+G……。回りくどい真似するわね」
「もうこんなの数学じゃん! 分からなくなってきたよ……」
「パンサー…せいぜい算数じゃないか、コレ……」
・
・
・
「グダグダじゃねぇか!」
オタカラへと続くエレベーターへと続く道を遮っていた金庫。
その金庫に施された4つのロックを紆余曲折ありながらも解除した怪盗団。
そんな彼らに待っていたのは労いの言葉では無く、先輩による叱責。
……主に2人に対してだが。
「いやぁ、まさか金城の野郎があそこまで頭が回るなんてな!」
「ギリギリだったね……」
「お前ら…、少しは反省しろよ…?」
激しい戦いを終えた兵士の様に、僅かに息を切らしながら呟く2人に、モナは呆れながら溜息を零す。
「クイーンにセツナ…、お前達が居てホントに助かったよ……」
「お、お役に立てた様で」
「何より……」
「それより早いとこ、下に行かないか? 敵が湧いてこないとも限らん」
再び緩み始めた空気を引き締めたのは、何時もは率先してボケ続けるフォックスで。
彼の言葉に一同は再び顔を引き締める。
「ああ、行こう」
中央に佇む銀行の心臓部へと続くエレベーター。
それに乗り込み、一同は下へ下へと進んで行く。
そして、眼前に広がったのは。
「……何も無いじゃない」
鉄の壁と床に囲まれた広いだけの空間。
強いて挙げるとすれば―――。
「あれが、オタカラ?」
「お、セツナも感じるか?」
雪雫が指をさしたその先。この空間の中央部に僅かなモヤがある位だ。
「ここから先は、予告状ってやつが必要でな」
「……予告状…? なるほど。オタカラが危険だと対象に認知させることで、オタカラが顕在化される……。随分大胆なトリックね」
「理解はえー……。」
「もう説明不要って感じだね…」
僅かな情報から全てを理解するクイーンに、スカルとパンサーは呆れ半分で呟く。
「予告状の公表とオタカラの強奪はその日の内に行わなければならない。そうでないと意味が無いからな」
「日が経つと予告状の効力が薄れる…。つまりオタカラが危険だという認知が薄れる?」
「そうだ!」
「こっちも優秀……」
一同はそれぞれの顔を互いに見つめ、その意思を確かめる。
次に来る時は、決行日だ。
「作戦の決行は日曜日。皆、派手にかまそう」
稀代のトリックスターは静かに、しかし力強く呟いた。