PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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21:Money, Money, Money.

 

 

6月25日 土曜日 曇り

 

 

 

 真っ直ぐ投げられた(やじり)は勢いを弱める事無く、吸い込まれる様に的の中心を射止める。

 

 

「―――ブル」

 

 

 ゲームの終わりを知らせる電子音が響き、それを見ていた少年少女は感嘆の声を漏らす。

 

 

「だー! 勝てねぇ……!」

 

「これで5戦5敗……、竜司の完敗ね」

 

「何だよ、リュージ! お前センス無いんじゃないか?」

 

「いや、これは竜司が弱いのでは無く、雪雫が強すぎるんじゃないか…」

 

 

 皆の視線は、踏み台に乗って必死に手を伸ばしながら、ボードに刺さったダートを抜いている雪雫の元へ。

 その恰好は非常にラフで、普段は下ろしている髪をゴムで纏め、ダボダボのTシャツにショートパンツを身に着けている。所謂、部屋着だ。

 

 

「もう蓮以外勝てねぇんじゃねぇの? ちょっと蓮、やってみろよ」

 

「……やる?」

 

「ふ、手加減はしないぞ」

 

 

 場所は雪雫の自宅。

 学校が終わるや否や、皆を連れて帰宅した雪雫。

 当初の目的は、明日に控えたオタカラ強奪の打ち合わせだったが、何時もの様に話が段々と脱線していき、そして今に至る。

 

 

「1001?」

 

「構わない」

 

 

 眼鏡を抑えて不敵に微笑む蓮に対して、その赤い瞳の奥で静かに闘志を燃やしている様子の雪雫。

 両者の間に、緊張の一瞬が漂った。その時。

 

 

「ハイハイ。長くなりそうだから、また今度ね」

 

「………ん」

 

「…む」

 

 

 真が両手を叩きながら、両者の間に割って入った。

 このままだと、陽が完全に落ちるまで2人は投げ続ける。そう判断したのだろう。

 

 

「もうダーツはおしまい。今日集まった目的忘れたの?」

 

「……すまない」

 

 

 やる気を漂わせて立っていた蓮が、いそいそとソファに再び腰掛ける。それを見て雪雫も空気を読んだ様で、ダーツ盤の電源を切って皆の元へ。

 ローテーブルを囲う様に設置されたソファに腰掛けた怪盗団の面々。一同の視線は机の上の赤いカードへ注がれる。

 

 

「さてと、まずは予告状の内容か」

 

「……担当とかあるの?」

 

「カモシダの時はリュージが用意したが、マダラメの時はユースケがデザインと内容を考えてくれたな。そういう意味ではユースケが担当と言っても良いかもな」

 

「ああ、だから最初の予告状の文は、えっと…。口調が安定しなかったのね……」

 

「真、素直にバカって言って良いと思うよ」

 

「んだとコラ!」

 

 

 竜司が抗議の声を上げる中、雪雫は「ふーん」と呟きながら予告状を眺める。

 

 

「カードのデザインはデータとして保存してある。何か気になる所があれば言ってくれ。腕によりをかけよう」

 

「いや、素人の私が言う事は無い」

 

「そうか、良かった。内容についても安心してくれ、すでに考えてある。今すぐにでも用意できるぞ」

 

「ありがとう、祐介。さて、後はどうやって金城の目に届かせるかだが」

 

 

 金城は警察ですら尻尾を掴めていない犯罪組織のボスである。

 話によると前回は真の強行により、コンタクトを取れたらしいが、そう何度も上手くいかないだろう。そうでなければ、警察も苦労はしない。

 

 

「直接本人に届ける…。っていうのは無理だよね……」

 

「ああ。そう何度も会ってくれるような相手じゃないだろうな」

 

「何だ、そんな事」

 

 

 頭を悩ませている一同。その中で真は1人、不敵な笑みを浮かべて呟く。

 

 

「何か良い案あるのかよ?」

 

「要は予告状が金城の目に留まれば良いんでしょう?」

 

 

 彼女は竜司とモルガナに視線を送りながら、その笑みを深くした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

6月26日 日曜日 曇り

 

 

 その日、渋谷の街が真っ赤に染まった。

 至る所に張り出された無数の赤いカード。表通りの通行人は一様に足を止め、それを眺める。裏通りに潜むガラの悪い男達は、それを見て顔を青くする。

 

 

「こ、これ……」

 

「不味くないか…!?」

 

 

 予告状。

 悪人の心を改心させると言われる現代の義賊。

 その怪盗団を信じている者はまだ少ないが、その存在は彼らにとって決して無視出来るモノでも無く――――。

 

 

 

 

金を貪る暴食の大罪人、

 

金城潤矢殿。

 

詐欺に明け暮れ、未成年だけを狙う卑劣な手口。

我々は全ての罪を、

お前の口から告白させることにした。

 

その歪んだ欲望を、頂戴する。

 

心の怪盗団ファントムより

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

 

「ホントにな……」

 

 

 お決まりの何時もの連絡通路で、1人と1匹が手すりに身体を預けてぐったりとしていた。

 

 

「ちょっと2人とも! これからが本番なんだよ!?」

 

「そんな事言ってもよぉ……。夜中に変装までしてばら撒きまくったんだぜ…?」

 

「……私もやりたかった」

 

「雪雫は色々目立つからダメ」

 

 

 眼前に広がる渋谷の街並み、そして人々の反応を眺める怪盗団。

 もう長い者は3回目となるが、こうして反応を直接見るのは何気に初めてだったりする。

 

 

「まぁ兎に角…、お膳立ては揃った。いよいよだな!」

 

「今回の相手は、掛け値なしの大悪党…」

 

「望むところだぜ! 大型新人が2人も入った事だしよ!」

 

「私はまだ――」

 

「ハイハイ、雪雫。空気読みましょうね。―――クズの様な大人と、大人の言いなりだった私…。どちらも纏めて打ち砕く……!」

 

 

 雪雫の口を手で塞ぎながら、真はその決意を改めて口にする。

 

 

「良し、行こう!」

 

 

 

 

「おお~。」

 

 

 パレス全体が、慌ただしい雰囲気に包まれている。

 警報が常に鳴り響き、警備員代わりのシャドウは血眼になって賊の姿を探す。

 現実の金城の警戒心が高まっている証拠だろう。

 そして、目の前に聳え立つそれも、彼の警戒心の表れか。

 

 

「おいおい、前回はこんなの無かったぞ!」

 

「この短期間で……!」

 

 

 オタカラを守る様に聳え立つ巨大な金庫。

 部屋の端から端へ、床から天井へ伸びたその堅牢な壁は決して簡単には打ち破れば無いだろう。

 壁の中央にある巨大なダイヤルの番号さえ分かれば解決するが、生憎そんな事を相手が許す筈も無く―――。

 

 

『いらっしゃいませ。ようこそ、我が、都市銀行へ。良く生きてここまで来れたねぇ。随分、運が良い様だ』

 

 

 物腰柔らかい口調で言葉を紡ぐのは、薄紫色の肌をした小太りの男。

 背後に手下らしきチンピラを連れ、余裕綽綽と言った様子だ。

 

 

「…これが、金城?」

 

「の、シャドウだな。気を付けろよ、何をしてくるか分からん」

 

 

 身構える怪盗団を見下した様な目で見渡す。

 雪雫まで目を配ったところで、カネシロは納得した様に溜息を吐いて目を伏せる。

 

 

『なるほど。飼い犬が牙を向けてきた、か。何度も手綱を握っておけと忠告してやったのに……』

 

「………?」

 

『上が下をこきつかって、好きなだけ搾り取る。そういう順番が、この世には存在しているんだ。貴方がたも、大人しく金づるになりなさいよ!』

 

「誰がなるか、そんなもの!」

 

「順番とか頭おかしいでしょ!」

 

 

 気丈な態度を崩さない怪盗団にカネシロは徐々に苛立ちを覚え、その眉間に青筋を浮かべる。

 

 

『オレだって散々やられてきたんだ! 苦汁を舐めさせられ、クソ底辺から這い上がって、ようやくオレが刈り取る番ってワケさ!』

 

「……でも、相手間違えてる」

 

「卑怯な事しか出来ない、可哀想な人よね」

 

 

 カネシロ本人が言う通り、彼は過去に虐げられた経験を持つ弱者だったらしい。その事はカネシロの心の表れとも言えるパレスそのものにも反映されていた。

 しかし、だからと言って、怪盗団が今の彼を認める訳にはいかない。

 

 

『勝ち方に綺麗も汚いも無い! クレバーなヤツが勝つ! 賢く強い者は、弱者を食い散らかして当然。ネットの知識だけで世の中悟った様な気になる頭の湧いたクソガキは良いカモだよ』

 

「終わってる、この人」

 

『ダマされるのは常にバカだ! バカはそのバカの責任を取らされるだけ。学習しないバカは一生バカなんだよ! バーカ!!』

 

「バカバカうっせぇな!!」

 

『バカには何を言っても無駄かぁ!』

 

 

 カネシロは媚びる様に両手の手の平を合わせ、それを何回も擦り合わせる。

 

 

『有難い説教は終わりだ。一生ここで奴隷としてこき使ってやる』

 

 

 両手の動きは次第に速度を増していく。

 

 

『クククク…たかるだけ…、たからせて頂きますよぉーっ!』

 

 

 両手を擦り合わせたまま、カネシロはだらりとこう垂れる。

 明らかに様子のおかしいカネシロを見て、手下達は訝し気な視線を送っていたが、次第にその顔は恐怖の色へと変わっていく。

 

 背中や目玉が膨張し始め、中から食い破る様にそれが現れる。

 耳障りな音を響かせる翅、無数の鏡が寄せ集められたような複眼。

 その姿は、まさに蝿そのもの。

 

 

「……ナカムラの時と同じ」

 

「ああ、来るぞ」

 

 

 突如現れた異形の存在に、カネシロの手下達は悲鳴を上げてこの場から去る。

 どうやら彼らはカネシロが正しく認知している人物であり、シャドウでは無いらしい。

 

 

『オレ1人で十分さ。さぁ、やってみやがれYO! BABY!』

 

 

 文字通り変身したカネシロは、無駄にリズミカルに言葉を紡ぐ。

 

 

「…汚い金にたかるハエ…、気持ち悪いのよっ!」

 

『ギャハハハハ! いくぜ、クソガキ共がYO!』

 

 

 カネシロは変わらずリズミカルに口を開きながら、ラッパーの様な手振りで怪盗団にその指を向ける。

 彼の指先に集まる魔力の塊が、弾丸の様に放たれる。

 

 

「おぉっ!」

 

「厄介な……!」

 

 

 目で捉えるのが困難な程小さく、そして弾速が速い指弾は、次々と標的を変えて襲い掛かる。

 

 

「固まっていると不味い!」

 

「それじゃあ、散り散りに!」

 

 

 不可視の弾丸を避けるのに手一杯で、攻勢に出れないと判断したジョーカーが声を上げる。

 それぞれ散り散りになる事で、カネシロの的を絞らせない為にするつもりらしい。

 

 明確に言葉で告げなくとも意図を汲み取った仲間達は、それぞれの判断で散開する。

 

 

「雪雫は私に任せて! ヨハンナ!」

 

 

 クイーンの声に応じて現れたバイク型のペルソナ『ヨハンナ』。

 見た目通り、バイクとしての機能もあるらしく、彼女はヨハンナのエンジンをふかしながら、後方に控える雪雫の元へ。

 

 

「雪雫! こっちに!」

 

「わぁっ。」

 

 

 雪雫は差し出された手を取りしっかり握ると、クイーンは力一杯雪雫の手を引き、自らの後ろに座らせ、再びバイクで走り出す。

 

 

「貴女、軽すぎない? 危うく投げ飛ばしそうだったわ!」

 

「…別に普通……。」

 

「普通だったら私が片手で持ち上げられる訳無いでしょ!!」

 

 

 普段だったら「真が馬鹿力…。」と軽口を叩くところだったが、不可視の弾丸が飛び交うこの場で言う程、場を読めていない訳では無かった。

 クイーンの細い腰に腕を回しながら、風で靡く前髪の隙間から見えるカネシロを見据える。

 相変わらず身体全体でリズムを刻みながら、四方八方に凶弾をばら撒いていた。

 

 

「逃げ回ってちゃ埒が明かないわね……!」

 

「……それなら。アリス、エイガ」

 

 

 現れた金髪の少女の指先から、赤黒い魔力の塊がカネシロに向かって放たれる。

 その攻撃は真っ直ぐにカネシロを捉え、確実に彼にダメージを与えた。

 

 

『ぐっ…!』

 

「………? 思っていたよりも効いてる…?」

 

 

 そこまで威力を込めたつもりは無かったが、想像以上にカネシロの動きが鈍ったことに小首を傾げる雪雫。

 そんな彼女を余所にクイーンはヨハンナを止め、雪雫に叱責を飛ばす。

 

 

「ちょっと、魔法は温存っていう話だったじゃない! 直ぐにガス欠になるわよ!」

 

「でも負けたら意味無い」

 

「そうだけど……!!」

 

 

 パレスの主の戦いは長期戦になりやすい。

 自分が強者という認知からか、それとも単純にそういうモノなのか。どちらにせよ、他のシャドウとは一味も二味も違う。

 2回の改心を経験したジョーカー達の言葉だ。

 

 今の雪雫の役目は魔法を中心とした後方支援。

 しかし魔法を使うのもただでは無く、その術者の精神力を蝕む。長期戦が予想されるこの戦いで、最初から全力で戦っていれば、後半には動けなくなるのは目に見えている。

 だからジョーカー達は雪雫がそうならない様、彼女に温存して動く様に伝えていた筈、だったが……。

 

 

「いや、でもナイスなんじゃねーの! アイツの攻撃が止まったんだ!」

 

「このまま叩くぞ、お前ら!」

 

 

 モルガナの言葉を合図に、カネシロを取り囲んだ面々は自身のペルソナを出現させる。

 まともに喰らえば、並大抵の敵は跡形も無く吹き飛ぶであろうこの構図。

 しかし、そんな状況下においてもカネシロは薄ら笑みを崩す事無い。

 

 

『ちょこまか動いて鬱陶しい、俺の守護神活躍必至!』

 

 

 カネシロが高らかにそう叫ぶと、それに反応したか、空間の中央に聳え立っていた金庫が開く。

 そこに吸い込まれる様にカネシロは翅を羽ばたかせそのの中へ。

 

 

『若いってのは罪だよなぁ? 世間知らずで無鉄砲…、自分の馬鹿さ加減も分からねぇ……』

 

 

 スピーカーでも付いているのか、何処からか機械交じりのカネシロの声が響く。

 

 

『そんな奴ら、搾取しなきゃ勿体ねぇだろ?』

 

 

 カネシロの見下した様な物言いが終わると同時に金庫のダイヤルが回り、激しい振動と共に聳え立っていた壁が開かれる。

 そこに現れたのは――。

 

 

「ブタさん?」

 

『ブタじゃねぇ! ブタ型機動兵器【ブタトロン】だ!!』

 

 

 丸みを帯びた体躯、愛らしい耳、鼻を模した堅牢な金庫の扉、ジェットエンジンを携えた短い4本脚。そして両目に当たる部分に備え付けられた大型のマシンガン。

 何処からどう見てもブタの貯金箱そのものだが、節々に取り付けられたその装備が、普通のブタでは無いことが取って分かる。

 

 

『俺に逆らった罪は重いZE? 大人しく地獄に堕ちるんだな!!』

 

 

  




心の中のビーストオブリビドーが抑えきれなくて、雪雫とりせのR18書きたくなってきた。
誰か止めてください。
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