PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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22:Money is boring

 

 

 巨大な豚の貯金箱……いや、豚型機動兵器「ブタトロン」は、両目の銃口を怪盗団へと向ける。

 カネシロ本人の指弾ほど速くは無いが、何より脅威なのはその攻撃範囲と精密性。的を散らす為に、展開しているジョーカー達。各々の判断で隙を見付けは攻撃を仕掛けるが―――。

 

 

「とっとと…、くたばりやがれぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 スカルの持つ鉄パイプとブタトロンの装甲の衝突により、耳をつんざく金属音が辺りに鳴り響く。

 

 

「――――いってぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 そりゃそうだ。とこの場に居る誰もが思っただろう。ブタトロンの装甲は銃弾でも傷を付ける事が叶わない程硬いのだから。

 

 

「……厄介」

 

「そうね……」

 

 

 ヒリ付いているであろう手をブラブラとさせるスカルに呆れた視線を送っているとは露知らず。2人の少女が跨るバイク…もといヨハンナが彼の横を通り過ぎる。

 向かう先はスカルに銃口を向けているブタトロン。 

 

 

「アリス」

 

 

 一言その名を呼べば現れる金髪の少女。

 もう1人の自分とは良く言ったもので、それ以上の言葉を紡がずともペルソナから放たれた魔法は、狙い通り真っすぐブタトロンの瞳へ。

 黒い靄がブタトロンのメインカメラを担う瞳を覆い、スカルに向けられていた照準を惑わす。

 

 

『っ! 目潰しとは…、随分狡い手を使うじゃねぇかYO!』

 

「お金使って人を動かしているアンタに言われたく無いわよ!」

 

 

 次第に靄が晴れ、再び露わとなるブタトロンの瞳。

 攻撃前と何ら変わりのないその姿に、何度目か分からない溜息が雪雫の口から漏れる。

 

 

「わりぃ! 助かった!」

 

「手の方は大丈夫か?」

 

 

 窮地に一生を得たスカルの元に雪雫を後ろに乗せたクイーンとジョーカーが駆け寄る。

 

 

「ああ、まだ少し痛ぇけどよ。戦闘には問題無いぜ!」

 

「でも埒が明かないわ。このまま戦闘を続けても、不利になる一方よ」

 

「向こうは機械。こっちは生身」

 

「燃料切れるまで粘る……とかはナシだよな…?」

 

「期待するだけ無駄だろう。」

 

 

 ジョーカーはそう言い切り、注意を引いてくれているパンサー達に視線を送る。

 凶弾を避けながら、魔法と武器による攻撃を繰り返しているが、依然変わらず決定的なダメージは与える事は叶わない様だ。

 

 もう何度目かも分からない攻防。

 攻撃をくくり抜け、隙を見つけたクイーンが魔法を繰り出す。

 

 

「カルメン!」

  

『っ!』

 

 

 彼女から繰り出された火球はブタトロンの装甲を捉える事は叶わず。

 カネシロはブタトロンの巨体を宙に浮かし、それを()()()

 

 

「………?」

 

『中々しぶといじゃねぇか。こうなったら―――』

 

 

 鼻の形を模した重苦しい金庫の扉がゆっくりと開き、その中からカネシロの本体が現れる。

 耳障りな羽音を響かせ、ブタトロンの頭の上に立つと同時に、ブタトロンはその四肢を格納して完全な球体へと変形した。

 

 

『こいつで押しつぶしてやるぜ!』

 

 

 玉乗りを披露するピエロの様に、その足でくるくるくるくると、ブタトロンを回転させる。

 その速度は段々と増していき、遂には目で追うのもやっとな程の高速回転へ。

 

 

「おいおい、まさか……」

 

 

 モナが苦々しそうに呟く。

 

 

「不味い、突っ込んでくるぞ!」

 

 

 フォックスがそう叫ぶと同時に、カネシロが薄気味悪く口角を上げ、その鋼鉄の球体を怪盗団に向かって放つ。

 

 

「一先ず回避だ!」

 

「えぇ!」

 

 

 ジョーカーの言葉に応えるように、クイーンはヨハンナのエンジンを吹かす。

 

 

「雪雫、しっかり掴まってなさいよ!」

 

「ん。」

 

「おいおいおい! やべぇ…、こっちに来るぞ…ぐぇっ!」

 

 

 ジョーカーは持ち前の身軽さでその場を離れたものの、驚愕のあまり出遅れてしまったスカル。

 そんな彼の首根っこをクイーンは掴み、ヨハンナを最大速度で走らせる。

 

 

「ちょっと荒っぽくなるわよ!」

 

「おぉ~」

 

「く゛、首゛…、首゛し゛ま゛っ゛て゛る゛……!!」

 

 

 同乗者を振り落とす勢いで走らせるクイーン。その後ろで僅かに目を輝かせながら感嘆の声を上げる雪雫。青い顔をして意識が飛び掛けているスカル。

 三者三葉の反応を見せたまま1分ほどが経過し、カネシロは再びブタトロンの中へと戻る。

 

 

「全員、無事か?」

 

「…な、何とか………」

 

「死ぬかと思った…。色々な意味で…。」

 

「しかし何故攻撃が止んだ? カネシロの方が有利だったと思うが…」

 

「単純に転がすのが疲れたんでしょ。現にほら、実際に今攻撃してこないし。」

 

 

 あー、ありそうとクイーンの言葉に同意を返すパンサーの横で、モナが苦々しい表情で口を開く。

 

 

「何にせよこのままでは不味い。もう一度さっきのをやられてみろ、今度は無事じゃ済まないぞ。」

 

「って言ってもよぉ…。なーんも打開策が浮かばねぇ……」

 

 

 スカルの言葉に対して皆沈黙を返す中、クイーンが何かを思いついた様に手を挙げた。 

 

 

「―――1つ、試したい事があるんだけど。」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「ホントにやるの?」

 

「当然。他に手あるの?」

 

 

 半信半疑。というよりは呆れた様子で、目を細めてクイーンに問いかける雪雫。

 

 

「安心しなさい。きちんと決めるから。」

 

「……脳筋。」

 

「パソコンを叩き割るとか言ってた貴女に言われたく無いわよ。」

 

 

 軽口を交わしながらも、雪雫は乗っていたヨハンナから降りて、エンジンを吹かし続けているクイーンの背中を見つめる。

 

 

「支援、頼むわよ」

 

「…ん。」

 

 

 何時も通りの短い返事を聞き、クイーンは僅かに口角を上げた後、力一杯叫ぶ。

 

 

「行くわよ、皆!」

 

 

 クイーンの合図を皮切りに、雪雫を除く怪盗団の面々がブタトロンに向かって駆け出す。

 そしてそれに続く様に駆け出すヨハンナ。

 

 

『何をしようと無意味! ここで決めるぜスピーディに!』

 

 

 向かってくる面々を迎え撃つように、再びカネシロはその巨体を動かそうとする、が。

 

 

「させるかよぉ! 」

 

「もう容赦しないんだからね!」

 

「足止めは任せろ!」

 

 

 スカル、パンサー、モナがそれぞれペルソナを出現させ、各々が得意とする魔法を繰り出す。しかしブタトロンの本体に対してでは無く、その周りに。

 まるでその行動を制限する様に。

 

 

「道は任せろ」

 

 

 その裏でフォックスが静かに呟くと、そこに現れたのは氷で出来た坂。スキージャンプ台の様に、対象を飛ばす為に特化した形のモノ。

 そこに向かって勢い良く、最大速度を保ったままクイーンは突っ込む。

 そして、勢いのままに大きく跳躍した。

 

 

(これで決める……!)

 

 

 位置は身動きが取れていないブタトロンの真上。

 自由の利かない空中で、ヨハンナから身体を離し、自身の拳に力を込める。

 

 

「―――バースト」

 

 

 自身が得意とする核熱属性の魔法。

 今まで敵に放っていたそれを、自身の拳に纏わせる。

 

 

(武器もダメ、魔法もダメ…。単体でダメなら、合わせるまで!)

 

 

 その光景を少し離れた場所で見守っている雪雫とジョーカー。

 方や呆れた顔で、方や苦笑いを浮かべて。彼らも皆と同じ様に自身のペルソナを出現させる。

 

 

「「タルカジャ」」

 

 

 同時に紡いだ言葉は目で見えずとも、確かにクイーンへと届き―――。

 

 

(物理攻撃と落下による勢いに加えて魔法による3重の支援…、これでダメならお手上げね。)

 

 

 それでも確実に仕留める自信が私にはある。

 

 

「覚悟しなさいよ! ハエ野郎!」

 

 

 持てる力の全てをその拳に乗せて、クイーンの拳ブタトロンの装甲に接触し――。

 

 

「鉄・拳・制・裁!!!」

 

 

 金属が拉げる音と共に、激しい爆風と熱が辺りを包んだ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

『畜生…、俺の守護神が……』

 

 

 激しく上がり続ける黒煙、融解した装甲、火花が散るコックピット。そして辺りに散らばった金塊。

 最早鉄屑と成り果てたブタトロンの中から、満身創痍といった様子で這い出るカネシロ。

 

 

「ようやく本体のお出ましね。」

 

『……ひっ…』

 

 

 そしてそれを取り囲む怪盗団。

 

 

『ま、まだだ…、俺にはまだ金がある……。金さえ積めば用心棒を…。』

 

「悪足掻きも状況を見てから言うんだな。」

 

「アンタが仲間呼ぶのと、私達が止めを刺すの。どっちが早いと思う?」

 

『あ、ああいや…。それは―――。』

 

 

 勿論、怪盗団に止めを刺す気は無い。あくまでも目的はオタカラであり、カネシロ本人の命では無い。

 しかしながら、それをカネシロが知る由も無く―――。

 

 

「大人しくオタカラを引き渡して本体の所へ帰るんだな。」

 

 

 冷汗を浮かべていたカネシロだったが、次第にその表情も落ち着いていき、諦めが付いた様に語り始める。

 

 

『全く…、お前ら要領がワルいぜ…。そんな凄え力あるのに…。パレスを利用すりゃ、金儲けなんてしたい放題だろ? 人の心、好きに出来んだぞ?』

 

「……そんな事したって、意味が無い。」

 

 

 クイーンに守られる様に、その背の後ろで眺めていた雪雫が、僅かに目を鋭くしてカネシロに向かって静かに呟く。

 そんな彼女に視線を移して、彼は自嘲するような乾いた笑みを浮かべた。

 

 

『…はっ、流石は現代を代表する成功者だ。言う事が違うねぇ。』

 

「雪雫、まともに取り合っちゃダメ。」

 

 

 雪雫から視線を逸らすと、カネシロは再び虚空を見つめ、ポツリポツリと再び言葉を紡ぎ始めた。

 

 

『その青臭い正義感、意味があるのかねぇ…。やってるヤツがもう居るのに。』

 

「……もう居る…?」

 

「斑目が言っていた奴か…!」

 

 

 クイーンと雪雫は首を傾げ、残りのメンバーは思い出したかの様にその顔をハッとさせる。

 斑目のシャドウが言っていた、黒い仮面の存在。

 

 

『教えといてやるよ。パレスを使って好き放題してるヤツが…実際に居る。そいつは現実で何が起きようとお構いなし。廃人化に精神暴走…なんでもアリだ。』

 

「言え、誰なんだ!?」

 

『…ククク……、やめとけって。ヤツの力はお前らの比じゃねぇ。出くわさない様に、精々気を付けることだ。』

 

 

 段々とカネシロの姿が透けていく。パレスの崩壊が近い証拠だろう。

 彼はそのまま透けた姿で、雪雫に向かって指を差し、何処か同情するような笑みを浮かべた。

 

 

『それに、お前。』

 

「……?」

 

『次はお前だ。』

 

「それって―――。」

 

 

 雪雫の呟きに答える事無く、カネシロのシャドウは虚空に消えた。

 

 

「………私…。」

 

 

 

 

同日 夜

 

 

 この小さい身体には大きすぎる浴槽。半分ほどお湯を溜めて足の指先から恐る恐る湯船に身体を浸らせる。

 疲れた身体を包み込む様に、程よい温度が身体を包み込む。

 

 

「はぁ」

 

 

 結局あの後、家主が消えたパレスは事前に蓮達が言っていた様に崩壊をし始めた。パレスの核であり、人の欲望そのものであるオタカラに興奮するモルガナを無理矢理落ち着かせて、慌ただしくもパレスから脱出した。

 現実に戻った際、モルガナが死に掛けたとか、大金だと思ったオタカラが子ども銀行のお金だったとか、色々トラブルがあったが、まぁ小さな事だ。

 

 

「……デイリー消化しなきゃ…。」

 

 

 朝から慌ただしくて忘れていたが、珍しく1回もゲームを開いてない事に気付く。

 防水のケースに包まれたスマホを手に取り、ゲームのアイコンをタップしたその時。

 

 

「…真。」

 

 

 今日のMVPである世紀末…、クイーンこと真から着信があった。

 

 

「…もしもし?」

 

『あ、ごめんね急に。今大丈夫?』

 

「ん。」

 

 

 大方予想通りというか、内容としては今回の件に関するお礼と、今後についての話だった。

 どうやら、真はそのまま怪盗団の正式なメンバーとして活動していく事に決めたらしい。何でも、忘れていた正義感を取り戻したとか。

 私はというと―――。

 

 

『そう言えば。』

 

 

 自分の結論を言語化する為、思考を巡らせていたその時、真が思い出したかの様に呟いた。

 

 

『カネシロの…、えーっとブタトロン? 倒せる自信はあったけど、想像以上に装甲が柔らかく感じたのよね。熱に弱いのかな、とは杏の攻撃を見て見当付いたけど…。融解する程じゃ無かったと思うのよ。雪雫何かした?』

 

「私じゃない。認知の結果、だと思う。」

 

『認知? で融点に達していなかったと思うけど…。』

  

「真は縁が無かったから知らないかもしれないけど、世の中的に金属=熱に弱いっていう認知が刷り込まれてる。特に若い世代は。」

 

『そうなの?』

 

「金属はほのおとかくとうに弱い。ある意味で常識。カネシロの認知がそっちに引っ張られたんじゃないかな。」

 

 

 彼の歳的に触れていてもおかしくないし、そういう知識があったのも不思議ではない。

 今や世界的に人気のコンテンツだし。

 

 

『つまり、何かの要因で金城本人が、金属は熱と打撃に弱いと思い込んでいた、って事ね…。』

 

「打撃というよりは拳…? まぁ気になる様だったら今度教えて上げる。きっと真は強いと思う。」

 

『そ、そうかな?』

 

 

 所々このように脱線しながらも、湯船がぬるくなるまで談笑は続く。

 実際の所、早い所切り上げてゲームをしようと思っていたが、存外楽しいひと時だった。

 

 

『次はお前だ。』

 

 

 カネシロが残した言葉を考える暇がない、良い時間となったのだから。

 

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