PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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24:Out of the frying pan into the fire.

 

 

6月28日 火曜日 晴れ

 

 

「あら、いらっしゃい」

 

 

 目が眩むほど賑やかな内装のバー。

 1人の少女がそこに踏み入れると、店主であろう人物が何処か諦めたかのような表情を作りながら、歓迎の言葉を口にする。

 

 

「……こんばんは」

 

「はい、こんばんは。何時もの席よ」

 

 

 ん、と少女は小さく頷くと、慣れた足取りで奥の席へ。

 そんな彼女を眺めながら、店主は「未成年が気軽に出入りしていい場所じゃないのに…」とぼやいていた。

 

 

「あまり遅くならないから」

 

「そういう問題じゃないの」

 

 

 そんな短いやり取りをした後、少女は目的の人物と対峙する。

 

 ソファに深く腰掛け、行儀悪く足を開き、機嫌良さそうに酒を口へと運ぶ黒髪の女性。

 彼女は少女の姿を見るや否や、満面の笑みを浮かべて手をヒラヒラと小さく振る。

 

 

「あ、雪雫ぁ~、いらっしゃ~い!」

 

「大宅」 

 

 

 少女…、雪雫はやや呆れた視線を大宅に送りながら、隣へと腰掛ける。

 

 

「いやぁ~、遥々ここまでご苦労、お嬢さん! 学校後で疲れたでしょ? お姉さんが労ってあげよーう! 何か食べたいものとかある? 何でも奢ってあげるよ?」

 

「えっと……」

 

「ララちゃーん! オレンジジュースと軟骨唐揚げ~!」

 

「……はぁ…」

 

 

 大宅が酔っているのは何時もの事なのだが、今日は特別にテンションが高い。

 隣に座る雪雫の肩に腕を回し、酒瓶を高く天へと掲げ、「お酒サイコー!」と叫んでいる。

 

 

「お酒臭い」

 

「そりゃ雪雫が来る2時間前から飲んでるからね~!」

 

 

 悪そびれる様子も無く何故か得意気な大宅。そんな彼女にもう一つ、呆れた視線が加わった。オレンジジュースを運んできたこの店の主、ララのものだ。

 

 

「……何かあったの? 豪遊なんて珍しい」

 

「仕事が上手くいったそうよ」

 

「そうなんだよ~! もうまさに神様、仏様、雪雫様って感じぃ! にゃははは!」

 

 

 満面の笑みを浮かべて雪雫に頬ずりをしている大宅に、「絡み酒は程々にしなさいよ」と言い残し、ララは逃げる様にこの場を去る。

 

 

「もう、ほんとアンタが絡むと上手くいくわ~! 福の神、的な? 一家に1人欲ーしーいー!」

 

「……はぁ…。……私、何もしてない…、最近、インタビューも受けてないし」

 

 

 大宅を素面に戻すことは無理と判断したのだろう。

 雪雫は諦めの色を溜息に乗せて吐き出す。

 

 

「そっちじゃないわよ。全くの別件」

 

「別件?」

 

「最近とある大物がお縄になったのよねぇ! 警察が尻尾すら掴めていなかった奴が突然!」

 

「………それと私、何の関係が?」

 

 

 変わらず楽しそうに笑みを浮かべる大宅から視線を外し、何処か誤魔化さす様に用意されたジュースへ雪雫はその手を伸ばす。

 

 

「その人物がね、なんと雪雫と雨宮君が探っていた金城なのよねぇ! 貴方達2人が全く同じタイミングで聞いてくるもんだからさ、私も気になっちゃって~。そこでアンテナ張ってたらまさかのビンゴ。他の奴ら見事に出し抜いてネタを一早く手に入れる事が出来たってわけ!」

 

「……偶然」

 

「そうねぇ、偶然だよね。誰かさんの配信がぱったり止んだのもきっと偶然」

 

「…………」

 

 

 ピタリ、と動きを止め雪雫は僅かに目を泳がせる。

 確かに大宅の言う通りだ。偶然メメントスに迷い込み、怪盗団の協力者として行動を共にしていた期間、雪雫のアーティストとしての活動はピタリと止まっていた。

 単純に忙しかったのもあるが、慣れない事の連続でとてもそういう気分には慣れなかったからだ。

 

 

「アンタって意外に分かりやすいよね。……まぁまぁ、そう怖い顔しなさんな。金城とアンタ達の間にどんな確執があろうと私はどうだっていいの。実際、こうして無事だしね。あいつを引っ掛け回してくれた事実が私にとって大事なんだから」

 

「………それで、私を呼び出して何の用?」

 

「だから言ったじゃーん、奢ってあげるって。まぁそれと、金城周りの話でちょっとね」

 

「?」

 

 

 大宅は手に持っていたグラスをコトンと静かに起き、雪雫の顔を見据える。

 その顔は今も赤らめているが、その眼だけは真っ直ぐ瞳を見つめている事から、真面目な話か、と雪雫も僅かに身構える。

 

 

「金城ね、詐欺や恐喝以外にも、清掃業務も行ってたみたい」

 

「清掃?」

 

「そ。文字通りの意味よ。中身は悍ましいけどね。……死体のお片付け、って言った方が伝わるかしらね」

 

「!」

 

 

 死体の片付け、あまりにも現実味の無い言葉に目を大きく見開く。

 

 

「ついこの間、渋谷で変死体出たの知ってる?」

 

「……確か、テレビで」

 

「うん、それ。出所不明、死因も不明な男性の変死体。それ、金城の部下が処理をミスったやつらしいよ」

 

「金城達には上が居て、そこが死体の隠蔽を頼んでたってこと?」

 

「もしくは金城のビジネスの1つ…、いやどっちもかなぁ」

 

 

 金城のシャドウが言っていた事を思い返す。彼はパレスを使って好き放題している者の存在を仄めかしていた。その人物が手に負えない程大きい存在であるとも。

 取引リストの件も踏まえると、大宅の話がただの噂で無いことは一目瞭然だ。

 

 

「金城が捕まる前日、渋谷の街の至る所に怪盗団の予告状がばら撒かれたのは知ってるわね?」

 

「…まぁ、SNSでも話題になってたし」

 

「金城の逮捕ね、彼の自首が切っ掛けなの。まだ公表されてないけどね。でもその事実を知る者は全員思ってるよ。怪盗団が予告通り改心したんだって。」

 

「……」

 

「怪盗団、さ。なにかとんでもないモノを突いたんじゃないの?」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

同日 深夜

 

 

 灯りもついていない暗がりで、1人の少女がスマホの画面を見つめている。

 服を身に纏わず、シルクの様に艶やかな白髪をシーツに広げ、スマホを持つ片手以外の四肢はだらんとベッドに投げうっている。

 傍らにあるバスタオルと、上気した頬、水気を含んだ髪から、彼女が先程まで身を清めていたのが見て分かる。

 姉や友人が居れば、風邪引くから。と注意されるところだが、生憎今は家に少女1人しかいない。

 

 長い睫毛が影を作る瞳を悲しそうにしぼませ、少女は溜息を吐く。

 

 

『候補が見つかりました』

 

 

 スマホから漏れる電子混じりの女性の様な声。

 画面に無慈悲に映し出されたとある男性の名前。

 

 大山田省一

 

 

「最悪」

 

 

 少女のか細い声は、誰にも聞かれる事無く、闇夜に溶けた。

 

 

◇◇◇

 

 

6月29日 水曜日 曇り

 

 

 

 大山田省一

 

 都内の大学病院、栄都大学病院に勤める医局長。

 その功績は輝かしく、特に辰巳記念病院在籍時に担当していた当時、死の淵に立たされた少女の治療を成功させた事から、医学界では知らぬ者は居ない。

 

 今現在、世界でも類を見ない程の難病「クロスフォード・エンデ病」の少女を担当しており、その優れた手腕と知識を振るっている。

 また7月の中頃には件の病気に対する特効薬の学会を―――――。

 

 

「だってさ。凄いよね」

 

「何言ってるかさっぱり分からん」

 

 

 ネットニュースのトピックに出ていた記事を感心しながら読み上げる杏と、頭に疑問を浮かべる竜司。

 

 

「要するに、世界で初めてその病気に対する治療薬を開発したってこと」

 

「……それはすげぇな」

 

「そんなことも分からないのか、オマエ……」

 

 

 場所は渋谷駅の連絡通路…、つまりは何時もの集合場所。

 おなじみの怪盗団の面々が何時もの様に会話に華を咲かせていた。

 

 

「それで、次のターゲットだが…。お前達のテストが終わるまで休止とは言え、ターゲットの目星は付けておきたい」

 

 

 通路から見える渋谷の街並をその細く長い指で切り抜きながら、祐介が皆に問う。

 

 

「私の方はサッパリ…。怪チャンのランキングも特にピンと来ない」

 

「投票式だから仕方無いけど、やっぱり時期に応じて偏りが出るわね。浮気報道で炎上したアイドルとか改心する程の悪党かって言われると、微妙だしね」

 

「案外、その大山田っていう医師が怪しかったりしてな~」

 

 

 ケラケラと茶化す様に笑う竜司に、杏は少しムキになって言い返す。

 

 

「それはないでしょ。だってこの人、良い人だったよ?」

 

「会った事あんのかよ。」

 

「うん。だって志帆がお世話になった病院の偉い人だし……。担当でも無いのに、わざわざ毎日様子見に来てくれたんだよ?」

 

「あー……」

 

 

 鈴井志帆の名前に言い返せなくなったのか、竜司はバツが悪そうに頭を掻く。

 杏の口振り的に恩を感じているのは流石の竜司も汲み取った様だった。

 

 

「大山田…」

 

 

 そんな中、何か引っかかる事があったのか、蓮がポツリとその名を噛みしめるように口にする。

 

 

「どうした、蓮?」

 

「いや、なんか最近聞いたような…」

 

 

 首を傾げる蓮に、今度は真が思い出したかの様に口を開いた。

 

 

「ほら、アレでしょ。雪雫の話じゃない?」

 

「何それ?」

 

「え? あの子が昔病気しがちで、その時にお世話になったのがそこに出てる辰巳記念病院って所って…。その時に確か担当してくれたのも大山田さんだって…。」

 

「初耳だけど…」

 

 

 釈然としない皆の顔を見て、真は暫し困惑するが、やがて自分の勘違いだったことに気付き

 「あ、この話、この前電話した時に言ってたやつだ……」

 とボソッと呟いた。

 

 

「………真と雪ちゃんてさ」

 

「仲、良いよな」

 

「良すぎるとも言うな」

 

「少し嫉妬しちゃうかも」

 

「べ、別にそんなんじゃないわよ!」

 

 

 ワイワイと仲間達が騒ぎ始めた所で、蓮の鞄からひょっこりと様子を見ていたモルガナがやれやれと首を左右に。

 

 

「やれやれ…今日も決まらなそうだな―――レン?」

 

「―――大山田…何処かで………」

 

 

 確かに何処かで聞いた事ある名前だが、考えても考えても記憶に靄が掛かった様にハッキリしない。

 仲間たちの声をBGMに思考に耽ていたが、答えは出る事無く、蓮は一日を終えた。

 

 

 

 

 

 ぐにゃりと視界が僅かに歪む。

 次に来るのは飛んでいる様な落ちている様な、筆舌し難い浮遊感。

 まるでウサギを追って不思議の国へ繋がる穴に落ちた気分だ。

 

 

 What if I should fall right through the center and come out the other side.

 

 

 もし、もし真ん中をずっと通り抜けて落ちて行って、逆側に通り過ぎたらどうなるんだろう…か。

 何も事情を知らなければ、彼女の様にこんなことをぼんやりと考えていたに違いない。

 

 

 そんなことを考えながら、落ちること数分。

 次第に視界は正常を取り戻し、浮いていた身体も、自然の法則に従ってその正しい位置を取り戻す。

 

 

「分かりやすい」

 

 

 ゆったりとした広大な敷地。

 それを取り囲む都会特有のビル群。

 そんな見慣れた光景で、目の前に聳えるあからさまに異質な建物。

 

 

「まさに悪の研究所、って感じ」

 

 

 もくもくと、絶え間なく排出されているガス。

 お城の見張り台の様なとんがり帽子の屋根の建物群。

 後付けで増築したかに見える、外装の異なる継ぎ接ぎだらけの壁。

 そして、でかでかと主張する髑髏マーク。

 

 

「ある意味馴染み深いかも」

 

 

 小さく呟くと、少女は目の前の建物を目指して歩き始める。

 特有の白い髪を揺らして、その赤い瞳の中に覚悟を浮かべて。

 

 

 

 彼は変わった。変わってしまった。

 部下の手柄を奪い、罪を押し付け、その上で居場所を奪った。

 

 その心は腐敗し、魂までも地の底へ堕ち。

 今ではすっかり悪役そのものだ。 

 

 それでも感謝している。恩も感じている。

 今の私があるのは間違いなく彼のお陰なのだから。

 信じさせて欲しい。何か事情があると。

 のっぴきならない何かが合って、彼の真意は別にあると。 

 

 だから確かめに行くだけだ。

 

 熱意溢れる医者だった彼が、どのように変わって、何を思っているかを。

 

 それが、彼に名声を与えてしまった私の役目だ。

 

 

 

オオヤマダ・パレス

 

 Dr.オオヤマダの研究所

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