PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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26:I was the one whose eyes were glazed over.

 

 

オオヤマダ・パレス

 

 

 

「うお、すっげ」

 

「なんか、コミックに出てくる敵のアジト、って感じだね…」

 

 

 歪んだ視界が正常に戻ると、病院があった場所にはもくもくとガスを排出し続ける歪な研究所。

 それを目の間にジョーカー達はキョロキョロと、周囲の様子を警戒する様に視線を配る中、1人、制服のままの雪雫は一心不乱に病院だった建物の中央の入口へ向かう。

 

 

「ちょっと、雪雫! そんなにズカズカ進んで大丈夫なの!? もっと抜け道とか…」

 

 

 無謀、とも言える雪雫の行動に、思わずクイーンが声をあげた。

 

 

「…大丈夫。姿形は変わっても、実態は病院。ここに居る限りは私達は患者ないしは見舞客。襲われる心配も追い出される心配も無い。」

 

「言われてみると確かに。ナース服のシャドウがそこら中に居るけど、襲ってくる様子無いね」

 

「前に1人で来た時に実証済み。安心して良い」

 

 

 雪雫の物言いにスカルはポカンと口を開け、間抜けな声をあげた。

 

 

「前にって、1人で来たの? マジで?」

 

「そういう事もある」

 

「……雪雫…、危ないからもうやらないで…」

 

 

 そうこうしている内に辿り着いたのは正面入り口。 

 

 ガラス張りの扉から、中の様子が伺える。

 病院ではエントランスに当たるであろう部分。

 広々とした空間に、規則的に並べられた椅子。そしてそこに腰掛ける老若男女。加えて忙しそうにあちらこちらを歩き回るナース達。

 そこからも分かる様に、人に対する認知は歪んでいない様だった。

 

 雪雫は中には入らず、入口の手前で立ち止まり、後ろに居るジョーカー達の方へ振り返る。

 

 

「頼んでいたモノ、ある?」

 

「おう!」

 

 

 スカルが調子良く答えると、彼のポケットからは栄都病院の診察券。

 

 

「騒ぎを起こさず中に入るのはこれが一番」

 

「医者である以上、病院の基本的なシステムの認知は変わりようが無い…ってことか」

 

「でもわざわざ診察なんて…、お見舞いとかじゃダメだったの?」

 

「当然試した。でも、ダメだった」

 

 

 以前に1人で来た時、雪雫はどうやらここで足止めをくらった様だった。

 今も病院に入院中の美和の名を使い、見舞客として受付に行った所、御見舞いの受付を受けていないと返されたそうだ。

 結局、1人という事もあり、強行突破出来る筈も無く、その日は諦めたらしい。

 

 

「兎に角、スカルにはその診察券で受付をして欲しい。患者であるならば、断られない筈。それと出来れば内科が良い。大山田はそっちの担当だから」

 

「任せな!」

 

 

 ドンっと勢いよく自身の胸を叩くスカルに、少し不安そうな表情を浮かべるジョーカー達。

 

 

「……それにしても、よくアンタ診察券持ってたわね」

 

「あー、自分でも忘れてたんだけどよ。そういえば前に鴨志田に脚やられた時、ここに来た事あったわ」

 

 

 そんな会話を交えながら、入口入ってすぐの受付カウンターと思わしき場所へスカルは足を運ぶ。

 顔に黒い靄が掛かったナース服を着た…、あからさまなシャドウがスカルの顔をマジマジと見つめる。

 

 

『診察、ですか?』

 

「おーそうそう。もうなんか身体が怠くてよぉ。寝ても寝ても治らねぇし、頭も痛いときたもんだ。手術でもした方がいいんじゃねーかなーって思ってよ! あ、後ろは連れな!」

 

あのバカ…

 

 

 体調が悪い、という割にはやけにハキハキとした物言い。

 その様子を見ていたパンサーが頭に手を充て、項垂れている。

 

 

『かしこまりました。こちらの問診票をお書きの上、椅子に座ってお待ちください』

 

 

 シャドウナースはそんなスカルの様子を疑う事無く、問診票とペンを渡してジョーカー共々座る様に促す。

 

 

「患者なら来る者拒まず…、というよりは病気かどうかを判断するのは医師であってナースでは無い…、ってところかしら」

 

「もしくはナースは医師からの指示を機械的にこなす傀儡の様なモノ……っていう大山田の認知かも。どの道、中に入れそうで良かった」

 

 

 パレスにおいて、その主人の認知が絶対だ。言い換えれば、その光景がその人の本心の表れとも言える。

 システム1つであったとしても、考察する価値は大いにある。

 

 

「さて、と何て書くかな~」

 

「取り敢えずなんでも大袈裟に書いたらいいんじゃないか?」

 

 

 スカルとモナがワイワイと問診票を記入している横で、クイーンは横に座る雪雫へ語り掛ける。

 

 

「そろそろ話してくれても良いんじゃない?」

 

「………うん」

 

 

 雪雫は過去に自分自身が置かれていた状況、武見と大山田の関係、美和という少女の事。そして、大山田に脅されていることを1つ1つ話した。

 ワイワイと騒いでいたスカルとモルガナも、問診票を書きつつもその耳を傾けている。

 

 

「なるほど、ではその大山田という男が武見女医を貶めた張本人であると…」

 

「それに加えて今も尚、自分の都合で苦しめようとしてる…、それも雪ちゃんにまで……!」

 

「改心するに足りる悪人だと思えるが……」

 

 

 フォックスの言葉に全員が首を縦に振るが、雪雫は複雑な表情を浮かべる。

 

 

「でも…、もし美和の治療に影響が出たら…」

 

 

 改心する以上、本人に与える影響は大きい。

 心の大部分を占めているであろう欲望を消すのだ、当然影響が出る。

 

 雪雫が引っ掛かっているのは、改心の影響で美和の治療が叶わない事。

 もしそれが原因で命を落としてしまったら、武見も雪雫も、今後彼女の命の犠牲の上で生きていくこととなる。

 

 

「でも、何もしなかったら今度は雪ちゃん達が……!」

 

「分かってる。でもだからと言って彼女の命を蔑ろには出来ない。だから、今回の目的は改心では無く調査。薬の有用性と、大山田の真意を。それを確かめたい。改心するかどうかはその後で決めたい。私はいくらでも身を削れる。だから、周りの人達を守る為に力を貸して欲しい」

 

 

 ポンと、雪雫の頭に温かな手が乗せられた。

 その手は少々ごつくて大きいが、その温もりは優しく。

 

 

「いいんじゃねぇの? 難しい事情は分からねぇけど。要は悪い部分は全部ぶっ飛ばせば良いんだろ? 美和とかいう女の子も救う。武見とかいう先生も救う。そんでもって雪雫も救う。最高のハッピーエンドを目指そうぜ」

 

「………うん」

 

 

 その時、どこからともなく診察室へ呼ばれるスカルの名前が場内に響き渡る。

 

 

『坂本竜司さん、診察室1へお入りください』

 

「バカ!! 普通、本名使う!?」

 

「俺の診察券なんだから仕方ねぇだろ!!」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 エントランスの丁度中央の壁。

 病院には不釣り合いな程、重厚な扉。

 きっとその先にはアナウンスで言っていた診察室があるのだろう。

 

 その扉の前に案内された面々は、静かに息を呑む。

 

 

「いよいよ本格的な攻略の開始だな」

 

「エントランスまでは普通の病院だった。けど中はどうかしらね」

 

「研究所っつたら、やっぱりあれか? ゾンビか?」

 

「もしくはメカ?」

 

「何にせよ、絶対普通じゃないよね」

 

 

 モナ、クイーン、スカル、雪雫、パンサーがそれぞれ順番に口を開く。

 

 眼前に広がるのは長い長い廊下。

 どうやら、案内された診察室っていうのはまだまだ先らしい。

 

 

「敵の気配は無いが…、用心は必要だな」

 

「ああ…、行こう!」

 

 

 フォックスに続いてジョーカーが声をあげるとそれを皮切りに怪盗団はまだ見ぬ区画へ脚を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 美和という少女は、私の次の妙の患者、と雪雫は言った。

 

 雪雫が奇跡的な生還を遂げ、無事退院してから約半年。武見の元へ運ばれたらしい。

 当時はまだ新人医師である武見は、上司である大山田と行動を共にしていたらしく、それは美和ちゃんも例外では無いらしい。

 

 事の経緯は雪雫も知らない様だったが、自分が完治したことで、大山田の評判はうなぎ上り。その評判を聞きつけ、美和が回されたのだろうと語っていた。

 武見も担当医だが、まだ新人であり、大山田の方へ評判が偏るのは致し方ないと言えば致し方ない事だろうし、少なくともその頃はまだ普通に医師だったらしい。

 

 気恥ずかしそうに言っていたが、長い入院生活ですっかり雪雫は武見に懐いたらしく、退院後も連絡を取り合い、長期休みには会いに行っていたとか。

 そうしたやり取りの中で、雪雫と美和ちゃんの間にも交流が出来た様だった。

 歳も比較的近く、難病に苦しむ/苦しめられた経験があるのだから、何か通ずるモノがあったのだろう。仲良くなるまでそう時間は掛からなかったらしい。

 

 そういう背景もあり、武見が美和ちゃんに会いに行けなくなった今でも、雪雫は彼女に代わって交流を続けているとか。

 

 

 

「つまり雪雫は、武見先生と美和ちゃんの様子を身近でずっと目撃してたってことね…」

 

「……そして何も出来なかった」

 

「つってもまだ当時小学生とかだろ? 仕方無くね?」

 

「それでも」

 

「過去の事言っても仕方ないよ。今出来る事をしよ。ね?」

 

 

 例の扉から続いている長い廊下を歩きながら、一同は雪雫の話に耳を傾けていた。

 先程から続いてる窓1つ無い真っ白い廊下は診察室も無ければ、人の気配も存在せず、意気込んで踏み入れた割には肩透かしも良い所だった。

 

 

「だー! にしても変わり映えしねぇなぁ!」

 

「普段だったら堪え性ねぇな!って言うとところだが…、こればっかりはスカルに同意だな……」

 

 

 先程から変わらない風景。強いてあげるとするならば、たまに曲がり角があるくらいで…

 

 

「ずっと同じ道歩いてるんじゃねぇの? ほらゲームにもあったろ? 登っても登っても辿り付かない階段がさぁ…」

 

「ループ説は無い」

 

「どうして?」

 

「たまにある曲がり角、次の曲がり角までの歩数がバラバラ。ループしてるなら一緒になる筈」

 

「そんなの数えてたのかよ……。」

 

 

 そうした会話を時折交えながらもう数分程、一同の目の間にエントランスで見たのと同じような扉が現れた。

 その扉の上には診察室1の表札が。

 

 

「やっと着いた……」

 

「無駄に長かったな……」

 

 

 普段ほど動き回って無いのにも関わらず、僅かに疲労が見えるパンサーとモナ。

 代わり映えしない景色、というのは精神的に疲労をもたらすらしい。

 

 

「…入るぞ」

 

 

 ジョーカーが先陣切って扉に手を掛ける。

 ギィという音と共に、ゆっくり開くとそこには広場の様なだだっ広い空間。

 低い天井に設置された目が眩むほどのライトが、一斉にこちらに向き、一同は目を顰める。

 

 

『ようやくご到着か。実験動物如きが随分と待たせるじゃあないか』

 

 

 金城のシャドウと同じ様に、僅かにノイズが混じった様なダブった声。

 現実の本人と同じ声だが、僅かにこちらの方がテンションが高い様な印象を受ける。

 心の内の自分、というのは誰でもこういう感じなのだろうか。

 

 

「オオヤマダ…!」

 

『どうだったかね。ここまでの道のりは』

 

「どうも何もクソつまらなかったぜ。道も一本道だったしな!」

 

『ふむ、まぁ素面ではそんなものか。本来は薬を投与するところなのだが…』

 

 

 クスリ、という言葉に雪雫は眉間に皺を寄せる。

 

 

「……実験動物ってそういうこと」

 

「医薬品の開発でよく見るやつね。薬を投与したモルモットに歩かせて、脳が正常に動くかを見るとかいう」

 

「それを人間に当て嵌めてるってことは…」

 

「いよいよこっちも真っ黒ってことかぁ?」

 

 

 オオヤマダはやれやれと首を左右に振りながら、後ろに連れているナース達を共に、怪盗団の元へ足を運ぶ。

 照明に慣れてきた今なら、その彼の風貌がハッキリと分かる。

 

 現実よりもボサボサした髪、目元に覆い被さったサングラス、白衣、では無くそれとは真逆の黒のロングコート。

 

 

「……本格的にヴィラン()って感じ」

 

「研究者って、みんなこういうイメージなのかな」

 

 

 歩み寄る彼に、一同は身構えるが、何かをしてくる素振りは無い。

 

 

『さて、改めて自己紹介をしよう。私はDr.オオヤマダ。命を扱うこの研究所の所長である』

 

「ご丁寧にどうも」

 

『さて、君らはもっぱら噂の怪盗団、かな。……見知った顔も居る様だが………、これは私の邪魔をすると捉えて良いのかな?』

 

「…………私はただ、調べに来ただけ」

 

 

 返答が意外だったのか、ほう?と興味深そうに眉を上げる。

 

 

「美和に投与する新薬の有用性、貴方の真意を…、私は―――」

 

『真意…、真意ね……』

 

 

 クククと乾いた笑いを浮かべてオオヤマダは自身の顎に指を添える。

 

 

「過去に貴方は私を救った。その時の貴方は誰もが認める医者そのものだった。……だけど今の貴方はどう? 部下の功績を奪って、責任を押し付けて、自分自身は知らん顔。」

 

『…………』

 

「それでも、今でも美和の…患者の治療は続けている。その部分だけは、昔の貴方と重なる部分がある。だから私はそこを信じたい。信じさせて欲しい。もし、何かのっぴきならない事情があって、それで妙を苦しめているんのなら―――!」

 

『逆に聞くが、君が求める真意というのはなんだ? 君の言う絵空事の事か?』

 

「それは…貴方の本心を……、だから私はパレスに」

 

 

 だとしたら、とオオヤマダは再び雪雫の声を遮った。

 

 

『答えはもう既に言っただろう。武見君が邪魔なんだよ。』

 

「っ!」

 

『昔から目障りだった。型に嵌まらず、常識に囚われず、的確に治療法を確立させる。まさに天才と言っても良い。確信したよ、彼女にとって医者とは天職そのものだ、と。そんな彼女の傍に居たらこの私が埋もれてしまうだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()功績を持つ、まさに奇跡とも謳われるこの私が』

 

「っ! 雪雫!」

 

 

 酷く動揺した様子で、その場にへたりと座り込む雪雫に、クイーンが駆け寄る。

 項垂れるその顔を覗き込むと、瞳は揺れ、額には汗が浮かび、とても普通の状態では無かった。

 

 

『武見君だけでは無い。次から次へと輝かしい医者の卵が私の元へ。いやぁ、実に邪魔だった。大人しく私の引き立て役になっていれば良かったものを…。』

 

「同業者は全て自分の舞台装置…、という訳か」

 

『ああ…、そしてそれは患者も同じだよ。』

 

「……………は?」 

 

 

 普段の雪雫からは考えられない程の低い声が漏れ出る。

 

 

『患者は全て私の功績の礎。治らない患者など私の経歴に傷を付ける害虫でしかない』

 

「……てめぇ…、黙って聞いてれば好き勝手言いやがって…!!」

 

「み、美和は……? 貴方にとって美和はどうなの…?」

 

『ああ、エンデ病の少女の事か。そうだな、礎候補、という所か?』

 

 

 何を言ってるんだ、と口が動いた。

 

 

『世界でも未だに治療法が確立されていない病だ。薬の有用性が証明されれば、私の名は医学界どころか日本…、いや世界まで知れ渡る事となる。その為の新薬だ。その為に彼女を私の手元に置いている』

 

 

 ギリっと歯が軋む音が聞こえた。

 

 

『まぁ死ねばそこまでだが…、その時はまた誰かに押し付けるだけだ』

 

 

 拳に力が入り、自身の爪でその皮膚が裂けた。

 

 

『患者の治療など過程に過ぎない。それが君の求める真意というやつだ』

 

 

 私の胸中は、理不尽に対する怒りで満たされた。

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