PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
疑いはあった。
彼が妙を切り捨てたあの日から。
この人の行動に善性は存在せず、あるのは獣の様な我欲のみと。
だが私はそれを思う裏で、彼の根底にあるであろう善性を信じていた。
命を救われた事に対する恩義からか、はたまた私が子どもだったのか。
――――――きっと、その両方だと思う。
都合の悪い事は全て無視して、見たいものだけを見る。
それはきっと素敵な事。
甘く、心地良く、
理想を押し付けるのが人の性。
理想に応えるのが人の義務。
そんな当たり前の機能を失った、悪人など―――。
「悍ましい」
私の信じるモノは本人によって否定され、その裏から出てきたのはドス黒い欲望。
こんな奴に、美和の命を預ける価値等無い。
「それなら、私が」
ドクンと、胸が大きく鼓動した気がした。
▼
先程まで座り込んでいた雪雫が、ふと何かに動かされる様に再び地を踏み占める。
『……ん?』
それはさながらマリオネットの様にゆったりとしていて。
しかしながらその身体に芯が入っているかの様に力強かった。
「私が信じたかったものは、全て嘘」
「…雪雫」
「私が描いた理想は、全て幻」
ゆっくりと、雪雫は項垂れていた顔を上げる。
髪に隠れてその目は見えないが、僅かに確認出来るその口角は、ほんの少し上がっていた。
「ふふ…、ふふふふふふふ………」
少女の乾いた笑いが広い診察室に木霊する。
それを見ていたオオヤマダは、何か気味が悪いモノでも見たかのように、僅かにその足を一歩後退させた。
「頭にきた」
覚悟を決めた様に鋭い視線を投げる雪雫。
その覚悟に呼応するかの様に、彼女の脳裏に女性の声が響く。
いや、これは―――。
『覚悟は決まった様ですね』
「っ! 」
激しい頭痛が、雪雫を襲う。
平衡感覚を失い、地にのたうち回りたくなる様な激しい痛み。
それでも、女性は…、もう1人の雪雫の声は穏やかに語り掛ける。
『紛い物との決別は、まさに神からの思し召し。その天啓を私は祝福しましょう』
「ア、……がっ」
『さぁ、共に旗を掲げましょう。今日、まさにこの場所が、貴女にとってのオルレアン』
段々と頭痛が治まり、脳内がクリアになっていく。
やる事は分かってる。その名も知って居る。後は言の葉に覚悟を乗せて謳うだけ。
「我は汝、汝は我……」
『凱旋の時です』
小さくしかし力強く呟くと、いつの間にか現れていた黒いドミノマスクに手を掛け―――
「ジャンヌ・ダルク!」
それを思いのままに引っぺがす。
内側から溢れ出す様に、激しい光が少女の身体を包み込む。
「おいおい……」
「2体目って、マジか……?」
その光景を見ていたモナとスカルが、敵の前である事も忘れて言葉を漏らす。
最初に目を引いたのは、巨大な女性の様なシルエット。その手に剣と旗を携えた、世界で最も有名な聖女。
「貴方に…、医者を名乗る資格など無い」
一歩、また一歩と。地を叩くヒールの音と共に、光の中から白髪の少女が聖女を率いて現れる。
『な、なにぃ…?』
その姿は、少女の色に反して黒一色だった。
少女の華奢な体躯に対して、明らかにオーバーサイズの袖口が大きく開いたロングコート。
身体のラインに合わせて、ピタリと吸い付いたインナー。
ショートパンツとそこから伸びる脚を守るタイツ。
力強く地を叩くヒール付きのブーツ。
そして、中でも目を引くのが
「なにあれ…、魔女?」
特徴的なとんがり帽子。
「治療が必要なのは貴方自身」
さながら、現代に現れた魔女そのもの。
いつの間にかに手に持っていた、少女の身の丈よりも長い棒を、バトンの様にクルクルと回し、そしてその柄を地面に叩きつける。
金属音と共に、仕込まれた巨大な刃物の切っ先がオオヤマダの方へ向く。
雪雫が持つ武器は死の象徴そのもの。
それに触れたものを、根こそぎ刈り取る為の大鎌。
「貴方の腫瘍、刈り取ってあげる」
そう言うや否や、雪雫は勢いよくオオヤマダに向けて駆け出す。
「早っ!」
「元々身軽だとは思っていたが…」
その速度は今までの比では無く、あっという間にオオヤマダの目の前へ。
雪雫は迷うことなく手の中でくるりと柄を回し、彼の首を目掛けて一閃。
『…ちぃ!』
しかし、それはオオヤマダを捉える事無く、彼の後ろに居た筈のナースのシャドウを掻き切る。
『おい、何してる!? このガキどもを始末しろ!』
焦った様子を隠す事無く、そう声を荒げると怪盗団の周りに次々とシャドウが現れる。
棍棒を持った鬼や、ライオンと蛇のキメラ、半蛇の男など、その種類は様々だ。
「俺達も加勢するぞ!」
「え、ええ!」
予想しなかった雪雫の覚醒に、一同は呆気に取られていたが、ジョーカーの言葉で各々武器を構え、シャドウと対峙する。
まさに乱戦状態。
隙を見つけてはオオヤマダの元へ向かおうとする雪雫だったが、次々と現れるシャドウにその行く手を阻まれる。
「邪魔…! ジャンヌ・ダルク!」
後ろに控えていた彼女のペルソナが、その手に持つ剣を一振りすると、刃の軌道上の敵が一掃される。
「オオヤマダ!」
シャドウが消え、視界が晴れると件の怨敵はもう手が届かない場所へ。
彼はチラリとこちらを一瞥すると、相変わらずの卑しい笑みを浮かべて、研究所の奥へと消えた。
「逃がさない!」
「待って!」
彼を追おうとする雪雫に、クイーンの制止が入る。
「1人で追うなんて無謀もいい所よ! 今はこの場を切り抜けて、一旦立て直ししましょう!」
「でも………!」
「良いから! たまには先輩の言う事聞く!」
興奮状態の雪雫本人は気付いていないが、ペルソナ能力の発現は相当の体力を奪われる。それが二体目であったとしても、例外では無いのだろう。
オオヤマダが消えた先を睨み続ける雪雫の額には汗が流れ、その目の焦点も若干合っていない様だった。
「この場を切り抜けるって言ってもよ…」
「中々、きつくない? これ…」
次々と現れるシャドウにじりじりと追い詰められるジョーカー達。
それを確認した雪雫は、名残惜しそうに先の扉から視線を外し、仲間達の元へ。
「アリス」
オルレアンの乙女と入れ替わる様に、次に現れたのは重々しい呪力を放っている少女の姿。
ひとたびその指を振るえば、視線の先のシャドウ達は次々と息絶え、逃げ道が開かれる。
「セツナもレンと同じ様にペルソナ能力の使い分けを……」
ペルソナ能力は1人に1つ。
それから外れたイレギュラーな存在が再び現れた事に、モナは驚きを隠せないでいたが、今はそんなことをしている場合じゃ無いと、首を左右に振る。
「お前ら、逃げるぞ!」
手を大きく掲げお決まりのポーズを取ると、モナは普段の姿から車の姿へ。
なだれ込む様に、モルガナカーへ乗り込んだ怪盗団は、雪雫が開いた道を辿って、パレスの出口へ向かった。
▼
「つかれたぁ……」
「なんか、色々あったな……」
四軒茶屋にひっそりと佇む喫茶店「ルブラン」の2Fの物置。つまりは蓮の自室。
ソファにぐったりと腰掛けた杏と竜司は、溜息混じりに声を漏らす。
「あはは…。……雪雫は? 落ち着いた?」
2人の様子に苦笑を浮かべつつも、真の視線は今日一番疲れたであろう人物へ。
「……はしゃいじゃって…面目ない……」
バツが悪そうに視線を逸らしながら、雪雫はゴニョゴニョと恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「いやまぁ、気持ちは分かるぜ? 能力に目覚めた時の……、テンションってやつ? 何でも出来る気がするんだよな~」
「分かる! 普段我慢してたものが爆発したあの感じ!」
「…2人の言う通りだ。俺とて例外では無かった。そう恥じる事は無い」
「………ありがとう」
竜司、杏、祐介のフォローに少し気が楽になった様で、雪雫は口角を上げた。
「それで今後の事だけど…」
「取り敢えずあいつは改心確定だろ! ぶっ飛ばさないと気がすまねぇ!」
「同感」
竜司の言葉に全員が頷きを返す中、その視線は雪雫の元へ。
「雪雫はどうしたい?」
視線を僅かにキョロキョロと動かした後、一文字に閉ざしていた口をゆっくり開く。
「……みんなも見た様に、私の信じるモノは全部嘘で。彼は正真正銘の悪人そのものだった」
「そうね。あんな人が命を預かっているだなんて、にわかに信じがたいわ」
「私も……」
俯いていた雪雫が顔を上げ、真っ直ぐジョーカー達の瞳を見つめる。
「私も、ぶっ飛ばさないと気が済まない」
その言葉に怪盗団はお互いの顔を見合わせ、満足気に頷きを返した。
「よっしゃー! また戦力増大だぜ!」
「歓迎するぞ」
雪雫の言葉に、真っ先に反応を返したのは竜司と祐介。
「宜しく頼むぜ、セツナ! こいつらバカだからよ、オマエが居てくれるなら心強いぜ!」
「んだと、ネコ!」
「事実を言っただけだろうが!」
やいやいと、モルガナと竜司が何時も通りの喧嘩を始めた所で、杏が嬉しそうに雪雫の顔を覗き込む。
「バカ達は放っておいて…、雪ちゃんのコードネーム! 決めなきゃね!」
「ずっと名前呼びだったからな」
コードネーム、怪盗団が仕事をする際に用いる、もう一つの名前。
覚悟が自分には足りないと、それの決定を先延ばしにしていた雪雫だったが、今日こうして彼女の言う条件が揃ったのだ。
「皆はどうやって決めたの?」
「そうね…、見たところ見た目で引っ張られる傾向が強いかしらね。祐介は狐の面だし、竜司は骸骨だし。」
「そうなると、雪ちゃんの怪盗服は……」
全身真っ黒。オーバーサイズのロングコート。とんがり帽子……。
「魔女?」
「ならバーバヤガー」
「何か敵っぽくない? もしくはヒットマン」
「ワルプルギス」
「それもちょっと……」
蓮と祐介が見守る中、女子チーム主体でコードネーム決めが開催される。
雪雫が次々と魔女に関する名前を列挙するが、言い辛かったり、イメージに合わないと、中々決まらない。
話初めて早10分ほどが経った頃、雪雫がふと口を開いた。
「じゃあシンプルにウィッチで良い」
「えー、もう少し凝らない?」
コードネーム決めを楽しみにしていた様で、杏は目に見えて不満そうに声を上げる。
「皆の名前がシンプルなのに、1人だけ豪華なんのもなんか違和感」
ジョーカー、モナ、スカル、パンサー、フォックス、クイーン……、それぞれのコードネームを頭に浮かべた真は、確かに、と笑みを作った。
「じゃあ、決まり、かな よろしくね、雪雫」
「………うん」
皆と同じ様に満足そうに笑みを浮かべる雪雫。
こうして正式に、天城雪雫は怪盗団の一員となった。
・
・
・
「……魔女って、怪盗って言うのか?」
「世間のはみ出し者、社会に対する反逆という点では同じじゃないか?」
その裏でそんな会話があったのはまた別のお話。
~以下、ゲーム的なステータス~
見なくても問題無いヨ!
天城雪雫 Lv.28(加入時)
HP:203
MP:174
アリス
物:―
銃:―
火:―
氷:―
雷:―
風:―
念:―
核:―
祝:弱
呪:耐
力:15
魔:28
耐:19
速:23
運:24
エイガ
敵1体に呪怨属性で中ダメージを与える。
マハエイハ
敵全体に呪怨属性で小ダメージを与える。
タルカジャ
3ターンの間、味方1体の攻撃力が上昇する。
デビルスマイル
敵全体を中確率で恐怖状態にする。
メディラマ
味方全体のHPを中回復する。
死んでくれる?
敵全体を中確率で即死させる。
ジャンヌ・ダルク
物:―
銃:―
火:弱
氷:―
雷:―
風:―
念:―
核:―
祝:耐
呪:弱
力:28
魔:17
耐:23
速:26
運:14
コウガ
敵1体に祝福属性で中ダメージを与える。
レイズスラッシュ
敵1体に物理属性で大ダメージを与える。バトンタッチ時に威力上昇。
金剛発破
敵全体に物理属性で中ダメージを与える。
防御の心得
戦闘開始時に自動でラクカジャが発動する。
マハラクカジャ
3ターンの間、味方全体の防御力が上昇する。
オルレアンの祈り
味方単体のHPを中回復。3ターンの間、クリティカル率が上昇。
死んでくれる?が若干ナーフされているのは仕様です。
あくまでゲーム的な話だけど、この時点で使えたら強すぎるので…