PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
7月3日 日曜日 晴れ
都内でも有数の総合病院…とされる場所。
最もその見た目は大きくかけ離れているが。
場所はオオヤマダ・パレス。
歪な研究所が佇む敷地内。
「状況を確認するわね」
その一身に皆の注目を集める怪盗団の頭脳担当ことクイーン。
本来はリーダーであるジョーカーの役目だったりするのだが…、何故か今日は俯いたままで話す気配は無い。
「今回の標的は大山田省一。栄都病院の医局長で、新薬開発の第一人者」
「だが実際はとんでもねぇクソ野郎…許しておけねぇな」
「そうね。…それで、こっちに残された猶予は彼の学会までの一週間弱…で合ってるかしら?」
「うん。11日まで」
「それまでに私達は大山田の改心、ないしは新薬のデータを手に入れる」
「難病の少女の件もある。改心の影響で治るものが治らないなんて事が起きれば本末転倒だ。慎重に判断しなければ」
要するに美和への治療が支障が出ないように改心を行わなければならないのだ。
「その点はウィッチと話してあるわ」
「改心の前に新薬のデータを見つけたい。きっと妙…、えっと私の前の担当医なら彼の研究をそのまま引き継げると思う」
「もし、もしだけど…それが出来なかったときは…………?」
「………それなりの覚悟は出来てる」
僅かに震える手を必死に抑えながら、雪雫…もといウィッチは言葉を絞り出す。
怖いのだろう、不安なのだろう。
そんな様子がひしひしと感じられる中、1人の男が彼女の肩を叩いた。
「そんな事にはならねぇよ。前にも言ったろ? 悪いのは全部ぶっ飛ばしてやるよ!」
「スカルの言う通りだ。派手に暴れてやろうぜ、オマエら!」
「…うん……!!」
意思を確認する様に、お互いの目を見つめ頷きを返す怪盗団。
怪盗団にとっての4回目の大仕事。
メンバーはそれぞれ不敵な笑みを浮かべながら、標的の根城へと足を進めた。
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「そういえば、ジョーカーは調子悪いの?」
「いや、さっき飲んだ青汁が何時もより苦くて……苦味がまだ口の中に…」
「こいつ日曜になると必ず飲みに行くんだよな~。全く、何が美味いんだか……」
「ふぅん…?」
▼
オオヤマダ・パレス 1F 実験区域
パレスの攻略の際にまず最初にやる事は潜入口の確保。
何時もの流れにのっとり適切なポイントをジョーカー達は探していたが
普通に受付出来た
とウィッチとスカルが診察券片手に戻ってきた。
罠ではないかと警戒していた一同だが、エントランスのナース達に敵意は感じられず、寧ろシャドウにしては好意的な部類だった。
肩透かしも良い所で、前に来た通りにパレス内に案内された一同は、再び白く、長い回廊を進む。
「割とあっさり入れたな」
「あくまでも私達はただの患者っていう事でしょうね」
「だがしかしこの先は分からないぞ。実際、オオヤマダが呼び寄せたシャドウ達はこちらに敵意を向けていた」
「要するに全部倒せば良いんだろ? 簡単な事じゃねぇか」
「アンタってホントに脳筋だよね……」
相変わらず窓も無く扉も無い真っ白な廊下。
そんな廊下を進みながら、クイーンはエントランスで貰った案内図に目を落とす。
「実験区域……ね。何の実験してるかは分からないけど、碌な実験ではないのは確かでしょうね…」
「ワガハイ達をモルモットって例えてた位だしな…」
「実験にかこつけて変な戦い強いられたりして―――あれ?」
以前に訪れた時とは違う光景。
シャドウも認知上の人間も存在しなかったこの廊下に、数人のナースが屯っていた。
廊下は診察室までの一本道。
目の前のナース達を避けて先に進むことはまず出来ない。
「シャドウ…だよね……」
「そうみたいね」
ナース達はこちらに気付いている様子は無く、噂話に夢中の様だ。
やれ何号室の患者がどうのとか、内科の先生がどうのとか。
「ナースってストレス溜まるとは聞いたことあるけど…」
「シャドウとて例外では無い様だな……」
「ワガハイ達には気付いていない様だが…、どうする、ジョーカー?」
「そうだな…、ここは―――「速攻」
そう言うや否や、小さい影がシャドウ達に向かって駆け出した。
白い髪と黒いコートを靡かせて、凶刃を鋭く光らせて。
猛スピードで近づく存在に、噂話に夢中のシャドウ達も気づいた様で、迎撃の体制を取るが時すでに遅し。
小さな影は、地を走っていたと思えば壁へ。壁を駆けたと思えば宙へ。まさに縦横無尽。
狙いを絞り込ませない様な軌道で接近し、刃を一振り。
最初のシャドウの悲鳴が途絶えない内にもう一体。
呆気に取られている最後のシャドウは味わう様に串刺し。
文字通り一瞬の出来事。
ジョーカーが言葉を言い切る前にウィッチはシャドウを沈めた。
「一体どういう身体の使い方してんだ、あれ……」
「ペルソナ能力の補正があるとはいえ…」
「あいつも大概脳筋じゃね……?」
仲間達も呆気に取られていた様で、刃を振り払う…所謂血振りをしているウィッチを見ながら口々と感想を口にする男性陣。
「すごいじゃん! 一瞬だったよ!」
「流石、っていうべきかしらね」
そして何処かウィッチに甘い女性陣。
「にしても見た目は入口のナースと一緒だったよな? どうやって見抜いたんだ?」
「敵意、感じた」
「そんな超能力じみた事……」
「? 皆は感じない?」
「感じない」
「………そう」
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前回オオヤマダと対峙した診察室を超え、怪盗団は実験棟のさらに奥へ。
道中、上へと続くエレベーターを見つけたが、そうそう都合の良い事などなく、当然の様に使えなかった。
決して楽しようという魂胆があった訳では無いが、やはり目の前で使えないとなると、多少の落胆は憶える様で。その落胆はここの主であるオオヤマダへの愚痴へと変わる。
そんな感じで時折、戦闘を交えながらも、敵地とは思えない程の賑やかさでパレスの最奥を目指す。
そんな中、一同は実験区域の資料室…表で言うところのカルテの保管場所にあたる場所を見つけるが―――
「何これ」
「これは、何と言うか……」
「カルテ、というには…」
新薬のデータが欲しい怪盗団からすると、この資料室に長居する必要は無いのだが、あまりに常識から離れた内容に思わず足を止めていた。
「名前、性別、血液型、症状…ここまでは普通だな。しかし―――」
「問題はその後ね…。何の薬を投与したら症状が変化した、施術後に何の病気が発症した…。この書き方、経過後の状態にしか興味無い様に見えるわ」
「職業上の役割としては正しいかも。これをしたらこういう結果が生まれた。結果さえ分かっていれば過程は省略できる。でも、医者としては―――」
「失格と言わざるを得ない。患者に対する思いやりも温かみも感じない」
「…実験棟ね……。彼にとって手術も薬の投与も実験の一環…ってことかしら」
頭に来るぜ、とスカルが感情任せに壁を殴る。
「実験…、か。」
「どうした、ジョーカー?」
「いや、実験っていう以上、何か目的があるんじゃないかと思ってな」
「…確かに。思えばパレスも研究所を名乗っている。研究と言っている以上、研究になる対象がある筈だが…」
「命を扱うって、シャドウは言ってたけど…」
この場で一番オオヤマダを知っているであろう人物、ウィッチに何か知っているかとジョーカーは問うが、彼女も知らない様で首を左右に振る。
「まぁ考えていても仕方ない。パレスを進めばいずれ分かる事だ」
モナの言う通り、パレスが本人の心の内面を具現化させている以上、オオヤマダの真意も分かるだろう。
一同は揃って頷きを返し、資料室を後にした。
結局、その後は目ぼしいものは発見できず、その日の探索は少し進んだセーフルームで打ち切りとなった。
▼
同日 夜
パレスから帰還し、場所は変わって雪雫の自宅。
最早同居人と言っても良いほど入り浸っているりせが視線を送る先には、家主である雪雫ともう一人、メイド姿の女性が居た。
珍しく雪雫の顔はいじけている様で、それに対してメイドの方は怒っているような呆れているような、そんな雰囲気を放っていた。
どうしてこうなったか。
それはこの事実さえ知っていれば、自ずと見えてくるだろう。
そう、天城雪雫は家事が苦手である。
「…………」
「…………」
普段は基本的にりせに任せ、彼女が居ない時は家事代行サービスのメイド「べっきぃ」に頼むという割と怠惰な生活を送っている。
「言い訳を聞きましょうか?」
「……えーっと…」
りせはそれがもう慣れたものだと寧ろ喜んで行うし、べっきぃこと川上貞世はお金貰っている以上は仕事なので何だかんだでやる。
そこに2人とも異論は無い。
しかし、しかしだ。
前者は兎も角として、後者。
つまりは川上はあくまでもメイドは副業であって本業は教師。うら若き生徒を正しく教育し、健やかな成長を見守る所謂聖職者である。
根っからの教育者である川上にとって、これは見過ごせない
もう一度言うが、天城雪雫は家事が苦手である。
付け加えるのならば、どこぞの次期女将と一緒で、料理スキルは皆無。(因みにではあるがマシになったとはいえ、りせも大概である)
「洗濯物が溜まるのは良いわ。物が出しっぱなしになるのも良い。片付ければ済む話だからね。だけど……」
川上の視線の先には台所のゴミ箱の中。
カップ麺、ファーストフード、宅配ピザ、カップ麺……。
偏った食生活をしているというのがヒシヒシと伝わる内容だった。
「食事だけはきちんとしなさい! 貴女位の歳はまだ成長の途中! 食生活が原因で病院のお世話とか笑えないわよ!」
「忙しかったから……」
そう、忙しかった。
雪雫の言い分はこれに尽きる。
話す訳にはいかないが、金城の一件から大山田の一件と立て続けに起こっているのだ。しかも今回の場合は当事者と言っても良い。
放課後の時間は大体怪盗団に費やしている現状、何処か別の所を削る必要がある。
と言っても、余裕があったとしても雪雫は料理など出来ないのだが。
「ああ、そうよね。忙しいわよね~。テスト前だもんね~」
「うん、分かってくれた?」
「じゃあ忙しく無くなったらちゃんとしたご飯取るのよね?」
今更だが、今の雪雫は仁王立ちしている川上の目の前で正座させられている状況だ。
絨毯の上とは言え、いい加減足が痺れてきた雪雫は、解放されたい一心で調子良く首を縦に振る。
しかし。
「雪ちゃんは暇でも料理しないよ。だって出来ないもん」
「っ!」
「へぇ…?」
そこに後ろで様子を見ていたりせの声が加わる。
しかし何時もの雪雫全肯定モードでは無く、寧ろ逆の意地悪モードで。
助け船が来たかと思いきや、そうでなかった事実に雪雫の殆ど動かない表情に僅かに陰りが出来る。
結局、川上の勤務時間が終えるまで雪雫に対する説教は続き、足が痺れに痺れた雪雫は、文字通りりせにおんぶにだっこ状態で暫く面倒を見て貰うことに。
(役得~♪)
りせはそう内心で呟きながら、雪雫を横抱きにして寝室に向かった。
~番外編~
尋問室シーン
ここに来てどれくらいの時間が経ったのだろう。
1時間か、1日か、1週間か、1年か―――。
時間の感覚すら奪われるこの場所。
せめてもの救いは目の前に居る検事、新島冴はこちらに危害を加えるつもりは無く、あくまでも話し合いのテーブルについてくれている事だ。
俺はこの場所で怪盗団の登場…、つまりは4月の鴨志田の改心事件から順番にこの新島さんに話した。
薬の影響で意識がまだハッキリしない。
どこまで話したんだっけっか。
「次の怪盗団の標的はこの人…」
ああ、そうか。次は彼女の件か。
「栄都病院の医局長、大山田省一。金城の1件から随分と間もないわね。いえ、金城が片付いたからこそ、次に彼を狙ったとも言えるわね」
新島さんはファイルを取り出し、こちらに差し出す。
中に入っているのは今までの改心事件の詳細を丁寧に纏められたもの。
よく調べられている。
「輝かしい功績のその裏で、裏社会と繋がり、命を軽んじる外道そのもの…。洗いざらい吐いてもらうわよ!」
▼
尋問室シーン その2 コープ編
悪党の改心の合間に育んできた協力者との絆。
警察は周りの交友関係もお見通しの様で、誰一人として聞き漏らす事は無かった。
そして、次の人物は―――
「君達の身のこなし、普通では無かった。と現場の警官から報告を受けているわ。ついこの間まで普通の高校生だった、とはにわかに信じられない位だと。私も一部始終を見させてもらったわ。とても独学で学んだとは思えない程――、つまりリーダーである君とは他に、指導者が居たと私は考えているの……。
どうなの?」