PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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33:You bastard!

 

 

7月10日 日曜日 晴れ

 

 

 

 その日の朝、大山田に一通のメールが届いた。

 

 差出人は不明。

 肝心のメールアドレスも使い捨て。

 

 しかし、それを悪戯と笑い飛ばす事は出来なかった。

 

 

 

 

命を弄ぶ欺瞞の大罪人、

 

大山田省一殿。

 

人を人とも思わず、結果を求める虚栄の医師。

我々は全ての罪を、

お前の口から告白させることにした。

 

その歪んだ欲望を、頂戴する。

 

心の怪盗団ファントムより

 

 

 

 

「……ふん、怪盗団、か」

 

 

 いずれ来るだろうとは思っていた。

 金城が改心された時点で、次に来るのは自分だろう、と。

 

 

「良いだろう、来るがいいさ」

 

 

 お前達に正義がある様に、私も私で譲れないものがある。

 それを守る為ならば、私は――――。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 シャドウ達が騒ぎ立てるパレス内。

 侵入者である怪盗団を、文字通り草木を掻き分けて探すシャドウ達の隙を縫って、黒い影は研究所の奥地へ向けて翔ける翔ける。

 

 

「シャドウは全部無視無視! 最速でオタカラまで向かうよ!」

 

 

 昨日の潜入で確立したオタカラまでのルート。

 大山田がひた隠しにしていた資料室の前を通り過ぎ、厳重な電子ロックが掛けられた扉を開け、辿り着いたのは一面ガラス張りのだだっ広い空間。

 きっとここも何かの実験場なのだろう。ガラスの奥には白衣を着たシャドウの姿がちらほらと見て取れる。

 

 

『来たな』

 

 

 その空間の中央には、以前見た時と変わらず、サングラスで目を覆い、黒いコートを着用したオオヤマダの姿。

 

 

『よくもまぁ、この紙っぺらの為にここまで来たものだ』

 

 

 その手にはオタカラらしきものが握られていた。

 複数枚の紙をクリップでまとめた資料の様な物。それがオオヤマダにとってのオタカラ、らしい。

 

 

「オタカラなんてついで。私達の目的は、貴方の改心」

 

『同じ事だろう。これを奪わなければ私の改心も叶わない。それがこの世界の仕組みだ』

 

 

 コツコツと床を靴の裏で叩きながら、オオヤマダは後ろで手を組む。

 

 

『しかし、あの時の子どもがまさか私に楯突くとは…。つくづく人生とは分からないものだな。んん?』

 

「………貴方には今でも感謝している。でも、その話と今回の件は別。貴方は道を踏み外した、だから私達がそれを正す。ただ、それだけ」

 

 

 大鎌の刃を真っ直ぐに突きつけ、ウィッチは視線を鋭くして、オオヤマダを見据える。

 

 

『道を正す、か。それを君が言うか』

 

「……?」

 

『仮に私が改心したとして、エンデ病の少女はどうなる? 今や新薬開発の第一人者はこの私だ。私のやってきた事が表沙汰になれば、待っているのはこの身の破滅。そうなれば彼女は―――』

 

「御託は良い。お前が後の心配をする必要は無い。研究も治療も、全て妙が引き継ぐ」

 

「そういう事だ。無駄な抵抗はやめるんだな」

 

 

 ウィッチの横に並び、そのナイフの剣先を同じようにオオヤマダに向けるジョーカー。

 オオヤマダは2人の目を見て、説得は無駄だと判断したのか、溜息を吐きながらサングラスを懐にしまう。

 

 

『……なるほど、武見君、か。……全く、揃いも揃ってつくづく私の邪魔をしてくれる』

 

 

 嫌な笑みを浮かべながら、オオヤマダはその足を止め、怪盗団へ視線を向けた。

 

 

『お前達は病だ。身勝手な正義を掲げ、世界は理不尽だと嘆き、大人に楯突く病。しかもそれは他者に伝染するときた。全く、質が悪い』

 

 

 オオヤマダの背中が、中で何かが蠢いている様にボコボコと胎動し始める。

 

 

「来るぞ、オマエら!」

 

 

 モナがそう叫ぶと同時に、オオヤマダのコートを突き破り、触手の様な物が数にして4本現れた。

 全体が何かの金属で出来ており、その先端にはアームの様な物が付いている。

 

 

「タコ八博士」

 

「こんなに分かりやすいフォルムも久しぶりかも」

 

 

 その触手達はまるで意思を持った1つの生き物の様に蠢き、そして次第にオオヤマダを支える様に、地面に二本のアームを吸着させた。

 アームと接触している地面がひび割れている辺り、アームのパワーは相当の様だ。

 

 

『治療してやろう』

 

 

 その時、言葉と同時に残る二本のアームが勢い良く怪盗団に向かって放たれた。

 コンクリートすらも砕く程のパワーを持った、当たれば必死の二撃。

 

 顔を見合わせるまでも無く、怪盗団は持ち前の身軽さでそれを躱し、即座に展開する。

 

 多対一の常套手段。

 オオヤマダを囲み、隙を見つけては叩き込む。

 シンプルな戦法だが、それ故に効果的だ。

 

 しかし、それが普通の相手ならば。

 

 

「隙ありっ!」

 

 

 一早く、フォックスが距離を詰めた。

 怪盗団の中でもトップクラスの速度を誇るフォックスの居合。通常ならば一撃必死の攻撃であるが、それはオオヤマダを捉える事無く―――。

 

 

『おっと』

 

「っ!」

 

 

 オオヤマダを支えていた筈のアームにその剣筋を遮られた。ギチギチと嫌な音を立てながら交差する刃とアーム。

 しかし、遂にはそのアームを切断する事はおろか、傷つける事すら叶わず。フォックスは自身のペルソナの魔法でアームを凍らせ、その場を離脱する。

 

 

『ふむ、この程度か』

 

 

 オオヤマダは何でも無かった様に、期待外れとでも言う様な態度で言葉を紡ぐ。

 同時に、凍らされたアームも内側からそれを砕き、再び生き物の様に蠢き始める。

 

 

「……随分、丈夫なようね」

 

「それに力も強い。厄介」

 

 

 クイーンとウィッチは顔を見合わせると、お互いに頷きを返す。

 言葉を交わさずとも、考える事は同じ。

 

 

「アームがダメなら」

 

「本体を仕留めるだけ」

 

 

 クイーンはヨハンナに乗って、ウィッチは自前の機動力で。

 他のメンバーがアームの気を引いている内に本体を狙って突っ込む。

 

 片やエンジンのうねりとアームの合間を翔けて。

 方やアーム自体を道と見立てて縦横無尽に。

 

 そして瞬く間に本命へ。

 

 

「ジャンヌ・ダルク」

 

「ヨハンナ!」

 

 

 名を呼ぶと、それに応えて現れるもう1人の自分。

 ペルソナの力を乗せて、オオヤマダへ繰り出す、が。

 

 

「………っ、う、…げほっ」

 

 

 その時、ウィッチの顔に苦悶の表情が浮かび、彼女は口元を抑えた。

 突如として表れた彼女の異変に、ペルソナの姿は蜃気楼の様に歪み、その攻撃はブレる。

 

 

『おや、調子でも悪いのかな?』

 

 

 その隙をオオヤマダは見逃さない。

 すぐさまアームを自身の元に呼び寄せ、そして自身に牙を向く少女を薙ぎ払う。

 

 

「う゛っ゛」

 

 

 力いっぱい薙ぎ払われた彼女は、ボールの様にバウンドしながら、この空間の隅へ。

 

 

「雪雫……!」

 

『他人の心配とは、随分と余裕だな?』

 

「きゃっ!」

 

 

 一瞬、オオヤマダから意識を外したクイーン。

 やはり彼が見逃す筈も無く、今度は彼女の細首を手でつかむ。

 

 

「う…、あ……」

 

『なんとも容易い。金城はこんなガキ共にやられたのか』

 

 

 首を掴まれているのにも関わらず、そこまで息苦しくさは感じない。

 かといって、抵抗しようにも力が出ない。

 

 まるで掴まれている手から力を吸われている様な。

 自身のペルソナ能力が薄れていくのが分かる。

 

 

「タケミナカタ!」

 

 

 その時、クイーンとオオヤマダの間に一筋の雷撃。

 

 

『っ』 

 

「クイーン! 大丈夫!?」

 

 

 オオヤマダの手から解放されたクイーンをすかさずパンサーが抱き留め、その場を離脱する。 

 

 

『小賢しい!』

 

 

 逃がすまい、とすかさず追撃を繰り出すが。

 

 

「おっと、おめぇの相手は俺達だぜ?」

 

「通す訳にはいかん」

 

 

 すかさずスカルとフォックスが現れ、それを遮る。

 

 

「…………っ」

 

 

 それを遠くから、広い部屋の隅で朦朧とする意識の中、見つめているウィッチ。

 その頭からは血が流れ出ており、先程の攻撃の痛ましさを物語っていた。

 

 

「雪雫、雪雫大丈夫!?」

 

「おい、クイーン! オマエもあまり動くな!」

 

 

 ヨロヨロと覚束ない足取りでウィッチに駆け寄るクイーン。

 そんな彼女の瞳を真っ直ぐ見つめ、ウィッチは小さく呟く。

 

 

「なんとか」

 

 

 見た目よりもハッキリとした物言いに、クイーンはホっと一息を吐く。

 

 

「ペルソナ能力に助けられたな。ジャンヌ・ダルクじゃ無かったら、ひと溜まりも無かったぞ」

 

 

 撃たれ弱いが魔法攻撃が強いアリス。

 それとは対照的に、魔法攻撃は弱いが、物理攻撃に秀でており、打たれ強いジャンヌ・ダルク。

 まともに喰らったが、どうやらウィッチは運が良かったらしい。

 

 

「それにしても、こうも簡単にクイーンとウィッチがやられるとは…、手強いな、オオヤマダ」

 

 

 モナの言葉につられる様に、一同は今も尚、交戦中のスカル達へ視線を送る。

 魔法を交えながら、上手く戦っている様だが、どの攻撃も決定打になっていない。

 

 スカルが繰り出した雷撃に、少し切っ先がブレながらも、その身を砕こうと繰り出されるアーム。

 

 

「…………?」

 

 

 ふと、ウィッチは視線をスカル達からこの部屋の周り、ガラスの向こう側で蠢く白衣を着たシャドウ達に向ける。

 オオヤマダの動きを注視しながら、手元で何かを動かしている様な素振りを見せるシャドウ達。

 

 

「…………」

 

「オオヤマダの事で、ちょっと気になる事があるんだけど」

 

 

 ふと、クイーンが声を上げた。

 ウィッチの視線が外のシャドウ達から彼女へ向けられる。

 

 

「彼に掴まれている時、何か力を吸われている様な感覚に襲われた。そうね…、感覚的にはガスでペルソナが使えなかったとき、みたいな感覚」

 

「オオヤマダが何かこちらの能力に干渉している、ってことか?」

 

「可能性は高いと思う。現にウィッチのペルソナ、消えかかってたし」

 

 

 オオヤマダに攻撃を仕掛ける直前の事。

 確かにウィッチは不調を訴える様に顔を顰めていた。

 

 

「本当か?」

 

「……言われてみれば、確かにちょっと調子悪いかも。………なるほど」

 

 

 ウィッチはふらつく身体を何とか制御し、細足で再び立つ。

 クイーンとパンサーは休んでて!と騒いでいるが、本人に聞く気は無い様だ。

 

 額から流れる血を雑に拭い、一時的に視界を確保したウィッチは、オオヤマダを見据えながら、静かに口を開いた。 

 

 

「ちょっと、やりたい事があるんだけど」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「本当にやるの…?」

 

「ごちゃごちゃ考えるのも面倒くさくなってきた。大丈夫、多分上手くいく」

 

「脳筋」

 

 

 今、この空間の中央で、クイーンとウィッチ以外のメンバーが戦っている。

 何時も通りの武器と魔法を交えた攻撃を繰り返しているが、時折ペルソナの姿がブレて見える。

 先程クイーンたちと同じ現象だ。

 

 

「どの道、相手が用意したフィールドで素直に戦う、なんてやってられない」

 

「……まぁ、そうなんだけどね…」

 

 

 思い返せばカネシロの時だってそうだ。前日には無かった巨大金庫、ブタ型機動兵器。

 相手はこの世界の主だ。準備をしようと思えば、何時でも準備出来る筈。

 

 

「土台を崩せるなら、崩した方が早い」

 

 

 ウィッチとクイーン、そして今も仲間達に度々見られるペルソナ能力の異常。

 思い当たる節はある。

 それこそ先程話が出た、ガスの一件だ。

 

 

「症状に個人差があるのか、それとも以前のやつとは別物なのか。なんにせよ、オオヤマダが何か仕掛けている事は明白。それにあの4本のタコさんアーム」

 

「………オオヤマダの意思とは無関係に動いている、か。言われてみると確かに」

 

「ジョーカーとスカルが撃った雷の魔法…、明らかにアームの動きが変だった。まるで電波の受信を阻害された様に」

 

 

 アリスと小さく呼ぶと、ウィッチの後ろには金髪を携えた魔人の少女の姿が。

 

 

「つまり別の何かがアレを操っている可能性が高い。しかし実際のオオヤマダにそれをしている素振りは見えない」

 

「………賭け、みたいなものだけどね…」

 

「そういうの、皆好きでしょ?」

 

 

 ウィッチがゆっくりと手を前に伸ばすと、それに呼応するかの様に、彼女を中心に強烈な圧が発生する。

 それは魔力の奔流。

 迸る力が、彼女のペルソナから外に漏れ出て行く。

 

 

「皆の保護、お願い」

 

「ハイハイ…、お手柔らかにね………」

 

 

 そう言い残すと、クイーンはヨハンナに乗り、時間を稼いでいる仲間達の元へ。

 それを見届けると、ウィッチは静かに深呼吸を数回繰り返した後、意を決した様に目付きを鋭くして、呪詛を一言。

 

 

「メギド」

 

 

 魔人から放たれた一撃は、文字通り全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 陰湿な密閉された空間から一変。

 天上は文字通り消滅し、囲っていたガラス壁も全て霧散。周りに居たシャドウ達も爆風に巻き込まれたのか消滅していた。

 

 

『……くっ、一体何が!!』

 

 

 コツコツとヒールを鳴らしながら、大鎌を持った白髪の少女がオオヤマダに歩み寄る。

 

 

「随分、スッキリした」

 

 

 そう、彼女の言う通りスッキリした。

 厚ぼったい壁は全て崩れ落ち、先程までは靡かなかった風は、優しく彼女の頬を撫で、淀んでいた空気を洗い流す。

 

 

『……! ガキが!』

 

 

 ゆっくりと近づくウィッチを激しく睨み付け、叫ぶ。

 

 しかし。

 

 

「……やっぱり、あのアームは外のシャドウ達が制御してたんだ。ふふ…タコ八博士には程遠いね」

 

 

 先程まで蠢いていたアームはそのなりを潜め、完全に沈黙していた。

 最早、それに何の脅威は無く。

 

 

「良くもまぁ、ここまで散々……」

 

『………ひっ!』

 

 

 瓦礫を蹴飛ばしながら近づいてくるウィッチに、オオヤマダは情けなく声を上げて後退る。

 

 

「1つ、今回の件で学んだ事がある」

 

『……く、来るなっ!』

 

 

 オオヤマダの願いは無情にも、その辺りに転がる瓦礫の様に一蹴され。

 ウィッチは地面を這いずるオオヤマダに視線を合わせて、笑みを浮かべた。

 

 

「気に入らないヤツはぶっ飛ばす」

 

 

 男の悲鳴が辺りに一面に木霊した。

 

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