PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

40 / 166
36:little girl & young lady.

 

 

 アクセサリーの贈り物には隠された意味があると言う。

 

 それぞれの種類、形、身に着ける位置によってその意味合いは変わってくるが、共通してそれらは束縛や独占欲を表すとか。

 

 改めて考えると、こじつけの様にも思えてくるが、心理学の観点から考えると、そういうものらしい。

 

 

 りせ本人にその意図があるかどうかは知る由も無いが、少なくともこの事柄を知っている私に取ってみれば、ついついその意味を考えてしまう。

 

 私が今日貰ったチョーカー。

 束縛や独占欲を象徴するのは共通事項として、その首に張り付く様な見た目から「首を締める」「窒息」という意味を持っている。

 まぁ、語源を考えると、あながち間違いではないのだが、一般的な意味合いとしては、そういうことらしい。

 

 話を戻そう。

 

 兎に角、りせに着けて貰ってから今の今まで、私はチョーカーとりせの心理を勝手に関連付けて考えてしまっていった。

 

 純粋にプレゼントとして楽しめればどんなに良かったか。

 でも私はゴチャゴチャと思考に耽け、邪推することしか出来ない。

 

 だって、嬉しかったから。

 

 私は望んでいる。

 このプレゼントには意味があって、それはりせの独占欲の表れであって欲しいと。

 そう、自分に都合の良い様に考えてしまっている。

 

 

 今、私の首にはチョーカーは着いていない。

 寝る時位は外しなよ、苦しいでしょ?っとりせに取られてしまったのだ。

 

 正直、少し残念に思っている。

 

 というのも、りせの意志が宿ったモノを常に身に着けていたい。と考えているからだ。

 

 彼女が選んだ物を身に着ける。

 理由として、「りせが喜んでくれる」というのもあるが、私の中で大部分を占めるのは「彼女のことを常に思えるから」という子ども染みた束縛だ。

 

 りせが私の為に頭を悩ませて選んでくれた。

 その事を考えるだけで、私の心臓は喜びに打ち震え、そこに居ない筈の彼女を感じる事が出来る。

 

 今回のチョーカーとて同じことだ。

 

 今でも感覚として残っている。身に着けた時の彼女の優しい指使いと仄かに伝わった体温。

 加えてりせが私に、と選んでくれた首を締めるという語源を持つアクセサリー。

 

 その僅かな息苦しささえ、心地良かった。

 彼女の指が常に首に添えられている様な気がして。

 

 一度、それを知ってしまえば外せるモノも外したくなくなるというもの。

 

 

「………」

 

 

 自身の首を指でなぞる。

 やはりそこにチョーカーは無く、輪郭に応じて指が滑るだけ。

 

 何となく、寂しい。

 

 

「………ん」

 

 

 目の前で眠りこけるりせにそっと擦り寄り、その指を私の首元へ。

 彼女の温かな体温が直接伝わり、心地が良い。

 

 しかし、次第にそれも物足りなくなり、今度は自身の脚と彼女の脚を絡ませる。

 程よい圧迫感、彼女に拘束されている様な高揚感。

 

 落ち着く。

 心からの安心を覚える。

 

 故郷を離れ、こうして彼女との時間が増えてからというもの、ズブズブと沼に絡め取られる様に、私の心はりせに傾倒していった。

 

 

 もっと、乱暴に扱って欲しい。

 世間体とか、私の身体とか。

 そういうのに気を遣わずに、本能のままに。

 

 壊れ物の様に、宝物の様に。

 優しくされるだけじゃもう満足出来ない。

 

 自分でも驚いている。

 だってもう私は

 

 

「気を使わなくて良いのに」

 

 

 貴女が居ないと生きていけなくなってしまったのだから。

 

 

 

◇◇◇ 

 

 

7月16日 土曜日 晴れ

 

 

 春学期の集大成とも言うべきテストも、早いもので最終日。

 

 期間中は雪雫自身も他のメンバーも、真面目に勉学に勤しんでいた様で、特筆すべき事柄は無く、日々は過ぎていった。

 強いてあげるとするならば、雪雫が件のチョーカーを身に着けた写真をSNSに投稿し、話題になった事くらいか。

 

 

 学校中が重苦しい緊張で包まれる中、テストもいよいよ大詰め。最後の教科に差し掛かる。

 

 ある者は手を止める事なく難無く熟す。

 ある者は時折ペンを止めつつも堅実に。

 ある者は諦めの表情を浮かべながら、そっとペンを置く。

 

 人によっては一瞬とも無限とも感じられるこの時間も、次第に終わりが近づき…そして

 

 

「テストどうだった?」

 

 

 場所は生徒会室。

 この部屋の主、生徒会長の新島真は書類に視線を落としながら、目の前に居る少女に問う。

 

 

「…別に、普通」

 

 

 頬杖を付きながら、いつも通りぶっきらぼうに呟く雪雫。

 

 

「いつも通りってことね。安心した」

 

 

 正直、心配していたのだ。

 仕方ないとは言え、テスト直前に色々ありすぎたから。当事者であった雪雫自身、負担は相当だったと思う。

 

 しかし、どうやらそれは杞憂だったようで、様子を見るに難無く乗り越えた様だ。

 

 

「後は夏休み中の部活の予算案さえどうにかすれば、こっちも決着ね」

 

「……校長は生徒会に押し付けすぎ」

 

 

 机の上に広がる無数の資料を眺め、2人揃って思わずため息。

 そう、テストという大きなイベントが終わっても、生徒会の仕事が私達には残っている。

 

 

「あ、そういえば」

 

「?」

 

「電話で話してたのってそのチョーカー?」

 

「うん」

 

 

 雪雫の首元、制服の隙間から見える黒いレザー製のアクセサリー。

 りせさんから貰ったという、チョーカーだろう。

 

 珍しく嬉しそうに電話をしてきたものだから、良く覚えている。

 

 白い肌と白い髪に良く映えた黒。

 上品で、どこか退廃的なその印象は、精巧な人形のような彼女に良く似合っている。

 

 

「似合ってる」

 

「……ありがとう」

 

 

 素直に感想を伝えれば、雪雫は頬を染めながらも嬉しそうに、チョーカーを指でなぞる。

 その姿は、幼い見た目ながらも大人びていて。

 

 

(………もう)

 

 

 見ているこっちが恥ずかしくなった。

 

 

 

▼

 

 

 この間の雪雫が頭から離れない。

 

 

 チョーカーを着けてあげた時の嬉しそうな笑み、頬を染めたあの顔。

 

 

 正直、あそこまで喜ぶとは思っていなかった。

 手に取った切っ掛けは些細な事で、こういうの持って無いな、とぼんやり思ったから。

 

 

 あの日以降、雪雫は自宅であっても学校であっても、必ずあれを身に着けている。

 初めは純粋な気持ちが勝っていた。可愛いな、と。

 

 しかし、その姿を見ている内に、別の感情が沸々と湧いてくる様になった。

 

 

(雪ちゃん…、私、の……)

 

 

 私が選んだものを肌身離さず身に着けている雪雫。

 それはまるで、雲の様に捉え所が無い彼女が、私のモノになったのかの様。

 

 胸に溢れる高揚感。

 

 一度認識すれば、この間あげたチョーカーも首輪そのものの様に思えてきた。

 所有の証、それを心から嬉しそうに受け入れた雪雫。

 幼い少女を無遠慮に染め上げる背徳感。

 

 

(別のものもあげたら、着けてくれるかな…)

 

 

 ピアスとかブレスレットとか、アンクレットとか。

 彼女は同じように受け入れてくれるだろうか。

 

 その身体一つ一つに私の証を刻み込んで―――。

 

 

(……ふひっ、えへへへへへ)

 

 

 脳裏に浮かぶのは、私に弄ばれる雪雫の姿。

 その様は愛玩動物の様で。

 

 

(ネコ……。今度コスプレでもさせて――――)

 

「りせちー……、りせちーってば!」

  

「あ…、ごめんなさい! 何でしたっけ?」

 

 

 脳内トリップし過ぎたらしい。

 目の前でマネージャーが腰に手を当ててこちらの顔を覗いていた。

 

 

「この間の水着の撮影の……。そこの雑誌が秋物の撮影も頼みたいって」

 

「あーうん、別に構わないですけど…」

 

 

 聞けば良くあるモデルの撮影。

 その程度なら、わざわざ確認取る事も無いだろうに。

 

 

「それがね…、あの…、天城雪雫さんも一緒にという事で…」

 

「あー…」

 

 

 どうやらこの間の水着の撮影が非常に好評だったらしく、それに味を占めた向こうの担当が是非に、と頼み込んできたらしい。

 

 

「分かった。聞いてみますね」

 

「お願いね!」

 

 

 私経由で雪雫へのオファーが来るのは別に珍しく無い。

 

 何処の事務所にも所属していないフリーのアーティストであり、自身の気分で活動する彼女は、業界内でも少し扱いづらい存在らしく。

 こうして仲の良い私に話が良く来る。

 

 仕事の依頼をしたいのなら、彼女のご機嫌伺う様な真似しなきゃいいのに、と思う所もあるが、私としては助かっている。

 だって変な仕事の依頼だったり、余計な虫が付かない様に管理出来るのだから。

 

 実際、有名な悪徳プロデューサーからの依頼とか、割に合わない仕事などは、過去に断っている。

 

 

(まぁここの雑誌は健全だし、雪ちゃんもそろそろ夏休みだから大丈夫かなー)

 

 

 今頃はテストも終えて、帰路についている所だろうか。

 もしかしたら、友達と過ごしているかも。

 

 

(今度予定聞いてみよっ)

 

 

 稲羽に帰る時期は避けないといけないしね。

 

 

 

▼

 

 

 生徒会の書類仕事も終わり、帰宅した雪雫は、真っすぐ自身の仕事部屋へと向かう。

 

 六畳半程の空間に、パソコンや配信用の器材が並び、部屋の隅にはギターやベースなど楽器も立てかけられている。

 防音対策もばっちり施していて、壁中に吸音材が所狭しと張られている。

 

 本来の用途で彼女がこの部屋に踏み入れるのは実に1か月半ぶり。

 定期的に川上(雪雫はまだ気づいていない)に掃除を頼んで居たのもあって、部屋は綺麗に保たれているものの、やはり心なしか埃っぽくも感じる。

 

 雪雫は部屋の隅に鞄を置き、着替えるのも忘れて椅子に腰掛ける。

 程よい反発感と通気性抜群のファブリック生地の、所謂ゲーミングチェアに腰掛け、雪雫は慣れた手付きでパソコンを操作する。

 

 映し出されているのは、仕事用のメールボックスとカレンダー。

 

 一学期の登校日は今月の25日まで。

 26日からは世の学生達が待ち望んでいる夏休みの到来だ。

 

 学校に行かなくて良い、つまりは自身の活動に充てる時間が必然的に増えるということ。

 

 雪雫はメールを1つ1つ確認し、仕事の期日をカレンダーに入力していく。

 普段はあまりこういう事をしないのだが、怪盗団での活動や帰省など、例年よりも慌ただしい日々が予想される為、流石の気分屋の雪雫もそうせざるを得ない様だ。

 

 

「………ん」

 

 

 ふと、1つのメールに目が止まる。

 

 

「アリババの言ってたやつ……」

 

 

 そう言えばまだ返事を保留していた事を思い出し、了承の旨を先方に返信する。

 

 仕事の内容としては、来年に出る新作ゲームの主題歌の作詞作曲。

 完成し次第、こちらのタイミングで公表して良いらしく、相手もこちらに合わせて告知をするとか。

 

 

「ゲーム内容はアクションRPG…、世界観はサイバーパンク……、ふぅん」

 

 

 科学技術が発展し、身体改造が当たり前になった世界で、暗躍するダークヒーローの話らしい。

 主人公はその時代を象徴する最たる存在で、中身は全身改造人間。

 ストーリーは主人公の活動を体験しつつも、善悪の葛藤やら、人の在り方やらが問われるアプリゲームにしては重厚寄りの内容の様だ。

 

 

「………あまり気楽には造れなそう」

 

 

 仕事として曲作りを受ける以上、先方の期待にある程度答える必要がある。

 メールには何時もの通りに作ってください、と気遣いの言葉が添えられているが、かと言って世界観に合わないモノを造られても困るだろう。

 

 

「……取り敢えず何か参考になりそうもの…」

 

 

 パタパタとリビングへ向かい、テレビの横の棚を眺める。 

 そこには綺麗に並べられたDVDの数々。

 雪雫のコレクションだ。

 

 

「……ダークヒーローならバイトマンとかウルバルーン…、近未来ものならマッドリミックスか機械仕掛けのリンゴ……うーん」

 

 

 ブツブツと呟きながら、一個、また一個と手に取っていく雪雫。

 小さな手には次第に沢山の映像作品で溢れ、雪雫の視界を遮る程の高さに。

 

 よろよろとそれらを運び、テレビの前にチョコンと座り、DVDデッキに挿入すると、大画面には何度も観た冒頭のシーンが映し出された。

 

 

「……………ふむ…」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

7月17日 日曜日 晴れ

 

 

「ハロ~、貴女のりせが帰宅しましたよーっと」

 

 

 すっかり日も落ち、時間にして夜の9時頃。

 何時になく機嫌良さそうに、鼻歌を口ずさみながら、りせは雪雫の自宅に踏み入れる。

 

 

「……あれ?」

 

 

 パタリと扉が閉じ、鍵を掛ける。

 何時もだったらこのタイミングでパタパタと雪雫が迎えに来るのだが、今日に限ってそれが無い。

 

 居ない、ってことは無いだろう。

 現に仕事部屋から廊下に光が漏れ出ているし、玄関には雪雫の靴が置いてある。

 

 

「珍しく配信中?」

 

 

 小首を傾げながら、仕事部屋へと向かう。

 灯りがついている以上、ここに居る筈……、なのだが。

 

 

「……居ないや」

 

 

 部屋の灯りがついているだけで、そこには目的の人物は居ない。

 しかし、パソコンがスリープモードになっているし、部屋には秀尽指定の鞄が置かれているあたり、仕事、ないしは配信をしていたのは間違いない。

 

 

「……リビングかな」

 

 

 リビングの灯りはついていない、が暗がりにぼんやりと光が見える。

 その光は、暗くなったり明るくなったり色が変わったりと、忙しなく変化を繰り返している。

 

 前にもこんなことあったな、とりせはふと思った。

 映画を観ながらソファで丸くなっている雪雫の姿。

 

 

「……えへへへ」

 

 

 またあの可愛い光景が見れるかもしれない。

 そう考えると、自然と頬が緩む。

 

 一縷の期待を胸に、ゆっくりと扉を開け、リビングの電気をつける。

 そこには――――。

 

 

「ⅣÅ⊿∟⊃@+※∵⌒¢-⌘▽〜!!」

 

「おかえりなさい、ませ……?」

 

 

 メイド服を着た雪雫が、スカートの裾を摘み、ペコリと頭を下げていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。