PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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38:unseen…

 

 

7月18日 月曜日 晴れ

 

 

 上品で手触りの良い上品な布地。

 身体に程良く感じる、衣服圧。

 

 夏らしいカラっとした風に頬を撫でられ、雪雫は仲間達との待ち合わせ場所へと向かう。

 

 いや、正確に言えば自身の足では無く車で、だが。

 

 

「いいなぁ…、花火大会………」

 

 

 道行く人々を眺めている雪雫の隣で、ハンドルを握りながら唇を拗ねた様に尖らせるりせ。

 

 

「なんで私は仕事なの……。私も雪ちゃんと花火見たかったぁぁぁぁぁ…」

 

「……稲羽でもチャンスはある」

 

「ホント!? 約束だからね」

 

 

 拗ねてた表情から一変、心底嬉しそうにしているりせに微笑みを返し、雪雫は「うん」と小さく頷く。

 

 

「それにしても良かった、浴衣間に合って」

 

「本当に貰って良いの?」

 

「良いの良いの。私からの餞別~。青春を楽しみたまえ」

 

 

 雪雫の体躯に合わせて、りせが頼んだ文字通り世界で唯一の、オーダーメイドの浴衣。

 それに身を包んだ雪雫は、頬を赤く染めて嬉しそうに頬を緩ませていた。

 

 

「真ちゃん達は何処だって?」

 

「渋谷駅の、ハチ公広場近くの改札」

 

「あちゃ、車ではいけないな」

 

「少し離れた所に停めてくれれば、自分で行く」

 

「え~、雪ちゃん一人にさせたくなーい」

 

「………我儘言わない」

 

 

 りせ的には変な虫が付かない様に、なるべく1人の時間を無くしたいのだが、今日は花火大会。

 ただでさえ人の多い渋谷駅は歩く隙間が無いほど、人でごった返していて、とても車で近づけるような状況では無い。

 

 渋々と言った様子ではあるものの、駅から少し離れた場所で雪雫を降ろし、名残惜しそうにその姿を見つめる。

 普段は下ろしている髪を纏め、白い肌と髪に良く映えた水色の煌びやかな浴衣。

 

 

「雪ちゃん!」

 

 

 車を降り、駅の方へと向かっていた雪雫は立ち止まり、ゆっくりと振り向く。

 

 

「似合ってる」

 

 

 シンプルに一言そう告げると、雪雫ははにかみながら言葉を続けた。

 

 

「当たり前、りせが選んでくれた浴衣だもの」

 

 

 

 

 

 

 まさにすし詰め状態。

 目の前に立ちふさがる人壁の間を、雪雫は手を引かれながら進む。

 

 

「雪雫、手は離さないでね!」

 

「ん」

 

 

 彼女の手を引くのは友人である新島真。

 身長140cmにすら満たない雪雫にとって、この人混みはまさに大海の高波そのもの。一瞬でも手を離してしまったら、あっという間に人の波に攫われ、はぐれてしまうだろう。

 

 おんぶした方が楽かしら…、と真がふと考え始めた頃、一同は一先ずの安全地帯を見つけ、そこに逃げ込む。

 

 

「人、多すぎ……」

 

「流石都会」

 

 

 ハンカチで汗を拭いながら愚痴を零す杏に頷きを返す雪雫。

 片田舎である故郷の八十稲羽ではここまで人は集まらない為、素直に驚きを隠せないでいた。

 

 

「しかし、こうも人が多いと始まる前に会場に着けるがどうかわからんぞ」

 

「祐介、フラグ立てんな――――」

 

 

 竜司が肩を落としながら、溜息を吐いたその時、ドンと乾いた音と、仄かな火薬の匂いが一同に届く。

 空を見上げれば、ビルの隙間から僅かに見える空に咲く大輪。

 どうやら間に合わなかったらしい。

 

 

「あー……」

 

「間に合わなかったか……」

 

 

 口をポカンと開け、次々と上がる花火を眺める一同と、ただ一人視線が低すぎるあまり、目の前の人の背中しか見えない少女。

 

 

「見えない。蓮、おんぶ」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 シャツの裾を引き、自然と作られる上目遣いで懇願する少女の頼みを、蓮は一蹴。

 年頃の少女を背中に乗せるなど、緊急時ならともかく、平時では羞恥心が勝つ。

 

 

「―――――あっ」

 

 

 ふと、空を見上げていた杏の額に、ポタリと冷たい水滴が落ちる。

 最初は気のせいかと思っていたが、次第にそれは頻度を増し、遂には空に雷鳴が走り始める。

 所謂ゲリラ豪雨だ。

 

 

「………はぁ…」

 

「あらら…」

 

 

 次々と振る雨に打たれながら、雪雫は皆の心境を代表して大きなため息を零す。

 

 

「この様子じゃあ…」

 

「中止、だろうな」

 

 

 空に光る雷の轟音と、未だに上がっている花火の音をBGMに、蓮達は雨宿り出来る場所を求め、再びさまよい始めた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 一向に止む気配の無い雨。

 

 先程の自分達と同じ様に非難場所を探して翔ける者、諦めたのか雨に打たれながらゆっくりと歩く者。

 コンビニの屋根の下、水分を含みに含んだ髪を梳きながら、雪雫はぼんやりと眺める。

 

 

「折角の浴衣が……」

 

「クリーニング出すしか無いわね……」

 

 

 浴衣に身を包んだ怪盗団の女性メンバー。

 皆同じように、浴衣は肌に吸い付き、インナーは透けて見え、濡れた髪は何処か色香を漂わせている。

 

 

「……何よ」

 

「いや…別に……」

 

「全くもう…」

 

 

 そんな光景に釣られてチラチラと視線を送っていた男性陣に、呆れた視線を受ける真と杏。

 そしてそれすらも気付かず、ただただ浴衣が濡れてしまった事にショックを受けている雪雫。

 

 結局、雨が小降りになるまでこの光景は変わること無く、雪雫と真が加入して初めての打ち上げは、非情に残念な形で終わった。 

 

 

 

 

 

 雨で冷えた身体を湯船にゆっくりと沈める。

 身体の芯から温まる様な感覚に、思わず溜息が零れる。

 

 雨が小降りになったことで現地解散。

 とぼとぼと肩を落とす普段よりも小さく見える仲間達の背中を見送り、雪雫はタクシーを拾って早々に自宅へと帰宅。

 普段は脱ぎっぱなしにする彼女も、浴衣をどう扱えば良いか分からなかったのか、丁寧にハンガーに掛け、そのまま湯船へ。

 

 

「ごめん…、りせ」

 

 

 浴衣の事を思うと気分が沈む。

 折角りせが自分にと買ってくれたものなのに、と。

 

 

「………はぁ」

 

 

 なってしまったものは仕方ない、とマイナスな気分を切り替える為、雪雫はおもむろに湯船の目の前のモニターに手を伸ばす。

 浴室に取り付けられたテレビだ。

 

 1人で入浴している時はあまり使う事は無いのだが、別のモノで気分を紛らわせたかった雪雫は、淡々とチャンネルを回す。

 

 

「………」

 

 

 映画、バラエティー、ドキュメンタリー、アニメ……、次々と映し出される映像を流し見していたその時、ふと雪雫はとある番組に目を止めた。

 

 

「これって…」

 

 

 それは何も変哲の無いニュース番組だった。何時もこの時間にやっている、定番のニュース番組。

 普段は気にもしないのだが――――。

 

 

『メジエドのホームページに英語で掲載された、声明文の内容です』

 

 

 ニュースキャスターの聞き取りやすい声と共に、画面に映し出されたのは件のホームページと英文。

 

 

「日本を騒がせている怪盗団に告ぐ。偽りの正義を語るのは止めろ。偽りの正義が蔓延することを我々は望まぬ…。我々こそが本当の正義の執行者だ。だが、我々は寛大だ。怪盗団に改心の機会を与えることにした。心を入れ替えるのであれば、我々の傘下に入ることを認めよう。拒否する場合は、正義の裁きが下るだろう……、か」

 

 

 正しく宣戦布告。

 持ち込んだスマホでSNSを確認すると、予想通り大いに盛り上がっている。

 

 

『詳しい事は分かりませんが、怪盗団に触発されたのは確かですね』

 

 

 再度テレビに意識を向けると、変わって映っているのは物腰柔らかい茶髪の青年。

 一度、渋谷の駅前で声を掛けてきた――。

 

 

「明智吾郎、直斗の……」

 

 

 巷で有名な高校生探偵。

 探偵王子の再来と、もてはやされている今をときめく有名人。

 

 

『どちらにしても、迷惑な話ですよ』

 

『迷惑?』

 

『怪盗団もメジエドも、自分勝手な正義を振り回すだけの存在です。今後も、怪盗団の影響を受けて、このような連中が出てくる可能性があります。そう言った意味でも、怪盗団の罪は重いですね』

 

 

 世間の盛り上がりと対立する、徹底した怪盗団の否定。

 明智は怪盗団が現れてからというもの、彼のそのスタンスは一切変わらない。

 彼も彼で自身の正義を貫いている、ということだろうか。

 

 

「…………」

 

 

 雪雫は特に顔色を変える事無く、ただただニュースを眺めていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

7月19日 火曜日 晴れ

 

 

 メジエド。

 不正アクセス、データ改竄を生業とする、世界でも有名なクラッカー。

 その実態は判明しておらず、果たしてそれが個人なのか組織なのか。彼なのか彼女なのか。

 素性に繋がるモノは一切判明していない。

 正しく見えざる者。姿無き姿。

 

 唯一判明している事とすれば、怪盗団は世界規模の相手に目を付けられた、という事だ。

 

 

「………ダメ、か」

 

 

 今日は期末考査の結果が張り出され、生徒達の阿鼻叫喚が響く日。だった筈だが、そんなイベントもメジエドと怪盗団の話題に上から塗りつぶされる。

 かく言う怪盗団一同もテストの結果は二の次に、それぞれ情報を集める為、忙しなくしていた。

 

 

 そしてここにも1人。

 しれっと学年一位を取った彼女も特にそれを気にも留めず、スマホの画面を見つめて溜息を1つ。

 

 

「こういう事なら、アリババが一番だと思ったんだけど……」

 

 

 アーティスト活動の道すがら、偶然知り合ったハッカー「アリババ」

 時折、向こうから連絡は来ては、やり取りをしているのだが、こちらから連絡を取る事は今まで無かった。

 

 ダメ元で前回の通話履歴から通話を試みるが、やはり使い捨ての番号だったのか、コール音からすぐに電子音声へと切り替わる。

 

 

「…………む」

 

 

 アリババがダメなら、と雪雫は誰か居ないかと知り合いの顔を思い浮かべる。

 

 姉、りせ、千枝、陽介、完二……、論外。

 妙、べっきぃ、千早、一二三……、望み薄。

 

 頼りになりそうな直斗と悠は連絡が付かず…。

 情報通の大宅も。

 

 

『ごーめん、いま忙しい!』

 

 

 とメッセージが今来た。

 

 

「………全滅」

 

 

 それぞれ得た情報が飛び交う怪盗団のトークルームに、「駄目だった」と送り、眩しいほど晴れやかな空を見上げる。

 世の混沌とした騒ぎとは裏腹に、恨めしい位に綺麗な青が広がっていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

7月20日 水曜日 曇り

 

 

 

「心を盗むって…、バレてるよな、コレ?」

 

「みたいね…」

 

「…………」

 

 

 蓮の携帯の画面に映し出されているのは、アリババと名乗る人物とのトークルーム。

 内容はシンプルで、取引をしないか。というもの。

 

 

「どうしてバレた?」

 

「チャットのログを辿られたのかも」

 

「…………」

 

 

 皆が顔に困惑の表情を浮かべる中、1人だけ…雪雫だけが考え込む様に顎に指を添えていた。

 そして、意を決した様に顔を上げ、皆の顔を見つめる。

 

 

「……私、アリババ知ってる…………」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

「活動の手伝いをしてくれたハッカー!?」

 

「…うん」

 

「え、待って、何時からの付き合いなの?」

 

「私が中学生の時…。丁度、投稿をし始めた辺り」

 

 

 昔の雪雫は今の様に大々的な活動はしておらず、ひっそりと動画サイトに自作の曲やカバーしたものを投稿していたという。

 まだネットの環境に慣れておらず、様々な情報の荒波に揉まれている時、ふと現れその活動をサポートしてくれていたらしい。

 

 

「段々私も慣れて、ある程度軌道に乗ったあとは―――」

 

「アリババとの交流が無くなった?」

 

「ううん、今度は仕事の依頼主の情報を教えてくれた。例えばどこどこのプロデューサーは人を食い物にしている外道だ。とかあそこの雑誌はインタビュー通りに書かないから受けない方が良い、とか事細かく。嘘を言う様な人じゃないっていうのは知っていたから、私もアリババの話を参考にして―――」

 

「雪ちゃんがメディア嫌いって言われてる原因って―――」

 

「アリババがマネジメントしてた結果ってことね」

 

 

 要するに今の今まで、彼女の活動の裏にはそのアリババの存在が常に在ったという事だ。

 

 

「雪雫から連絡は?」

 

「出来ない。連絡は今回の様に常に一方的で返信も出来た試しは無い。タイミング見計らった様に、何か困ったことがあった時、向こうから連絡が来る」

 

「……まるで監視されている様だ」

 

「多分、祐介の言う通り。私が怪盗団に入ったのも、大山田と一悶着あったのも、全部知ってたから。実際、大山田に足が付かない形で予告状を送れたのもアリババとの取引があったからだし……」

 

 

 黙っててごめん。と申し訳無さそうに頭を下げる雪雫。

 普段の彼女からは想像つかない姿に、一同は僅かに狼狽える。

 

 

「いや、謝らなくても……」

 

「向こうは全部承知の上での取引だったんでしょ? 雪雫は利用できるものを最大限利用しただけ…。でも次からは相談しなさいね?」

 

「……うん、ありがとう」

 

「それよりも大事なのは、何時から知っていたか。ってことよ…。雪雫が怪盗団に合流したのは一か月前……その短い期間のチャットログだけでここまで詳細に分かるのかな」

 

「他に知る手段があった…と?」

 

「うん…わかんないけど…、何となく、そんな気が……」

 

 

 揃って口を閉ざし考え込む一同だったが、あまりもの情報の少なさに、眉を顰めるだけで答えは見えない。

 

 

「……取り敢えず、落ち着ける場所に行こうか」

 

「カラオケかっ!?」

 

「わりぃ…、今俺金欠……」

 

「ならカラオケは無しね」

 

 

 長時間の滞在が可能で、お金がかからない場所―――。

 

 

「そうだ、ルブランに行こう」

 

 

 蓮は眼鏡を光らせながら、得意気にそう言った。

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