PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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39:Who are you?

 

 

 芳ばしいコーヒーの匂いが鼻腔を擽る空間。

 店内には客は1人もおらず、店主である佐倉惣治郎は何やら真剣な顔つきで手紙のようなものを見つめていた。

 

 そんな中、店内に来客を知らせるベルが響き、惣治郎が入口に視線を向けると、そこには預かっている少年とその友人が。 

 

 

「………おう? なんだ、揃って?」

 

 

 見た目通りの渋い声が、蓮達へと向けられる。

 

 

「マスター、久しぶり」

 

「はい、久しぶり。りせちゃんは元気かい?」

 

「ん、変わらず」

 

 

 真っ先に反応を示したのは雪雫。

 元々ここの店の常連客という事もあり、彼女としても直接顔を合わせたかったのだろう。

 実際、雪雫の瞳の奥は嬉しそうに輝いていて、マスターに懐いているのが見て取れる。

 

 

「今日は夏休みの計画でも練ろうかと思って」

 

 

 続けて杏が笑顔を崩さず、それらしい理由を並べ立てる。

 

 

「夏休み、か。いいねぇ」

 

 

 それを聞いて、惣治郎は微笑ましそうな目線を蓮達に向けた。

 口調はぶっきらぼうだが、その態度と声音には優しさが見え隠れしている。

 そう言った所が、雪雫が懐く所以かもしれない。

 

 

「おや、そちらのお嬢さんは?」

 

 

 仲が良い事で、と一同を眺めていると、見覚えの無い女の子に目が止まる。

 普段の蓮の交友関係からは想像のつかない、理知的な少女の姿。

 

 

「あ、初めまして。新島真です。お邪魔します」

 

「ウチの生徒会長なんすよ」

 

 

 見た目通りの礼儀正しい挨拶に惣治郎は面を喰らっていると、竜司が補足の説明を加える。

 

 

「……新島?」

 

「どうか、しましたか?」

 

 

 一瞬、思い当たる節があるのか、考え込む様な素振りを見せた惣治郎だが、「なんでもねぇ」と再び笑みを浮かべる。

 

 

「生徒会長サンとは驚いた。…こいつを、よろしくお願いします。佐倉惣治郎…、マスターで構わんよ」

 

「マスター、マスター。私も生徒会」

 

「へぇ、そりゃ意外」

 

 

 「生徒会長」という肩書に関心したような態度を示した惣治郎を見て、自身に対しても同じ反応をして欲しかったのか、小さくアピールをする雪雫。

 そういう所は見た目相応である。

 

 

「…そうだ。それ、お前宛だぞ」

 

 

 雪雫の対応も程々に、思い出したかの様に口を開いた惣治郎。

 蓮宛てだという彼の視線の先には封がされた簡素な封筒がカウンターに置かれていた。

 

 封筒を受け取り、差出人を確認するが封筒には何も書かれておらず、欲しい情報は一切不明。

 僅かに困惑する蓮に

 

 

「んじゃ、おっさんはお暇するわ。店、よろしくな」

 

 

 と言い残し、惣治郎は店を後にした。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「皆で海とか行きたくない!?」

 

「おー! いいなぁ、それ!」

 

「……海…」

 

 

 テーブルにお菓子を広げ、雑談に華を咲かせる一同。 

 初めはアリババの事について話していたが、結局着地点は見つからず、話は次第に夏休みの話題へ。

 

 

「? どうかしたの?」

 

 

 海に行きたいという案に、皆が好感触を示す中、1人雪雫は憂鬱そうに俯いている。

 

 

「…海……私、実は…、その―――」

 

『先日、声明を発表して注目されていたハッカー集団、メジエドの続報です』

 

 

 意を決して言葉を紡ごうとした雪雫だったが、それはテレビの音に掻き消される。

 内容は今現在、怪盗団の頭を悩ませている存在についてだ。

 

 

「……メジエド…」

 

 

 内容が内容なだけに、雑談は一時中断。

 皆、学生の顔付きから一変、真剣な顔でニュースを食い入る様に見つめる。

 

 

『先程、メジエドのホームページに、新たな声明が発表されました。メジエドは声明で、怪盗団に対する勝利宣言を発表しました。さらに、怪盗団を称賛する一部の日本国民に対し、称賛を止める様、警告を発して―――』

 

 

 それを聞いて杏と竜司はすかさず懐から携帯を取り出し、ホームぺージを確認。

 

 

「英語じゃねぇか!」

 

 

 竜司が早々に脱落し、皆は帰国子女である杏の言葉を待った。

 

 

「えっと…。我々の質問に怪盗団は沈黙した。これで我々の正義が証明された。日本の大衆よ、目を覚ましなさい。あなたたちは怪盗団を崇拝してはいけない」

 

「はぁ!? ざけんな!」

 

「怪盗団を崇拝する者には罰が下るだろう。その罰とは財産の没収です。私達はメジエドです。見えない存在です。姿がない姿で悪を倒します

……。だってさ」

 

「どういうことだよ!?」

 

 

 以前と変わらない抽象的なもの言いに、竜司は苛立ちを隠さず声を荒げる。

 

 

「怪盗団のシンパをターゲットにするって言ってる」

 

「財産の没収か…」

 

「銀行…、個人情報……、どっちにしても残忍酷薄」

 

 

 メジエドの言う財産の没収。

 何を示すか定かでは無いが、相手は世界的にも有名なハッカー集団。

 資産や個人情報がネットに蔓延るこの時代、もし宣言通り攻撃されれば只では済まないのは明白だ。

 

 

「そこで何で俺らがやり玉になるわけ?」

 

「あくまでも怪盗団が悪…、ってことにしたいんじゃない? 怪盗団さえ居なければ、こういうことは起こらなかったって」

 

「厄介な奴らに狙われたもんだ……」

 

 

 モルガナの言葉に同意する様に、雪雫達は黙り込む。

 正直、改心しようにもメジエドという存在が不透明な限りは手の出しようもない。

 手詰まり、というやつだ。

 

 

「……蓮」

 

「どうした?」

 

「その手紙、何? 送り主も分からなければ、切手も無い。書いてあることは蓮の名前だけ。明らかに普通じゃない」

 

 

 蓮は雪雫に誘導されるがまま、封筒を手に取り、その封を開ける。

 中に入っているのは赤い紙切れ一枚。

 その中央には大きく三文字の単語が書かれていた。

 

 

「…予告状……?」

 

「誰から来たの、これ?」

 

「雪雫の言う通り蓮の名前以外は書いてないし切手も無い…、誰かがここへ直接投函したのよ」

 

「一体誰が―――、アリババか?」

 

「そう言えば、必要な道具を用意したとかなんとか……。まさかこれの事か?」

 

 

 予告状と書かれた紙以外には入っておらず、封筒自体にも特別な仕掛けなどは見受けられない。

 

 

「仮にアリババからだったとして…、どうして私の家じゃなくて蓮の家に?」

 

「……確かに…。雪雫のスマホを監視しているだけなら、蓮の個人情報までは分からない筈……」

 

「どうなってんだよ……」

 

「とにかく、今の私達に出来る事はアリババからの指示を待つ事ね」

 

「取引を持ち掛けている以上、向こうから連絡がある筈……。一応、私からの連絡もしてみる」

 

 

 真と雪雫の言う事は最もで、今ここで話し合っても事態は解決しない。

 特に進展は無いままだが、明日以降、状況が進展することを信じて、今日はお開きとなった。

 

 

 


 

 

 りせと同じ視点で世界を見たい。

 彼女と同じ視点で話したい。

 

 そう、強く思ったのはりせがアイドルとして復帰してから1年程が経った頃。

 彼女の仕事が忙しくなり、稲羽で共に過ごす時間が減って、心の何処かで何とも言えない喪失感を覚えた事を良く憶えている。

 

 私の傍から離れたりせを必死で追いかける様に、当時の学校生活など全てかなぐり捨てて、打ち込んだことは今では懐かしい思い出だ。

 学校が終わり次第、真っ直ぐ帰路につき、パソコンの画面に噛り付いていた。

 そんな生活をしていたからか、友達などは一切出来無かったが、それでも私の心の支えとしてりせの存在があった。

 

 …いや、2人だけ、そんな私を友達と言ってくれた茶髪と赤髪の姉妹が居たけど………、まぁ今は関係無い話だ。

 

 

 兎に角、当時の私は何度も何度も曲を作ってみては投稿し、その技術を貪る様に邦洋問わず様々なアーティストの歌を歌わせて貰った。

 幸い、私の故郷は開発から取り残された田舎町。

 時間だけは十分にあった。

 

 そうしているうちに次第に作業も慣れ、投稿した曲も度々聴かれる様になった頃、アリババは現れた。

 

 

 初めはコメントから、次第にSNSでのやり取りも増え、ネット上における友達、と言ってもいい間柄になった。

 思えば、その頃のアカウントも使い捨てのアカウントの1つだったのだろう。

 今では削除されているのだから。

 

 それでもインターネットという広すぎる世界を歩む手助けを、彼/彼女はしてくれた。

 私が今こうして、学生の身でありながら、りせと同じ業界で生きていけているのは、アリババのお陰と言っても良い。

 

 

 だから、蓮に来た取引のメッセージは。

 自分勝手に、脅迫文を添えて送られたあのメッセージは。

 

 私にとっては――――

 

 

 


 

 

7月21日 木曜日 晴れ

 

 

「やらないと通報って、マジヤバイだろ……」

 

 

 再び連の元へ送られてきたアリババからのメッセージ。

 内容は先日と同じく、取引についてだったが、殆ど脅迫に近い内容だった。

 

 改心させなければ、蓮の名前を公表して通報する、と。

 

 

「佐倉、双葉……?」

 

 

 そんな脅迫文と共に送られてきたのは、アリババの言う改心して欲しいターゲットの名前「佐倉双葉」

 そこはかとなく、聞き覚えのある苗字に、杏は名前を困惑しながら読み上げる。

 

 

「佐倉って確か……」

 

「苗字、マスターの」

 

 

 予想だにしていなかった身近な人物の浮上に、一同はハッとする。

 

 

「マスターにご家族は?」

 

「……居たっけ?」

 

「少なくとも聞いた事は無い」

 

「おおらか過ぎんだろ! 居候なんだろ? 普通家族との挨拶とかあるだろ…」

 

「まぁ事情が事情だし、な…」

 

 

 いくら冤罪とは言え、表向きには前科持ちの蓮。

 惣治郎自身が、その事情を汲んで省いた、という可能性も無くは無いが…。

 

 

「どの道、予告状が届いたのもマスターの家だし、関係があると考える方が自然よ」

 

「日本の何処に住む佐倉双葉か、アリババは言ってない。名前だけで十分って、思ってるかも」

 

「なるほどな…」

 

「雪雫に連絡せず、蓮の所に直接来たのも引っ掛かるわ。蓮の近くに居る誰かの仕業…、と考えるのが妥当じゃないかしら」

 

 

 雪雫は違和感を覚える。

 自身が持っているアリババの印象と、実際に送られてきたメッセージから受ける印象が一致しないからだ。

 

 

「…………」

 

 

 人の話は聞かないし、何時も一方的で自分勝手なのは変わりないが、そこはかとなく余裕が無い様に感じられる。

 ましてや通報するという脅迫…、それが彼/彼女らしくない様な気がして―――。

 

 

「そう言えば、何で私との取引を伏せて脅迫する?」

 

「と言うと?」

 

「向こうからの連絡とは言え、私はアリババに予告状の送付をお願いした。物的証拠としては、そっちの方が強い筈」

 

「予告状に関するデータを全て削除しちゃった…とか?」

 

「勿論、大山田の時の取引ではそう言う約束をした。でもこうして脅迫する予定があったのなら、それを素直に守る必要は無い」

 

「行動が突発的で計画性が無いって言いたいの? そうね…確かに。――と言うか今回の改心が事前に計画されたものなら、そもそも大山田の時に言っている筈だものね。予告状を送る代わりに、佐倉双葉を改心しろ、って」

 

 

 そう考えると連絡のタイミングや脅迫の内容がチグハグだ。とても計算して動いている様な人物には思えない。

 

 

「悪戯か…、もしくはそうせざるを得ない理由が出来たか……。兎に角、佐倉双葉に関してはマスターに一度聞いてみるべきだと思う」

 

「…それが良いだろうな……。今出来ることはそれくらいだし、ゴシュジンも心当たりがあるかもしれない」

 

 

 惣治郎に探りを入れるとなると、居候である蓮にしか頼めない。

 正体が悟られない様、慎重に頼むぞ。と祐介は蓮に言い、それを受けた彼も深く頷きを返した。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 早速、蓮からのメッセージが皆の元へと届いた。

 

 

 探りを入れてみたが、話したくなさそうだったと。

 

 

 マスターの態度的に、佐倉双葉という人物が存在するのは確実。 

 のっぴきならない事情…、つまりは佐倉家の超個人的なプライベートに関する話題なのだろう。

 

 

「……踏み込みにくい」

 

 

 いくらメジエドを片付ける為とは言え、友人の保護者であり、個人的にもそれなりに良くして貰ってるマスターの事情に無遠慮に踏み込むほど、人の気持ちが分からないわけではない。

 

 

「………」

 

 

 アリババからの連絡はあれから来ていないらしい。

 こっちから送っても、変わらず送付先は存在しないらしく、そのまま戻って来る。

 

 

「待つしかない、って暇」

 

 

 佐倉双葉について、現状は探りを入れられない以上、充てにするのはアリババからの連絡のみ。

 

 何故、佐倉双葉を改心したいのか。

 アリババと佐倉双葉の関係は?

 

 分からないことだらけだ。

 

 

「…………」

 

 

 ゆっくりとベッドに背中を預け、ぼんやりと天井を眺める。

 

 

「……稲羽に帰るのは何時になるかな」

 

 

 少なくとも、メジエドの件が片付かなければ帰る事も出来ない。

 

 

「……はぁ」

 

 

 珍しくホームシックな気分に浸りながら、雪雫は静かに目を閉じた。

 

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