PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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40:Case closed…

 

 

 

7月22日 金曜日 晴れ

 

 

 

 あれ以降、アリババから連絡は来ていない。

 

 佐倉双葉についてはこれ以上詮索することは叶わず、メジエドも不気味な程に動きが無い。

 嵐の前の静けさ…、とでも言うべきか。

 

 真は言っていた。 

 何が起きても対応出来る様、準備は怠らない様にしようと。

 

 ここは彼女の言う通り、武器や物資の調達、潜入道具作りに専念しよ―――

 

 

「………雪雫」

 

 

 授業も終わり、鞄に筆箱やら教科書やらを仕舞っていた時、他学年である筈の天城雪雫が目の前に居た。

 

 

「…………」

 

 

 整った容姿に、低すぎる身長、白い髪と何かと目立つ彼女だが、ここが2年生の教室という事もあり、いつもに増してその身に注目を集めている。

 

 しかし、そんな周りの視線は何処吹く風。

 雪雫は真っ直ぐこちらの瞳を見つめ―――

 

 

「銃」

 

 

 と一言、呟いた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「なるほど」

 

 

 渋谷の大通りから逸れた裏路地。そこに佇むミリタリーショップ。

 店主の岩井は、興味深そうに雪雫を眺め、納得したかの様に首を縦に振った。

 

 

「銃が使いにくいって言うもんだから、どんなマセガキが来るかと思ったら―――こりゃ納得だわ」

 

「どうも」

 

 

 首筋の入れ墨、大きな体躯、ハイエナの様な鋭い目つき。

 普通であれば10人中9人は怯えるであろう外見をした岩井に対して、雪雫は臆する事無く、何時もの調子で呟く。

 どうやら彼女は残りの10%の例外らしい。

 

 

「この見た目で薫より年上、か……。嬢ちゃん、ホントに高校生か?」

 

「保険証、見る?」

 

「そう簡単に個人情報晒すもんじゃねぇぞ…。ったく、お前の友達って聞いてたからどんな奴かと思ったら…、とんだ大物だぜ。なぁ、雨宮?」

 

 

 クツクツと愉快そうに笑いながら、こちらに視線を送る岩井。

 

 

「嬢ちゃん、手貸してみ」

 

「ん……」

 

 

 言われた通りに雪雫は手を差し出すと、岩井は指の関節や手の平などを真剣な目で見始め、「なるほど」と目を伏せる。

 

 

「確かにこりゃ、普通の銃は扱いにくいわな。こんなちっこい嬢ちゃんが使う事を考えて造られてねぇからな」

 

「何とかなりそうか?」

 

「要は持ち手から引き金まで指が届けば良いんだろ? ちっとばかし特殊なパーツを使うが…なに、出来ない事は無い」

 

「やった」

 

 

 そう言うや否や、岩井は店の奥に消えた。

 恐らくその特殊なパーツを取りに行ったのだろう。

 

 

「嬢ちゃんが使うとしたらピストル一択だな。まぁ今から渡すのはモデルガンだから関係無いけどよ、こういうのはリアリティが大事だ」

 

 

 そう呟きながら戻ってきた彼の両手には、銃のパーツの数々。

 再び定位置に腰掛けると、慣れた手付きで組み立て始める。

 

 

「にしても年頃の高校生がこんなの買って何に使ってるんだ? 普通の高校生はこんなの買わねぇだろ?」

 

「…………コスプレ?」

 

 

 雪雫は首を傾げながら、何故か疑問形で一言。

 やはり嘘が下手過ぎる。

 

 

「コスプレ……コスプレね……。まぁ確かに、そういう用途はあるか………嬢ちゃん、髪白いしな」

 

「これは元も……むぐ」

 

「染めたということにしておこう」

 

「……仲良いな、おまえら」

 

 

 納得した様な訝しんでいる様な、どっちつかずの反応を示す岩井。

 しかし、流石は元ヤクザと言うべきか、話を深堀したくないこっちの事情を汲んでくれたらしく、これ以上質問が飛んでくることは無かった。

 

 

「ほらよ」

 

「わっ」

 

 

 そんなこんなで、5分程で組み上がったモデルガンを雪雫に向かって投げ、雪雫はそれを難なくキャッチ。

 

 

「握ってみろ」

 

 

 言われるがまま銃を握り、構える雪雫。

 やけに手慣れた彼女の動作に、横で見ていた岩井が少し驚きの色を浮かべている。

 

 

「おぉ~」

 

「…ったく…、満足かい?」 

 

 

 雪雫は感心した様に感嘆の声を上げる。

 

 

「ありがとう。これで大丈夫そう」

 

「そうかい」

 

「いくら?」

 

 

 鞄に手を突っ込み、財布を取り出そうとする雪雫に、岩井はストップを掛ける。

 

 

「要らねぇよ。初回サービスだ」

 

「………?」

 

「いや、こういう仕事柄よ。おっさんとか雨宮みたいな男くらいしか客に来ねぇからよ。嬢ちゃんみたいな奴が興味を持ってくれて嬉しいんだ」

 

「…ふぅん」

 

 

 雪雫は中々納得いかない様で、最後まで支払おうとしていたが、岩井がそれを受けとる事は無かった。

 ふ、案外優しい男だ。

 

 結局、雪雫が先に折れ店を外に出たその時、続いて俺も出ようとしたら岩井に肩をポンと叩かれた。

 

 

「手間賃はお前のツケにしておくからな」

 

 

 俺にも優しくしてほしい。

 

 

 

 

 明治神宮。

 

 東京都内有数の規模を誇る神社。

 長年に渡り国民に愛されており、初詣における参拝客数は全国でも指折り。

 境内や隣接している代々木公園には沢山の自然が生い茂り、都会に居る事も忘れてしまいそうな―――以下略。

 

 

「平日でも人、たくさん」

 

 

 そんな大人気のパワースポットに、雪雫と来ている。

 

 

「目的は、参拝?お散歩?」

 

「両方じゃないか?」

 

 

 岩井の店で用を済ませ、御馴染みのビックバンバーガーで腹ごなしをしていた時、雪雫は思い至った様に言った。

 

 

「人の気持ちが集まる場所に行きたい、っと」

 

 

 あまりの唐突な申し出に、僅かに面を喰らったが、この間の、丁度ここで話した事を思い出す。

 そういえば、久慈川りせの気持ちを知る為に、人の心を学びたいって言っていたな、と。

 

 雪雫の銃を調達する以外の予定は無いし、アリババの件も進展しない現状、彼女との関係を深めても良いだろう。

 そう判断した俺は、先日観光案内本で知った明治神宮へと案内し―――今に至る。

 

 

「都会にしては広々、喧騒も聞こえない。ふぅん」

 

 

 踊る様に軽やかに。その足を運びながら、緑に囲まれる境内を進む雪雫。

 田舎出身の彼女からすると、何処か懐かしい気分になるのだろうか。

 

 ウロウロと、足が向くまま気が向くまま歩き回る雪雫。

 方向音痴、というか気にしていないのか、本殿の方からどんどんと離れて行く。

 

 

「目的のものはあっちだぞ」

 

「ん」

 

 

 誘導すると、くるりと反転して今度は素直に指を指した方向へと歩き始める。

 何となく、見た目も相まって小動物感が凄い。

 

 夏の暑さも思わず忘れそうな穏やかな風に撫でられて、遂に辿り着いた本殿。

 雪雫は早々に人の気持ちや願いの象徴…、絵馬を見つけると足早に駆け寄ってマジマジと観察し始めた。

 

 

「絵馬…。生きた馬の代わりに絵に描いた馬を奉納した事によって生まれた文化」

 

「詳しいな。描いた事は?」

 

「知識として知ってるだけ。描いた事は無い」

 

 

 吊り下げられた絵馬を見ると、「新作のゲーム機が欲しい」「好きなアーティストのライブに行きたい」などのささやかなモノから、「恋を成就させたい」や「大学に合格したい」などの定番なモノまで。

 参拝客の数の分だけ願いがある。その数全てに目を通すのは、困難を極めるほど。

 

 

「受験祈願、縁結び、健康長寿……。ねぇ」

 

「ん?」

 

「蓮は絵馬描いた事ある?」

 

 

 絵馬、絵馬か。

 神社に参拝することはあっても、描いた事は―――。

 あ、いや、受験の時は友達に連れられて書きに行ったな。

 

 

「一回だけ、高校受験の時に」

 

「ふぅん」

 

「どうかしたか?」

 

「……無神論者が大多数を占める私達が、こういう時に神様に願いを掛けるのはなんで、って思って」

 

 

 マジマジと絵馬を見ながら、雪雫は純粋に疑問を口にする。

 

 

「間欠強化の影響……、目に見えない物事に対する認知的不和の解決手段。心の拠り所、ストレスや不安の逃がし先……。精神的な支えの為?」

 

「……どうだろう…」

 

 

 ブツブツと言葉を紡ぎながら…独り言だろう、文章になっていない。

 とにかく、穴が空いてしまう程、絵馬を見つめ続ける雪雫。

 

 その様が教会に行った時の祐介と重なる。

 やはりクリエイターとして通ずるモノがあるのだろう。 

 

 

「………蓮」

 

「なんだ?」

 

「絵馬書こう」

 

 

 絵馬を注視していた雪雫だったが、打って変わりこちらの手を引いて本殿を指差す。

 ……神様に向かって指を差して良いのだろうか。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「これで、いい?」

 

「ああ」

 

 

 慣れない手つきで絵馬を括り付ける雪雫。

 

 

「何か気持ちは分かったか?」

 

「…うん。なんとなく」

 

「きっとみんながみんな、明確な答えを持っている訳じゃ無いさ。自分に及ばない事を、他者に託す…。多分きっと、それは人の当たり前な営みなんだと思う」

 

 

 アイドルに夢見る様に、怪盗団を支持する様に。

 

 

「……そう。願いの受け先。心の宿り木……。人にはそれが必要…、なるほど――」

 

 

 どこか納得したように呟く雪雫。

 そんな彼女の絵馬は、風に煽られ、乾いた音を立てながら揺れていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

7月23日 土曜日 晴れ

 

 

 

「マスターが女の人に脅されていた?」

 

「ああ、ギャクタイやサイバンやら…、どうも穏やかな状況では無かったな」

 

 

 渋谷駅の何時もの連絡通路。

 佐倉双葉について収穫があったという蓮の言葉に一同は集まり、その状況について詳しく話を受ける、が。

 その内容は予想の斜め上を行くものだった。

 

 

「…………」

 

「…どうかした?」

 

 

 何やら考え込む真に、隣に居る雪雫が心配そうに見上げるが、「なんでもないわ」と彼女は笑みを浮かべた。

 

 

「えっと、話を整理すると、双葉はマスターの子どもで…。しかも虐待されてるってことよね?」

 

「……想像、つかない」

 

「…俺も」

 

 

 話だけを聞くと、真が言ったことが事実の様に思えるが、普段の惣治郎を知る皆からすると、どうしても虐待している様には思えなかった。

 

 

「ゴシュジンも訳あり顔だったからな…、もしかしたら何かのっぴきならない事情が―――」

 

 

 モルガナの言葉を被せる様に、蓮のスマホがメッセージの受信を知らせる。

 画面を見てみれば、待ちに待ったアリババからのメッセージ。

 

 予告状も用意したし、名前も教えた。

 なのになぜ、佐倉双葉を改心しない?

 

 という内容の催促のメッセージだった。

 

 

「…………」

 

 

 いくら監視していたとは言え、実際の細かい手順は知らないのだろう。

 

 アリババ、もしくは佐倉双葉と直接コンタクトを取れないか。と聞いたところ、取引を持ち掛けた向こうから取引中止の申し出が。

 彼/彼女が言うには外に出られず、会わせられない事情がある様だが……。

 

 

「雪雫はアリババと会った事無いんだよね?」

 

「うん、生声も聞いた事無い」

 

「アリババは外には出られず、サクラフタバとは会うことも叶わない、か。訳が分からん……」

 

 

 モルガナの言う事も最もで、結局何も情報も対策も取れずに打ち切られてしまった取引。

 正しく、振り出しに戻る。といった感じだ。

 

 

「ま、俺らには関係無いだろ。取引も打ち切られてたし。連絡も取れねぇしな」

 

「でも、メジエドはどうする? 私達にはどうすることも……」

 

「メジエドだけどよ。大々的に宣言した割には何もしてこねぇし、イタズラだったんじゃねぇの?」

 

「改心されるのが怖くて、引っ込んじまった。ってことか?」

 

「そうそう!」

 

 

 竜司の言う事は非常に都合が良くて、何処までも楽観的だったが、それを否定する材料も持ち合わせてはおらず。

 結果的には流される形で、話は収まった。

 

 自然と身体に力が入っていた様で、彼の言う通りに終わったと一度思えば、それぞれの顔に僅かに安堵の色が浮かぶ。

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

 和やかな雰囲気が漂い始めたその時、杏が思い出した様に手を叩いて口を開いた。

 

 

「花火大会のリベンジしようよ! 雨で台無しになっちゃったし!」

 

「良いけど…、また花火でも行くの?」

 

「いや、今度はうまいもん食いてーなー……、寿司とかどうよ!」

 

 

 寿司、という単語の祐介は食い入る様に反応を示し、モルガナも歓喜の声を上げる。

 ようやく、何時も通りの雰囲気を取り戻した、という感じだ。

 

 

「それなら、私がご馳走する…。大山田の事もあるし――」

 

「そんな気を遣う事ねーって! 実はな、カネシロの時のオタカラが入ってたアタッシュケース! あれ15万で売れたんだよ!」

 

「マジでか!?」

 

「のどぐろが食べたいな」

 

「お、流石蓮! 乗り気だな!」

 

 

 普段は食べれない美味しい物が食べれると知り、一気にテンションを上げる怪盗団。

 

 

「寿司は、ガリで腹を膨らませてから食べる。それが俺の極意だ」

 

「今回はそんな事しなくていいから……、っていうか止めてよ?」

 

「雪雫も寿司で良いか?」

 

「寿司、サーモン、食べたい……!」

 

「割と庶民派だな!」

 

 

 道行くサラリーマンや学生が大盛り上がりする蓮達にすれ違いざま視線を送るが、寿司でテンション上がった一同は気付かない。

 善は急げとでも言う様に、早々に予定を明日の夜と決め、明日の高級寿司に想いを馳せて、それぞれ帰路についた。

 

 

「………寿司…」

 

 

 その後、自宅に帰り湯船に身を沈めた雪雫は1人呟く。

 

 

「ワサビ抜き…、笑われないかな………」

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