PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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42:His daughter is important to him.

 

 

「ごめんくださーい」

 

 

 昔ながらの日本家屋に、真の声が響く。

 

 

「…反応、ない」

 

「留守か?」

 

「でもドア開いてるし、テレビの音も……」

 

 

 ルブランのすぐ近く、表札に佐倉と書かれた一軒家。

 アリババの正体を、佐倉双葉は一体誰なのか。

 それを知る為、少しでも手掛かりを探す為、板前に取り繕って貰った寿司折りを手土産に、マスターの家へと押しかけた雪雫達。

 

 チャイムを鳴らしても反応は無く、留守かと思われたが、家の明かりが付いている事や玄関が開いたままになっている事から、確実に誰かは居ると確信。

 夏特有の突然の悪天候にも見舞われ、取り敢えず玄関まではお邪魔させて貰ったのだが、雪雫の言う通り、反応は得られなかった。

 

 

「ぶっ倒れたりしてねぇだろうな? マスター、そこそこ年いってんだろ?」

 

「ちょっと心配…。見に行った方が良くない?」

 

「妙、呼ぶ?」

 

「最悪の場合はそうね……」

 

 

 マナー違反、というか不法侵入。

 それを理解しつつも、やはり居る筈なのに反応が無いのは気掛かりで。

 

 

「お邪魔しまーす……」

 

 

 僅かにためらいを表しながらも、一同は靴を脱いで家へとあがる。

 

 

「…雰囲気あるなぁ」

 

「そこそこの築年数は経ってそうだしね」

 

 

 足を進める度に床からは軋む音が鳴り響き、外の天候もあってか灯りが付いているのにも関わらず、廊下は暗い。

 次第に雷鳴も勢いを増し、本格的にお化け屋敷のそれに雰囲気がなってきた、その時。

 

 

「ヒィ!? キャァァァァ!」

 

 

 轟音と共に家の明かりが落ちる。どうやら近くに雷が落ちたらしく、停電してしまった様だ。

 そして、タイミングを同じくして、家の奥からは甲高い悲鳴。勿論、雪雫達のものでは無い。

 

 

「悲鳴!? ねぇ、今の何!?」

 

「…知らない」

 

 

 立て続けに起きた異変に、真は怯えた様に声をあげ、雪雫の手を咄嗟に握る。

 

 

「一回、出よ? ね、帰ろ!?」

 

「何ビビってんだよ」

 

「び、ビビってないし!」

 

 

 真に煽られたのか、それとも元から彼女も怖がりなのか。

 杏も同じように声を震わせる。

 

 

「でも、誰かいる。若めの、女の子」

 

「ひょっとして、アリババ……フタバか?」

 

 

 雪雫の言う通り、明らかに中年の男性であるマスターの声では無い甲高い声が聞こえた。

 蓮達からすると、その少女の正体を暴きたいところだが、真と杏の様子を見るにそれも限界の様で。

 諦めて退散しようと、玄関の方へ。

 

 

「ねぇ…、このまま手、繋いでても良い?」

 

「ご自由に」

 

 

 余程怖いのか、真はやけに及び腰のまま、縋り付く様に彼女の手を握り続ける。

 普段は小さい雪雫の手が、今の真にとっては大きく、頼りがいのある様に感じられた。

 

 恐怖から歩幅が小さくなっている真に合わせて、ゆっくりゆっくりと、足を運んでいると

 

 

「………ん、気配」

 

 

 雪雫が背後に居る誰かの気配を感じ取る。

 

 

「え、何…? 雪雫、どう…したの!?」

 

「後ろに誰か居る」

 

「誰…、誰!?」

 

 

 咄嗟に後ろを振り向き、その誰かを探すが、姿は見えない。

 しかし、雪雫が冗談を言っている様にも思えない。

 

 

「……もうヤダ! 出る…!」

 

「………はぁ」

 

 

 雪雫の小さい身体にへばりつき、その拘束を強くする真。

 伝わる震えが、早く家から出ろっ。と言っている様で、取り敢えず彼女だけでも外へ連れ出そうとする。

 しかし。

 

 

「あ…、嘘……。腰、抜けた………」

 

 

 その肝心の真が力が抜けた様に座り込み、一切動かなくなってしまった。

 

 

「……これじゃあ、動けない」

 

「ご、ごめん……、ちょっと、、待って――――――」

 

 

 細い腰に手を回している真と、されるがままの雪雫。

 彼女は今、ショートパンツを履いており、真の怯える息遣いが、露出した太ももに掛かって、僅かにくすぐったさを感じていた、その時。

 

 

「……あ」

 

 

 背後には眼鏡を光らせた小柄な少女の姿――――

 

 

「きゃあああああああああああああ!!?!??」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいい!??!!?」

 

 

 少女と真の悲鳴が、家中に響く。

 

 

「……五月蠅い」

 

 

 それに挟まれた雪雫は、文句を言いつつも足にへばりついたままの真の頭を撫でていた。

 

 

「アリババ! フタバ!!」

 

 

 小動物の様に家の奥へと逃げて行った少女を、杏は必死に呼び止めるが、それも徒労に終わり、この場に残されたのは真の怯える息遣い。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! 助けておねえちゃん助けて――――」

 

「擽ったい」

 

 

 雪雫の太ももに顔を摺り寄せ、助けを懇願する真。

 彼女の動きに合わせて、髪が肌の上を滑り、非情にもどかしい感覚に雪雫は襲われる。

 

 

「大丈夫か、双葉!?」

 

「やべっ!」

 

 

 そうこうしている内に、玄関先から聞こえる馴染みの渋い声。

 どうやらマスターは本当に家を空けていたらしい。

 

 ガラッと扉が開き、焦った様子のマスターの姿が現れる。

 

 

「…あん? 誰だてめぇら!?」

 

 

 靴箱の上に置いてあった懐中電灯を咄嗟に手に取り、それを雪雫達へ向ける。

 

 

「ごめんなさいごめんなさい、助けて助けて助けておねえちゃん……!」

 

「私はおねえちゃんじゃない…」

 

 

 幼いその身体に抱き着き助けを乞う真と、そんな彼女の頭を撫でる雪雫。そして、それを見守る蓮達。

 

 

「……なにやってんの?」

 

 

 

 

 

 場所は変わってルブラン。

 

 あの後、マスターの家に確実に居た第三者…、佐倉双葉について尋ねた所、始めは言い渋っていたが、蓮達の真っ直ぐな視線を見て観念したように話し始めた。

 

 因みに、家に入った事については怒られなかった。マスター、優しい。

 

 

 佐倉双葉。 

 戸籍上のマスターの娘。つまりは血の繋がりの無い養子。

 

 元々、彼女の母親とは双葉が生まれる前からの付き合いらしく、仕事熱心な努力家で女手ひとつで育てていたらしい。

 父親が居ないながらも、娘と母親は仲睦まじく、極めて普通の親子だったらしい。

 

 そう、母親が自殺するまでは。

 双葉の目の前で車道に飛び込み、そのまま他界。

 

 1人残された双葉をマスターが引き取ることになったらしいが、やはり母親の死を目の前で目撃したというトラウマと、その自殺の原因が自分自身であるという思い込みから、他者との関りを拒絶。

 

 マスターに対してだけは、少しではあるものの心を開いていたらしいが、つい数か月ほど前から、幻覚や幻聴の症状に見舞われ、自室という狭い世界に閉じこもったままらしい。

 

 頭の回転が早い…、所謂天才気質らしく物事を捉える際の視点や完結の仕方が飛躍していて、マスターにも理解出来ない事が多く、最終的には時間が解決することを願って、今の状況になったらしい。

 

 

「何にも脅かされない環境、か」

 

 

 

 自分とは正反対、と雪雫は思った。

 

 片や他者から望まれて狭い世界に閉じこもっていた者。

 片や自ら狭い世界に閉じこもった者。

 

 真逆の立場ではあるものの、しかしながら、狭い世界の居心地良さ、というのも雪雫には分かる。

 ただただ無情に時間だけが過ぎていく停滞した世界。脅威も不安も無い完結した世界。

 

 

「……………」

 

 

 今の双葉に必要な事、とマスターは言っていた。

 そう話している彼の姿は、何処か納得がいっていないようにも見えたが……。

 

 

「ズケズケと立ち入っちゃって、悪い事をした……」

 

「虐待なんてぜってぇ無いな…」

 

 

 予想だにしていなかった事情に、雪雫達の顔は曇る。

 同時に、その表情に迷いも生まれていた。

 これを知った今、自分達がこれ以上踏み込んでいいのか、と。

 

 

「心を盗んでほしい理由は、きっと母親の事と関係あるんだろうね…」

 

「辛く、苦しい心を捨て去りたいという事か。…自分じゃどうにもならないんだろう」

 

「改心で、助かるのかな……」

 

「助ければ、俺達もメジエドに対抗出来るか?」

 

 

 そこは不確定だ。

 そもそも双葉を改心して、苦しみから解放される保証は無いし、取引が頓挫した以上、彼女が協力してくれるかも分からない。

 でも、それでも。

 

 

「メジエドとは関係無しに、放っておけない」

 

 

 強い意志を瞳に宿し、迷いの渦中に居る中、真っ先にそう言い放ったのは意外にも雪雫だった。

 それは旧知の仲だからか、それとも別に思う所があるのか。

 どちらにせよ、何かに突き動かされた様に、雪雫は静かにそう言った。

 

 

「それは、そうだけど…」

 

「…待てよ、そもそもパレスあんのか? 調べてみようぜ」

 

 

 竜司に促されるまま、蓮はイセカイナビを起動。

 最早見慣れたキーワードを入力する画面を開き、「佐倉惣治郎宅に住む佐倉双葉」と入力。

 

 突如、一同に何とも言えない感覚が襲う。

 それはメメントスやパレスに入る時の感覚そのもの。つまりは―――。

 

 

「あったぞ?」

 

「悪人じゃなくても、パレスは存在するの?」

 

「一応、仕組み的には人並外れた強い欲望…だから可能性はあるかも……」

 

「どーなんだ、モルガナ―――…いねぇな」

 

「さっきから見ないぞ」

 

 

 机の下、カウンターの裏、お手洗い。何処を探してもモルガナの姿は無い。

 

 

「マスターの家に入って、そのまま?」

 

「っぽいな…。ま、平気だろ、猫だし」

 

 

 まぁ仮にマスターや双葉に見つかったとしても、一般人から見ればただの猫。

 大事にはならない筈だ。

 それよりも―――。

 

 

「そろそろ解散すっか。終電近いし」

 

 

 大分夜も更け、普通の高校生であれば出歩く事も無い時間。

 今日はここらが潮時だろうと、皆机に置いた荷物を纏め始める。

 

 

「明日、学校で集会もあるしね」

 

「……え?」

 

「雪雫…、貴女聞いてなかったの?」

 

「……多分、ホームルーム中、寝てた」

 

「全くもう…」

 

 

 出来の悪い妹を叱る姉の様な素振りを見せる真。

 先程、佐倉宅で怯えていた人物とは別人の様だ、と雪雫は思った。

 

 

「集会…? なんだそれは?」

 

「メジエド騒動で怪盗団の人気が出て、それで秀尽が注目されてね。その注意喚起だって。ネットで勝手な発言して炎上しないようにって」

 

「だってよ、雪雫~。ダメだぞ、変な事言っちゃ」

 

「大丈夫、私投稿しないから」

 

「それはそれで雪ちゃんファンの心境的には寂しいんだけどね……」

 

「兎に角、今日はここで解散。祐介以外は、また明日学校でね」

 

 

 はーい、と心底面倒そうに返事する竜司と杏。

 折角の夏休みだと言うのに、学校に行かなければならないのは何とも不憫だ。

 

 

「雪雫もちゃんと来てね?」

 

「……朝起きれたら――――」

 

「来なさい」

 

「………はい」

 

 

 不憫だ。

 

 

 

 

 

「遅くなった」

 

 

 ルブランでの話し合いも終わり、早々にタクシーを拾った雪雫は、杏と真を家まで送った後、自身も帰路についた。

 因みに男性陣…、祐介と竜司にも声掛けたが、2人とも自分から断った。タクシーに乗り切れない…というのもあったが、どうやら気を使ってくれたらしい。

 そういう所は紳士的である。

 

 時間にしてはもう日付は変わっていて、こんなに遅くなったのは上京してから初めての事だった。

 

 

「あ、やっと帰ってきた~、不良少女!」

 

「……ただいま」

 

 

 家に入り、リビングに向かうと、そこには風呂から出たばかりであろうりせの姿。

 流石はアイドルと言うべき抜群のプロポーション、加えて上気した頬と水分を含んだ髪が色っぽい。

 

 

「もう、真ちゃんと一緒って聞いてたから心配はしてなかったけど……、雪ちゃん見た目は完全に小学生なんだしダメだよ? これ以上、遅くなっちゃ」

 

「………善処する」

 

 

 荷物を置き、着ていたシャツとポロシャツを脱ぐ。

 時間は遅いが、夏の暑さでベタついた肌を洗い流さないと寝るに寝られない。

 

 

「あ、お風呂? 湧いてますよ~、私の残り湯だけどっ!」

 

「気にしない」

 

 

 下着だけの姿になった雪雫は、床に置いた荷物を片付ける事無く、真っ直ぐ浴室へ。

 そういう所が部屋を散らかす所以なのだが、それを咎める者はここには居ない。

 

 タオルを手に取り、取り付けられたラックに着替えと共に置く。

 

 

「…………入ったんじゃないの?」

 

 

 下着を脱ごうと手を掛けていた雪雫だったが、その手を止め、ジトっとした目で何故かここまで追従してきた人物を見つめる。

 バスタオルにくるまれていた身体は惜しみなく露出され、まるで今から一緒に入りますといった様子だ。

 

 

「えへへ、背中流そうと思って」

 

 

 手をワキワキとさせ、怪しい笑みを浮かべるりせに、若干の警戒心が生まれる。

 りせが決まってこう言う時は、直接手で洗うという意味だ。それは雪雫にとって、気持ち的にも落ち着かないし、もどかしいもの。

 兎に角、精神衛生上、よろしくないのだ。

 

 

「りせ、くすぐったいから、嫌……」

 

「まぁまぁ、そう言わずに! 私に雪ちゃんの柔肌を堪能させなさーい!!」

 

 

 結局、雪雫は碌に抵抗もせず、りせのされるがまま。

 ほぼ全身を彼女の手で洗われ、浴室から出る頃には謎の疲労感が身体を襲っていた。

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