PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
7月26日 火曜日 晴れ
「ごめん、雪雫ちゃん…連絡遅くなって。仕事が立て込んでて……」
電話越しに申し訳無さそうな声が響く。
その声は女性にしては僅かに低く、男性からすると高い…どっちとも取れる様な中性的な声だ。
そんな相手の声を聞き、雪雫は懐かしむ様に、嬉しそうに口角を上げる。
「ん、平気。直斗、忙しいの知ってるから」
『そう言って貰えると助かるよ…。この前までは最近、ちょっとね…』
白鐘直斗。
過去に探偵王子と名付けられ、人気を博していたりせと同い年の女性。
今は探偵業は程々に、とある企業の非常勤職員として働いているらしいが、詳しい事は雪雫も知らない。
「今、時間大丈夫?」
『うん。大丈夫だよ』
そう言う直斗だが、電話の奥にはなにやら関西弁(京都弁の様にも聞こえる)の少女の声が慌ただしそうに響いている。
「直斗、電話してへんで手伝ってやー!」と。
「本当に大丈夫…?」
『……ごめん。手短にお願い出来るかな?』
やはり忙しいらしい。
世間話は程々に、雪雫は本題を切り出す。
それは勿論、今怪盗団を悩ましている相手「メジエド」について。
『うん、メジエドか…。勿論知ってる。世界規模のハッカー集団。今、怪盗団に宣戦布告している奴らだね』
「…えっと、怪盗団、学校の友達が好きで……。それで毎日その話題するから、気になって………」
しどろもどろに、たどたどしく。雪雫は何とか建前を作る。
『……そうか。怪盗団の最初の事件は秀尽学園…。雪雫ちゃん…いや、友達が気にするのも無理もない』
「それで……、仮に怪盗団がそういう分野では素人だとして…、対応って出来るのかな……って」
『今回の件のメジエドが集団ならば、対処は難しいと思う。でも、個人なら…どうだろうね』
直斗の含みのある物言いに、雪雫は首を傾げる。
「組織的な行動、じゃないの?」
『メジエドのHPの英語の声明文……。どうも日本人特有の癖みたいなものが見られるんだ』
「癖?」
『うまく説明出来無いんだけど…、その言葉のチョイスというか、表現というか……。日本人の僕らからすると読みやすい文なんだけど…』
雪雫はふと、思い出す。
確かに割とすんなり頭に入り、言葉を選べたな、と。
「同じ日本人が作った、ってこと?」
『その可能性が高いと思う。それに、メジエドに入れるレベルのハッカー…となると国内でも限られてくる。つまり組織的に動ける程、人員が居ないってこと』
「………じゃあその道の人が居れば、十分対応は可能…?」
『そうだね。怪盗団がどう動くかはともかく、彼らが言うXデーは起きないんじゃないかな。僕の推理通りなら、美鶴氏の抱える人員だけで、対処が可能――――』
『直斗! サボるのも大概にしぃや!』
直斗の言葉を遮って、遠くで声を上げていた少女の声がよりハッキリ聞こえる。
こうして電話している彼女を呼びに来たのだろう。
『別にサボってませんよ!』
『また、そんなん言うて! ウチの大事な妹に問題が起きたらどないすんねん!?』
「……妹?」
何処か聞き覚えがある様な…無い様な……。
そんな少女の声に、雪雫は再び首を傾げる。
『と、とにかく! 雪雫ちゃんが危惧しているXデーは怪盗団が何もしなくても防がれ―――』
「直斗? ――――切れた」
何時も冷静な彼女とは一変して焦った様な声。
そんな声も途中で途切れ、雪雫の耳に届くのは一定の感覚で鳴る電子音。
「やっぱり忙しそう…」
そんな彼女に「また稲羽で」とメッセージを送った雪雫は、早々に荷物を纏め、自宅を後にした。
向かう先は勿論――――。
▼
「だって」
最早、怪盗団のアジトと化したルブランの2Fの蓮の自室。
雪雫は、先程聞いた直斗の推理を、そのまま皆に話す。
「嘘が下手だな…」と思った以外は、蓮も特に引っ掛かる事は無く、真と祐介も得心がいった様に頷いていた。
「なるほどね…。相手は日本人のハッカーで、個人である可能性が高い…」
「そうなると別の線も浮かび上がってくるな」
「というと?」
「そのハッカーが、メジエドを騙っている可能性があるってことね」
ああ。と納得が行った様子で、杏と竜司も頷きを返したその時、蓮のスマホが鳴った。
アリババ……双葉からのメッセージだ。
『その程度の相手なら、改心してくれたら対処しよう』
そして、間髪入れずに
『しかし勘違いするなよ。これは先の取引とは関係ない。そこに居る雪雫の為だ』
「……ツンデレか?」
「私?」
やはり盗聴しているのだろう。
こっちの反応にリアルタイムでメッセージが送られてくる。
つまり、蓮にはプライバシーが存在しない。
『カレンダー見たぞ。今回の件で実家に帰る予定をずらしたそうじゃないか』
「……人の予定を勝手に覗き見るのは感心しない」
『何を今更』
つまり雪雫を予定通りに実家に帰す為に、双葉は協力してくれる。雪雫はその見返りとして双葉を改心する。
怪盗団とでは無くあくまで、雪雫個人と取引をしているのだ。
「……何にせよ、双葉は今回の件に協力してくれる…。そう取って良いのよね?」
「その様だな……。何故、雪雫に固執するかはわからないが…」
「………」
双葉の思惑は分からないが、結果的には後顧の憂いを絶つ事が出来た怪盗団。
話題はメジエドの件からフタバ・パレスの事へ。
「しかし、今回のパレスには驚いたぜ…。見渡す限り、全部砂漠とはな…」
「確かに、今までのパレスって、歪んでいる中心地の外に出ちゃえば、割とフツーの街だったよね」
「おかげで鴨志田ん時なんか、いつパレスに入ったか、最初マジでわかんなかったしな」
「中心地の外だってパレスだからな…。認知から生まれた景色には違いない」
「それだけ、双葉の認知が歪んでる……ってこと…」
雪雫の言葉に、モルガナは「ああ」と肯定を返す。
「言い換えれば、認知が歪んでない場所なら、パレス内にも現実と寸分違わない街がある……ってことよね?」
「確かに、その主が観察力があって頭のキレる奴なら、そうかもな」
真とモルガナの言葉を聞き、祐介が興味深そうに首を縦に振る。
「現実と酷似したイセカイか…。一度、ゆっくり歩いてみたいものだ…」
「おめぇは何時も絵の事ばかりだな……」
双葉のパレス内のピラミッドは佐倉宅。
城下町がその周りの四軒茶屋の街並みだとしたら、あの砂漠は他者を遠ざけたいという気持ちの表れ、もしくは乾いた心そのものか。
雪雫がふと考えていると、蓮が本題を切り出した。
つまり、パレス潜入の時間だ。
「気を引き締めて行こう」
リーダーの言葉に各々頷きを返し、昨日に引き続き一同はパレスへと潜り込む。
▼
『ご苦労。もう来ないと思ったが』
ピラミッドに入ると出迎える様に現れた双葉のシャドウ。
一見、友好的な様にも見えるが、服装が怪盗服のままな辺り、歓迎されていないのは間違いない。
『奥へ進みたいんだろ? 取引しないか』
スカルがギャーギャーと昨日の事についての文句を言っているが、フタバはそれを気にも留めずに取引を持ち掛ける。
「取引…?」
『近くに町がある。そこに居る盗賊に盗まれた物を取り返して欲しい』
・
・
・
フタバ・パレス 砂漠の街
「ウィッチ! ここから二区画先の路地裏! そっちに行ったぞ!」
「ん」
地上に居るモナが、市街地の屋根の上を翔けるウィッチに向かって声を上げる。
フタバが言っていた盗賊。
それを追い詰めていた怪盗団だったが、残りの1人がその包囲を突破し、逃げ出したのだ。
そんな中、1人、建物の上に待機し、見張っていたウィッチがすかさず逃げた盗賊を追う。
段差を飛び越え、建物から建物へ。
まるでアクション映画のワンシーンの様に、銃を構えながら屋上を翔け、モナが言っていた盗賊の元へ。
「発見」
盗賊を見つけてから、ウィッチがそれを処理するまでの流れは非常にスムーズだった。
建物から飛び降りてから地面に着地するまでの僅かな間に、銃を構え、引き金を2回引く。
放たれた凶弾の1つは盗賊の武器を持つ手へ。もう1発は足へ。
武器を落とし、身体のバランスを崩した盗賊は、首を垂れる様に首を差し出し。
「終わり」
そこに向かって大鎌を一振り。
実にあっけない幕切れだ。
「相変わらずおっかねぇ~」
「ケガは無い?」
「ん」
何時も通り調子良さそうに笑みを作るスカルと、過保護なクイーンに短く言葉を返し、盗賊が落としたモノをジョーカーに差し出す。
「これは―――」
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・
・
「行ってきたぜ。盗まれたモノも取り返してきてやったぞ」
『ご苦労。じゃあ、それをお前達にやる』
「…え、ちょ…大事だから取り返すんじゃないの?」
『それは地図だ。この墓の地図。盗賊が墓を荒らす為に盗んでいった』
相変わらずこっちの話を聞いているのか聞いていないのか。
どっちとも取れる発言に、一同は戸惑う。
「随分、チグハグ」
ウィッチが言う事も最もで、今までの悪人達であれば、パレス内のシャドウは漏れなく全員、手下と化していた。
しかし、ここではどうだ。
主人は守ろうともせず、果てには盗みを行い、好き勝手やらせている始末。
余程、興味が無いのか…、それとも自分でも制御が出来ない程、安定していないのか―――。
『とにかくそれをやる。奥まで……あっ』
途端、ピラミッド全体が揺れた。
まるで、何かの装置が起動したように。
「何だ?」
フォックスの疑問に答える事は無く、フタバは文字通り宙に消え、残ったのは何もしらない怪盗団の面々。
「え…、双葉ちゃん消え――――」
その時、文字通り足場が無くなった。
「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ウィッチ達の足元の床は落とし穴の様にパタリと開き、そのまま重力に従って怪盗団は落ちていく。
「きゃあああああ!」
「うおおおお!?」
落とし穴にしては長すぎる浮遊時間。
このまま地面に叩きつけられてしまうのではないか。
その考えが過ぎり、皆は身体に襲うであろう衝撃に備えていたが、それは杞憂に終わる。
「クっ、これは……!」
「っ!? きゃっ……、いや、まっ……て―――」
しかし、最悪のケースは免れたものの、ピンチには変わりなく。
一同のクッション替わりになったのは砂の海。入ったもの全てを飲み込む流砂だ。
「引き込まれるぞ…! オマエら、全力で泳げ!!」
「~~っ!!!!!」
怪盗団を丸ごと飲み込もうとする砂の渦。
約一名以外、モナの言う通り、必死に砂の荒波に抗うべく身体を酷使する。
「ちょ…、雪雫!? 雪雫が溺れてる!!!?」
クイーンの悲鳴に釣られて真ん中に視線を向けると、そこにあったのはトレードマークの帽子と助けを求める様に掲げられた白い細腕。
「た、たすけっ!? ~~っ」
「雪ちゃん!?」
・
・
・
帽子ひっくり返し、コートを脱ぎ、入り込んだ砂を取り除くウィッチ。
「雪ちゃん…、大丈夫?」
どこぞの映画のサイボーグの様に沈み行くウィッチを、総動員で助けだし、流砂から抜け出した一同。
「…………死ぬかと思った」
ちょこんと通路の端に座り込んだ彼女は、疲れきった様子で呟いた。
その剥き出しの肩は僅かに震えており、如実に流砂が怖かったのだと訴えてくる。
「雪雫、泳げないのね……」
「………泳げる必要性を感じないだけ」
「泳げないんだろ?」
「……………………うん」
拗ねた様に視線を逸らすウィッチ。
(そういえば、海の話の時も微妙な表情していたな)
そんな少女を見ながら、ジョーカーはぼんやりとルブランでの光景を思い浮かべていた。
▼
「酷い目にあった…」
身体にこびり付いた砂を流し、湯船に浸かった雪雫は1人呟く。
完全に安心しきっていた。
だって最初に放り出されたのが、海とは真逆の砂漠だったから。
まさか砂の海を泳ぐことになるとは。
「…………」
ふと、雪雫は自分の身体には大きすぎる浴槽の淵に手を付き、胸を下にして足を伸ばす。
プールの端っこで良くやる、バタ足の練習の時の姿勢だ。
雪雫は思い出す。
実家のだだっ広い温泉を。
姉である雪子はよくそこで泳いでいたな、と。
「なんで同じ環境で育ったのに私は泳げない?」
昔、雪子に教わった様に練習しようかと思ったが、彼女が居るならともかく、1人でやっても虚しいだけだ。
雪雫は諦めた様に溜息を吐いて、再び姿勢を戻す。
「………みんなと、海…。どうしよう。水着も無いし」
杏や竜司の反応を見る限り、海に行くのは確定事項の様だが、正直自分では海で遊ぶことの本懐も遂げられない。
個人的な好きな遊びとしては砂でお城を作って、それが波に崩される光景をひたすら眺めるというもあるが――――。
「……それを楽しめるの、私だけ…」
行きたいけど、行きたくない。
そんな矛盾を抱えながら、雪雫は湯船に口まで沈め、ぶくぶくと遊び始める。
今、怪盗団が直面している問題と比べると些細なものなのだが、雪雫にとってはこれも大きな問題なのだ。
「……はぁ」
少女の溜息が浴室内に木霊した。
直斗は基本的には敬語キャラですが
本編で菜々子には普通の喋り方してたので
歳下に対しては柔らかいだろうという妄想