PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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46:Non Aggression Area.

 

 

 

8月2日 火曜日 晴れ

 

 

 

 架空の街で起こる、売れないコメディアンの悲しくも狂気に満ちた物語。

 

 

「…………」

 

 

 自分の信じたもの全てに裏切られ、優しい道化師は世界を嘲笑う。

 

 

「………っ」

 

 

 ビクリ、と隣に座る小さな少女の肩が跳ねた。

 多分、銃声に驚いたのだろう。

 

 今丁度、道化師がテレビカメラの前で憧れの存在だった筈の男を射殺したところだ。

 静かな語りから、段々と高ぶる様に語気が強くなり、最後には感情のまま引き金を引く。そんなシーンだ。

 

 物語も終盤。

 道化師の狂気は街の住民達を巻き込み、暴動へと発展。そんな中でも道化師は心底楽しそうに乾いた笑いを響かせていた。

 

 その後も二転三転とシーンが変わるが、結局この物語が何処に行き着いたのか、明確にシーンとしては描写されなかった。 

 受け手の考え方に任せる、という事か。

 それとも、道化師の事は俺達に理解出来ない、という事か。

 

 

 賛同出来ないながらも、深く考えさせられる内容だった。

 

 

知識が磨かれた!

 

 

 様な気がした。

 

 

 

 

 

 渋谷の駅に向かって、白髪の少女は踊る様に街を歩く。

 ウェーブがかった髪を風に靡かせ、肌が良く映える黒いワンピースの裾を揺らして。

 10人が見れば10人が振り向くであろうその容姿。

 

 時折こちらに振り返っては「はやく」と催促する彼女は、周囲の目からは恋人の様に見えるのだろうか。

 事実、その気が無いとは分かりつつも、やはり美少女に催促されるというのは悪く無いもので、こちらにそう思わせる彼女は実に魅力的だ。

 しかし実際は、彼女に限ってそんなことはあり得ない。

 なぜなら。

 

 

「りせのライブDVD、買えなくなっちゃう」

 

 

 この少女には既に思いを寄せる女性が居るのだから。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「~♪」

 

 

 目の前の少女、天城雪雫は上機嫌そうに鼻歌を口ずさみながら、30cmはあるであろう巨大なパフェを頬張る。

 毎度毎度、その小さな身体の何処に入っているのか。

 

 

「買えて良かったな」

 

「うん。DVDとBlu-ray、それぞれ初回盤と通常版1つずつ。ばっちし」

 

 

 雪雫が常々観たいと言っていた映画を観た後、彼女の買い物に付き合った俺は、駅近くのファミレスに休憩がてら立ち寄った。

 目の前に座る少女の顔には、満足気な笑みが浮かんでいる。

 

 

「予約しなかったのか?」

 

「した。でも1個ずつしか買えなかった…。それじゃあダメ。再生用と保管用、あとは使用用…揃えないと」

 

「し、使用用…? 再生用とは違うのか?」

 

「りせが居ない時に手元に置いたり、枕の下に入れたりするの」

 

「そ、そうか……」

 

 

 薄々勘付いていたが、どうも久慈川りせが絡むと、この少女は頭のネジが何処かへ吹き飛んでしまうらしい。

 普段はあまり喋らないのに、彼女が絡めば饒舌になったり、表情が豊かになったり……。

 初めて会った時は想像もしなかった。

 

 

「……そうだ、蓮」

 

「ん?」

 

「この前のお返しだけど…」

 

 

 この前、というのは一緒に明治神宮に行った時の事を言っているのだろう。

 雪雫に付き合う代わりに、彼女は身体の使い方を教える…そういう取引になっていた筈だ。

 映画と買い物が先行していたが、今日の本来の目的はこっちの方だ。

 

 

「遮蔽物が無くて一本道。そんな通路にシャドウが一体。どう奇襲する?」

 

「どうって言っても…」

 

 

 オブジェクトなどの隠れる場所があれば、そこに潜みシャドウが近づいてきたところを奇襲……何時ものパターンだ。

 しかし、それが叶わない場合、コッソリ近づいたとしても結局は足音で気付かれ、奇襲を仕掛けるという目的は失敗する。

 そうなれば始まるのはお互い馬鹿正直に向き合っての戦闘。

 

 何時も通りの流れならばそうなる、が。

 

 

「そんなの勿体ない。蓮は身軽なんだから、もっと立体的に動かないと」

 

 

 至極真面目な顔で、雪雫は言う。

 

 

「えーっと、それは要するに…」

 

「壁とか使わないと」

 

 

 つまり俺も雪雫の様に、壁や天井を足場と見立て、どこぞの立体起動何たらの様に三次元的な動きをしろ、という事か。

 なるほど、確かにそれが出来れば、奇襲も容易だろう。それが相手に気付かれていても、だ。

 無茶を言うな。

 

 

「出来ない?」

 

「寧ろ何で出来ると思った?」

 

 

 どういう理屈かは不明だが、ペルソナ使いはその能力が発現した時点で、身体機能が飛躍的に上昇する。

 それは俺達怪盗団の様子を見れば一目瞭然だろう。

 

 しかしそれを差し引いても、目の前の少女はおかしい。もう殆ど人外の域だ。

 

 

「むむ…」

 

 

 困った様に眉を顰め、暫く黙り込む雪雫。

 何時の間にかに空っぽになっていたパフェの容器に伝う水滴を眺めていると、「あっ」と思い付いた様に彼女は口を開いた。

 

 

「生身で無理なら道具、使おう」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 場所は変わって、メメントスの第一階層。

 

 古今東西、あらゆる怪盗が、ダークヒーローが、用いたというワイヤ―。

 摩天楼を飛び回る時に使う、謎に丈夫なアレだ。

 それを銃口から射出出来る様に改造された、所謂グラップルガン。

 

 そんな代物が、今俺の手の中に。

 

 

「空中での身体の使い方は教える」

 

「………ありがとう」

 

 

 雪雫は言った。

 

 

始点と終点が決まっていれば蓮なら立体的に動ける

 

 

 と。

 

 

「………」

 

 

 中には5m程の2人分位までの体重なら支えられそうな頑丈なワイヤー。引き金を引けばそれが勢いよく、真っ直ぐ射出され、巻き取りのスイッチを押せばとんでもない勢いで収納される。

 つまり、遠くのモノを引き寄せたり、距離を詰める事が出来るという事だ。

 

 

(どういう構造になっているんだろう…)

 

 

 気にはなるが、それを考えた所で時間の無駄だろう。

 雪雫が言うには、この手元の銃はバイトマンが実際に劇中に使っていた銃のレプリカだと言う。

 つまり、バイトマンの銃からは丈夫なワイヤーが射出される。という認知を利用したイセカイ限定の機能だ。実際の中身は何の変哲も無いただの模造品。

 

 

(ん、まてよ…)

 

 

 という事は、手首に機械のブレスレットを付けて、薬指と中指を折り畳んで手を付き出せば、赤と青の蜘蛛男の様に飛び回れるという事だろうか。

 イセカイ限定ではあるが……

 

 是非とも、試してみたいものである。

 

 

「使い方は分かった?」

 

 

 手元の新兵器に視線を送っていると、怪盗服の雪雫がこちらを覗き込んでいた。

 

 

「ああ。…まぁボタン押すだけだしな」

 

「そう、良かった。じゃあ…」

 

 

 雪雫がピンと指を伸ばし、眼前に広がる闇に視線をやる。

 入り乱れる線路の上に、名前の通り闇に蠢くシャドウの姿……。

 

 

「実践、あるのみ」

 

「マジか」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 8月6日 土曜日 晴れ

 

 

 

 広大な砂漠の中に荘厳に佇むピラミッド。

 その見た目とは裏腹に、やけに空調の効いたその内部のとある通路。

 

 

「斬る」

 

 

 目の前のシャドウに向かって、ウィッチは駆け出した。

 相も変わらず、怪盗団の中でも群を抜いて俊敏なその様子。姿勢を落とし、影すらも置いて行ってしまいそうなその速度で、大鎌を構えながら突き進む―――。

 

 

「……ん」

 

 

 が、彼女はふと、その足を止めた。

 自身を追い越す一つの影が見えたからだ。

 

 僅かに光る細い線をなぞる様に、その影はウィッチを超える速度でシャドウに迫り、得意のナイフで一閃。

 戦闘、と呼ぶ程のイベントは起きず、パレスに蠢く化け物は虚空に消えた。

 

 

「やる~!ジョーカーかっこいい!」

 

 

 その様子を見ていたパンサーが感激した様子で駆け寄る。

 

 

「何処で手に入れたんだよ、それ? お前ばっかずりぃぞ!」

 

 

 パンサーに続いて、スカルがジョーカーの脇腹を肘で突きながら、目を輝かせる。

 完全におもちゃを欲しがる子どものそれである。

 

 

「いや、腕の良い先生から貰ったんだ」

 

 

 それを横で聞いていたウィッチは、皆の後ろで満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 ピラミッドの入口からフタバが居るであろう最奥まで伸びる階段。

 構造的にはとても単純で、イレギュラーが起きなければ簡単に彼女の元に辿り付けるのだが、そう上手くいかないのが世の常である。

 

 他人との接触を拒む様に、突如一本道を塞ぐ様に現れた、文字通りの心の壁。

 それを壊す事も迂回する事も叶わない怪盗団は、防壁のセキュリティを解除する為にピラミッドの隅から隅まで探索する。

 

 シャドウを退け、時折立ちふさがるゲームのパズルの様なセキュリティを掻い潜り、その果てに辿り着いたのは、フタバ自身のトラウマそのものだった。

 

 

 最初は母親が亡くなった直後と思われるシーン。

 傷心の子どもを大人達が囲い、遺書を読み上げていた。

 

 「産まなければ良かった」「鬱陶しかった」

 

 彼女の存在を根底から否定する、まさに凶器そのもの。

 

 

 その次に相対したのは、双葉に目の前で母親らしき女性が車道に飛び込む光景。

 

 

 それらのシーンを最後まで見終われば、奥へと続く道は開かれる。

 しかし、パレスの最奥に近づくにつれ、怪盗団の面々の心には深く思い鉛のようなものが引っ掛かっていた。

 

 誰もが納得したし、理解も出来たのだ。

 双葉が外界を拒絶し、世界を否定し、自身の命すらも投げ捨てようとするその気持ちが。

 一部始終を聞いただけでもコレなのだから、本人の苦しみは想像を絶するだろう、と。

 

 誰もが呆然と項垂れる中、天城雪雫は1人、悔しそうに歯を噛みしめ、その小さな拳に力を込める。

 

 

(親切にしてくれるその裏で…、こんな思いを……)

 

 

 連絡は常に向こうから一方的に行われ、プライベートの話をする様な間柄でも無い。

 しかしながら、この中で一番彼女と交流の長い雪雫は、過去の自身を戒める。

 

 何故気付けなかったのか、と。

 

 しかし、いくら過去を振り返ろうと、今の現実が変わる筈は無く。

 沈んだ思考を振り落とす様に首を振り、その赤い瞳に決意を宿らせる。

 

 自分自身の事よりも、他人である雪雫の活動を支援したお人好しの少女。

 

 

「今度は、私が…私達が助ける」

 

 

 静かな、しかしながら力強い呟きに、怪盗団の面々はそれぞれ頷きを返した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

8月8日 月曜日 曇り

 

 

 

 全ての防壁を突破した怪盗団は、遂にピラミッドの中心部…現実で言う所の双葉の自室の前まで辿り着いた、が……。

 

 

「…立入禁止、か……」

 

 

 最後の扉には『DO NOT ENTER』とでかでかと記載された巨大なプレート。

 

 

「……………」

 

 

 いくら触っても反応しないその扉を、ウィッチは唐突に銃口を向けて一発、二発、三発……。

 しかし、扉には傷一つ付かず、床には潰れた弾丸の転がる音だけが響く。

 

 

「………頑丈…」

 

「時々、ウィッチってこぇーよな?」

 

「……否定出来ない、カモ………」

 

 

 彼女的には、人力で開かないのなら道具ならどうだろう。と試すつもりで取った行動だが、スカル達から見れば無表情で淡々と銃を撃つその姿はただただ怖い。

 ただでさえ双葉の事で覚悟が決まっているのだから、余計にそう思えた。

 

 

「ここまでして開かないとなると…、これは現実のフタバの『絶対に他人は迎え入れない』という認知の表れだろうな」

 

「扉のプレートが現実のものと一致する。間違いなく、この先が双葉の部屋だろう」

 

 

 マスターですら入れて貰えないと言っていた、絶対不可侵領域。

 彼女の改心を行うには、そこに踏み入れる必要があるという事になる。

 

 

「じゃあ一度、現実に戻るしかないね」

 

「…そうね……」

 

 

 ウィッチが言った様に、ここで実力行使で突破しようとしても、現実の双葉の認知が変わる筈は無い。

 現実の彼女に、怪盗団のメンバーが部屋に入った、と認知してもらうことが必須なのだ。

 

 

「なら、次にここに来るのは決行日ね」

 

「どうして? ルート確保まだ終わって無いよ?」

 

「…現実の双葉が、そう何度も部屋に入れてくれるとは思えない。一度部屋に入って、ここが開いたとしても…、日が経てばまた閉じる可能性だってある……。より確実に熟すのなら―――」

 

「速攻で片を付ける必要がある、って事だな!」

 

「……ん」

 

 

 オタカラの姿は確認出来ず、この先に何が待ち受けているかも分からない現状。

 一抹の不安が残る状況にも関わらず、それぞれの顔には勝気な様子が浮かんでいる。

 

 絶対に助ける。

 

 口に出さずとも、メンバーそれぞれの心は同じ方向へ向いていた。

  

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