PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
「
閉じていた目をパチリと開き、目の前の銀髪の少女を見つめながら、金髪の少女は声を漏らす。
そんな彼女を見て、やや呆れ気味に溜息を吐く銀髪の少女。
「ほれ、これで分かったやろ? この嬢ちゃんは敵やないって」
「
「……言語能力の方は帰ったら調整し直しやな…………」
「ノン、これで十分。十二分に、滞りなく、作戦の遂行には問題ありません」
「いや、こっちがめっさ聞き取り辛いねん」
姉さん。と呼ばれた銀髪の少女が「データを同期する」と言ってからほんの数分。電池が切れた様に沈黙していた金髪の少女は、目覚めたと思った途端、淡々と語ったのは雪雫のパーソナルデータの一部。
見た目だけは可憐な少女の姿をしている2人だが、本人達が言う様に、人工的に造られた存在…アンドロイドというのは間違い無いのだろう。
「いやぁ堪忍なぁ。この子、この間起きたばっかりでな。中途半端なまま来てしもたもんだから……」
「はぁ……」
「最低限の事はインストールしたんやけどな? 何分、嬢ちゃんに境遇が特殊過ぎるさかい」
「………特殊…? 私──「ラビちゃん! ストーップクマ!!」
自身の常識とはかけ離れている2人の存在に、若干頭の中に宇宙が広がっていた雪雫。今一状況が呑み込めない中、意味深な少女の物言いに聞き返すが、その様子を横で見ていたクマが割って入る。
「何やクマ?」
「セツちゃんはあの時の事を憶えて無いクマ! ここで教えちゃったりしたらぁ………。あ、あとが怖いクマよぉ…」
ヒソヒソと。首を傾げる雪雫に背を向けて、話し込む2人。
流石の雪雫も明らかに不自然な様子に怪訝そうに眉を顰める。
「……あの…」
何か隠しています。そんな様子がヒシヒシと伝わる中、その真相を暴こうと、縮こまる二つの背中に向かって一歩踏み出した。その時。
「……………」
雪雫の目の前に割って入る金髪の少女。
その青い瞳は、真っ直ぐ雪雫に注がれている。
いくら少女の形を模していようと、相手は女子高校生の平均身長を大きく下回る雪雫。
美人の真顔は怖いと良く言うが、こうして上から見下ろされるのは中々の威圧感であり、雪雫も少し居心地悪そうに身じろぐ。
「……えっと…何か?」
永遠にも感じる一瞬の沈黙を破り、慎重に口を開いた雪雫に対して差し出されたの少女の手。前腕部の金属部分が異彩を放っている。
「対シャドウ特別制圧兵装七式。アイギス、とお呼びください」
「……?」
「改めての自己紹介です。先程の状況では、お互いそれどころでは無かったので」
「……はぁ…」
そう言う彼女を、雪雫は改めて観察する。
青い瞳は真っ直ぐこちらに注がれ、その佇まいは正に人間そのもの。表情は変わらず無表情ではあるが、どうやら敵意は無い様に感じられる。
……最も、アンドロイドに敵意というものが存在するかは微妙ではあるが。
「さぁ、貴女も手を。シェイクハンド、しましょう。仲直りの……いえ、この表現は適切では無いですね。──協力関係を築くにあたって、必要な儀式であります」
「…協力?」
「此度の事象の早期解決の為には、貴女の力が必要だ、ということです」
「…………お互い、知ってることを共有しましょう。話はそれから」
▼
「対シャドウ特別制圧兵装五式……?」
「せや! 名前はラビリス。まぁ、名前の通りアイギスの旧世代機……人間で言う所のお姉ちゃんや」
雪雫、アイギス。それと先程まで内緒話をしていたクマと銀髪の少女を加えた4人。
場所はテレビ局のエントランスから変わって、ブラウン管テレビが積み上げられたオブジェが中央に位置する空間へ。
聞けば、ここはこの世界における安全地帯とか。
「はい。人類にとっての脅威「シャドウ」に対する対抗手段……。つまりはシャドウの殲滅を目的に製造されたペルソナを宿したアンドロイド……。それが私達であります」
雪雫の疑問に、銀髪の少女「ラビリス」と金髪の少女「アイギス」が矢継に応じる。
「さっき言っていたシャドウワーカーと言うのは?」
「世界各地のシャドウによって起こされる案件を対処する為の特殊部隊…という所でしょうか。米国でいう所のアベンジャーズ、MIB……と思って頂ければ」
「アイギス…。本部でやけに部屋に引き籠っていると思ったら………」
「はい。映画鑑賞…。非常に有意義な時間を過ごせました。現代のトレンドを抑える…起きたばかりの私にとってこれも重要な任務です」
なんて素敵な任務だろう。
ちょっと…いや、非常にうらやましい。
「話が逸れたな。まぁコイツが言った様に、そのけったいな部隊から派遣されたのが私ら姉妹という訳や」
「部隊…ということは、他にも来てる?」
「その問いに関しては半分肯定、半分否定…と言ったところでしょうか。詳細はシークレットですので、お伝え出来かねますが、他の人員も解決に尽力しております。しかし、こうして現地入りしている調査、及び戦闘員はアイギス、ラビリスの2名のみ」
「ふーん」
毛先をクルクルと指で遊びながら、納得いった様ないっていない様な、曖昧な様子の雪雫は、中央のテレビの山に腰掛ける。
「……クマは?」
クマ。
突如として雪雫の前に現れた謎の着ぐるみ、もしくは金髪の少年。
彼女の認識としては、雪子やりぜ達の友達。容姿端麗と言っていい姿をしていながらも、時折着ぐるみを着て市内を歩き回る変わり者……。その程度だ。
個人的な関りとしても、特筆するほど多くはない。
そんなクマが、現実世界の住民である筈の彼が、今こうしてイセカイに。しかも着ぐるみを着た状態で。
正直、訳が分からない。
「彼はシャドウワーカーの正式なメンバーではありません。言うなれば現地の協力員。この八十稲羽に纏わる怪異…マヨナカテレビを良く知り、ペルソナ能力も持ち合わせた──」
「……ちょ、ちょっと待って…。クマがペルソナ能力者?」
大きな眼を丸くしてクマに視線を送る。
視線の先のクマは、誇らしげに胸を張り、得意気な笑みを浮かべている。
「セツチャン…今まで黙っててソーリークマ…。そう…実は………。セツチャンが良く知っている姿は世を忍ぶ仮の姿……。本当のクマはこのプリチーな姿クマ…。そして……!」
バーンっと後ろで効果音がなりそうな勢いで短い両腕を天に掲げるクマ。
「正義の味方クマ!!」
・
・
・
「整理すると、クマは元々人間では無い。私が良く知るクマは後付けで生やした(?)姿で、本来のクマはこの着ぐるみのクマ…」
「んまぁ、平たく言えばそうクマね。付け加えるとぉ……能力者としてはセツちゃんよりもセ・ン・パ・イクマよ」
明らかに疲れた様子で目の前の3人を改めて眺める。
アンドロイド2体、元シャドウの着ぐるみ。もう頭がこんがらがってきた。
「ペルソナって人間以外にも使えるんだ……」
「非常に少ない例ではありますが。まぁ何事も例外は付きものであります」
「ウチらが言っても説得力無いけどなー……。まぁそういうこっちゃ。シャドウワーカーには私達以外にも犬とかもおるで」
「犬………」
「はい。コロマルさんと言いまして。非常に愛らしく頼もしい仲間であります」
「そしてクマにとってのライバル……! まさしく現代に蘇ったムサシとコジロウ……!」
「…………これ以上、情報増やさないで…。頭痛くなってきた…」
どうやら自分が思っていたよりもペルソナ能力というのは奥が深いらしい。覚醒して以降、当たり前の様に行使していた力だったが、まだまだ自分の知らない事は沢山ありそうだ。
是非とも、目の前のセンパイ達にご教授願いたい……。まぁそれは追々でもいいだろう。
「あの~……」
「何、クマ?」
顎に手を添え、1人俯いて思考を巡らしていると、雪雫の耳にクマの遠慮がちな声が届く。
視線を送れば短い手を挙げていた。
「セツちゃんの事を聞いても良いクマ? まずは、そのぉ~…。セクシーな恰好から?」
「私も気になっていました。コスプレ、というやつでしょうか。非常に興味深いであります」
「これは──」
雪雫は語る。3人からの好奇な視線に晒されながらも。
怪盗服のこと。改心のこと。メメントスの事。仲間達の事は全て伏せて。
「なるほどなー。この不肖、アイギス。色々と合点がいきました」
「人の心に直接干渉……確かにそれなら納得やわ」
「加えてパレスとメメントス…。それらを案内するナビ…。セツチャン1人だけがあっちの世界に入れたのも納得クマね~」
「私1人だけ……? ペルソナ使いなら誰でも入れるんじゃ───」
「あー…。それなら楽だったんだけどなぁ…それがそうもいかないんや……」
ラビリスは苦虫を潰した様な顔で頭を掻く。
「勿論セツチャンの言う通りマヨナカテレビはペルソナ持ってれば誰でも入れるクマよー。そう、マヨナカテレビは」
「先程のマヨナカテレビ局なる施設は、その名を冠していながらも全くの別物の様なんです」
「今クマたちが居るこの場所…。ジュネスの家電コーナーのテレビから繋がるこの場所ね。ここは間違いなくマヨナカテレビクマ。でもぉ…弱ったことにあっちの方。つまりさっきのテレビ局…」
クマが指差す方へ雪雫は視線を移す。
テレビ局に繋がる……。つまりは先程自分達が歩いてきた一本道。
「何故かクマ達、向こうに行けないクマねぇ」
「え? でも現に……」
「はい。私が貴女の元まで先行し、2人はその後を追った。スタートは勿論、安全地帯であるこの場所……。しかし、それが出来たのは貴女がイセカイに侵入したからです」
「異世界の中に生まれたイセカイ…とでも言うんかな。兎も角、2つの世界の境界線……そこに結界みたいなものが張られとって侵入出来ひん」
「その境界を見張っていた時、セツチャンがこっちに入ってきたクマ」
「貴女がこっちに入って来た時、その境界線が僅かに揺らぎました。穏やかな湖面に波紋を生んだ小石の様に。まさに、一石が投じられた…であります」
「そん時に私達も入ったんよ。まぁ、何処かのアホが先走りおったが…」
「その節に関しては申し訳ありません。しかし、通常手段では入れない現状、今回の件の首謀者…もしくはその仲間かと思いまして。早期解決を目指した次第であります」
「いや、それはもう大丈夫…」
それにしても、なるほど。何かの要素が邪魔をして入れない、か。
「何か入れない理由とかは?」
「私達の方も自分達に何らかの原因、もしくは不具合があるのではないかと、そう考えていましたが…先程の貴女の証言でそれは間違っていると確信しました」
「クマ達だから入れない。では無く、そもそも入る手段が無かったクマね。セツチャン、ちょーっちイセカイナビっていうの見せてもらっても良き?」
「ナビ……? 良いけど、電子機器は基本的に動かない…」
そう言いながら、雪雫はショートパンツのポケットから自身のスマホを取り出す。
パレスやメメントス、使えた試しが無かった為、ここでも使えないものだろうと思い込んでいたが──。
「……? ナビだけ使える」
「そう……やっぱりねぇい…」
「これでハッキリしましたね。あちらの世界に入る為には、このアプリが必要……。つまり選ばれた者にしか門は叩けない」
「?? ペルソナ使いなら皆持ってる筈じゃ──」
東京に居る仲間達の事を思い返す。怪盗団、つまり雪雫の良く知るペルソナ使い達。彼らは例外なく、それぞれのスマホにこのアプリがインストールされていた筈だが…。
「いえ、ペルソナ使いだからと言って、そのアプリを有している訳ではありません。現に私達、シャドウワーカーのペルソナ使い達は、渋谷の地下……えぇと…メメントスと言いましたか。その存在を確認していながらも手を出せずにいます。つまり、入れないのです。今までに無い事例です」
「今まで……じゃあペルソナ使いなら誰でも干渉出来たってこと?」
「はい。そうですね。マヨナカテレビは現実でテレビ画面に手を伸ばせば。残る1つは──。まぁ詳細は省きますが、そうですね。ある一定の時間を過ぎれば知覚出来た。と言っておきましょう」
「まぁ細かい話は今はええの。つまり、嬢ちゃんの持ってるナビ……うちらは持ってへんの。アイギス、解析頼めるか?」
「I copy」
テレビに腰掛ける雪雫に近寄り、その小さな手に自身の手を添える。
「………………………………」
長い沈黙。
アイギスはスマホに視線を落としたまま微動だにせず、手を添えられた雪雫が少し気まずさを覚えた頃。
「なるほど」
「何か分かったクマ?」
「………いいえ。仕組みも、原理も全てが不明。ただ分かるのは、これが彼女の言う通りイセカイへの侵入出来る機能がある事のみ。雪雫さん、これを何処で?」
「…何処って言われても…。気づいたら入っていた事しか……」
「持ち運び可能なイセカイへのポータル? しかも出所も不明……。なんや、随分きな臭いなぁ」
「ミッチャンのトコでも作れ無いのに……。セツちゃん、とんでもないオーバーでテクノロジーなもの持ってるクマねぇ………」
なるほど。ナビを持っている=ペルソナ使いというのは成り立たないのか。
彼らの話聞くまでは知る由も無かったが、話を聞く限りは私達の方が異端の様だ。
「つまり、マヨナカテレビ局にアクセスする手段を持たない我々は、自由に行き来出来る貴女の存在が必要、という訳です。ご理解、頂けましたか?」
「とてもミステリアスで怪しーのは分かるクマよ。でもアイチャンもラビチャンもとてもいい子。2人とも今回の異変を解決したいと思ってくれてるクマ……。だからセツチャン、クマからもお願い!」
「嬢ちゃんが知り得ない事もこっちは把握しとる。……まぁ組織の強みやな。悪い話でも無い筈や」
3人が揃って雪雫を見つめる。助けを求める目だ。
状況的には、寧ろ彼女の方が協力を仰ぎたい立場なのだが、先程の交戦による負い目もあるのだろう。
「こっちとしても断る理由が無い」
雪雫は腰を上げ、アイギスの目の前へ。
約30cmほど高い彼女の顔を見上げながら、手を差し出す。
「?」
「シェイクハンド。仲間の証、なんでしょう?」