PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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57:An impossible desire.

 

 

『ナビゲーションを開始します』

 

 

 雪雫にとってしてみれば馴れた、しかし他3人にとっては初めてのイセカイナビでの侵入。

 揺らいでいた視界も正常に戻っていき、目の前に聳え立つ【マヨナカテレビ局】。見た目は現実の東京のお台場にあるかの有名なテレビ局を模した様な物。まぁ、テレビ局と聞いて真っ先に思い浮かぶのが球体を伴った建物なのだから、そういうことなんだろう。

 

 

(……意外に小さい。田舎町とは言え、稲羽の人達の意思の結晶体がこんなもの? 本当に?)

 

 

 同じような存在のメメントスはモルガナカーが無ければ網羅出来無いほどの広さを持っているのにも関わらず、マヨナカテレビ局は徒歩でも…何なら急げば一日で探索し終わりそうな程の控えめな大きさだ。

 

 

「ナビを介しての侵入…。貴重な体験でした。感覚的にはテレビに入る時と近しい物を感じます」

 

「アイギス」

 

 

 建物を見上げ考え込んでいると、アイギスやや興奮気味に雪雫に話しかける。

 

 

「……昨日も申していた様に、こっちに入れば自動的にその恰好になるのですね」

 

「個人の意識の中…つまりパーソナルスペースへの侵入……。その賊に対しての警戒心の表れ…。やったか?」

 

「自動的に服が切り替わるのはそう…。この服自体は私達の気持ちの表れ」

 

「ほほぅ。つまりぃ、セツチャンは反骨精神旺盛な現代の若者的な? 夜の校舎の窓ガラスを壊して回る系クマ? オヨヨヨー…。あんなに純粋だったセツチャンがアウトロー路線に変更しちゃったクマよぉ…」

 

「………大体合ってるけど、言い方に悪意感じる」

 

 

 演技がかった振る舞いをするクマにはそれ以上の反応を示さず、雪雫はカツカツとヒールで地面を叩きながらテレビ局の入口の方へ。

 

 

「……シャドウの気配する。今日は居るみたい」

 

「なんやぁ? 昨日はおらんかったちゅーのに…。休みだったんかな?」

 

「いえ、居る必要が無かったのでしょう。ここに侵入出来る存在など居なかったのですから…昨日までは。しかし雪雫さん。貴女はシャドウの気配を感知する機能も搭載されているんですね。アイギス、ビックリであります」

 

「搭載って……。ただ何となく分かるだけ。私のペルソナの能力か何かでしょう」

 

 

 アイギスと共に過ごしていると、彼女はれっきとした人間だと錯覚してしまいそうになるが、こういう1つ1つの言い回しがそうではないと改めて認識させられる。

 ラビリス曰く、固い言い回しや無機質な表現は言語バグらしく、調整すれば直るらしいが……。

 そう言った意味では、アイギスよりは洗練されていないものの、ラビリスの方がより人間味を感じる。

 

 

「んで? 取り敢えずここにカチコミ…でええんやな?」

 

「ここは人の意思の集合体。これを生み出した下手人が居るのなら…、手掛かりもここにある筈」

 

「クマ…クマは現実のアダッチーを取り押さえた方が良い気がするケド……」

 

「それが叶わなかったから私達はここに居るのです。彼の姿が確認出来るのは事件の日のみ…。それ以外の目撃情報はありません。エンカウントにランダム性がある不安要素と固定シンボルの不安要素……。どちらを先に潰すかは明白でしょう。それに──」

 

「……足立透犯人説は正直薄い、と思う」

 

 

 仮に足立透が犯人だとして、事件当日の再現を繰り返すメリットが彼にあるのだろうか?

 ましてや、わざわざ住人の認識を改変してまで。むしろ、それが可能ならば、事件を再現するのではなく、事件そのものを忘れさせた方が彼にとってリターンが大きい。

 それに事件の日にのみ姿を現すなど、真相を知っている人間からすると、まるで私が犯人ですと言っている様にしか見えない。

 要するに、釣り針が大きすぎるのだ。

 

 

「なぁるほどねぇい……。セツチャンは中々名探偵クマね!」

 

「ま、可能性が低いというだけであって、犯人の可能性も残っていますが」

 

「優先度的には後回しで良い……ちゅう訳やな」

 

 

 ここがパレスやメメントスと本質的に同じであるなら、それを形作る核がある筈。

 推理はそこに辿り着いた後でも出来るだろう。情報が少ない現状、今は少しでも進まないと。

 

 

「よぉし、皆準備は良いクマね……? よし、突撃クマ~!!!」

 

 

 

 

 

 

「そぉ……らっ!!」

 

 

 巨大な斧が地面に勢い良く叩きつけられる。

 

 

「逃がさへんで!」

 

 

 身の丈程の得物を片手で軽々と振り回し、押し寄せるシャドウの波を蹴散らしていく。

 

 

「流石は鋼鉄の生徒会長。面白い位にシャドウが吹っ飛んでいくであります」

 

「何それ?」

 

「姉さんの通り名です、ウィッチ。ちなみに私は全身凶器の心無き天使」

 

「…それ、褒められてるの?」

 

 

 やけにウキウキ顔で語るアイギス。

 潜入して間もなく、シャドウの群れと接敵した一同だったが、ラビリスの圧倒的な暴力の前にアイギスとウィッチの出番は無く、少し離れた所で1人と1体の少女は話に花を咲かせていた。

 

 

「私自身は、私自身の戦闘能力を評価されている様に感じて嬉しく思っているであります」

 

「……ふぅん。その感性は独特かも」

 

 

 せいやっ!

 ラビリスの声と、斧によって繰り出される破壊音をBGMに、なおも会話を続ける2人。

 因みに補足しておくとサボっている訳では無い。単純にラビリスの攻撃に巻き込まれる危険が伴う為、戦闘に参加出来無いのだ。

 

 

「貴女のもありますよ。ええと、確か──」

 

『ハイハイ、そこのカワイ子ちゃん2人組~! 仲良く話している場合じゃ無いクマよ~!』

 

「すまん、なんぼか逃した!」

 

 

 2人の声に促されて先方に目をやれば、こちらに向かってくるシャドウ達。

 

 

「問題ありません」

 

「こっちで対処する」

 

 

 まるで合わせたかの様なタイミングで、銃口をシャドウ達に向けるアイギスとウィッチ。

 

 

「「Fire」」

 

 

 その正確無比な狙撃は一体も撃ち漏らす事無く捉え、悉くを殲滅した。

 

 

『ふぃ~、お疲れクマ~!! 即席チームの割には良い連携だったクマね~』

 

「どこがや」

 

 

 満足気に呟くクマと、先程の戦闘など無かったことと言わんばかりの涼しい顔のアイギスとウィッチ。そして僅かに怒気を含んだ顔のラビリス。

 

 

「まずクマ。なにしれっとオペレーターポジションにおるん? あの流れは4人全員でカチコムところやろ!」

 

『チッチッチ…ラビちゃん、甘いクマね……まるでクリスマスの次の日の朝に食べる食べきれなかったホールケーキの様に甘いクマ……』

 

「なんやその例え」

 

『ここはシャドウウォーカーはおろか、このクマですら把握しきれてない未知の領域……。皆を裏からサポートする椅子の人…すなわちクマの存在が必要不可欠クマ! け、決してラビチャン達の攻撃に巻き込まれたく無いとか思ってないクマよ~。ヨホホホホホ』

 

 

 誤魔化す様な下手糞な口笛が聞こえる。最早それは音色を宿してなく、ただの空気を裂く音。

 冷汗掻きながら視線を逸らすクマの様子が目に浮かぶ。

 

 

「……まぁええわ。そこの2人! なに私達は関係無いですわ~。みたいな顔してつったとるんや! 近距離をウチに任すんはまぁええわ…。適材適所ちゅーやつやからな。ただ…。仲良く談笑すんのはちゃうやろ? なぁ?」

 

「──ノン。これに関しては理由があります。姉さん。この場に居る誰よりも戦闘経験が無く、幼い子どもは誰でしょう。そう、ここに居る雪雫さん…もといウィッチです。そんな彼女を先陣切って戦わせるのはとても忍びない……。私の鉄の胸が張り裂けてしまうほどに…」

 

「それと支援しないのはちゃう気が…」

 

「まぁまぁ、続きを聞いてください。ましてやここは何時襲われるか分からない危険地帯…。常に張り詰めていては逆に普段のパフォーマンスは発揮されないでしょう…。そこで私は場を和ます為にですね………」

 

「そうか。アイギスの言い分はようわかった。それで、ウィッチ。実際は?」

 

「名状しがたいヌメヌメ触手が気持ち悪かった」

 

「いてこますぞホンマ」

 

 

 

 

 

八十稲羽 商店街

 

 

 

 程良い疲労感。

 

 何度かの戦闘を繰り返し、その度に連携を確かめて。そうして辿り着いたテレビ局の最上階。

 迷宮の核と言えば一番上でしょう。数ある作品がそれを証明しています。と謎の統計学を持ち出したアイギスに従って、道中のスタジオを全スルー。一先ずは目的地を目指し猪突猛進、した結果。

 

 

(──何も無かった。核らしいものも。犯人の手掛かりに繋がるモノも…何一つ)

 

 

 今日行った場所に何もないとすると、やはりあるのはあの不可思議なスタジオか。

 異様な商店街。雪子姫の城。熱気立つ大浴場。特出し劇場丸久座。ボイドクエスト。秘密結社改造ラボ。天上楽土。

 

 フロアマップに記されたスタジオ名。

 

 

(丸久…。雪子姫……)

 

 

 テレビに入れられ、シャドウに襲われた結果が電線吊りの死体。それが過去の殺人事件のトリック。

 同時期に発生していた連続失踪事件に関しても、マヨナカテレビが関係していたという。マヨナカテレビに映った人間が次の被害者だと勘違いした生田目が、その人間を守る為にマヨナカテレビに入れていた…。いや、彼視点では保護していた、か。

 

 

(マップに記されたスタジオの数と行方不明者の数が一致する。つまり───)

 

「こーんにち……はっ!!!」

 

「ひゃっ!?」

 

 

 途端、肩を掴まれ耳元で叫ばれた雪雫は自身の小さい肩をビクンと震わし、勢い良く後ろを振り向く。

 

 

「お、おお~。まさかそこまでビックリするとは……」

 

 

 そこには僅かに申し訳無さそうな笑みを浮かべて頭を掻く芳澤かすみ。

 

 

「いやぁ、どうせ気付かれてるだろうなぁってダメ元でやったんだけどぉ…。いやはや可愛い反応でしたねぇ。何か考え事でもしてた?」

 

「……バカ」

 

 

 ごめんごめん。と軽く手を合わせて形だけの謝罪を繰り返すかすみ。雪雫は知っている。経験則で知っている。悪戯好きの彼女の事だ。謝ってはいるが反省していないだろうと。

 

 

「あーんもう、拗ねないでぇ…。お茶ご馳走するから~!」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ジュネス。

 八十稲羽を始めとする郊外や、都市の心臓部から僅かに離れたベッドタウンなどの比較的敷地を持て余している場所に存在する大型ショッピング施設。

 娯楽の少ないこの土地の人々にとってすれば、数少ないレジャー施設として賑わい、お洒落な洋服屋さんや喫茶店などの専門店も多く立ち並ぶ。そんな場所の一角。

 

 

「ここは変わらないね~」

 

「ん、昔からある」

 

 

 彼女達が小学生の時から姿を変えないレトロな雰囲気が漂う喫茶店。その奥の席。

 頼んだココアとコーヒーをそれぞれ口へ運び、感傷に浸る。

 

 

「………それで?」

 

「へ?」

 

 

 感傷に浸っているとふと雪雫から紡がれた言葉。

 突然の事に、今度はかすみの方が素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「何か話があるんじゃないの?」

 

「───敵わないなぁ」

 

 

 普段の振る舞いから忘れそうになるが、基本的に天城雪雫という少女は観察眼が秀でており、人の心の動きに機敏である。

 そしてそれは、数年ぶりに再会した幼馴染にも遺憾無く発揮された。

 芳澤かすみという少女が普段から活発で朗らかな性格だとしても、無理矢理テンションを上げている様な言い回しと行動。それを雪雫は見逃さなかった。

 

 

「ねぇ、雪雫。スランプって経験したことある?」

 

「…………」

 

「知っての通り私は小学校卒業と同時にこの町を出た。新体操で世界を獲りたくて。都内の私立に入って、評判のクラブチームに入って、良いコーチと環境に恵まれて。順風満帆って言っても良かった。色んな大会で賞を取った。スポーツ特待生で進学も決まった。でも……」

 

「最近になって、急に成果を残せなくなった?」

 

「……うん、そうなの」

 

 

 そういうかすみの顔にはすっかり影が差し、今にも泣きそうな表情でその華奢な肩を震わす。

 

 

「はじめは皆励ましてくれた。そりゃそうだよね。スポーツの世界に絶対はないもの。次こそは。たまたま調子が悪かっただけ。みんな優しい言葉を掛けてくれた。でも…それも長くは続かなかった」

 

「……」

 

「それもそうだよね。チームメイトからしたら私は彼女達の活躍を奪う邪魔者。学校からしてみれば特待制度を食い潰す寄生虫」

 

「む、そんなことは」

 

「無い。って言ってくれるんでしょ。うん、ありがとう。でもね、事実としてそうなの。私は成果を学校側に献上してブランドイメージと知名度を上げる。その見返りに破格の待遇で在籍させる。win-winの関係で無ければ成り立たない。ブランドの広告タレントって人気が落ちれば降ろされるでしょ? そういうものなの。実際はね」

 

「そんなの、かすみには関係無い。周りの都合」

 

「そう、割り切れたら、良かったんだけど…。日に日にね、結果を聞いて落胆する周りの目と、励ましの薄っぺらい言葉が嫌になってきちゃって。だから、八十稲羽に戻ってきたんだ。夏休みの間、しっかり療養して、何か気持ちが入れ替わる切っ掛けがあれば良いなって。そういうしがらみから離れた、この故郷で」

 

 

 確かに精神的な療養を目的にするならば、ここ以上の適切な場所は無いだろう。

 生まれ育った土地であり、彼女の親戚や両親が住み、尚且つ新体操選手としての芳澤かすみをあまり知らない。

 しかし、ただこうして過ごしているだけでは、恐らく何の解決にもならないだろう。もっと踏み込んだ内容…根本的なものを解決しなければ、東京に戻っても彼女の環境は変わらないだろう。

 

 

「……何か、その。スランプに陥った原因とか、心当たりあるの?」

 

 

 そう問われた時、かすみの肩がより大きく震えた。

 まるで、お化けに怯える子どもか、罰を待つ罪人の様に。

 

 

「──それは」

 

 

 目を伏せ、かすみは視線を外す。唇がわなわなと震え、呼吸は次第に荒くなっていく。

 ──タイミングがまずかったか。

 

 

「……まぁ、無理に話さなくていい。ただ───」

 

「すみ、れ。私の妹の……。すみれ、って居たでしょう?」

 

「…………」

 

「死んだの。私…の、目の前で、車に…轢かれて、ね」

 

「…そう、なの」

 

 

 薄々予想はしていた。

 可能性の1つとして、一番最悪なケースとして頭の片隅にこの考えがあった。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 こういう時、何て声を掛けたらいいか。

 この場に蓮や真が居たならば、きっと気の利いた言葉を掛ける事が出来ただろう。しかし、生憎彼らは居ない。

 

 

「すみれ。私と一緒に世界を獲ろうと、同じ夢を掲げて走ってきた戦友でもあり半身。……嬉しかったよ。雪雫が私を見た時、すみれって声を掛けてくれて。日が経つにつれて薄れていく彼女の面影が、まだ世界に残っているんだって」

 

「………もしかして、その髪は」

 

「うん、染めたんだ。すみれが死んで、しばらく経った後に。私だけは、彼女を忘れないようにって」

 

「支え、なんだ」

 

「そう。私が世界を目指す上で、私が私である為の支え。……でも、それが無くなっちゃったから。そこからなんだ。思う様に身体が動かせなくなったの。丸喜先生言ってたなー。精神的な支えは決して1つじゃないって。ああ、代わりを見つけるとかそういう話じゃないよ」

 

 

 そう呟くかすみは瞳を潤わせながらも、ボロボロな笑みを浮かべて雪雫の手を優しく手に取った。

 自身よりもはるかに小さく、記憶にある子どもの頃と何一つ変わらない。そんな手をかすみは自身の頬へと摺り寄せ、雪雫の瞳を見つめて確かにそう言った。

 

 

「雪雫がその支えに、なってくれてもいいんだよ」

 

 

と。

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