PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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67:Go to netherworld.

 

 

 

『お互いの本音をぶつけた後の抱擁……。かー! 青い春……ってやつクマね~!』

 

「よっ。お疲れさん」

 

 

 ふと、茶化す様な愛嬌のある声と、なまりの強い少女の声が2人の少女へ注がれた。

 

 

「無事に終わったみたいや───」

 

「はい、お二人さん。こちらを向いて───ぱしゃり。脳内フォルダへの保存コンプリート。帰還後、すぐに現像し、天田さんへ───」

 

「………話の腰を折らんでくれるか? アイギス」

 

 

 ラビリスとその妹であるアイギス。そしてこの場には居ないが、こちらの様子を見ているであろうクマ。

 今回の件における雪雫の仲間達。または雰囲気ブレイカーたち。

 唐突に始まった姉妹によるボケとツッコミの応酬を前にポカンとしながらも、かすみと雪雫は抱擁を解いていく。

 

 

「塔の上で見た時よりもスッキリとした顔してるな。よかったよかった。憑き物、取れたかいな、嬢ちゃん?」

 

「………え、えぇ…。貴女達は…確か………」

 

「成り行きで雪雫さんのパーティーに加わったアンドロイド…とだけ言っておきましょう。一から説明すると、長いので」

 

『まぁ、要するにぃ。セツチャンをリーダーとして結成された最強チーム、的なやつクマ~!』

 

「…リーダーになった憶えは無い。それで、見つかった?」

 

 

 雪雫の問いに首を振る2人。

 しかしながら、結果とは裏腹にその顔に落胆の様子は無い。

 

 察するに、核そのものは見つけられていないが、それに繋がるモノは見つけたのだろう。

 

 

「……それらしいものは何も…。ただ」

 

「不思議の国へ続く穴は見つけた、かもな」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 雪雫とかすみの戦いは、苛烈を極めた。

 周りへの配慮や遠慮など関係無し。自身の持ちうる力を全て振るい、文字通り全身全霊で衝突した。

 形を保っていたモノは瓦礫と化し、元より瓦礫だったものは文字通り消えた。崩壊した町という体裁を保っていたこの空間は、最早今やただの瓦礫の山。

 

 しかしながら、そんな状況下に置かれながらも、嵐など無かった様にありのままの姿で残っている場所があった。

 元の世界では商店街の中原に位置し、雪雫やかすみもよく知っている神聖な場所。

 

 

「辰姫神社……」

 

「はい。雪雫さん達の戦闘の余波を受けながらも、この町で唯一その形を維持している場所です」

 

「怪しいやろ? 何かあります~って言っている様なもんや」

 

 

 瓦礫の山の中に1つポツンと佇む神社。空とスタジオ全体の赤々しさが相まって、薄気味悪い雰囲気をただ寄せている。

 

 

「んで、実際どうなんや? 嬢ちゃん、何か知ってるやろ」

 

 

 ラビリスの赤い瞳が僅かに戸惑うかすみを捉える。

 彼女の視線につられて、アイギスと雪雫も目の前の鳥居からかすみの方へ。

  

 

「………それは──」

 

 

 僅かに戸惑いを見せたかすみだったが、それもわずか。次第にその戸惑いは決心の色へと変わっていき、言葉としてそれを紡ごうとした。

 そんな時

 

 

君から語る必要は無いよ

 

 

 と、男の声が響いた。 

 

 

「クマさん!」

 

『ハイヨー! 言われなくてもスキャンしてるクマよ!』

 

 

 周囲を見渡しても、物陰に目を凝らしても、声の主らしい存在は見当たらない。

 

 

『──エマージェンシーエマージェンシー! ミンナの後ろからニンゲンの反応! 鳥居の中クマ!!!!』

 

 

 クマの警告と同時、何かがひび割れる音が響いた。

 

 

「っ!」

 

 

 空間だ。何もない筈の空間に亀裂が走っている。鳥居の、丁度中央辺り。

 段々とその亀裂は広がり、空間は文字通り削げ落ちていく。

 

 

「その顔を見るに、治療はもう必要ないみたいだね。とてもいい傾向だ」

 

 

 聞き取りやすく優し気な声音。声の情報だけでも、その人物の人柄が大方は感じ取れる様な、それほどの声。

 

 

「………その声は…」

 

 

 そしてこの声の主を、天城雪雫は知っている。

 

 

「やぁ、数日ぶりだね。天城さん」

 

 

 雪雫達の前に現れた男の声は数日前に出会った頃と何も変わらない。

 

 

「……丸喜、拓人…」

 

 

 しかし本当に数日前の彼と目の前に立っている彼は果たして同一人物なのだろうか。

 ボサボサだった髪はきっちりと後ろに纏められ、だらしない印象を受けた無精髭も綺麗に剃られている。そして何より違うのがその目だ。その口調とは裏腹に、その瞳の奥には強い決意と積み重ねられた激情が見て取れた。

 

 

「………どうして…」

 

 

 分からない。

 天城雪雫は知らない。丸喜拓人という人間を。

 故に、分からない。

 

 何故、彼がこの場所に居るのか。

 何故、彼がこの事件に関わっているのか。

 

 

「どうして……か。うん、そうだな。有り体で言うならば、楽園を作るため…とでも言っておこうかな」

 

「何を言って───」

 

「なるほど。認知世界…いえ、世界そのものに干渉し、現実を意のままに書き換える。一介の学生に過ぎないかすみさんが此度の超常現象を何故引き起こせたか…、常々疑問に思っていましたが……」

 

「ま、アンタが関わっているなら納得やな。丸喜拓人、その名前、しっかり聞き覚えがあるで」

 

「………流石は()()()()()()、と言った所かな」

 

 

 まぁいい。と丸喜は肩を竦めた。

 

 

「君達の…、いや君の言い分は良く分かっている。さっきの戦いを見ていたからね」

 

 

 彼は自身の眼鏡を人差し指で支えながら雪雫に視線を送る。

 

 

「賛同してもらおうとは思っていない。ただ───」

 

「もう…、やめましょうよ…。先生……」

 

「…芳澤さん……」

 

「こんなの、間違っています。嘘で塗り固めた楽園なんて、虚しいだけ、です。だから───!」

 

「現実に向き合え。そう言うんだね、芳澤さん。……ダメなんだよ、それじゃあ。辛い事に向き合うのは簡単な話じゃない。誰もが当たり前に出来る事では無いんだ。君だってそうだったろう? たまたま雪雫さんが居たから、正面から諭してくれたから向き合えた。だけどね、芳澤さん。全員が全員、君の様に良い友人を持っている訳でも、強い精神を持っている訳でも無い。この世界は無慈悲な程に不平等だ。今のシステムのままでは救いは平等に与えられない。だから作り変えるんだ、そのシステムごと。僕にはそれをやり遂げる覚悟と、力がある」

 

 

 身を翻し、丸喜は虚空へと歩みを進める。

 

 

「君が立ち直れたのは大変喜ばしい。必要の無い治療は毒だからね。──だけど、それが僕の歩みを止める理由になる訳では無い。救いを求める人は沢山居る、それは今も、そしてこの先の未来にも。君達は祝福されて生まれてきた。本来、苦しむ必要は無いんだ。……この先で待っているよ。この世界の最果て。人々の意思の終着駅。どうか道中、よく考えて欲しい。そして結論を僕に聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

『クマ~! 一方的に喋るだけ喋って……! 結局最後は自分の元までカモンなんて…、ラスボス気取りもいい加減にしろクマ!』

 

「まぁラスボスなのは間違ってないやろ、真犯人やし」

 

『アダッチーもそうだったけど、ハンニンっていうのは何処までも身勝手クマ!!』

 

 

 過去の事件の出来事を重ねてか、憤慨するクマの声をBGMに、鳥居をペタペタと触る雪雫。 

 

 

「待ってるって言っていたけど、どうやって行けば………」

 

 

 何にかボタンでもあるのか。

 そう思い鳥居周りを調べる雪雫に、「そうじゃないよ」とかすみの声がかかる。

 

 

「勾玉、持ってるでしょ? 7個。カラフルなやつ。それが鍵」

 

「勾玉……」

 

 

 ポケットから取り出した色取り取りの句珠。

 手の平に収まる程度のサイズのそれは、キラキラと光を反射させている。

 

 

「これをどうすれば───わっ」

 

 

 かすみが答えるより前に、雪雫の疑問は解消された。

 鳥居を前にした瞬間、手の平の勾玉は一人でに鳥居に吸い込まれていき、件の空間にヒビを入れていく。まるで常世と幽世を繋ぎとめる楔の様に。

 次第にひび割れはハラハラと削ぎ落ちて行き、真っ暗な虚空が生まれた。

 

 

「ねっ?」

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「ええんやな?」

 

「……はい…」

 

「アイツから見たら、アンタは裏切り者やで?」

 

「分かっています。それでも、止めないと。私はもう、自分を、妹を……、そして友達を無くしたく無いんです」

 

「……なら、ええわ」

 

 

 確かな決意を秘めたかすみの力強い言葉を聞いたラビリスは満足気に頷く。

 

 

「オールオッケーですか? 姉さん」

 

「うん。待たせてすまんな」

 

 

 ラビリスなりの確認だったのだろう。

 先程まで敵対していた少女だ。無理も無い。

 芳澤かすみが、本当に背中を預ける味方か否か。

 

 

「雪雫さんも良いですね?」

 

「問題無い。どの道、ここで逃げても向こうの勝ち。なら、正面からぶつかる方が良い」

 

「ウィ。その意思、確かに」

 

 

 アイギスとラビリス…、特にアイギスにとって、この手の戦いは初めてでは無い。文字通り、世界の行く末を懸けた正真正銘の戦い。

 シャドウワーカーという特殊部隊に所属する2人にとっては仕事の一貫に過ぎない。

 

 しかし、雪雫とかすみにとっては?

 

 ついこの間までは普通の学生で、それでいて未だ未成熟の子ども。

 だから確認をしなければならなかった。

 何も知らない子ども達に対して、真実を隠す様な真似はしたくなかったから。

 

 

「………行こう」

 

 

 

 

 

 ある記憶を見た。

 何の変哲も無い、何処にでも居る様な普通の男の記憶。

 

 

留美……

 

 

 とある病室。

 男の目の前にはベッドに横たわり、瞳を閉じたままの女が居た。

 

 死んでは居ないのだろう。

 微かにその女の口元から、空気の漏れる音が聞こえるのだから。

 しかし、女は男の呼び掛けに応える素振りは見せない。

 

 

僕は、どうしたら……

 

 

 そんな男の独り言だけが、病室に木霊した。

 

 

 

 

 

 

「───ここは」

 

 

 最早そこは人々の意思を反映したマヨナカテレビのそれとはかけ離れていた。

 床に敷き詰められたタイル。一定の感覚で道を覆う鳥居。果てが見えない下り坂。

 

 紅い紅い。目に入る色、全てが血のように鮮やかだ。

 

 

「…………」

 

 

 僅かに煽られる根源的な恐怖心、そして何処か懐かしさも感じる不思議な空間。

 なるほど、人々の意思の果て、というのも間違いでは無いのだろう。

 

 

「先生は、このずっと先」

 

 

 かすみが果ての見えない道を指し示す。

 相変わらず、目に入るのは紅ばかりで底は見えない。

 まるで黄泉の国へ続く廻廊だ。

 

 

「…進む前に1つ、確認したい」

 

「?」

 

「丸喜拓人、2人は彼の事を知ってるの? そういう口振りだった」

 

 

 あー…、そういえばそんな事言ったなぁ…。とぼんやりと言いながらラビリスはアイギスに視線を送る。

 代わりに説明してくれ。

 そういう彼女の意図が見て取れたアイギスは、溜息を零した後、口を開き始めた。

 

 

「直接知っている訳ではありません。ただ、データとして、シャドウワーカーに……いえ、大元の組織に記録されていたのものを──」

 

「桐条グループ?」

 

「……秘密事項だったのですが、もう隠すのも限界ですね。……そうです。常々、桐条は人々の生命を脅かすシャドウを研究し、対策を講じてきました。詳細は省きますが、その結果として私達の様な制圧兵器やシャドウワーカーなどの特殊部隊が結果として生まれ、当然シャドウの巣窟であるイセカイ…マヨナカテレビや認知世界の監視も怠りませんでした。しかし、前者は兎も角、後者に関しては先日も申した通り、私達に干渉する手段は無いのが現状。そこで打開案を講じる為、出て来たのが」

 

「先生の、名前……」

 

「正確には彼が書いた過去の論文、ですね。認知訶学についての」

 

「!」

 

 

 認知訶学。

 双葉のお母さんが研究し、命を落とすきっかけにすらなった──。

 そんな研究を、丸喜も?

 

 

「彼が学生時代に書いたものの様です。内容としては荒唐無稽で数段理論を飛ばして書いてありますが、実際のイセカイを見る限り、的を射ている部分も多い。当時の桐条は認知訶学の研究にもある程度出資していた様ですね。そこに彼も含まれていたのでしょう」

 

「それで論文が…。当時はっていうことは、今はしてない?」

 

「……ある日を境にピタリと支援を止めていますね。蜥蜴の尻尾切りか、はたまた研究所では無かったのか……。今の私達に知る由もありませんが………。ただ1つ言える事は、彼は間違いなく、この分野においてのスペシャリストであり、此度の事件は彼以外に起こせるものは居ない、というころです」

 

 

 

 

 

 

 ある記憶を見た。

 それは絶望を知った男の記憶だった。

 

 男は女を救いたかった。

 大好きな家族を殺され、精神を崩壊させてしまった哀れな女を。

 

 そして同時にこうも思った。

 女の様な被害者が二度と生まれない世界にしたい、と。

 

 その為の糸口は男が研究している分野にあった。

 最もそれは当時の男からしても荒唐無稽な話であり、妄言と捉えられても致し方ないものだった。

 けれども、その妄言が真実であるならば───。

 

 日の締めくくりとして、その日あった事を女に報告することは男にとっての唯一の楽しみと言っても過言じゃなかった。

 もしかしたら自身の話が切っ掛けで、壊れた精神が正常に治るかもしれない。また彼女の声を聞く事が出来るかもしれない。

 そんな淡い期待が、男を病室へ赴かせた。

 

 その日の男は歓喜で胸がいっぱいだった。

 自分のしている研究に進展があったのだ、無理も無い。

 当然、その事を女に報告した。

 そしてそれが全ての間違いであり、始まりでもあった。

 

 

─────あ

 

 

 事件の事を思い出し、再びパニックに陥った女を見て男は思い知らされた。

 今のままでは、女の事は何一つ救済出来ない、と。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 もうかれこれ数十分程になるだろうか。

 最深部を目指す一同の道中の出来事。

 

 

「……ん」

 

 

 ふと、廻廊の隅に何か落ちている事に気付き、雪雫は足を止めた。

 

 

 

「………」

 

「何や、それ? 気味悪!」

 

「…仮面、の様ですが」

 

 

 口元以外を覆い隠す、3つの石が埋まった仮面。

 特撮ドラマや、アメコミのヴィランが付けていそうな風貌のものだ。

 

 何これ、とかすみに視線を送る雪雫だったが、かすみにとっても未知のものだったらしく

 

 

「こんなの見た事無いよ!」

 

 

 と首を振った。

 

 

「……まぁいいや」

 

「え、持ってくん?」

 

「…落ちている以上、何かしら意味あるんじゃないかな」

 

「………まぁ、確かに。罠であればこんな気付きにくい隅になんて置かないでしょうし……。ここは意思が反映された世界、雪雫さんが言うこともごもっともかと」

 

『特に危ない雰囲気も感じないクマー!』

 

「でもウチは持たへんで。こういうの苦手やねん……」

 

「なら私が持つよ」

 

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