PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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69:The end of the world.

 

 

 脱兎の如飛び出した2人の少女。

 一方は悉く叩き潰す巨大な斧を、一方は全てを切り裂く大鎌を。常人であれば一撃必死。

 そんな容赦の無い2人の攻撃が、今まさに丸喜拓人に向けられようとしていた。

 

 

『最終決戦クマ! 遠慮なくやっちゃって~!』

 

 

 そんな2人を見ても尚、丸喜は焦る素振りも見せず、悠然と佇むばかりだ。

 しかし、少女達は手を止める訳にはいかない。

 ハッキリと分かっていないものの、彼の言い分を全て信じるのならば、明確なタイムリミットが存在するからだ。丸喜の言葉で言う所の、世界の強度が最大になったその時。

 芳澤かすみが離反した以上、雪雫達の障害は丸喜ただ1人。だから雪雫とラビリスは一瞬の間も無く仕掛けた。一手で、瞬く間に終わらせるために。

 

 

「─────やれやれ」

 

 

 最早人の域を超えていると言っても過言では無いほどのスピード……いや、片方は確実に人外であるが。

 兎も角、ほんの数秒の間に距離を詰めた少女達の持つ凶器が、丸喜の目の前にあった。ラビリスは上から叩く様に、雪雫は下から刈り取る様に。彼が指一本動かすよりも速く、それらは迫る。

 

 

「血の気が多いな、君達は」

 

 

 だと言うのにも関わらず、丸喜は悠然とした態度を崩す事無く、寧ろ雪雫達を煽る様に口角を吊り上げた。

 

 

「っ!」

 

 

 ピタリと、丸喜の眼前で斧が停止した。それと時を同じくして、鎌が鉛のように重くなった。

 押そうとも引こうとも、微動だにしない。

 

 

「な、なんやこれ……」

 

 

 最初に気付いたのはラビリスだった。

 彼女と丸喜の間に、蠢く黒い何かがいた。見るだけで神経を逆撫で、理性を溶かしてしまいそうな。それは手のようにも見えるし、蛇のようにも、蛸の足の様にも。唯一確かな事は、自分達は今、これに絡めとられているという事実。

 

 

「まさか、ペルソナ? これが?」

 

 

 コンマ数秒、僅かに遅れて雪雫も気付く。自身の鎌に、柄に、脚に絡みつく不快な存在。

 

 

「君達のそれと、同じだと思わない方がいい」

 

 

 呆気に取られる2人に、丸喜はやはり調子を崩す事無く語る、その姿を変えながら。

 金色の仮面。四肢を覆う金色の鎧。穢れを寄せ付けない純白のマント。手に携えた巨大な杖。民を導く聖人とも、神を崇める神官とも言える様な、そんな姿。

 そして────

 

 

「いこうか、アザトース」

 

 

 彼が現れた。

 

 

「───あ」

 

 

 増殖と分裂を繰り返す無数の触手。それらが支える黄金の十字架に張り付けられた脊髄。彼女達を見下ろす青白い二つの眼。

 明確な形など存在しない。知性など感じられない。ただ、そこにあるだけ。故に恐ろしい。

 目に入れるだけで視界は歪む。この場の空気を吸うだけで身体の内側が灼ける。その触手に触れるだけで四肢が腐る。

 

 なるほど、確かに同じじゃない。

 こんなものが、ペルソナな訳あるもんか。

 

 グジュグジュと四肢が熟していく音が聞こえた。

 身体の端から侵食されていく。蝕む様に、ゆっくりと。

 

 

「っ」

 

 

 切り落としてしまおうか。

 そうだ、それがいい。どうせまた作り直せるんだから、自分の機体はいくらでも替えがあるのだから────

 

 

「ジャンヌダルク!!」

 

 

 その時、そんな思考を塗りつぶす少女の一喝が響く。

 

 

「……雪雫…」

 

 

 上から降り注ぐ眩い光。腐敗を浄化する神聖なる輝き。

 それは1つ1つ正確に、拘束する触手達を打ち抜く。

 

 

「頭上、注意であります」

 

 

 間も無くして、身体が自由になったことを自覚するよりも前に、真後ろから妹の声。

 

 

「ラビリスっ!」

 

「ペルソナ、レイズアップ」

 

「───あっぶな…」

 

 

 まさに一閃。

 後ろから現れたアイギスとそのペルソナ、アテナの斬撃。先程まで自分の頭があった位置を通り、その奥の丸喜へ向けられる。

 

 

「すまん! ボーっとしてもうた……! 堪忍やで雪雫」

 

「ん、問題無い」

 

 

 雪雫が無理矢理、手で頭を押し込んでくれなければ、きっと今ごろ首が胴体から離れていただろう。

 文句の1つや2つ、妹に言ってやりたいがここはグッと堪える。

 

 

「──────」

 

 

 後方から響く歌声。漂う冷気。

 誰がの仕業かは言うまでもない。今頃こちらに無数の氷槍が向いていることだろう。

 

 絶海の歌姫。嵐からの歌声。

 それらが全て、1人の人間に向かって放たれ───。

 

 

『そ、そんなぁ……目標、未だに……、……在ク──! いや、寧ろ─ふくれ……あ──、気を………ク──』

 

「クマ?」

 

 

 先程までハッキリと聞こえていた彼の言葉が、ノイズの嵐に飲まれていく。

 辛うじて聞き取れていた彼の声も、次第にその存在感を薄めていき、果てには全く聞こえなくなる始末。

 

 

「………全く、強かな少女達だ」

 

 

 そんなクマの声と変わる様に、次に少女達の耳に届いたのは純粋な称賛の声。彼女達の在り方を喜び、考えを尊び、人生を祝福する様な、そんな声。

 

 

「僕が、留美が、人類皆が君達の様な強さがあれば、きっとこんな思いはしなくてすんだだろうに」

 

「先生……」

 

 

 こびりついた氷片を払いながらも、まるで何事も無かった様な素振りの丸喜と背後の魔王。

 

 

「……無傷…ですね」

 

「はぁ、凹むわ…」

 

「厄介」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蠢く触手を掻き分けながら、白い少女は進む。自身の行く手を阻む様に迫る無限の手を避け、受け流し、切断し。

 

 

「死んでくれる?」

 

 

 時折魔法で消滅させながら。

 

 切断した先端から、新たな触手が生え少女を襲う。

 一本の触手が無数のそれに分裂し、少女を閉じ込める。

 

 だが、それで止まる雪雫では無い。

 

 

 その悉くを自身の持てる力で捻じ伏せて彼女は進む。

 奮闘する仲間達の間をも潜り抜け、辿り着いた彼の前。盾になる様に下から湧き出る防衛機構。

 

 

「甘いね。届かない」

 

「……そう、残念」

 

 

 1枚の壁なら何のその。2枚の壁なら辛うじて。3枚の壁には歯が立たず。

 またしても触手に阻まれ、脚を絡めとられた少女は宙へ放り投げられる。

 

 思う様に自由が効かない空中。そんな雪雫を狙って地上から伸びる触腕。

 

 

「ジャンヌ!」

 

 

 身体に衝突する寸前、聖女の祈りが雪雫を守る。軌道が逸れ、自身の真横すれすれを通り過ぎたソレを、雪雫は一瞥する事無く切断。そしてそのままの体勢で銃を取り出し、その口を向けて。

 

 一発。

 二発。

 三発。

 

 自由の効かない空中で、加えて落下している状態での正確無比な狙撃。地上からそれをたまたま見ていたアイギスが驚愕しているのも露知らず、その無慈悲な弾丸は真っ直ぐに丸喜の元へ行き──、またしても弾かれる。

 

 

「ちっ」

 

 

 手応えを得られない事に不満を覚えつつ、重力に従って落下していく雪雫。

 彼女の目線の先では、今丁度かすみとラビリスが攻撃を仕掛けていた。

 

 

「……あまりにも無茶をし過ぎじゃないですか?」

 

 

 かすみとラビリスを見て、次はどういう切り口で攻めようかと思案している最中、耳元で聞き覚えのある少女の声が響き、優しく抱き留められる。

 どうやらアイギスが気を使って雪雫の着地を補助にしに来た様だった。

 

 最も、それが無くとも雪雫は雪雫でジャンヌをクッションに無理矢理着地しようとしていたのだが、連戦が続いている以上、使わないに越したことは無い為、結果的にはこっちの方が良かったりする。

 

 

「…触手は増殖と分裂を繰り返している。一見すればキリが無い。でも、いくらペルソナが強かろうと、丸喜も人間。いつかは底が尽きる」

 

「攻撃の手を緩めず、常に消耗を強いるのは大いに賛成ですが……。それは貴女にも言えることでは? 顔色、悪いですよ」

 

「………平気」

 

 

 

 正直、どうにかなりそうだ。

 視界は朧気で、四肢の感覚はとうに無く、思考も普段より纏まらない。

 思えば天井楽土での戦闘からここまで休みなく来たのだ。我ながら良くもまぁここまで動けるものだと、称賛を通り越して呆れている。

 

 今すぐにでも眠ってしまいたい。

 全てを放り投げて、大好きな人の腕の中で微睡んでいたい。

 

 ああ、確かに逃げるという選択肢はとても甘美だ。

 誰だって戦いは避けたい。やらなくていい苦労はしたくない。当然だ。

 

 

「──────でも」

 

 

 でも、ダメだ。それを良しとしてしまえば、私は私じゃなくなってしまう。

 私がこうしてここに立っているのは、苦しい現実に立ち向かった人たちの支えがあるからだ。

 それに支えられ、向き合う事の大切さを教わった、過去の経験があるからだ。

 

 それがあるから、私は天城雪雫として生きて行けるんだ。

 

 

「君達のしぶとさは良くわかった。その思いも、願いも。分かった上で敢えて言おう」

 

 

 だから、私は認めない。

 

 

「もう、終わりにしよう。君達の負けだ」

 

 

 私が私√→たらしめる繧区Φ縺?r奪う?悴譚・縺ェ繧薙※

 隱阪a縺ェ縺??∵怏繧雁セ励↑縺??∝ョケ隱榊?譚・縺ェ縺??∝凄螳壹?∝凄螳壼凄螳壼凄螳壼凄螳壼凄螳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は知っている。

 人の子は今では無く未来を望んだ。一では無く全を望んだ。管理されるのではなく自由を望んだ。

 ああ、それは間違いなく人の総意だった。

 だから私は決めたのだ。その行く末を見守ると。

 

 故に、認めない。

 人の身に余るその行為。全を否定する一など。断じて─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、終わりにしよう。

 そう丸喜が呟いた瞬間、彼の頭上から黒い塊が2つ、轟音と共に現れる。

 それは絶対的な強者。数多のシャドウが存在するイセカイにおいて、最悪の部類に位置する怪物。命を刈り取る死神。

 

 

「────そんな」

 

「…決めにきたな」

 

 

 赤い少女は顔を青ざめた。

 白銀の機械乙女は苦虫を潰した様に顔を歪めた。

 

 

「何、殺しはしない。ただ、大人しくしていて欲しいだけだ。そしてどうか受け止めて欲しい。───僕がこれから創造する世界を」

 

 

 瞬間、二体の死神が弾丸の如く一同へ向かう。

 一体倒すだけでも骨が折れる相手が2体、それに加えて丸喜も未だに健在だ。

 

 

「っ、応戦します」

 

 

 今にも簡単に手折れてしまいそうな雪雫に後ろ髪惹かれつつも、もう1人の機械乙女も前線に加わる。

 

 

「────」

 

 

 防戦一方。

 各々の持てる力を全て用いて、何とか持ちこたえているものの、そこに逆転の兆しは無い。

 圧倒的な暴力を前に、徐々に押されていく3人。

 

 

「う゛っ゛」

 

「かすみさん!」

 

 

 遂には守り切れず、死神の凶弾がマーメイドを貫いた。地に伏せる少女。崩れる陣形。

 それを怪物達は見逃さない。

 これ幸いにと、すかさず猛攻を仕掛けようと銃口を残るターゲットに向ける。

 

 ──終わった。

 

 

 長年の自分の夢がようやく叶う。これで世界から苦しみは無くなる。理想郷の完成も目前だ。

 男は勝ちを確信した。

 

 その慢心故に、彼は気付かなかった。今も尚、未知数の少女が戦闘に加わっていない事に。

 

 

「────1つ、確認したい」

 

 

 1人の少女の声が空間に木霊した。

 

 

「……何かな?」

 

 

 この場に居る全員の意識が、声の主の方へ向く。

 今にも手折れてしまいそうな、少女だ。足取りもおぼつかず、その腕は僅かに震えている。何の脅威にもなりはしない。

 その筈なのに、たった一言、何でもない言葉1つで、この世界の主はおろか、絶対強者の怪物の注目さえ集めた。

 

 

「貴方の、創る世界に未来はある?」

 

「……あるさ。永遠の幸福が。悩みは無く、痛みも理不尽も無い。完全なる、欠点など存在しない世界。完璧な未来がね」

 

 

 それは個人により幸福が約束された世界。万人が救われる理想郷。

 痛みも苦痛も困難も、認知をもって覆い隠す、メタバース。

 

 

「………そう」

 

 

 彼を見れば分かる。本気で、本心から丸喜はそれを願い欲している。それが人の総意だと信じて。

 少女は赤い瞳をゆっくりと閉じ、それを聞き届けた。

 

 どうしようもなく、私達とは違えている。

 最早、交渉の余地などありはしない。

 

 そう確信し、再び瞼を上げる。

 その金色の瞳を丸喜に向ける。

 

 

『……思い上がるなよ、人の子』

 

 

 瞬間、度しきれない程の重圧が空間を走った。

 大気は揺れ、頬を撫でる風は恐怖を煽る。

 

 

「……雪…、雫…?」

 

 

 声を出す事すら億劫になる程のプレッシャー。

 とても10代の…いや、人間の少女から放たれるものとは思えない。 

 

 

『私は知っている。人の子の意思を。私は信じている。人の子の可能性を』

 

「───何を」

 

『晴れた世界はお前達のモノの筈だ。私はそれを見届けると、そう誓った。だが、今まさに、世界は再び虚構に包まれようとしている。認めない。容認出来無い。私はそれを憎悪する。それは人の総意では無い。お前の世界には未来が無い』

 

 

 少女を中心に吹き荒れる突風。彼女を包む、青白い炎。

 

 

「なら……なら君は現実を良しとするのか? 君だって知っているだろう!? ちょっとの理不尽で全てが台無しになることだってある! 幸福を願う事の、何が悪い!!!」

 

『…否。幸福を願うのは生き物の性だ。しかしそれは人に与えられるものでは無く、勝ち取るものだ。だからこそ人には可能性がある。完璧を追い求めるからこそ、人は前に進める。お前の言う楽園にはどうしようもなく閉ざされている。隔絶されている。────つまり、』

 

 

 白い少女が片手を伸ばした。

 空に向けた手の平に、蒼炎が収縮していき、やがて1枚のタロットカードへ形を成していく。

 

 それは偽りの世界に終焉を告げるもの。

 幸福と理想の臨界点。楽園の衰退。

 

 逆位置の世界。

 

 

「『自分の未来くらい、自分で決める!!!!』」

 

 

 ためらう事無く、少女はカードを砕く。

 

 

伊邪那美大神(イザナミノオオカミ)!」

 

 

 途端、空には暗雲が立ち込めた。それは無数の雷を携え、空を裂く。

 

 

「……何だ、それは───」

 

 

 怪物達が獣の威嚇の様な声を上げた。

 丸喜は圧される様に一歩後退した。

 

 少女から現れ出たそれは、魔人でも聖女でも無く、正しく神そのものだった。

 綿帽子を深々と被り、その隙間から長い黒髪を垂らしている為、その風貌は目視出来無い。しかし胴体の純白のローブの端から見える赤黒い細腕が、それが異形のモノであると訴えかけている。

 

 しかし、美しい。

 そう思わざるを得ない程の禍々(神々)しさだ。

 あるのは純粋なる恐怖、人とはかけ離れた異形の怪物。だと言うのに、目を離せないのだから、それは間違いなく神であろう。

 

 

「『完全なる世界に未来は無い。故に私は完全を否定する。それでもお前が再び創造すると言うのなら、私はそれを破壊しよう。お前が千の世界を産み出すとしたら、私は(よろず)の世界を殺してみせよう。完璧を嫌悪する、幾多の呪言を持って。これを、人の総意と知れ』」

 

 

 紡がれる呪いの言葉。

 新たな世界の死を望む、完全の崩壊を是とする呪詛。

 

 世界そのものに亀裂が走った。世界そのもの基盤が崩れ始めている。

 それもその筈、これは只の攻撃にあらず。

 正統なる管理者の、願いを統括する願望機から紡がれる否定の言葉。

 

 

「『幾万の呪言』」

 

 

 その日、暗黒が世界を包んだ。

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