PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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71:The first star.

 

 

 地元住民にとってはお馴染みのイベント。

 商店街の中原にあるこぢんまりとした神社で細々と行われる祭り。

 例年通りであれば8月の第3土曜日に開催されていた筈だが───

 

 

「───それで花村君が食材の発注をミスっちゃって開催が延期になったんだって」

 

「……ガッカリ王子」

 

 

 まぁ有志のイベントだしそういうこともあるだろう。

 お調子者の友人の顔を浮かべ、雪雫は溜息を1つ。

 

 

「祭りがあるの知ってたら、浴衣持ってきたのに」

 

「この間の写真のやつ? 気に入ってるね」

 

 

 唇を僅かに尖らせて不貞腐れる雪雫に微笑みを返す雪子。

 

 

「だってりせから───」

 

「はいはい。大好きなりせちゃんから貰ったやつだもんね。全く、妬けちゃうなぁ……。よいしょっ」

 

「…んっ……ちょっと…」

 

 

 突如として雪雫を襲う圧迫感。

 少女の甲高い声が部屋に響き、それを聞いた雪子は意地悪そうにえくぼを深めた。

 

 

「……いきなり帯を締めるな」

 

「いじけてる子の文句なんて聞きませーん」

 

 

 雪子は妹からの抗議の視線を軽く流し、その小さな背中を押して鏡の前へと誘導する。

 

 

「うん、似合ってるよ」

 

「……どうも」

 

 

 可愛い。

 

 鏡から視線を逸らし頬を染めて、「必死になんとも思っていないですよ」とアピールしているかの様な態度。

 姉フィルターを取って見ても端正な顔をしているんだ。可愛いと可愛いが掛け合わさりその輝きはまるで星の一生を全て凝縮したかの様そうまさに超新星爆発(スーパーノヴァ)私は決して鳴上くんの様なシスコンとかでは無いがこの光景をありのままに伝えるとこう表現するほかあるまいというかそもそも────

 

 

「……何…?」

 

「───ううん。りせちゃん喜ぶだろうなぁって」

 

「……だと良いけど」

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は空が茜色に染まる頃。

 場所はお馴染みの商店街の中華料理屋の前。

 

 

「かわいいいいいいいいいいいいいいい~~~!!」

 

 

 とあるアイドル(少女)の声が響き渡った。

 

 

「……大袈裟。見るの初めてじゃないでしょ」

 

「可愛いものは何回見ても飽きないし可愛いの!!!!!」

 

 

 道行く人達、店内客達、様々な方向からの奇異の視線が刺さる。

 緊張と羞恥と嬉しさで冷汗が浮かぶ。

 

 

「淡い水色の浴衣とは打って変わってアダルトな黒も良いね、雪ちゃんの肌と髪に良く似合っている。メイクもしたんだね雪子センパイにやってもらったのかな?うんセンパイらしい控えめメイクも可愛い。雪ちゃんの素材をふんだんに活かされているね!それで何が欲しいの?お金?お金払えばいい?最早税金として徴収するべきだと思うの。あ、そうだ写真載せてもいい?その可愛さは是非全世界に発信するべき──いやでも待って。その可愛さを独り占めしたい私も居る困ったな。あ、いい事思い付いた。東京戻ったら2人っきりで撮影会しようよ。大丈夫任せて。この前買った一眼カメラで雪ちゃんを余す事無く360°カメラに収めるから。勿論浴衣姿のね。ああ、どんな格好してもらおうかな。外に出すものじゃ無いからちょっと過激なものでも良いよね。なら浴衣を本来の、大元に立ち返ってみるのも──ああっ!?ごめんなさい!冗談です!だから腕を捻らないで雪子センパイ!!」

 

「……はぁ…」

 

 

 仲間達にとってすれば割と何時もの光景。

 最早手遅れではあるが、あまり一緒のグループと思われたくない男性陣は少し離れた場所でその光景を眺めていた。

 

 

「浴衣の大元って……何すか?」

 

「元々は平安貴族が蒸し風呂に入る時に水蒸気でやけどしない為に用いられたのが始まりだと言われている。それが時代の移り変わりによって水分吸い取るもの…。つまりは風呂上りに着用するバスローブの様な役割になっていったという。りせの言う大元っていうのはその事だろう」

 

「詳しいっすね…。悠先輩…」

 

「な、ならリセチャンはセツチャンに……裸のまま───」

 

「それ以上言ったら、燃やすから」

 

「「「すみません」」」

 

 

 地獄耳とは正にこの事。

 焼き殺す様な雪子の視線が悠たちを射抜く。

 

 

「お~い」

 

「お、お待たせしました」

 

 

 そんな一同に加わる2人の声。

 視線を向ければそこには天城姉妹やりせの様に晴れやかな装いに身を包んだ千枝と直斗。

 

 

「すみません、少々支度に時間掛かってしまって……」

 

「いやぁ、参っちゃうよね~。久しぶりに浴衣探したら見つからないのなんの…。あれ、花村は?」

 

「ん? ああ、陽介なら───」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 人が良さそうな笑みを浮かべ頬を流れる汗を煌めかせる好青年。

 

 

「よっ、いらっしゃい! 何にする?」

 

 

 そう青年は両手に持つコテをクナイの様にクルクルと回し、一同に歓迎の意を伝えた。 

 

 それに対し───。

 

 

「何にするって言われてもねぇ……。焼きそばしか無いじゃん。肉は無いの? 肉は」

 

「つーか何やってんすか? 花村先輩?」

 

 

 辰姫神社にズラリと並んだ屋台のその一区画。

 鳴上悠の相棒であり稲羽が誇るキャプテンは1人屋台を切り盛りしていた。

 

 

「ジュネス…焼きそば………?」

 

 

 夏らしい温かな風に揺られるのぼりに目をやり、雪雫は首を傾げた。

 

 

「ああ。あの大人気屋上フードコートからの出張版だぜ!」

 

「いや…。そんな定番! みたいに言われても…ねぇ?」

 

「うん。食べた事無いよね」

 

 

 確かに食べた事無い。だがよくよく思い返せば確かにあった気がする。

 一同の認識としてはその程度のモノだ。

 

 

「それで。何故、花村先輩が屋台を?」

 

「あー…。それがよ……」

 

 

 そもそもである。

 例年通りであればこの祭りは先週開催されていた筈である。

 

 それが開催が延期になってしまった。

 まぁ主に雪雫達の目の前に居る男が原因なのだが……。

 

 数年前からジュネスは地域貢献の一環として町内イベントの運営に関わり始めたという。

 過去にジュネスの出店により地域の小型店舗が次々に閉店に追い込まれ、地元住民とジュネスの間に確執が生まれていた時期があった。

 つまりアピールの場だろう。

 ジュネスが八十稲羽を限界化させる外敵では無く、寧ろ活性化させる味方であると。 

 

 そして今回の夏祭りもそれの1つ。

 夏祭りにおけるジュネスの役割は食材の提供。非常にウェイトが掛かる役割である。

 

 

「俺、ミスって祭り延期させたじゃん? ミスった手前、直接祭りを盛り上げないと示しが付かないって親父がさ…」

 

「なるほど。つまり発注ミスの対価に労働を強いられた、と……」 

 

「贖罪……」

 

「食材だけにね。ふふっ」

 

「あー…天城姉妹は黙っててくれる? 話進まないから」

 

 

 顔を合わせて小刻みに揺れている白黒姉妹に目もくれず、千枝は「大人の事情だねぇ」と一言。

 

 

「そうか。陽介も大変だな。……それじゃあ」

 

「ちょいちょいちょいちょい! 待て! 待てってば!」

 

 

 そこには同情の余地も無く。

 一斉に身を翻した悠達に花村陽介は慌てて呼び止めた。

 

 

「え? 行っちゃうの? もっとさ。なんかこう……。同情とか無い訳?」

 

「いや、だって自分が悪いじゃん」

 

「クマ! ヨースケパパだって何度も確認とってたクマ! これは100%ヨースケが悪い!」

 

「そうだけど! そりゃそうなんだけど! せめて焼きそば食べていってくれよ!」

 

 

 辺りに香るソースの匂い。程よくテカる麺と野菜。その上を踊る鰹節。

 しかし──

 

 

「いや…、1パック800円は高くないっすか?」

 

 

 完二の言葉に一斉に頷く一同。

 

 

「しょうがねぇだろ! 人が少ない田舎町で営業ってなるとどうしてもこうなるの!」

 

「でもなぁ、今焼きそばって気分じゃないしなぁ…」

 

「私達、味濃いものより甘いもの食べたいんだよねー。ね、雪ちゃん! 綿あめ食べに行こう!」

 

「ん」

 

「無慈悲か!」

 

 

 ああ、そうだ。この感じ久しぶりだ。と陽介は内心で思った。

 基本的にこいつらは人を気遣うとか同情とかしない。自分の事を優先する自由人だった。

 

 

「ほ、ほら。腕によりをかけるからさ。食べてってくれよ。値段相応…いや、それ以上の! 舌を唸らせてやるからさ!」

 

 

 キラっ。と効果音が付きそうなウィンクを携えて、必死にアピールする。

 ここでこいつらを落とせば800円が7人分で5600円の売り上げ……大きい。逃す訳にはいかない!

 

 

「でもなぁ。焼きそばって作るの簡単じゃん? ここで食べなくても…ねぇ?」

 

 

 千枝が腕を組みながら口を開いた。

 

 

「うん。自分で作った方が美味しい自信ある」

 

 

 続いて雪子が謎に自信を携えて宣言した。

 

 

「それに何て言うか惹かれないんだよね。刺激が足りないっていうか……」

 

「良くも悪くも、普通……」

 

 

 りせと雪雫が焼きそばを見つめながら評価を下した。

 

 

「普通の料理すらまともに作れないお前らにだけは言われたくないわ」

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

「皆は?」

 

「花村先輩と一緒に後から来るって。菜々子ちゃんも連れて」

 

「そう」

 

 

 結局、人数分焼きそばを頼んだ。

 あとちょっとで売上目標を達成するところだったらしい。達成さえしてしまえば屋台から離れられるっていうんだから協力する他ない。800円は高いけど。

 

 皆はさっきも言った通り花村センパイと菜々子ちゃんを連れていずれ合流するだろう。

 私はというと雪ちゃんを連れて先に抜けて来た。

 

 いや、抜けさせて貰ったという方が正しいかもしれない。

 

 

「暑い」

 

「夏だからねぇ」

 

 

 丘に座ってぼんやりと河川を見つめる。

 昼とは違うじんわりとした暑さが体力を奪う。芝と接着しているお尻が少しこそばゆい。

 

 道中に買ったアイスは消えてしまった。残ったのは白樺の棒のみ。私は手で遊び、雪雫はずっと咥えている。

 ただの時間潰しだ。

 

 いずれ打ち上がる花火までの。

 

 

「───綺麗だね」

 

「…? …まだ上がってない」

 

 

 キョトンと首を傾げ、その輝かしい真紅の宝石が私へ向けられる。

 

 綺麗。ああ、綺麗だよ。

 じわりと流れる汗も、普段はしないメイクも、黒い浴衣も、それに映える肌も髪も。貴女を構成する全ての要素が。

 

 

「違うよ、私は──」

 

 

 頬に手を添える。自然とお互いの距離が近付いた。

 呼吸音を聞き逃すことすら困難な程の距離。真紅の宝石を覗き込むと頬を赤に染めた自分の顔が映っている。

 

 

「雪雫の事が──」

 

 

 頬に添える手が震える。

 気付けば唇同士が触れてしまいそうな程の距離まで来ていた。

 そして──

 

 

「……ん」

 

 

 雪雫は静かに瞳を閉じた。

 

 

(えぇぇ!? ここからどうするの私!? 綺麗なのは雪ちゃんの事だよ~て笑いながらやめる? いや…! そんなまるで遊んでます感出したくない! 遊び人って雪ちゃんに思われたくない! え、じゃあそのまま流れに乗っちゃう!? 待って待て待て、流れでしてしまって良いものなの!? この子の初めてを私のノリで散らすの? ていうか私も初めてだし!! そもそもこの雪ちゃんの態度はどういう意味? OK?していいって意味なの? 仮に、仮にしていいとして、下手だったらどうしよう。歳上なのに、大人のに、リードも出来無いんだとか思われたら────)

 

 

 混乱。

 頭の中の無数の久慈川りせが一斉に騒ぎ始める。

 

 そう、そこは久慈川りせ評議会。

 様々な可能性を持つ久慈川りせが集まり、その意思決定を行う場所。

 それは正にマルチバース。

 無限の可能性を秘めた───。

 

 

「お、いたいた~!」

 

「はっ」

 

 

 馴染みの声が聞こえ、意識が現実へ戻る。

 視線を向ければ神社に居た面々と堂島親子。

 

 どうやら開催に間に合ったらしい。

 

 

「雪雫ちゃん、かわいい! 九泉(きゅうせん)のMVの時みたい!」

 

「ありがとう。菜々子も可愛いよ」

 

「ほんとー!?」

 

 

 すかさず駆け寄った菜々子に続いて、センパイ達もこっちの方へ。

 不味い。非常に不味いかもしれない。

 

 どう見えていたか分からないが、あんだけ接近していたんだ。角度によっては致してしまっている様に見えたかもしれ

 

 

「りせちゃん?」

 

「ひっ……!」

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 眩い光と共に、心臓を打つ様な重い音が響いた。

 振り返ればそこにはキラキラと鮮やかなに光る華。

 ここからでは生い茂る木々の所為で半分も見えないが、きっと今頃河川敷では大輪に成っているだろう。

 

 

「良かったのか?」

 

「何を今さら」

 

 

 田舎町には不釣り合いな程豪華な黒塗りの高級車に背を預けながら、赤髪の女性は私に問うた。

 そしてそれを私は一言で片づけた。

 

 愚問であると。

 

 

「今、あの子に必要なのは日常です。少なくとも私はあの子の日常には居ない」

 

「……その線引きを壊す為に天城雪雫は身を扮したのでは無いのか? 神を降ろしてまで」

 

「分かってます。だけどあの子が良くても私が良くない。よくある話でしょう。ヴィランが味方になるにはそれ相応の償いが必要。そうじゃなければ観客は納得しない」

 

「………ま、そうだな」

 

 

 何か思う所があるのか、それともこれ以上の問答は無意味だと判断したのか。身を翻して女性…桐条美鶴は車に乗り込んだ。

 そして私もそれに続く。

 

 今も後ろで絶え間なく花火は上がっている。

 車の曇りガラス越しに見える鈍い光。きっとあの子は今まさに、同じものを見ている。仲間達と共に。そしてそこに私は居ない。

 

 

(しかし、それがなんだ)

 

 

 空は何処までも広く、そして繋がっている。世界は無数にある訳じゃない。

 今は違う場所に居たとしても、手遅れなんて事は無い。同じ世界に居る限り、いつかは追いつける筈だ。

 だって私達は、同じ尺度の世界で生きているのだから。

 

 

「またね、私の光」

 

 

 願わくば、その輝きが鈍りません様に。

 

 

 

 

混沌螺旋世界・マヨナカテレビ局

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

混沌螺旋世界・蕃神黄泉閨房 寂滅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月22日 月曜日 晴れ

 

 

 

 車を走らせながら、りせは思い出したかの様に声を上げた。

 

 

「そういえば今回は静かだったねぇ」

 

「何が?」

 

「ほら、歌ってくれ~って皆に言われなかったじゃん」

 

 

 確かに。と雪雫は目を伏せた。

 

 片田舎の八十稲羽にとって、雪雫達の里帰りは一大イベントだったりする。話題に乏しい町で生まれた超新星。無理も無い。

 実際に過去には何度も何度も町内会からイベントに出てくれ。町興しのシンボルになってくれなど毎回のように持ち掛けられる。

 特に事務所に入ってないフリーの雪雫に対して。

 

 雪雫とて気持ちは分かる。しかし乗り気になれない。

 生まれ育った町で、馴染みある人達から消費物の様に思われるのが好ましくないのだ。

 

 有名なのだから仕方ない。

 確かにそういう意見もあるだろう。それについての否定はしない。しかし有名人とは言え何処までいっても1人の人間。故郷でくらい、そういうしがらみからは解放されたいのが本音だ。

 

 

「皆がきっと空気を読んでくれた」

 

 

 しかし今回に限っては誰もその話を口にせず。

 何ならアーティスト活動について触れてくる人も殆ど居なかった。

 等身大の、昔から居る少女「天城雪雫」として接してくれたのだ。

 

 これには雪雫も喜んだ。

 どれくらいかと言うと、帰りの車内で鼻歌を口ずさむ位には喜んでいる。

 

 

「ご機嫌だねぇ」

 

 

 そんな雪雫を微笑ましく思いながら、りせもそのメロディに言葉を乗せる。

 

 

 車は次第に八十稲羽を出る。

 数時間揺られれば、あっという間に見慣れた都会だ。

 

 また、それぞれの日常へ。

 

 慌ただしい里帰りは穏やかに幕を閉じる。 




最後のタイトルの方、特殊タグを使ってるのですが、端末によっては反映されないかもしれないです。
済まぬ
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