PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
72:Friend.
8月23日 火曜日 晴れ
うだるような暑さ。
本当に冷房効いてるの?と思わず零してしまいそうなほどの。
ああ、八十稲羽って涼しかったんだな。
雪雫はぼんやりとそう思った。
正座しながら。
「んで、言い訳を聞こうかしら?」
「…………」
目の前には鬼が居る。
皆…とくにりせとか陽介は雪子の事を鬼と評するが、雪雫からすればこっちの方が十分に鬼である。
まず、こんなに暑いのに冷房の温度を下げさせてくれない。28度で固定だ。
非常によろしくない。
キンキンに冷えた部屋で布団に包まったり、温かい恰好をするのが好きなのに、出来やしない。
バーカバーカ。真のアホ。
内心で雪雫はそう唱えるが、目の前の
本題に戻そう。
鬼こと新島真は今もなお、青筋を浮かべて仁王立ちをしている。
雪雫の周りには誰も居らず、助けを求める避難場所は無い。
りせ、蓮、べっきぃ……いや。べっきぃは一緒になって怒りそうだからナシ。
「携帯…使えなかった」
「へぇ…一週間も? 誰とも連絡取らなかったの?」
「電波、届かない…場所だから」
「貴女ねぇ…中学の時に配信してたんでしょ。電波無いから使えませんは苦しいわよ」
「むむっ」
さて困った。
ハッキリ言って雪雫は手詰まりだ。
一週間、連絡が付かなかった理由。
まさか本当の事を言う訳にもいかない。
帰ったら故郷がイセカイと合体していて電波が遮断されていたので、現地で知り合ったペルソナ使い達と一緒に事件の解決に勤しんでいました。
要約するとそうなのだが、真視点だと混乱するだろう。
メメントスやパレス以外のイセカイ、自分達以外のペルソナ使いエトセトラエトセトラ……。
ハッキリ言うと説明が非常に面倒くさい。
そして雪雫は面倒くさい事はあまり好きじゃない。
「……あっ」
「何?」
「そういえば双葉はどうなった?」
「話の切り替え下手か」
失敗。
「……はぁ。まぁ今回はいいわ…。これ以上聞いても何も話さなそうだし…。でもこれだけは分かって? 本気で心配したんだから…………」
「………ごめん」
「良い? 携帯はしっかり持ち歩く事。あとこまめに返事をする。分かった?」
お母さんか。
とそう思ったが口には出さなかった。
雪雫の直感が告げたのだ。一度言ってしまえばより長くなるぞ、と。
「それから、私からの電話は3コール以内に出る事」
「え、重っ」
・
・
・
「双葉の件は問題無しよ。想定よりもずっと順調」
場所は変わって喫茶店。
雪雫は以前に祐介と来た事がある店だが真は初めての様だ。
身体の熱を冷ます丁度良い温度の冷房が心地良い。
エアコンの制御権を得られない自宅に居るよりはずっと過ごしやすい。
「なら良かった」
ストローでココアの海に浮かぶアイスをクルクルと遊びながら、雪雫は微笑を浮かべる。
正直この眼で直接見ない限りは、あの双葉の様子を考えると眉唾物の話ではあるが、スパルタ鬼軍曹である真が言うのだから本当に順調なのだろう。
雪雫も雪雫で心配はしていたのだ。
何だかんだ仲間内で一番付き合い長いのだから当然と言えば当然かもしれないが。
「ついこの間は蓮と接客もしたし、そろそろ頃合いかもね」
「?」
「対雪雫用トレーニングよ」
「そんな怪獣みたいに言わなくても」
◇◇◇
8月24日 水曜日 晴れ
「良い? 今日の目標は双葉を実物の雪雫に慣れさせること」
何処から引っ張り出してきたのか、伊達メガネを携えスパルタコーチモードになった真はホワイトボードを教鞭で叩く。
彼女の視線の先には小柄な身体をより一段と縮こませ「無理だ、出来る筈が無い」と頻りに呟く双葉本人。
「いきなり純度100%の雪雫を与えるには刺激が強すぎる」
「薬物かよ」
「竜司は茶々入れないで! 蓮! アレの用意を!」
静かに頷きを返した蓮は部屋の隅から真の言うアレを運んでくる。
「自立式半透明パーティション……。まずはこれを挟んで会話してもらいます。杏、雪雫を連れてきて!」
「ま、待て! もう来るのか!?」
双葉の悲痛な声を余所に、一歩。また一歩と確かに聞こえる階段を踏みしめる音。
音が下から上がってくるにつれ、双葉の心臓もまた五月蠅い位に鼓動を早めていた。
「ほら、雪雫これ被って!」
「何でまた…」
僅かに聞こえる2人の声。
ここに居る誰もが階段の方を注目した。
「……っ!」
まず最初に目に入ったのは金髪ツインテールの少女、そしてそれに続いて見えたのは───。
140cm届かない身長にワンピースを携え…、中華街に売っているお面を付けた雪雫本人。
「おい! ああああアレを貸したのか!?」
「ええ。だって他に良いの無かったから……」
「鬼か!? 鬼なのか!?!? お、お前らは今度から雪雫が付けたお面を付けて過ごせと言うのか!?」
「何故気にする? もうお面を付ける事なんてそうそう無いと思うが…」
「黙れ、おイナリ! お前には分かるまい!!」
あ、これ双葉のやつなんだ。とお面の中で1人納得をする雪雫。
真が付けろと持ち出してきた時は、真の生真面目さとお面チョイスのチグハグさにとうとう暑さでおかしくなったのではないか。と疑っていたが、双葉の持ち物であるならば不思議では無い。
しかし双葉の心配も最もだ。
いくら昔からの仲とは言え、私物を他人に預ける…ましてや大事な物であるならば、不安なのは当然の事。
一時とはいえ、借り受ける者の責務として、ここは安心させてあげよう。
「大丈夫、双葉。壊さないから」
「そういう問題ではなーい!」
言葉を間違えたらしい。
「はひっ…。というか……。生天城雪雫…。ワンピース越しでも分かる細さ。しかし細いだけでは無く程よく引き締まり、生み出された見事な曲線美…。ただの合法ロリでは無く、それはまるで究極とも言える一つの芸術………。あばばばばばばばば…」
「雪雫! 露出は控えてと言ったでしょ!」
「いや、これロングワンピ──」
「このままでは不味いっ! まさかこれ程までとは……。雪雫! 早くパーティションの奥へ! このままでは刺激が強すぎる!」
「劇物かよ」
数分後
「落ち着いたか? フタバ?」
「損傷率70%…。ってところだな」
「ボロボロじゃねぇか」
息を切らしながらパーティション越しの雪雫を見据える双葉。
なるほど、確かにこれ越しなら何とか抑えられる。と、思う。
「ようやくスタートラインね…」
真がやけに疲れた様子で溜息を零した。
「取っていい?」
「ええ」
僅かに曇った輪郭がモゾモゾと動き始め、小柄な身体に不釣り合いな程大きいお面に手を掛ける。
「……ふぅ」
はらりと、髪のシルエットが宙を踊った。
お面何個分だろう。思わずそう思ってしまう程の小さな顔の輪郭が瞳に映る。
「だ」
「だ?」
「ダメだ。か、顔が強すぎ…て……モザイクを、貫通してくる。ここここれでは、まともに喋る、事すららら」
「嘘だろ…おい……」
「お、おおオタクのそ、想像力を…舐めるんじゃない、ぞぉ……!」
何十回、何百回、何千回…。
一体私が何回彼女の動画、配信を見たと思っている!
例え曇っていたとしても、ある程度の輪郭さえ分かれば、後は脳内で補完することなど容易い事だ。
つまりモザイクなど私にとってすれば無意味っ!
「ならこれは不要ね」
真がパーティションを押すと、面白い位にキャスターが転がり、そこに現れたのは──。
「……こんにちは」
「お前は鬼か!?」
・
・
・
『その…すまん……。時間を作ってくれたのに…』
「別に気にして無い」
電話越しの双葉の沈んだ声。
結局あの後、日が暮れるまで続けたが、会話という会話は出来ず、そのまま解散となった。
さてどうしたものか。とゆっくり湯船に浸かりながら思考を巡らせていた所にかかってきた双葉からの電話。
曰く、今日の事について謝りたかった様だ。
「電話越しだと、普通…」
『……まぁ、対面じゃないしな。今まで通り、というやつだ』
今まで通り、か。
確かに非対面のやり取りなら何度もしてきた。単純な仕事に関する付き合いだけなら今のままでも良いのかもしれない。
しかし、私達の関係は変わった。
苦難を共に乗り越え、志を同じくした仲間……いや、友達で良いだろう。
そうであるならば、やはり慣れて貰う必要がどうしてもある。
『頭では分かっているんだ。しかし、しかしな? やはり雪雫は私にとって違う世界の…画面の越しの存在、偶像だったんだ。それを今になって───。頭が追い付かないというか…』
「………2日だけ、ちょうだい」
「へ?」
『私に良い考えがある』
ところでマイクについて詳しい?
やけに自信に満ち溢れた様子のままそう言った。
▼
【朗報】雪ちゃん、俺らと親友だった
1:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:18:15 ID:Q1nH6JSG8
確かにそこに居るんだ……
3:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:18:52 ID:EvUJoHTyK
あれは良い文明
5:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:19:34 ID:HNf1LKnxh
汚い心が改心されたわ
7:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:20:09 ID:aaDJQjhI/
>>5 雪ちゃんは怪盗団だった……?
8:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:20:47 ID:3VxZA9iFY
まーた雪ファンが何か言ってるよ……
それで、何があったの?
10:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:21:24 ID:ydhzPZKkS
≫8 雪ちゃんがASMR…というかボイス?を出した
12:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:22:04 ID:4jPsRd5sf
クール天然系ロリボイスでしか取れない栄養がある
14:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:22:40 ID:T7P3bXcK2
>>10 詳しく教えなさい
15:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:23:21 ID:qtSa2jGQ7
タイトル:貴方の友達
価格 :110円
内容は休日に雪ちゃんとお出かけをするというシンプルなやつ。
喫茶店行ったり、映画行ったり、水族館行ったり、美術館行ったり……。
シチュエーション別にチャプターが分けられていてそれぞれの時間は10分程度で聞きやすい。
基本的にはお出かけした場所に応じてコロコロ変わる雪ちゃんの反応とか語り掛けとか、雑談とかを聞いて楽しむもの。
まず脅威なのが価格。
チャプターの数が10個以上。時間にして2時間近くあるのに関わらず金額が110円。
近年のASMR界隈では1時間くらいの収録内容で平均として1000円~2000円くらいする為、非常にコスパが良い。
多分本人はこれの為に買ったバイノーラルマイクの費用を回収できればいいや。としか思っていないと思う。
次に特筆すべきは友達という存在に対する解像度の高さ。
近すぎず遠すぎず。親しき中にも礼儀あり。程よい距離感で、等身大の雪ちゃんを体験出来る。
本当にそこに居るんじゃないか。本当に友達として存在するんじゃないか。
そんなリアルさがある。
流石は現役JK。下心で買った雪ファン。反省してどうぞ
あとは当たり前だが声が良すぎる。
聞き取りやすくて、透き通っていて、演技っぽさを感じない……
ていうかこれ本当に現地で撮ってない?
ていうくらいリアルで自然。
あとこれ目的で買う人はいないと思うけど、個人的に良かった点
一部チャプターが無駄に教養が付く。
主に美術館とか自宅で映画鑑賞とか。
所々に雪ちゃんの解説……。しかも意味わからん位詳しくて専門的で、それでも分かりやすい奴が付いてくる。
絵画の黄金比とか考えた事無いよ……。
雪ちゃん、そういうの好きなのは知っていたけど、まさかそこまでとは思わなかった
総評
ファンならマストバイ。
ファンじゃ無くても声が好きなら買うべき。単純に音声作品としての完成度が高すぎる。
自称演技派ロリボイスのネットの女共は見習った方が良い
17:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:23:59 ID:O6QfTnhXW
>>15 サンガツ。 買ってくるわ
18:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:24:33 ID:TBou40PHx
これ聞きながらシチュエーションに対応する場所行くのいいよ
冗談抜きで友達と遊んでいる感じがするから
20:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:25:16 ID:IYHr2Nql4
夏休みの終わりにとんでもないもの出してきたな
ありがとう…ありがとう…………
21:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:25:48 ID:gLUdEPjhM
控えめにクスクス笑う声がすこ過ぎる
何か心にじんわりと来るものがあるというか、くすぐったいというか
23:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:26:30 ID:IsA9y6iV+
雪ちゃんってこういう声も出せるんだね…
基本無表情なイメージがあるから…
24:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:27:10 ID:wykNdXYx1
≫単に表に出すことをしないだけでは?
実際にMVとか雑誌とかでは表情コロコロ変わってるし
26:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:27:43 ID:AfHwVd5rA
>>24 それもそうか
28:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:28:15 ID:AOAHIZhFD
まぁ表情作れなきゃあんな曲でもあんな声出せないもんな
29:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:28:46 ID:lhqKXg3S+
りせちー向けに作ってそう
所々同性に向けてそうな言葉とかあったし
31:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:29:23 ID:IEKdPa0PE
≫女性ファン向けでは?
32:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:29:58 ID:vGzbbwrrm
りせちー向けに作ったやつは表に出さないと思うんですよねぇ……
34:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:30:29 ID:mkVMXi0Q4
私氏、女性ファン
新たな扉が開く
妹にしたい…ですわ……
35:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:31:06 ID:qiwOqjUk2
>>34 出たわね
37:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:31:43 ID:69NpfVoE3
>>34 キマシタワー
38:最古参の雪ファン 2016/8/25 13:32:25 ID:akMS+0nVT
雪ちゃん…なんて罪作りな女………
40:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:33:02 ID:RJ8vYrMWy
41:名無しの雪ファン 2016/8/25 13:33:44 ID:HLbniCzIi
・
・
・
「な、なんだこれは……」
ひとしきり聞き終えた私はヘッドフォンを置き、掲示板に目をやる。
貴方は友達。
タイトルの通り、「友達」という関係にウェイトを置いた作品だ。
まぁ私の持っているのは買ったやつでは無く、本人から貰った音源であるが、そこに差はきっと無いだろう。
「………むぅ、ドキドキが止まらん」
気付けばじんわりと汗を掻いていた。
マウスを握る手が、椅子と接着している背中やお尻がベタベタしている。
しかし、不快では無い。
というよりも、そんな事に思考を割く暇が無い。
「………雪雫」
気付けば彼女の名前を口にしていた。
寂しい。
そんな感情が心に渦巻く。
「確かにそこに居た……か」
掲示板の最初の投稿が、その全てを物語っていた。
さっきまであんなに一緒に居た…様に感じていたのに、現実に戻ればそんなことは無く。
こいつらにとってはそれが当たり前…なのだが、私に限って言えばそんなことも無く。
会おうと思えば何時でも会える間柄。
会いたい。会って話がしたい。作品の様に、一緒に笑いたい。
そんな思考が頭の中で渦巻く。
「むぅ…これを聴かせてアイツは何を……」
愚痴に近い言葉が漏れ出たその時、携帯が振動した。
メールでは無い。電話だ。
私に電話を掛けてくる者は少ない。
今までだったら惣治郎。最近の事を加えるのならば、蓮や真達……。
そして──。
「聴いた?」
「……聴いた」
「良かった。じゃあ……」
明日、遊ぼ。
至極当たり前のように雪雫は言い放った。
◇◇◇
8月26日 金曜日 晴れ
「今日は、誰も居ないんだな……」
「うん、今日は2人だけ。緊張する?」
広い。知ってはいたが広すぎる。
一体自室の何個分なのだろうか。
自宅に招かれた私はそんな事ばかりを考えていた。
「……してない。と言えば嘘になるが…。まぁ前よりはましだ」
「良かった。会ってそうそう倒れたらどうしようって思ってた」
「…そうならなくて良かった、な。慣れない自撮りの甲斐があって何よりだ」
「そうでもしないと、慣れてくれないと思って」
前々から思っていた事だが、天城雪雫は本質的にはアホよりなのではないか、と思う。
あの件の宣言以降、決まって昼と夜に自撮りを送ってきたり、ビデオ通話を仕掛けてきたり。
仲良くなりたい。慣れて貰いたいという意志は感じるが、その為の取る手段がガバガバと言うか、段階を何個か飛ばしていると言うか…。
まぁこうして実際に効果が出ているのだから、文句を言える立場では無いが。
「そ、それで。今日は何をするんだ? ゲームか。雑談か?」
「何も決めてない。双葉は何したい?」
「無計画かっ。……何したい、と言われてもなぁ」
友達と遊んだ経験など、数えるくらいしかない。
そんな私に判断を委ねるのか、雪雫は。
辺りを見回す。
ひとしきりは揃えてられたゲーム機とソフト。壁に立てかけられたダーツ盤。山のようにあるDVD…洋画が多めだな。他にも楽器やらパソコンやら、漫画やら。
多分一生引き籠ってられるくらいには娯楽で溢れている。
「…選択肢が多いのも困りものだな」
「じゃあ…映画観よっか」
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それは少し古めの映画だった。
確か元々はコミックだったと思う。
冴えない主人公がある日、奇妙な仮面を手に入れて超人的な力を持つ怪人に変身する……という割と良くあるやつ。
内容はコメディ寄り。
アニメ的な表現と実写の再現が上手く調和されている。
「懐古厨、という訳では無いがこの時代の映画には惹かれるものがある。確かに今ほどCGが発達している訳でも無いし、機材も古いから映像の解像度も低いのだが──」
「演出や小道具1つとっても。人の手が加えられていて味がある」
「そう! そうなんだよな! 今は大体全てCGで完結するからな…。いや、それが悪いとは言っていない。簡単にクオリティの高いものも作れるのは正に理想だ。制作のハードルが下がれば下がる程、良作も増えるからな。インディーズゲームと同じだ」
「でもデータだけじゃ出せない何かが確かにある。私はマトリックスの柱のガトリングの所が好き」
「NG出したやつか。ああ、あれは良い。何せ本当に破壊しているのだから。日本の特撮もそうだ。昔は炎のシーンを撮影したいがためにスタジオを実際に燃やしたり、人の居ないシーンを撮りたいが為だけに正月の早朝に撮影したり……。そういう身体を張った努力というものは確かに私達に伝わるものだ」
最近の傾向が嫌い。という訳では無い。
ただ単に、たまに立ち返りたくなるというだけだ。
今も昔も関係無く良さがあり、私達はそのどちらも楽しみたい。
ただそれだけ────。
「双葉」
「ん?」
「私達、話せてる」
そう言われ、暫し思考が停止する。
振り返れば確かにそうだ。
ここに来てからずっと、映画を観始めた辺りからさらに拍車をかけて。
特に意識もせず、ありのままの自分とありのままの雪雫として。本当に友達の様に同じ時間を共有出来ている。
「……まぁあれだけお膳立てされれば、な…。自宅に誘ったのも映画を選んだのも、作品に沿ってのことなんだろ? 私がやりやすいように。 計算高いやつだな」
「でもそこだけ。私は枠組みを決めたに過ぎない。交わした言葉も、表情も。残りは全部双葉が選んだこと」
「………ま、それもそうだな」
正直、今更推しがどうとか言う気も無くなってきた。
こいつは純粋に、1人の人間として私と仲良くなりたいんだって、そう思えたから。
「全く、私1人にこんな手間を掛けるなんて…どんだけ友達になりたかったんだ?」
「………私、同い年の友達、全然居ないから。まだ片手に収まるよ」
「それは光栄だ」
なんだ。これだけ有名でも。これだけ才能に満ち溢れていても。蓋を開けてみればこんなもの。
何なら引き籠りの私よりも酷いんじゃないか?
そう思ったら笑えてきた。
自分が雪雫に委縮していたのが、馬鹿らしく思えて───。
「まぁ何だ。よ、よろしくなっ! 雪雫っ」
「うん。よろしく。双葉」
柄にも無く握手を求めた。