PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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74:Begin in late summer.

 

 

8月29日 月曜日 晴れ

 

 

 

 地元でのアレコレを解決してからというもの、雪雫には奇妙な縁が出来た。

 まぁ元々その気が無かったか。と言われれば微妙なところ(クマとか狐とか)だが、それを差し引いても彼らは群を抜いてイロモノだろう。

 

 例えば───

 

 

「アイギスから話は聞いている。異常とも言える程のセンスの持ち主、だと……。是非とも手合わせを願いたい所…だが、その細腕ではな──。そうだ、プロテインは好きか?」

 

 

 初対面でプロテインをプレゼントしようとする裸マントの男。

 

 

「うっそ…天城雪雫……マジで本人じゃん…。資料のデータが正しいなら……いける。───ね、ねぇ! 特撮に興味無い!?」

 

 

 やけに目をギラギラさせたピンク色のヒーロースーツを着た女性。

 

 

 

「いやはや、皆さん早速雪雫さんと打ち解けている様で何よりであります」

 

「ホンマに打ち解けてるんか、アレ? 一方的に詰め寄っとんの間違いやない?」

 

 

 そしてその様子を遠くで静観しているアンドロイド達。

 

 

「───コスプレ集団?」

 

「まぁ否定出来んわ」

 

 

 

 

 

 

「明彦達が悪かったな。後輩が出来た事に少し舞い上がっているんだ、許してやってくれ」

 

 

 ペルソナ使いは限られているからな。

 そうぼやきにも似たトーンで呟く赤髪の女性──桐条美鶴。

 

 彼女は慣れたと言わんばかりの優雅に紅茶を口に運ぶ。

 その一連の動作はまるで絵画の様に様になっており、雪雫とはまた違った育ちの良さが垣間見えた。

 

 

「さてと、お互い忙しい身だ。手早く済ませよう」

 

「ん」

 

 

 短く答えた雪雫が机に出したのは1つの透明のクリアファイル。

 チラリと見える中の書類には小さく武見妙という署名と彼女の診療所の名前が記されている。

 

 ふむ。

 

 と小さく呟きながら資料を眺める事数秒。満足したのか、薄く笑みを浮かべた。

 

 

「確かに。これは責任もって預かるとしよう」

 

「結果はいつ頃?」

 

「それはこれの解析が済んでからだ」

 

 

 そうして雪雫の目の前に差し出されたのは黒いリストバンド。

 

 

「これは?」

 

「……なに、ただの測定器さ。元々はアイギスやラビリスの起動試験に使っていたやつを小型化したモノだ。イセカイにおける君の身体の活動を、そしてそれを取り巻く周辺環境を計測する。H.E.L.I.X.(ヘリックス)…あの場に居た君を除いた5人のペルソナ使い達のデータ……正直に言うとあまりあてにならなくてね」

 

 

 非人間が3人。

 残る2人は人間であるが首謀者側。

 となると残るはあと1人。

 

 シャドウに対する特殊部隊を謳うシャドウワーカーにとって認知世界は正に対処すべき案件だ。

 しかしながら天城雪雫という少女と接触するまで、いや今でさえも。かのイセカイは未知そのもの。

 既存のペルソナ使い達……。つまりシャドウワーカーのペルソナ使い達が活動出来る場所かどうかさえ不明なのである。

 

 

「仮に我々がイセカイに踏み込めたとして、例えばそこが宇宙空間でした。となれば笑えないだろう? つまり──」

 

「現に活動出来ている私を通してイセカイを解析したい。私……いや私達が特別なのか、否か」

 

「話が早くて助かるよ。まぁしかし──」

 

「?」

 

「そうは言ったが、本命は君の身体の測定だ。今、解析を進めた所で、我々は()()()()からな。それに、これは彼きっての願いでもある。稲羽の件を経て君自身にどのような変化があるか。過去の身体データと見比べたい、だそうだ」

 

 

 それだけ聞くと非常に怪しい文面の様には聞こえるものの、その主張が分からなくもない。と雪雫は思った。

 普段何気なしに潜入しているイセカイだが、実際に分からない部分が大半を占めている。そこに対して科学的根拠を用いてアプローチを掛けてくれるのなら、それはそれで興味がある。

 

 

「衝突はあれど……君は良い大人と知り合ったな」

 

 

 表情を崩した美鶴は、やれやれと吐息を零しながら力無く背もたれにもたれかかる。

 

 

「腕に装着すれば後は機械が自動で測定を行う。向こうへ潜行する時につけてくれ。データもリアルタイムで送信される。君は何時も通りにしていればいい」

 

「分かった」

 

「他に何か気になる事は?」

 

「────これって急に爆発したりしないよね?」

 

「映画の見過ぎだ」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「よろしかったので?」

 

「彼女を勧誘しなかった事か? 勧誘してどうする? 勧誘したところで組織に絡めとられるだけだ。丸喜拓人…彼を迎え入れたのはいいものの──。はぁ、頭が痛くなることばかりだ。イセカイは確かに存在する。そこがどういう影響を人に及ぼすかもある程度は分かった。しかしながら私達は手出し出来ない。彼女の持つナビが無い、それもあるが───」

 

「警視庁からの圧力……ですか」

 

「だから彼女達…怪盗団の存在は貴重だ。組織としてマークされている訳でもない。それでいて我々よりも確実に真実に近づいている。───ああ、あの頃は自分がこちら側になるなんて思っても無かったよ」

 

 

 懐かしむ様に、そして何処か寂しそうに美鶴は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

8月31日 水曜日 晴れ

 

 

 

 メメントス 美徳奪われし路 最深部

 

 

 

 もう何度目になるか。

 最早見慣れた光景だ。地下鉄のホームを模したものが並ぶ空間。即ち、このエリアの最奥にして終着点。

 いや、メメントス全体で測るのならば、ここも1つの中間地点にしか過ぎないのだが。

 

 そんな空間に、まるで門番の様に立ちはだかるシャドウこと上智安夫。

 

 嫌がらせ、脅迫何でもござれ。

 強引な地上げによって利益を得ようと画策している小悪党。

 

 今回の怪盗団のターゲットだ。

 

 

───許すまじ。

 

 

 と雪雫ことウィッチは沸々とその憤りを滾らせていた。

 

 

「絶対に刎ねる」

 

 

 ウィッチは映画が好きだ。最新のものから古き良き名画まで。

 家でゆっくりと観るのも良いが、やはり映画館という空間は何物にも変えられない特別感がある。と彼女は考えている。

 

 だからジョーカーの自宅……ルブランの近くに映画館があるのを知った時には歓喜に震えた。

 そこが最新のものでは無く、昔の名画を中心に放映する穴場なのだから尚更。

 

 夏休みももう終わりが近い。

 折角だからと上映スケジュールを確認し軽やかな足取りで向かった結果、彼女は知った。閉館の危機に追い込まれた映画館と、その裏で蠢く悪党の存在に。

 

 

 首を刎ねよ(Off with their heads)

 

 

 頭の中で童話の女王の声が木霊する。

 

 

「……ウィッチ、何か怖くない?」

 

「いつもあんなもんじゃね?」

 

 

 そんな仲間達の声も聞こえている様で聞こえていない。

 取り敢えず、それくらい彼女は怒っている。

 

 しかしながら、憤りを感じながらも思考を回す回す。

 的確に、素早く処理をする為に。

 

 

「…………」

 

 

 敵は人型。両手に巨大な工具を携えた一本足の物の怪。

 確かジョーカーのペルソナに似たようなモノが居た気がする。

 

 見た目通りと言えば見た目通りで、敵の攻撃は近接攻撃が主体。それならばわざわざ相手の懐に潜り込む必要は無い。

 そう考え、魔法攻撃を中心に戦っているものの……。

 

 

(意外と、タフ)

 

 

 まずアリスでは全く歯が立たない。これは強い弱いの話では無く、そもそも呪怨属性に対して耐性を持っている。そういう事だろう。

 それ以外の魔法に関しては有効であるが、こちらの消耗の方が僅かに早い。

 

 

(つまり──)

 

 

 物理で殴る。

 

 

「フォックス」

 

 

 物理と言えば専売特許を取っているクイーンが居るが、こういう手合いには刃物が良い。

 だって、斬り落とせば終わるのだから。

 

 

「ああ」

 

 

 名前を呼べば2つ返事で間合いを詰めるフォックス。

 彼の持つ日本刀が鋭く的確にシャドウ上智に襲い掛かる。

 

 が、

 

 流石と言うべきか、やはり近接戦闘はお手の物のようで。

 両手の工具で軽々と受け止める。

 

 甲高い金属音をお互いに放ちながら行われる鍔迫り合い。

 しかし徐々にそれは決壊していく。

 シャドウの力が増していき、拮抗が崩れてきているのだ。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 僅かに半歩。足が下がった瞬間を、シャドウ上智は見逃さなかった。

  

 キンッ

 

 と甲高い音と共に刀が宙を舞う。一瞬の綻びに付け込まれ、弾かれたのだ。

 

 フォックスは距離を取ろうとした。

 反射的に取った行動だろう。まぁ当然とも言える。だって丸腰なのだから。

 

 それを見ていた仲間達はすかさずフォローへ回ろうとした。

 片や魔法で、片や距離を詰めて。

 

 

「───借りる」

 

 

 しかしそれよりも早く。

 シャドウが反撃に出るよりも、宙に舞った刀が地に落ちるよりも早く、彼女は動いていた。

 

 声の発生源はシャドウの足元だ。

 ギョっとした顔で視線を向ければ、そこには刀を構えた白髪の魔女。

 

 地面に落ちる寸前、駆け付けたと同時に刀を掴んでいた少女は、そのままシャドウの一本足に一突き。

 

 

『───っ! ─────!』

 

 

 声も無く、力無く首を垂れる怪物とそれを見下ろす少女。

 一度、体勢が崩れてしまえば、形成が逆転してしまえば造作も無い。

 全員で畳みかける必要も無い。あとは感情の向くまま、鎌を振るえばいいだけだ。

 

 

さようなら(Hasta la vista, baby)」 

 

 

 

 ▼

 

 

 

「で、満足した?」

 

「ん。やっぱり良いよね、映画。もう1回行ってこようかな」

 

「遅くなるからまた今度にしなさい」

 

 

 丁度日が暮れ始めた時間帯。

 満足気な表情を浮かべてルブランお手製のアイスココアを楽しむ雪雫と呆れ顔の真。

 

 

「映画好きなの知ってたけど……。まさかここまでなんて…」

 

 

 うんうん。と真の言葉に頷く一同。

 話題はやはり今日の雪雫について。

 

 

「ここまで感情的になるの珍しいよね」

 

 

 とか

 

 

「まさに鬼気迫る…という感じだったな」

 

 

 とか。

 

 

 まぁ要するにいつもに増して物騒で容赦なかった。

 ということを色々と言われている。

 

 

「なーんか嫌な事でもあったとか? それとも体調不良? ほら特有のアレ、とか……?」

 

「竜司。アンタ、デリカシー無さ過ぎ」

 

「私、そういうの来ないから」

 

「雪雫も。こういう時は冗談で返さなくていいの。寧ろ怒らなきゃダメよ」

 

 

 ホントなのにー。

 あらゆる方向から反感を買い、窮地に立たされている竜司とは打って変わり、呑気な間延びした呟きが雪雫から漏れる。

 

 

「まぁ……バカのアホ意見は置いといて…。でも本当にどったの? 宿題終わって無くて焦ってる! とか?」

 

「それはお前らだけだろー」

 

「……よくここまで貯め込んでたわね…」

 

 

 双葉と真の視線の先。

 竜司と杏を中心に広がるプリントと教科書の数々。

 

 

「いや…そんな事言ってもなぁ。怪盗の活動忙しかったじゃん? メジエドとかさ!」

 

「マイノリティの意見を聞いても説得力ねー」

 

 

 双葉の言う通りである。

 だってこの2人以外は終わっているのだから。

 

 

「にゃんこはいいよなぁ。宿題ねぇんだから」

 

「はいはい。モナに嫉妬しないの」

 

「そういうお前も終わって無いじゃん」

 

「五月蠅い、モンキー」

 

 

 もう何度目か分からない応酬。

 一体何時になったら終わるのか。着実に進む短針を眺め、蓮は溜息を零しながらカウンターに入っていく。

 

 

「蓮、ココアおかわり」

 

「はいはい…」

 

「ワガハイはミルクだ!」

 

「分かってる」

 

 

 早めに見切りをつけて蓮達に店を預けたマスターの判断は正しかっただろう。

 最早これは子守りに等しい。

 

 

「なぁちょっとで良いから手伝ってくれねぇ? ここの答えとかさ。得意な癖に杏が教えてくれないんだよ」

 

 

 誰が教えるか!

 そんな抗議が飛ぶ横で、渡されたプリントを一読する雪雫。

 

 

「Every cloud has a silver lining.」 

 

「何て?」

 

「どの雲にも銀の裏地が付いている、悪い状況にも良い面はあるよっていう意味ね」

 

「つまり?」

 

「頑張れ」

 

「無情だ」

 

 

 結局、21時を回っても終わることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世間は怪盗団一色だ。

 

 メジエドを倒し、日本の危機を救った英雄。悪を許さず、自らの信念に則って弱者を助ける英雄。

 大衆からのイメージはそんな所だろうか。

 

 実際、目に見えて変わったと思う。

 ネット上で活動するインフルエンサーや雑誌記事、最近ではテレビでも大体的に怪盗団を支持する声が流れるようになった。

 

 そしてそれに比例する様に、怪チャンへと書き込まれる悪党の情報、依頼。

 自らでは解決出来ない事項を他へ委ねる。それはきっと正しく、本来あるべき機構であろう。

 私は否定しない。だって役目なのだから。

 

 だから時々感じる焦燥感も、きっと普通の事だ。

 

 悪人の改心は手早く実行するべきだ。

 パレスの種は剪定するのが常だ。

 

 だってそれが皆の願いなのだから。

 だって私は■■の■み■なのだから────。

 

 

「───大丈夫? ボーっとしてたけど…」

 

 

 ならば問題無い筈だ。

 焦燥は寧ろ正常に機能している証だろう。

 

 

「──うん、大丈夫」

 

 

 だって私は───。

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