PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
怪盗お願いチャンネル。
今ではすっかりお馴染みとなった掲示板型のサイト。
その中で今もっとも目が離せないモノと言えばランキング機能だろう。
所謂、次に改心して欲しい人物がユーザーによって投票される。
まぁ怪盗団がそのランキングで改心のターゲットを決めている。という訳では無いが、名前が挙げられるという事はそれなりに理由があるのも当然で、参考程度に目を通していたりする。
昨今では世間の怪盗団ブームの煽りを受けてか、数時間後にはランキングが入れ替わっている……なんてことも少なく無い。
現にさっきまでランキングの下の方だった秀尽の校長がTOP5まで上がってきている。
しかし今回の話で重要なのはランキングの順位…などでは無く、ランキングの投票数。もっと言えば、サイトへのアクセス数。
それが意味するのは───
「私達が話題になればなるほど、メメントスが拡がっている」
ナビが突きつけたスマホの画面。そこに映し出されている数値とグラフ。
彼女が言うには怪盗団についての書き込みの数、検索数、そしてサイトのアクセス数を表したものらしい。
そしてそれは今も尚、右肩上がりで上昇している。
「もしくは……奥への侵入を許している…?」
「…許す……」
怪盗団を受け入れている。と言い換えても良いかもしれない。
モナは言った。
メメントスは大衆版のパレス。一言で表すのなら集合無意識。
つまり進めば進むほど、心の奥……つまりは核の様なモノに近づくという事。それがどの様なモノか皆目見当も付かないけど、奥底にしまい込んでいるモノだ。おいそれと触れられないだろう。
そう、ましてや赤の他人何かに。
怪盗団が悪人を改心し、人々の関心を集める。そしてその関心は現状、好意的なモノが多い。
好意的な関心が多ければ多いほど、決して会ったことの無い人であろうとも、ある程度は心を許してしまうのは仕事上でも良く見られる光景だ。
つまり───。
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9月3日 土曜日 曇り
「──ファン多いってすげぇなぁ……」
ボーっとスマホを眺めいていた竜司が間の抜けた声で呟いた。
双葉のベッドに寝そべりながら漫画に耽る雪雫に向かって。
「投稿1つでニュースに取り上げられんだもんなぁ。しかも映画の感想」
竜司の視線の先には太字で書かれた【天使の子 新作映画にご満悦】というタイトル。
「騒ぐほどの事か? ニュースと言ってもたかがネットニュースだろう」
「祐介の言う通り。実際に出版しない分、コストが掛からないからこういう小さな話題でも拾うもんだって大宅が言ってた。たまたま話題と投稿が合致しただけ」
ニュースの内容は比較的軽い……大半の人にとってはどうでもいい部類に入るモノ。
ただ単に雪雫が新作の映画を観て、それについての感想を投稿(約1か月ぶり)をしたら思わぬ所で反響を呼んだのだ。
「いやいや…。分かってないですな、雪雫さん。こういう小さな投稿を拾われるってだけで凄いもんよ。なぁ、杏?」
「えっ……ま、まぁ………。そりゃそうだけど……」
余談だが杏は過去に同じことをやろうとして反響が無かった過去がある。
それを知ってか知らずか、竜司からの急なパスが痛い過去を刺激する。
「あー。俺も自分が怪盗だー!とかバラしたらコイツみたいに人気出るのかな~」
「まだ言ってんのか……」
「ちょっと……。自分から明かすなんて絶対ダメだからね!」
モルガナと真から注がれる非難の目に対して「わーってるって! 冗談冗談」と笑みを浮かべる竜司。
「……それにしても【天使の子】…か。いつからこんな名前付いたんだ?」
双葉と共にパソコンに噛り付いていた筈の蓮が竜司のスマホを覗き込む。見るのに飽きたのか、それとも会話に混ざりたかったのか。
まぁこの際どちらでも変わらないだろう。
「知らない」
「まぁ…こういうあだ名…異名?って勝手にファンが付けたりするからね……」
【天使の子】
気付けばその言葉は、天城雪雫というアーティストを指す代名詞になっていた。
先程のネット記事だけでは無い。その手のゴシップには大抵それが用いられ、ついには地上波のワイドショーにまで進出している程。
真の言う通り、本人が知らぬうちに密かに呼ばれていたモノが表に出てきて定着したのだろう。
因みに過激派の久慈川りせに関してもこれには関わっていない。
「出自は知らんが…名前の由来は……まぁ想像出来る」
ふと、双葉の声が加わった。
「天使の子…。まぁ雪雫の名前を1つ1つ噛み砕けば自ずと答えは見えてくる────」
画面から一切目を離さず、キーボードを叩く指を止める気配も無い。
まぁ当然と言えば当然かもしれない。
なぜなら彼女は今、真の姉である新島冴が所有している機密データを解析しているのだから。
しかし一段落ついたのか、先程までの沈黙とは打って変わって淡々と口を開く。
「雪の雫……まぁ直訳だな。これに対応する植物は何だ?」
「……えぇっと…スノードロップ?」
「そう、それだ。学名ガランサス・ニバリス。花言葉は希望と慰め。天使の子っていうのはこれに由来するんだろう」
「……………だから?」
「あぁ、なるほど。楽園から追放された男女を憐れんだ天使が2人に降る雪をスノードロップの花に変えたっていう言い伝えね。それで、天使の子」
へぇ~。と双葉の考察と真の解説を聞いた一同が納得の声を同時に上げた。
「そこまで考えてんの、凄くね?」
「ファンというのはそう言うもんだ。暇さえあればあれやこれや考えちゃうもんなの。おわかり?」
「……恥ずかしい」
皆の会話を横目に聞いていた雪雫が枕に顔を埋め、くぐもった声を零す。
「恥ずかしがる必要無いよ! 綺麗な名前じゃん!」
「そうよ。名は体を表す…じゃないけど良く似合っているし。それにお姉さんともピッタリだし」
「姉ちゃん何て言うんだ?」
「………雪子」
お~。と再び一同から感心の声が漏れる。
そういう所がむず痒いのだ。と彼女は抗議の視線を送るが誰もそれに気付いてくれない。
「…双葉、終わりそう?」
「……んーもうちょい。適当に旅行の話でもしててくれ」
なんて投げやりな。
溜息を零しながら床に散乱しているフリーペーパーを手に取る。
黄色い枠に大きく赤字でハワイと書かれた、竜司が渋谷の駅地下で片っ端から持ってきた奴だ。
「何処の学校もシーズンだな。うちも修学旅行なんだ」
「……ロサンゼルス…だっけ。一二三が言ってた」
「そういうそっちはハワイだったな。……色々と騒がしいが…行けそうなのか?」
祐介の言う色々騒がしいは、十中八九で校長による隠蔽の件だろう。通常ならば中止になってもおかしくはないが──。
「あー、今のところ何も聞いてねぇなぁ」
「ていうか今から中止ってキツくない? 蓮とかこの前パスポート作っちゃったよ?」
「中止は困る」
ふと、雪雫と真の目が合う。
言うべきか言わないべきか──。僅か数秒、お互いの意志を確かめ合い、そして真が口を開く。
「中止にはならないから安心して」
「ホント!? 良かったぁ。川上先生が人が足りないってぼやいてたから、もしかしてーってずっと考えてたんだけど……」
「その足りない人は
「───はぁ!?」
1つ通りを挟んだルブランまで聞こえてしまうのではないか。
竜司の開いた口から驚愕の声が漏れる。
「警察の対応で先生が行けない分、一部の生徒が代役することになったの。私ともう何人かの3年生と──あと雪雫」
「………雪雫」
「ん、よろしく」
なぜ雪雫。
そんな視線が彼女に注がれる。
「ハワイ……ロコモコ、ポキ、パンケーキ、ガーリックシュリンプ、マラサダ、エッグベネディクト────」
「食べ物…ばっかだな……」
「え、本当に行くの? 雪雫が? 大丈夫? ワンちゃん俺らより浮かれてね?」
ハワイグルメを指折り数えながら羅列する雪雫に一抹の不安を覚える竜司。
まぁ気持ちは分かる。
誰がどう見たってその姿は引率などでは無く楽しむ気満々のただの少女だし、真しか知らない事だが彼女のスマホの検索履歴にはハワイに関する事ばかり並んでいるし。
「まぁでも先生の推薦だし、生徒会だし、成績良いし、英語喋れるし……。学年以外はベストマッチなのよね」
「だからといっても1年だぜ? 歳下の引率って………」
「そこは職員会議でも話題になったらしいけど…。歳上に対して物怖じするかって言われたら……ねぇ?」
「まぁ、まずしないだろう」
そもそ学校側の思惑としては、雪雫は一番頼りになる真を連れ出す為の餌であり彼女はまんまとそれに釣られたのであるが、真は決してそれを口にしない。
例え4割くらいの自覚があったとしても。
「兎に角、修学旅行には私達も行くから! 今年の2年は問題児多いし丁度良いわ」
「問題児って…俺達のこと?」
「他に誰が居るんだ………」
ワイワイやいやいと目前に控えたビッグイベントに華を咲かせる一同を羨ましそうに見つめる青い瞳。
「しばらくはお別れ……ってわけか…」
「にゃんこは私と留守番、だなっ」
「大丈夫。モルガナにもお土産…買う。何が良い? マヒマヒ?」
「結局食べ物なんだな……」
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「お、おぉ。データ色々出て来た」
ふと、双葉が声を上げ、それに惹かれる様に皆の視線が画面に集まる。
「ザっと見た感じだけど……人為的で一連性…だって」
「偶然、廃人になる訳じゃないって意味よ。犯人が居る事件だってこと」
「──ていうか廃人の事だけじゃないな。前から騒がれている精神暴走事件ってのもおんなじ一連の事件って読んでるっぽい」
「さっすが真の姉貴!」
「……流石…か…」
流石。そう言えばそうなのだろう。
イセカイの存在を知らずに、本人の生き写しと言ってもいいシャドウとも会話をせずに。現実世界で知り得る情報だけでそこまで絞っているのだから。
伊達にプロでは無い。
「全部、解析するのに、どのくらいかかりそう?」
「んー、量があるから一晩じゃ無理だなぁ。半年分の捜査資料だぞ? ……でも旅行から帰って来る頃には、なんとか。報酬はね、ハワイとロスの土産な」
「ん、分かった。ハワイ土産…ジョイソン・モココ*1のサインで良い?」
「そこは食べ物じゃないのか!?」
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「いいなぁ~! ハワイ!!!!!!」
9月と言えどもまだまだ8月の名残が残る夜に、隙間無くくっついては首筋に鼻の頭を擦り付けるトップアイドルこと久慈川りせ。
彼女の腕の中にすっぽりと収まっているのが誰かは言うまでも無いだろう。
「りせ、行ったことある」
「仕事でね! そうじゃないっそうじゃないの雪ちゃん! 私は雪雫と行きたいの~~~!!」
こっそり付いて行こうかな。
何て呟いているが残念な事にその日は無情にも仕事である。
「あー仕事……仕事ぉ? 滅んでしまえ…………」
「折角復帰したのに」
「それとこれとは話が別なんですぅ」
仕事は好きだが雪雫も好き。
しかし重さが違う。
天秤に掛ければどちらに傾くかなんて愚問なのです。
と久慈川りせは息巻いた。
「当日は何の仕事?」
「新曲の打ち合わせでしょ、それからラジオの収録と───。あっ、ビックバンバーガーの営業も来る」
「ビックバンバーガー……」
「そそ、雪ちゃんが好きなジャンキーなやつ。取り敢えずお話だけでも~って。事務所的には全然OKらしくて、後は私次第だって~」
「CM?」
「分からない。ただなぁ、受けちゃおっかな~。雪ちゃん好きだもんねぇ。親しい人が好きなモノは自然と自分も好きになる説。大いにあるよね~」
ぎゅっと雪雫を抱く腕が強くなる。
少々息苦しさを感じるも、特に雪雫も雪雫で抵抗する素振りは見せない。
「仕事頑張るから帰ってきたらご褒美頂戴~~!」
「……はいはい」