PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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78:Every hundred feet the world changes.

 

 

9月7日 水曜日 晴れ

 

 

 

 丁度1年ぶりか。

 

 夜にも関わらずワイワイと賑わう待合ロビー。離陸までまだ少し時間がある。先生方は頻りに時間を確認しているが、反対に生徒達は呑気なモノだった。記念にと写真を撮る者、売店でお菓子を大量に買い漁る者、観光雑誌と睨めっこしている者……などなど。

 思い思いに過ごしているが、みんな一様にその意識は8時間後に踏むであろうハワイの地へ向かっていた。

 

 因みに私は今それどころではない。

 なぜなら。

 

 

「竜司、居なくない?」

 

 

 そう、学園きっての問題児の1人、竜司が来ていないのだ。

 杏の言葉に蓮と雪雫もキョロキョロと見渡す。

 

 見落とし、なんて無いだろう。

 そもそも誰よりも騒がしくて制服を着崩している金髪の男子生徒なんてこの学校に1人しか居ない。

 

 

「……ん、来た」

 

「え、何処よ?」

 

 

 雪雫は来たと言う。

 しかし彼の特徴的な姿は見えない。

 

 

「竜司の足音する」

 

「忍びの者か?」

 

 

 まーた頓珍漢な事言っているよ。

 なんてそれぞれ顔を合わせて居ると、バタバタと慌ただしい足音と荒息が確かに耳に届いた。

 

 

「出から…ダッシュかよ………」

 

「うわっホントに来た」

 

「良く分かったな」

 

「ん、耳、良いから」

 

「耳が良いとか言うレベルじゃないと思うけど………」

 

 

 まぁ彼女の非常識は今に始まったことじゃないからこの際良いだろう。

 

 

「……というか、荷物それだけ?」

 

 

 肩で息をする竜司の背中で上下するリュックサック。多分、50ℓから60ℓくらいの大きさ。

 とても海外に行くような恰好では無い。

 

 

「たかが4泊だろ? 十分じゃね?」

 

「えぇ……」

 

「んだよ、その反応。つーかそれ言うんだったら雪雫もじゃね?」

 

 

 心外そうに口を尖らせ、私のスーツケースを椅子代わり*1にしている彼女に指を指す。

 

 

「……確かに」

 

 

 身体が小さい分、彼女の背負っているリュックが相対的に大きく見えていたが実際の所は竜司のものよりも小さい。

 小柄……というよりは子どもと変わらない体躯の為、服がかさばらない事を差し引いても容量的に足りない気がする。

 

 

「私は竜司に同意。4泊くらい、大荷物にならない。最低限の荷物で十分」

 

「用意が不十分だったら?」

 

「現地で買う」

 

「お土産とかで荷物がいっぱいになったら?」

 

「? 国際郵便とかで送る」

 

「ブルジョアだな」

 

 

 あっけらかんと、何の不安も無い瞳でそう語る。

 要は道中の手間暇をお金で買うという事か。

 

 そういえばこの子、裕福だった。

 

 

「実際、遠出は荷物少ない方が楽ってりせが言ってた。ロケスタイル」

 

「………貴女、りせさんに荷物用意してもらったでしょ」

 

 

 まぁ今の時代、忘れ物の1つや2つどうにでもなるか。

 最悪、私が貸せば良い。同室だしね。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

9月8日 木曜日 晴れ

 

 

 

 高湿な日本の空気とは打って変わり、カラっとした風が頬を撫でる。

 

 

「やっと着いた」

 

 

 その目尻に涙を浮かべ、欠伸を噛み殺しながら雪雫は言う。

 

 

「おつかれさま」

 

 

 飛行機に揺られること約8時間。

 機内という密閉空間に拘束されるのは流石の雪雫も疲れた様で、まだ1日が始まったばかりだというのに疲労が見える。

 

 道中は特に問題もイベントも無く、夜のフライトというのもあり、皆揃ってそれはそれは大人しいものだった。

 強いてあげるのなら

 

 

「Beef or fish?」

 

 

 と聞かれた時に雪雫がやけに得意気な顔で

 

 

「Both.」 

 

 と食い意地を張ってCAさんを困らせてたくらい。最終的に私のを少し分けてあげて落ち着かせた。

 後は黙々と映画を観ていたり、動画の編集(たぶん仕事関係)したり、ゲームをしたり、本を読んだりと───。

 

 あれ、この子いつ寝たんだろう?

 

 

 

 

 

 

「……男子は4階。女子は6階。部屋割りは書いてある通り。分かったなら、早く行って」

 

「……もう少し優しく言ってあげたら?」

 

 

 

 ホテルのエントランスの端っこで旅のしおり(生徒会作成)に目を落としながらテキパキと指示を出す。

 上級生に対しても物怖じしない態度は相変わらずだ。

 

 

「お、やってんな~。引率方」

 

 

 いつもの2割増しのご機嫌な声音が響く。

 ハワイに着いてからというのも少年の様に目をキラキラさせている学校きってのトラブルメーカー。

 

 

「竜司……。茶化しに来たんだったら、他に当たりなさい」

 

「ハワイまで来てそんな硬い事言うなよ~」

 

「この後の自由時間、一緒にどうかなって思って」 

 

「……もう少ししたら、いける」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 引率組を除く全生徒が部屋の鍵を受け取った事を確認し、ようやく仕事から解放された2人は竜司達に導かれるままビーチへと繰り出していた。

 

 不純物が一切見当たらない、透明感溢れる水面。足全体を優しく包み込むきめ細やかな砂浜。

 綺麗すぎて人工のモノみたい。

 杏の漏らした言葉に一同が揃って頷きを返す。

 

 

「流石に本場はレベルが違うな」

 

 

 蓮はこの間みんなと行った海を思い浮かべる。

 同じ海とは言えど、こうもレベルが違うと比べる事すら烏滸がましい。そう思わず考えてしまう程、ハワイの海は綺麗だ。

 

 

「確かにな~。杏も中々だと思ってたけど──」

 

 

 それぞれがハワイの風景に想いを馳せる中、鼻の下を伸ばしながら明後日の方向に目を向けている男児が1人。

 品定めする様に周りの現地住民達と同郷の女性陣を見比べている。

 

 

「やっぱ外国人と見比べると…アレだな!」

 

「じゃ見んな!!」

 

「お前もそう思わねぇ? やっぱ外国人はボリューム違うわって」

 

「…………」

 

 

 確かに。

 

 怪盗をやっている事以外は至って普通の健全男子高校生である雨宮蓮は脳裏で同意した。

 

 日本人は小柄だ。

 よく言われている言葉だが、国内に居る時はほぼほぼその定説を意識する機会は無かった。

 しかし、実際にこう海外に来て比べる機会が訪れた今、自分達との違いをまざまざと見せつけられた。

 

 ハーフである杏ですら華奢に見えるのだから、もう、凄い。

 

 しかし、事実だからと言って同意を求められても困る。

 女性陣からの鋭い視線が刺さる刺さる。

 

 

「……大丈夫だ、雪雫」

 

 

 言葉を慎重に選ぶ必要がある。

 皆を傷つける事無く、ありのままを肯定する言葉を。

 とりわけ、それに対して多少なりのコンプレックスを抱いている彼女に対して。

 

 

「小さいのもステータスだ」

 

「まだ何も言ってないんだけど」

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻りベッドに腰掛けると疲労と共に零れる溜息。

 

 

「…流石に疲れたな……」

 

 

 寝ていたとはいえ、8時間以上も座りっぱなしの機内。ハワイに着いたら着いたで生徒達の誘導。その後の自由時間も何だかんだ皆と歩き回っていたのだから、休息らしい休息はこれが初めてだ。

 風呂上り特有のポカポカとした心地良い体温が眠気を誘う。

 

 もう欲のままに寝てしまおうか。

 

 普段はこんなダラダラした姿など、家でも見せないのだがここはハワイ。

 怠惰な姿を咎める姉も居なければ、生徒会長としての振る舞いを期待する先生も居ない。

 

 

「お疲れ」

 

 

 睡魔に誘われるまま静かに目を閉じようとした時、ふと頬に感じた冷たい感触。

 

 

「……ひゃっ」

 

「パイナップルジュース……一緒に飲も?」

 

 

 いつの間にか目の前に居た雪雫は、お風呂上りで濡れた髪を乱雑に拭きながらジュース缶をこちらに差し出していた。

 

 

「ちょっと…いきなりビックリするじゃない」

 

「まぁまぁ」

 

 

 抗議の目を掻い潜り彼女は私の横へチョコンと腰かけた。

 

 

「こんなのいつの間に…」

 

「朝、確認が終わったタイミングで買ってきた」

 

 

 プルタブに指を掛け力を加えると、軽快な音と共にほんのりと果実の匂いが鼻腔を擽る。

 

 

「美味しいよ、これ」

 

「───そうね…。果物本来の味がちゃんとする」

 

 

 疲れた身体に染み渡る甘酸っぱい風味。

 外国特有の甘ったるさとかも無くとても飲みやすい。

 

 

「───もう一本買ってこようかな」

 

 

 自分の分を飲み切った雪雫は目をキラキラと光らせて頬を綻ばせる。

 

 

「……その前に服着なさいよ」

 

 

 裸のままで。

 

 

「まだ暑い」

 

 

 さも当然の様に、特に恥じらう様子も無く口を開く。

 辛うじて肩に掛かるバスタオルで局部は隠れているが、裸である事には変わりない。

 

 

「風邪引くわよ……髪も乾かして無いし…」

 

「あーとーでー」

 

 

 妹が居たらこんな感じなのだろうか。

 雪雫からバスタオルを奪い、丁寧に髪を拭いてあげる。

 

 

「もう…折角綺麗な髪してるんだから───」

 

「真、上手だね」

 

「これくらい当たり前です」

 

 

 全く普段のこの子はどうやって生活しているのだろうか。

 時々……いや割と高頻度で疑問に思う。

 

 

「ほら、ドライヤーしてあげるから……取り敢えず寝間着着て」

 

「はーい」

 

 

 いくらりせさんが半同棲状態とはいえ、限度があるだろう。

 

 

「着た」

 

「はいはい………それ寝間着?」

 

「ん」

 

 

 そこには明らかにオーバーサイズの白のワイシャツだけを着た雪雫が居た。

 少し屈めば中まで見えてしまいそうな襟元からは鎖骨から肩に至るまでのラインが顔を覗かせ、服の裾からは美脚と言わざるを得ない生足が。加えて可愛らしく余った袖をブラブラと揺らしている。

 所謂、彼シャツ……という奴だろう。

 

 

「……それで、何時も寝てるの?」

 

「ん」

 

「…はぁ」

 

 

 本当に同室にして良かった。

 新島真は心からそう思った。

*1
真から言い出した

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