PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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79.5:Good idea.

 

 

9月12日 月曜日 晴れ

 

 

 

 目の前にぶら下がるオリーブグリーンの輝きを放つ宝石……そしてそれが施されたピアス。

 テーブルに頬杖を付きながら見惚れる様に。かれこれ1時間ほど久慈川りせはそれを眺めていた。

 

 

「えへへ」

 

 

 彼女はいま自室で眠りこけている。

 時差ボケというやつだろう。帰って来てからというもの、ずっと眠たそうに目を擦っていたのだから、流石の雪雫も生理的な現象には勝てないらしい。

 

 しかしながら、そんな彼女は睡魔に襲われながらも、りせへお土産を渡す事を優先した。

 よっぽど渡すのを楽しみにしていたのだろう。

 他の土産が全て郵送なのに対して、これだけは直接持って帰ってきたみたいなので、そんな少女のいじらしさが節々に伺える。

 

 

「うぇへへへ……」

 

 

 久慈川りせはいま非常にだらしない笑みを浮かべている。

 とてもトップアイドルとは思えない程の。

 

 しかし仕方ない事と言えば仕方ない事だった。

 今までに何度も雪雫からプレゼントを貰った事はあったが、アクセサリーは完全に初めてで。加えて渡すときの少女のいじらしい姿がスパイスとなって、その「初めての経験」をより鮮やかに飾り付けているのだから。

 

 

 ・雪雫からの初めてのアクセサリーのプレゼント

 

 ・生理的欲求よりも優先された久慈川りせ

 

 

 この2点の事実だけで何時間もピアスを眺められるし、ご飯も何杯もいける。

 加えて。

 

 

「ペリドット……運命の絆、平和と安心……夫婦愛…!」

 

 

 宝石について無知であったから、好奇心で調べて出てきました石言葉とその意味。

 

 

「これはもはや告白では?」

 

「いやいや婚約でしょ」

 

「もしかしてOKって事じゃない?」

 

 

 脳内の様々な久慈川りせが口々に推測を述べる。久慈川りせ評議会は類を見ない熱量で議論を重ねては大盛り上がり。

 ──それほどまでにいま、彼女の脳内は幸福物資で溢れに溢れていた。

 

 

「…………そうだ」

 

 

 そこで思いつく。

 自分史上TOP10に入るくらい名案だ。そう彼女は自負をした。

 

 

「折角ならお揃いにしたい」

 

 

 これの石言葉が検索した通りなのなら、それくらいはしても良いでしょう。

 ていうか、こっちの方がロマンチックな気すらする。

 

 

「……行こ」

 

 

 今はまだ日も高く、雪雫は眠りに付いたばかり。ちょっとした買い物くらい訳無いだろう。

 ラフな格好からある程度は外に出ても許される服に着替え、サングラスと帽子を身につけて。最後に合鍵を持てば準備は万端。

 

 

「………うひ、ひひひひ…」

 

 

 怪しく笑みを浮かべながら、彼女は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「提案があります」

 

 

 すっかり日も落ち、初秋とは名ばかりの蒸し暑さが残る今日この頃。

 時差ボケから来る睡魔から解放された雪雫に対して私は神妙な顔持ちで語り掛ける。

 

 

「?」

 

 

 コテンと小首を傾げる彼女は所々跳ねている髪も相まって、まさに子どもの様。

 大変可愛らしいです。

 

 

「提案って?」

 

「いやぁ…大したことでは無いんだけどぉ………」

 

 

 勿論、私の主観では。 

 

 

「ピアス、開けてみない?」

 

「……………? 私が?」

 

 

 そんな提案されるとは思っても無かったと言うように目をぱちくりとさせる雪雫。

 

 当然と言えば当然だろう。

 彼女に自分を着飾ろうという洒落っ気など存在しないのだから。育った環境ゆえか、それとも今も昔も外に出ないからか。要因は定かではないが。しかしその癖、手に取るモノ全てセンスが良く纏まっているのだから、そういう感覚は人並以上だ。単純にそれが自分自身に向かないだけで。

 

 

「うん。きっと似合うと思うんだよなぁ」

 

 

 まぁ雪雫に似合わないモノなんてそうそう存在しないだろうが。

 顔面偏差値の暴力である。

 

 

「───でも、私ピアス持ってない」

 

 

 チラリと私の耳元に視線を流しながら、満更でもない様子でそう口を開いた。

 

 なるほど。やっぱり意識が回らなかっただけで開ける事に対して特に忌避感は無いらしい。

 天城家の方針でそういうのがダメとか、たまに垣間見えるお嬢様育ちの由来の抵抗感があるとか、一応そういう心配もあったが杞憂だった様だ。

 

 

「ふっふっふ……そんな貴女には、コレ」

 

  

 自然と上がっていく口角につられて上機嫌にソレを雪雫の前に差し出す。

 上品に光り輝くオリーブグリーンの宝石が施されたピアス。

 

 

「………それ、私のじゃない…」

 

 

 そう何を隠そう、雪雫がハワイで買ってきてくれたピアス………の片割れ。

 

 

「まぁまぁ、りせさんのナイスアイデアを聞いてくださいよ」

 

「………む」

 

 

 何も貰ったやつをそのまま雪雫に渡すのでは無い。

 私も私でコレを大事にしたいし、使いたい。でも、それだけだと少し寂しい。

 

 

「……お揃いにしてみたいな…なんて」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「…ん」

 

 

 髪を耳に掛け、私の眼下には小さな左耳と細い首が晒されている。

 血が通っているのか心配になるくらいに白く、染みどころか産毛も無い素肌。

 

 

(うっはぁ……えっっっっろ)

 

 

 なんてアイドルらしくない思考が過ぎる位の完成された美。

 

 

(今から雪雫の身体に穴を開けるのか………)

 

 

 本当に15年間生きて来たのか心配になるくらい純白の身。怪我が絶えない生活をしている癖に、そんな事も感じさせない位なにも無い。

 この間の稲羽の時の傷ですら消えてしまう様な彼女の身体に、他ならぬ私が傷をつけるなんて……そんなの…………。

 

 

(興奮しちゃうじゃないか………)

 

 

 少女が大人へ変わっていく様な危うく、それでいて官能的な───。

 

 

「りせ?」

 

「──うぇっ、……あぁ、ごめん! すぐやるから!」

 

 

 ピアッサー片手に妄想に更けてた私を訝しむ雪雫の声で現実に引き戻される。

 危ない危ない。危うく暴走するところだった。

 

 

「少しチクッとするからねぇ」

 

「──ん」

 

 

 そっと彼女の耳に指を添え、慎重に位置を見定める。

 上過ぎず、下過ぎず。それでいて平行に針が通る様に。

 

 

「──────」

 

 

 息遣いを見逃す事すら難しいほどの距離。雪雫が僅かに身構えて緊張しているのが手に取れる。

 流石の雪雫も身体に針が通るのは怖いらしい。

 

 

「すぐ終わるから……そんなに緊張しないの」

 

 

 実際やってみると呆気ないものだ。

 私も初めて開ける時、中々心が決まらず1時間くらい渋っていたが、実際にやってみるとこんなものかぁと思った記憶がある。

 

 

「いくよ」

 

 

 僅かに重いトリガー部分を一思いに引けば、パチンと乾いた音が鳴り響き、雪雫の肩が僅かに跳ねた。

 

 

「──────っ」

 

 

 私はすぐさま綿棒に消毒液を垂らし、丁寧に拭く。

 

 

「ちょーっとヒリヒリするかもしれないけど我慢してね。化膿しちゃうからさ」

 

 

 今まで塞がっていた所に無理矢理ハリを通しているのだから、それは何ら傷と変わらない。丁寧に消毒してあげなければ。

 

 

「……ビックリした」

 

「まぁ最初はそうだよね…っと。はい、オッケー。うん、似合う似合う」

 

 

 味気の無いごく普通のファーストピアスだが、流石と言うべきか。とても様になっている。

 

 

「これはどれくらい付けとけば良いの?」

 

「んー、一か月くらいかなぁ。その位たてばホールも安定するから、自由に付けれるようになるよ」

 

「……む、そっか…」

 

 

 あぁ、一か月後が待ち遠しい。

 

 

「それまではお風呂も寝る時も付けっぱなしにしといてね。最初は寝返りとか打ちにくいかもだけど、すぐに慣れるよ。…あぁ、あと着替えの時とかお風呂上りとかも気を付けてね」

 

「ん」

 

 

 左耳を擦りながら雪雫は短く答える。

 

開けたばっかってなんか違和感あるしヒリヒリするよね。分かる分かる。あ、でもあまり触り過ぎちゃダメだよ。ばい菌が入っちゃうからさ。

 

 とか言いながら、私の意識は一か月後へ思いを馳せている。

 いやぁ楽しみだなぁ。お揃いのピアス付けてお出かけしたりとか……あとは写真撮ってSNSにアップしてファン達を沸かしたりとか……。

 

 

(早く来月にならないかなぁ……)

 

 

 雪雫の左耳で輝く銀のピアスを眺めながら、りせは顔を綻ばせた。

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