PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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80:It takes two to tango.

 

 

9月13日 火曜日 晴れ

 

 

 

 季節の境目というのは非常に曖昧であり、その定義は人によって異なる。

 9月になった時点で秋と言う人も居れば、年度に合わせて秋は10月からだと言う人も居るだろう。

 

 まぁ特にどちらが間違いという事は無く、寧ろどちらも正解である。

 というのも人によって捉え方が違う様に、何を基準にするかによってその定義が変わってくるからだ。

 

 例えば、気象学ならば、9月、10月、11月。天文学であれば秋分から冬至まで。二十四節気に基づくのであれば立秋から立冬まで。旧暦なんかは7月から9月が秋とされている。

 

 

「…………暑い」

 

 

 因みに雪雫は天文学派。彼女に言わせれば9月22日の秋分の日までは夏である。より正確に言うのならば「太陽黄経が180度、270度になった瞬間」が秋分になる為、【9月22日14時21分】から秋が始まるのだが、別に天文学オタクでも無いので流石にそこまで細かく切り分けていない。単純に実家の旅館が秋分の日を境に秋仕様に切り替わるからである。

 

 だから何の新鮮味も無い1日の筈だ。

 何時も通りのルートで学校に向かい、変わらぬ暑さに項垂れる。修学旅行という大きなイベントも過去のモノだし、気持ち的にも取り囲む環境的にも変化が無い。

 

 と、そう思っていた。

 

 

「─────」

 

 

 そのニュースを見るまでは。

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 学校側から校長の死が告げられたその時は特段驚きはしなかった。朝の時点で既にニュースになっていたし、学校の前にはパトカーが止まっていたし。それに火曜日という中途半端な曜日にも関わらず、朝から体育館に集められたのだから、余程察しが悪くない限り「校長の件だな」と誰もが思っただろう。身構えるタイミングはいくらでもあったのだから。

 詳しい事は特に語られなかった。校長が亡くなってしまったという事実と、鴨志田騒動以後、学校問題の解決に尽力していた事。告げられていたのは主にその2点だ。

 

 まぁ子どもに聞かせる改めて聞かせる内容でもないし、調べればすぐに分かる事も多いため、詳細は省いたのかもしれない。それに例の隠蔽の件で不信感が高まっている以上、話題を早く切り上げたかったか。

 

 

「───学校ではこんな感じ」

 

「……特別、新たな情報は無し、か」

 

 

 祐介が神妙な顔持ちで口を開いた。

 

 

「隠蔽騒動を苦にした自殺。場所は警察署の前。交差点に飛び込み、走行中のトラックに撥ねられ即死。公表されているのはこんなところか」

 

「怪盗団の仕業……とかには今のとこなってねぇけど……」

 

「一定数、怪盗団と結び付けている人は既に居る。殺しの罪を擦り付けられる可能性はある」

 

「っんだよ雪雫……俺達が悪いってのか!?」

 

「声荒げない。私はただ可能性を言っただけ」

 

 

 就学旅行後、初めての会合。

 当初の予定では真が引っこ抜いた捜査資料に関した報告の場であったのだが、話題は専ら校長の死に関連したモノへと置き換わっていた。

 

 知っている人物の死というのもあるが、手は下していなくとも間接的にも怪盗団が関わっていたという事実に一同顔を曇らせている。

 

 

「……もしかして…校長の自殺って私達に責任がある…?」

 

 

 眉尻を下げ、杏が弱々しく口を開いた。

 

 

「私達が鴨志田を改心させなきゃ、校長は死ななかったんじゃ……」

 

「やらなきゃやられっぱなしだっただろ!?」

 

 

 改心自体は悪い事では無かった。と当事者では無いものの、雪雫はそう思った。

 行わなければ今の私達は無いし、体罰の問題も闇の中。失うモノが多すぎる。

 それに出てきた問題を誠実に対処しなかったのは校長自身であって、乱暴な言い方をするならば自業自得……となる訳だが…。

 

 

「私達がしてること、本当に正しいのかな……?」

 

 

 

 

 真の言葉に、誰も言葉を返せなかった。

 それは答えの無い問だから。これに対して答えを持てるのならば、揃ってそもそもこの話をしていないだろう。

 

 

「─────」

 

 

 議論が行き詰った所で、静観していたモルガナが苛立ちを僅かに含みながら口を開いた。

 

 

「おいおい、本題に戻ろうぜ。ニージマのデータの話だろう?」

 

 

 議題の変え方としては乱暴で冷たく聞こえたものの、それに対して非を唱える人は居ない。

 全員分かっていたのだろう、答えの出ない議論をしている、ということに。

 

 

「───せ、」

 

 

 皆の視線が双葉に集まる。

 それもその筈、捜査資料を持っているのは彼女であり、その解析も一任していたのだから。

 

 しかし空気感としては最悪もいい所だ。ただでさえ、校長の自殺で気が立っているのに加えて、しこりを残したままなのだから。

 そんな雰囲気に双葉が耐えられる筈も無く、双葉は僅かに涙目を浮かべながら、この中で一番冷静そうな者へ縋る様に視線を送る。

 

 

「雪雫ぁ……」

 

「何で私」

 

 

 溜息を吐き、双葉の元へ。

 簡潔に纏められたデータが映し出された画面に視線を落とす。

 

 

「……新島冴は、一連の事件の内、明らかに事故や病気じゃない不審なモノに目を付けてる。それに共通点が無いか。調べていたみたい。─────ふぅん」

 

「何て書いてあるんだよ?」

 

「憶測な部分も多い、けど過半数の事件で大きな利益を得る人が居た事を特定してる。───株式会社オクムラフーズ。及びその代表取締役社長、奥村邦和」

 

「オクムラ? なんかどっかで……」

 

 

 なんか聞き覚えあるんだよなぁ、と竜司が首を捻る。

 

 

「ビッグバン・バーガー、だな」

 

「ビッグバン・バーガー!! まじかよ!?」

 

 

 ビッグバン・バーガーと言えば、今や日本各地に展開されるファストフード店。最近では海外事業への展開も進めており、ファストフードと言えばまず名前が上がるほど有名だ。

 

 

「言われてみれば、ここ何年かだよね。ビッグバン・バーガーが有名になったの。ハワイにまで支店あったし」

 

「……ふむ、競合他社に不祥事やら役員の退任やら…タナボタが不自然に多いと書いてあるな」

 

「競合に不祥事……ワイルドダック・バーガーのやつもそれ?」

 

「そういえばニュースでやっていたわね。状況証拠的に否定は出来ない、かな……」

 

「事件か事故かも分からん話なのに、特定の社長ばっかり得してるんなんて、怪しすぎんだろ? そいつが故意に起こしてる事件って考えた方が自然だ」

 

 

 自分達以外にイセカイに出入り出来る謎の人物。そしてそいつは廃人化に精神暴走にやりたい放題。加えて一色若葉の件も考慮するに、組織的な犯行である可能性すらある。

 一応、辻褄は合うが………。

 

 

「根拠ならまだある、デカいのがな。フタバ、あの話をしてやれよ」

 

 

 モルガナは双葉に得意気に視線を送った。

 

 

「もう奥村の名前、ナビにいれてみたし。……こいつにはパレスがある」

 

「……なら、次のターゲット…?」

 

「そういうことだ。オクムラはランキング上位だしな」

 

 

 そう言えば前に週刊誌でオクムラフーズの就業環境について取り上げられていたな。と雪雫は思い返した。

 一言で言えば…そうブラックそのもの、らしい。

 

 今の怪盗ブームの影響で少しでも埃が出れば改心を望む声が大きくなる現状、無視は出来ない存在ではある、が。

 

 

「待て、悪人だと決まった訳じゃない。うかつに飛び込むと……」

 

 

 そう、祐介の言う通り悪人という確証は無い。今までとは違って被害者を目の当たりにした訳でも、当事者から依頼された訳でも無いのだ。

 人の心を変えるという性質上、迂闊に意思決定をする訳にもいかない。

 

 それに────

 

 

「この世間のブーム…正直、気味が悪い」

 

 

 誰もが怪盗団の次なる一手を期待している。あれだけ眉唾物扱いしていたマスコミも大々的に取り上げる様になったし、怪盗団グッズなんてものも出回り始めている。

 加えて不祥事どころか黒い噂が出た時点で改心を望む声が上がる上に、(まつりごと)にまで手を出せという声も出て来た。

 個人の罪にとどまらず、社会の問題そのものまで怪盗に解決させようとしてくるのが現状の論調である。

 

 

「うん、なんか今の盛り上がり、普通じゃないよ。少し、落ち着いてからの方が………」

 

「杏まで何だよ! 期待の声を裏切っちまうつもりかよ!?」

 

 

 怪盗団の活躍の裏で起きた校長の死。直接的に関りが無くとも、鴨志田事件の余波で命を落とした事には変わりなく。メンバー各々の心に根付いた罪悪感。

 それが今の怪盗団の動きを鈍らせている。

 声を大きく上げている竜司は罪悪感から来る焦りから、悪人を1人でも多く改心し自分達の正当性を知らしめたいと考え、杏と祐介はその逆。それぞれの心がバラバラの方向に向いてしまっている。

 

 そして、もう1人。

 

 

「やれやれ……オマエら。纏まり無さすぎだぜ…。尻込みか? 見てらんねぇよ!」

 

 

 声を上げたのはモルガナだった。苛立たしそうに、加えて僅かな怒気を含んだその声は、普段にも増して尊大不遜で。場の空気を凍らせるには十分過ぎるモノだった。

 

 

「周りの空気に飲まれやがって……。オマエらの正義感っていうのはそんなもんかよ!?」

 

「………は?」

 

 ひとしきりモルガナが声を荒げた所で、竜司が応戦する様に口を開いた。

 怪盗団にとっての竜司の役割。他のメンバーほど考えるのが得意でない彼にとっての最大の貢献は先陣を切って道を切り開く事であり、それは竜司本人も自覚していた。だからモルガナの言葉は彼にとって致命的だった。だって竜司自身、自分の役割を全う出来ていないのを自覚しているのだから。

 

 

「……てめぇだって、何も出来てねぇじゃんかよ…」

 

「────なっ」

 

 

 竜司から絞り出されたその言葉を聞き、ますますモルガナの表情が険しいものへと変わった。彼の言葉は的確に、モルガナのウィークポイントを貫いてしまったのだ。

 

 モルガナにとって重要な事は『ギブ&テイク』な関係である。簡単に言えばモルガナが怪盗団を手引きし、蓮達は彼が人間に戻れる方法を探す───だったのだが。

 悪人を改心をするにつれ、蓮達の成長や新たな仲間達の加入により、モルガナの持っていた先輩としてのアドバンテージも最早、無にも等しくなってしまっている。その現状がモルガナにとって堪らなく我慢ならず、そして疎外感を感じさせる要因となってしまっていた。

 

 だから竜司の「何も出来てない」という言葉はモルガナにとっての地雷であり、それでいて『ギブ&テイク』が成り立っていない事を遠回しに自覚させる決定打となってしまったのだ。

 決してそれが意図されたものでなくとも。

 

 

「……いいだろう…。どっちが役立たずか、思い知らせてやる…!」

 

 

 最早、以前あった関係は成り立っていない。コイツらはワガハイを必要としていない。

 そんなドロドロとした気持ちを抱えたまま、モルガナは感情に任せたままそう言った。

 

 

「オクムラなんて小物…、ワガハイ1人で十分だ!」

 

 

 正に脱兎の如く。

 そう言い残し、モルガナは慣れ親しんだ蓮の部屋を後にする。逃げる様に、仲間達が引き留める暇も無く。

 

 

「……どうせすぐ戻ってくんだろ…」

 

 

 吐き捨てる様に竜司が呟いた。

 

 きっとただ腹の虫の居所が悪かっただけだ。数時間後にはお腹を空かせてひょっこり戻って来るだろう。

 竜司だけでなく、皆が皆、そう思わず居られなかった。

 本当は今すぐにでも追いかけたい。しかし掛ける言葉が見つからないし分からない。

 

 だからそんな都合のよい未来を見ることしか出来なかった。

 

 

「────モナ」

 

 

 静まり返った室内。言葉を発するのが億劫になる程の重苦しい空気。

 白の少女はその名を口にした。 

 

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