PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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81:Signs of Spring

 

 

 足取りは最悪だ。

 勢いで飛び出してから僅か10分程が経過した。昼間とは違った夏らしさが抜けた風で頭が冷える。

 

 随分前から不安は抱えていた。少し前にその不安は仲間達への不満へと変換されていった。そして今日、それが爆発した。自分自身で振り返ってみれば、明確に今日に至る道筋を思い出せた。

 

 しかし、彼らはどうだろうか。 

 きっと自分が苛立っていた理由も、焦燥に駆られた要因も分からないだろう。

 ────だって、誰にもその事を相談していないのだから。

 

 何度後ろを振り返っただろうか。

 もしかしたら、追いかけて来てくれるかも。そんな淡い希望を抱いて。しかしながら現実は無情であり、視界に映るのは帰宅途中のくたびれたサラリーマンのみ。

 

 

「……ハハっ」

 

 

 乾いた笑いが口から零れた。

 

 来るはずが無いのだ。

 だって彼らからしてみたら、自分は急に癇癪を起こした扱いにくい奴だろうから。

 

 

「いや、よそう」

 

 

 ズルズルと引きずるネガティブな思考を振り落とす様に首を振る。

 放ってしまった言葉は戻せない。既に起きた出来事を取り消す事は出来ない。タラればをいくら考えた所で、喧嘩別れした事実は消えない。ならば宣言通り、自分1人でやってやろう。起こした失態は行動で挽回するのみだ。そうすればきっと、また以前の様な関係が───。

 

 

「猫ちゃん」

 

 

 淡々とした、抑揚の少ない声だ。

 発生源は丁度目の前。自分の進路を塞ぐ様に、その小柄なシルエットは道路の丁度真ん中に佇んでいる。

 

 

「……なんか用かよ?」

 

 

 先程まで抱いていた希望が叶ったというにも関わらず、可愛げの無い言葉しか紡げない口が妬ましく思った。

 

 

「…用……。うん、用事」

 

 

 その声を、そのシルエットをモルガナは知っている。

 小首を傾げるその仕草も、つられて揺れる白髪も。闇夜で光る紅い眼も。

 

 

「私も付いて行く」

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

「だぁー! しつけぇ!! 何度も何度も先回りしやがって!」

 

「目的地分かってるんだから当たり前。地形と照らし合わせながら、モナの通りそうなところピックアップしてるだけ」

 

「それでも限界あんだろ!? どういう脳ミソしてんだオマエ!?」

 

 

 「私も付いていく」発言からしばらく、モルガナと雪雫の間で繰り広げられる追走劇。

 あれだけの啖呵を切った手前、はいそうですか。と彼女の同行を容認出来無いモルガナは、雪雫を何とか撒こうとやっきになるもの、悉く失敗。どんな細道を通ろうと、どんなに複雑怪奇な道順を描こうと、その先には必ず彼女が居る。

 

 

「いい加減諦めて。私とパレス行く」

 

「絶対お断りだ!」

 

 

 怪盗団随一の戦闘マシンが同行したとなれば、功績は半分どころか1/4も残らないだろう。自分の有用性を知らしめたいモルガナにとって、それだけは頂けない。

 

 

「第一、他のヤツらはどうしたんだよ?」

 

「帰るって言って私だけ抜けて来た。話、纏まらなさそうだったし」

 

「……同情で付いてきたならお門違いだぜ」

 

「同情なんて無い。私はただパレスを放っておけないだけ。モナに付いて行った方が早く攻略が進みそうだったから」

 

 

 こいつはブレねぇな……と内心で呆れ半分、感心半分で溜息を零す。

 

 思い返せばさっきの会議でそこまで口を挟んでこなかったし、常に静観する立場に身を置いていた。

 もしかしたら、オクムラにパレスがあると聞いた時点で彼女の中では答えが出ていたのかもしれない。主張をしなかったのは余計な波風を起こさない為…、もしくは主張した所で話は纏まらないと踏んでいた為か。どちらにしろ、彼女らしい立ち回りだ。

 

 

「おいおい………全会一致はどうしたんだよ?」

 

「それを言うならモナも」

 

「ワガハイはもう抜けた身だからな。関係ねぇ」

 

「ふぅん……まぁいいや。改心まではするつもり無いから問題無い。オタカラまでのルートを確保するのが目的」

 

 

 要するにターゲットのシャドウに何もしなければ、いくら暴れても影響無いのだから怪盗団の方針からはブレていないでしょう。という事か。

 何とも屁理屈染みた言い分ではあるが、実際に決議を取らず蓮と祐介だけでメメントスに入った前例もあるし、その通りではある。場所が大衆の心か、個人の心か。違いはそれくらいだ。

 

 

「なら1人で行けばいいじゃねぇか。ワガハイの様にな」

 

「モナも意地悪言う。モナも私も1人で出来る事なんてたかがしれてる。その分、1人増えれば知恵は倍、戦力も倍、効率も倍。いい事尽くめ」

 

「………ううむ…」

 

 

 蓮達と一緒に居るだけではいつパレスにいつ行けるか分からない。だから手っ取り早く、今日にでも突入しようとしている自分に付いていく。

 言い分は分かった。

 

 しかし────

 

 

「指示はモナに任せるよ。ただ潜入出来れば良いから。………ねっ、──────()()()()♡」

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、これはギブ&テイクな関係、取引だ。

 

 雪雫はモルガナの事をリーダーと称し持ち上げた。要は『攻略の手柄は全てあげるから私を連れて行け』と言外に含ませているのだ。今のモルガナにとってこれ以上無い提案とも言える。

 彼女の性格上、自分の実力をひけらかす様な事もしないだろうし、仮に全てがうまくいったとしたらモルガナへのリターンは非常に大きいだろう。

 

 

「…………腑に落ちない」

 

 

 しかし、どうにも納得出来無い部分もある。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 オクムラフーズ本社ビルの目の前。ナビのボタンを押せばもうすぐにでもパレスに入り込める様な所で、モルガナは疑問を唱えた。

 

 

「パレスを放って置けないのは同感なんだが……。オマエ、アイツらに黙って行動する様なヤツだったか?」

 

「……ああ、そのこと」

 

 

 行動自体は容赦が無いというか。迷いが無いというか。直線的な部分が多い彼女ではあるが、それでも足並み自体は揃えていた印象はあった。

 しかし今回はどうだ? 行動基準は一定だが、何時もよりも踏み込みが早い気がする。

 

 

「パレス。個人の欲望が肥大化したその末路。思うに……人が持っていていいものじゃない。人間の持つ器に対してあまりにも大きすぎる願い、器から溢れたその時、実害となって泥は振りかかる。当の本人か、はたまた別の誰かか。……伸びすぎた枝は剪定するでしょう? それと同じ」

 

「……仮に、悪人が持つものでなくてもか?」

 

「双葉の例がある。どちらにしろ、立ち往生はしていられない」

 

 

 そう言うや否や、雪雫はスマホを取り出しナビを起動した。これ以上の問答は不要、そういう事らしい。

 

 

「そろそろ行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬く無数の星々に囲まれたその空間は、まさしく映画で観るような光景だ。機能性を度外視した奇妙なデザインの機械。宙に浮かぶホログラム。そして目の前に聳え立つ縮尺の感覚がおかしくなるくらいの巨大建造物。

 

 

「宇宙……」

 

 

 人類が夢見る宙の彼方。人類の存在を許さない厳しい環境に、わざわざこうして基地を設けるのはオクムラの欲望故か。それともただの浪漫か。

 どちらにせよ、今までの例に漏れず厄介なパレスであることには違いない。

 

 

「おい、宇宙旅行に来たわけじゃ無いんだぞ。何時までも目を輝かせてんじゃねぇ」

 

「………ん、ごめん。ちょっとテンション上がっちゃった」

 

「こういうの好きそうだもんな…オマエ………」

 

「未知の世界というのは誰でも心躍るもの」

 

 

 これからたった2人で殴り込みだと言うにも関わらず、調子を崩さない彼女の存在が正直ありがたいと思った。

 広大なパレス、それを丸々飲み込んでしまう程の闇。きっと1人で来ていたら心細さに圧し潰されていたかもしれない。

 

 

「ったく。テンション上がるのは良いが、気は緩めんなよ、()()()()

 

「分かってる。それに特段驚く事も無い」

 

 

 コツコツとヒールを打ち鳴らしがら、黒い魔女は建物へ歩みを進めた。

 

 

「オクムラにとって私達はただの部外者。従業員でも無ければ会社に出入りする業者でも無い。警戒されるのも当たり前」

 

「分かっているなら良いけどよ……」

 

「問題無い。何時も通りにやるだけ」

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 キーワードを聞いた時、まともに怪盗活動が出来るか疑問だったが、それも杞憂だった。ちゃんと重力もあるし、温度も適正。まぁオクムラ本人の認知を表しているのだから少なくとも会社内とその周辺は大丈夫と見ても良いだろう。フタバパレスのピラミッドと同じだ。

 だからあくまでもどんな奇天烈な見た目をしていようと会社は会社。そのシステム自体に現実との差はそこまでない……筈なのだ。

 

 

「ねぇ、パレスって時間の…うぅん、昼夜の概念ってあるの?」

 

「なんだ? 藪から棒に」

 

「何時もは昼間にしか潜って無かったら、気になって」

 

 

 ガチャンガチャンと金属音を立てながら忙しなく動き回るロボットたちを見下ろし、ポツリと雪雫が疑問を零した。

 

 

「例えば、パレスの主が普段寝ている時間。その時間にパレスに潜入したらパレス内の時間は夜になる?」

 

「そいつがきちんと昼夜を認識していたら、な。実際、ワガハイがカモシダに囚われていた時……兵士達やカモシダ本人に一定のルーティンはあったからな」

 

「……じゃあ、ロボット達が今も働いているのは」

 

「昼夜問わず働かせていると言う認知の表れ……かもな」

 

 

 ビックバン・バーガーのロゴを背負ったロボット達とそれに罵声を浴びせながら監督する一際頭身の高いロボット。

 部下と上司と言った所だろうか。

 

 

「さっき、倒れたロボットを廃棄とか言ってどっかに運んでたよな。つまりオクムラから見た従業員はその程度ということだ………」

 

「───────」

 

「こりゃあ益々……どうしたウィッチ?」

 

 

 彼女の視線の先……自分達が入って来た入口の方。モナの視点では何も無い真っ直ぐな廊下を、不思議な顔をして眺めていた。

 

 

「……いや、何でもない」

 

「? 変なヤツだな…」

 

 

 怪訝そうな表情を浮かべつつ、視線を戻す。

 限界が来てしまったのだろう。丁度もう一体、倒れたロボットが運ばれている所だった。

 

 

「……行こう。ここで見てても何もしてやれない」

 

「そうだね────あっ」

 

『シンニュウシャ。シンニュウシャ。シンニュウシャ』

 

 

 再び奥へと進もうしたその時、目の前に居たのは真っ赤なランプを点灯させたロボット型のシャドウ。

 

 

『シンニュウシャ。シンニュウシャ。シンニュウシャ。シンニュウシャシンニュウシャシンニュウシャシンニュウシャ』

 

『ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ』

 

 

 一体、また一体と増えていく様は、巣を突かれたスズメバチさながら──。

 

 

「いや、虫は私達? オクムラからしたら害虫だもの」

 

「言ってる場合か! お得意の気配とか感じなかったのかよ!?」

 

「模してるとは言えロボットはロボット。感じる方が難しい」

 

 

 見た目通りに捉えるなら、もう既にパレス全域に私達の姿は知り渡ってしまったかもしれない。ロボット同士、それくらいのネットワークがあっても何ら不思議じゃない。ましてやここは宇宙に浮かぶ要塞。きっと際限無く湧いてくるだろう。

 

 

「目障り」

 

 

 一閃。

 大鎌を振り抜き、目の前のシャドウを両断する。

 

 

「先ずはここを切り抜けよう」

 

「簡単に言ってくれるぜ……!」

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

「おらぁっ」

 

 

 モナの放ったパチンコ弾は的確にシャドウの頭部にヒット。他のメンバーの銃ほど威力が高いものでは無いのだが、とどめの一撃には十分だったようで、シャドウは声もあげる事無く消滅した。

 

 

「……今ので…何体目だ…?」

 

「さぁ? 20体過ぎてから数えるのやめちゃった───っと」

 

 

 背中を合わせ、互いの死角をカバーしながら迫るシャドウを順番に対処していく。数で押し込まれるか、もしくは2人のどちらかの体力が尽きればお終いのジリ貧の戦い。

 

 

「このままじゃキリねぇぞ…。何か打開策はあるか?」

 

「んー…まぁ。ただ、それよりも……」

 

 

 チラリと先程も眺めていた入口の方へ視線を送る。

 

 

「……さっきからコソコソしてるの、誰?」

 

「は……?」

 

 

 次々と迫って来る敵を蹴ったり撃ったり魔法を浴びせたり、的確に処理しながら放った言葉は戦闘中にも関わらずモナの思考を停止させた。

 

 

「戦う気は無いんでしょ? 巻き込まれる前に出て来た方が良いと思うけど」

 

 

 敵意は感じない。私に気付かれる位だから、きっと敵意を隠しているとかそんな器用な真似は出来無いだろう。仮に敵だとしても襲う隙はいくらでもあったし、乱戦に紛れて攻撃も出来た。

 それをしないという事は────。

 

 

「……あ、えっと…気付いて、た?」

 

 

 もの影から出てきたのは可憐な少女だった。薄茶のショートボブの髪を携え、秀尽学園の制服を着た。見覚えのある少女。

 

 

「───奥村春?」

 

「オクムラ…? オクムラって、あのオクムラか!?」

 

 

 雪雫にとって先輩にあたる少女。

 しかし一口に先輩と言ってもそれほど親しい訳では無く、この間の修学旅行で互いに引率役として顔を合わせた程度の間柄だ。

 

 

「そういう貴女は……雪雫ちゃん…だよね? 横に居るのは…さっき一緒に居たネコちゃん?」

 

「ネコじゃねぇ!! ……って、さっき?」

 

「表から付いてきてたのね」

 

「ご、ごめん……。こんな遅い時間に会社の前で見かけたものだから、その心配になっちゃって……!」

 

 

 つまり認知上の存在、という訳では無いらしい。

 しかしだからと言ってシャドウ達は奥村春を攻撃する様子は無く───まぁつまりそういう事なのだろう。

 

 

「会社の前……ってことはコイツは…」

 

「オクムラフーズ代表取締役社長、奥村邦和の娘……かな。学校では隠していたみたいだけど」

 

「あ、それは…色眼鏡で見られたくなくて……ってそんな事より! ここは何処なの? 雪雫ちゃんはそんな恰好で何をしてるの? 喋るネコまで連れて…」

 

「だからネコじゃねぇって!」

 

 

 少し厄介な事になった、雪雫は思った。

 まさか自分は怪盗で貴女のお父さんを改心させる為に心の世界に居ます。なんて言える筈も無い。

 

 

「下のロボット達にビックバン・バーガーのロゴが書いてあったけど何か会社と関係あるの?」

 

「……えぇい、隠してても仕方ない! ここは心の世界、下のロボット達はオマエのオヤジさんから見た従業員達だ!」

 

モナっ

 

ここまで来て隠し通す方が無理だろ! それに上手く取り込めばここを脱出出来るかもしれない!

 

 

 まぁ確かにこの場に居る人間で唯一、奥村春だけがシャドウ達に襲われていない。つまりパレスの主のオクムラには身内だとしっかり認識されているということ。

 モナの言う通り、一先ずこの包囲網を消耗せずに突破出来るかもしれない。

 

 

「ワガハイ達は調査に来たんだ! オヤジさんが今色々言われているだろう? だから─────」

 

「つまりこの光景はお父様が本心から考えている世界ってこと? ───()()()()……」

 

「や、やっぱり?」

 

「何か思ってたのと違う展開になってきた」

 

 

 社長令嬢という事を除けば特に何も力を持たない一般人の筈だ。

 しかしというのにも関わらず、奥村春から溢れ出す力の奔流。少し弱いものの、それは確かに覚醒の兆し。

 

 

「ま、まさか……」

 

「ペルソナ…なのかな?」

 

 

 それは春の後ろに巨大な何かを形作り、彼女の姿までも変えていく。

 

 

「─────っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「不完全とは言え…、まさかペルソナ能力に目覚めるとは……」

 

「お父さんへの不信感は元々持っていたのかも」

 

 

 当初は春を…まぁ言い方は悪いが人質にする形で包囲網を突破しようと考えていたモルガナだったが、彼女当人が力に目覚めた事により晴れて賊扱い。

 結局のところ雪雫に先陣を切ってもらい、半ば無理矢理押し切る形となった。

 

 

「パレス攻略は…流石に明日だな……。オクムラハルをこのまま放って置く訳にもいかない」

 

「そうだね」

 

 

 本当はセーフティールームを見つけるまでは進めたかった所だが、そういう事を言っていられる状況でも無くなってしまった。

 

 

「…私、これからどうすればいいのかな………?」

 

「一先ず今日は解散だ。ハル、説明がてら、ワガハイが家まで送ってやる。どうするかは自分で決めるんだな。先に言っておくが、ワガハイはありのままの()()を伝えるからな」

 

「………うん」

 

 

 春の暗がりでも良く分かる強張った表情が印象的だった。

 それもその筈、いくら不信を感じていたとは言え相手は実の父。そして私達は彼にとってすれば仇なす賊そのもの。一介の女子高生の彼女にとって重すぎる選択だ。

 

 

(まぁどちらにせよ改心はするけど)

 

 

 彼女の選択と自分のやる事は変わらない。

 そんな事をぼんやりと考えながら、雪雫はりせの自宅へ向かって行った。

 

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