PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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82:Let's training!

 

 

9月14日 水曜日 晴れ

 

 

 

「はぁ? 居ない?」

 

 

 生徒達の賑やかな声があちらこちらで響く、お昼時。

 学校の中で一番の有名人…と言っても過言でない少女は素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「い、居ないというか……来ていない…というか…」

 

 

 そんな少女、新島真と相対する女子生徒は、気まずそうに目を逸らす。

 

 

「何よ……休みなら一言言ってくれてもいいじゃない……」

 

「すみません……」

 

「何で貴女が謝るのよ」

 

「……すみません」

 

 

 とっつきにくい性格なのは自覚しているし、生徒全員から好かれようとは思っていない。いきなり最上級生が…しかも生徒会長が一年生の教室にいきなり現れたら多少は身構えてしまうのも分かる。

 しかしとは言えだ。ここに尋ねるのは初めてでは無いし、私と彼女の関係も知っている訳だから、過剰に怖がる必要は無いと思う。 

 

 

「……はぁ…」

 

 

 思わず溜息を零せば目の前の女子生徒が肩をピクリと震わせた。まるでこっちが意地悪しているみたいだ。周りからの視線も痛い。

 

 

(…お昼一緒に食べようと思っただけなんだけどな………)

 

 

 待てど待てど、生徒会室(いつもの場所)に来ないもんだから、様子を見に来たらコレだ。

 

 

「…あの、何かまだ……?」

 

「──いえ、もう良いわ。居ないなら仕方ないわね……。雪雫と仲良くしてあげてね」

 

「は、はい……?」

 

 

 しょうがない。()()()()()1人で過ごそうか。

 「休む時くらいちゃんと連絡しなさい」と一言メッセージを飛ばす。

 

 

「でもいきなり休むなんて…仕事でも入ったのかしら?」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ…」

 

「ハンゴン軟膏5個。マジック軟膏とフィジカル軟膏を3つずつ。タケミナイエールZを───」

 

「待ちなさい。この不良少女」

 

「うん、効果覿面だけど、ネーミングセンスはどうかと思う」

 

「話聞きなさいってば。あと名前は分かりやすい方が患者への説明が楽なの」

 

 

 頭が痛いとでも言う様に手を当てて、女医:武見妙は本来この時間に訪れる筈の無い少女に言った。

 

 

「なに?」

 

「なに? じゃないわよ。雪雫、学校は?」

 

「起きたらもうお昼近くだった」

 

「ホント貴女、朝弱いわね」

 

 

 この子の寝起きの悪さには本当に苦戦した。病院という環境の関係上、朝ご飯の時間はずらせないというにも関わらず、起きていた試し何て殆ど無いし、起こそうとしても死んでるんじゃないかと言う位無反応。根をあげて実家に電話したことすらあった。

 

 

「昨日の夜、遅くまで()()していた───」

 

「…学業に支障が出るほどのめり込むのは感心しないけど」

 

「──から帰るの面倒くさくなってそのままりせの家に泊まった。寝心地良くて」

 

「オーケー。そこまで、もう分かったわ」

 

 

 生憎、お昼ご飯を済ませたばかりでお腹は満たされている。甘ったるい話を納められるほどキャパは広くない。

 

 

「あのね、仕事をするなとは言わないけどね。せめて健全な時間帯に活動しなさい」

 

「…じゃあ妙の家にも泊まっていい?」

 

「なんでそうなるのよ」

 

 

 何度目か分からない溜息を零す。相変わらず人を困らせるのが好きな子だ。

 

 

「仕事場は状況によって様々。家からだと遠い場合もある。だから拠点がいくつかあった方が」

 

「嫌よ。人の家を勝手にセーフハウス代わりにしないで」

 

「えー。別に取って食うようなことしないよ」

 

「貴女に? 私が? はっ、別にそんな心配はしてないわよ。それに───」

 

 

 おでこに爪を添え、指を弾く。

 

 

「いて」

 

「喰われるのは貴女の方よ、仔猫ちゃん」

 

 

 

 

 

 

「武器は?」

 

「斧とグレネードランチャー」

 

「薬は?」

 

「妙の所で買ってきた」

 

 

 「よし」とモルガナが満足気に首を縦に振った。

 

 

「ハル! 後は昨日話した通りだ。細かい所はやりながら教えてやる」

 

「うん、よろしくね。2人とも!」

 

 

 覚醒したばかりのぴちぴちのペルソナ使い、奥村春。昨日は成り行きで行動を共にしたが、今日は違う。モルガナから説明はあった筈だ。ペルソナのこと、シャドウのこと、パレスのこと、怪盗団のこと。そして自身のお父さんの事。ここに居るということは覚悟が決まったという事だろう。

 

 

「まずは基本の動きから。私達はオタカラを奪う怪盗、向こうからしたら侵入者。基本は隠密行動」

 

「セツナが言うか……?」

 

「騒ぎになる前に処理すればバレてないのと一緒だよ、モナ。……兎に角、音を立てずに行動、戦闘は手早く。パレスとメメントスではまた少し勝手が違うけど、まぁウォーミングアップには丁度良い」

 

「今日で基礎を学んで明日が本番、だったよね? がんばる」

 

 

 むん、と意気込む彼女の初陣はメメントスの第2エリア。敵としては最早格下ではあるが、まぁ今日の主旨的には十分だろう。

 

 

「良いか? ペルソナ能力は強力だが万能では無い。それぞれ長所もあれば短所もあるんだ。何が言いたいか分かるか、ハル?」

 

「……えっと、弱点を突かれない様に連携する…?」

 

「そうだ! 筋が良いぞ!」

 

 

 モナが褒めれば春は嬉しそうに花を咲かせ、それを見たモナがまた笑みを深くする。遠巻きで見ていて微笑ましい師弟関係だ。2人の相性はバッチリの様だ。

 しかし

 

 

(うーん、連携か)

 

 

 彼は簡単に連携と口にしたがその実、難易度が高い様に感じる。つい先日まで一般人だった春に、数か月にわたって怪盗をしているこっちの動きについてこいと言っているのだから。いくらペルソナで身体能力が強化されているとは言え、本人の感覚的な部分でついて行けないだろう。考える事が多ければ多いほど迷いも生まれる。初心者の春にとって、連携という選択肢がもしかしたら命取りになるかもしれない。最も人数が居ればその分フォローに回れるのでその限りでは無いが、3人という少人数、常にフォローに回れる保証は無い。

 

 

(連携よりもまずは1人での戦闘に慣れさせる方向にもっていこうか)

 

 

 きっとモナはハルを先導したい筈だ。そんな彼の親心を無下にするすもりは毛頭ない。

 ならひっそりと裏でフォローに徹して上手い事立ち回ろう。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 複数体で群れになっているシャドウが狙い目だ。複数に渡ってターゲットが居るならば、モナの視線が私から外れやすい。

 極力、ハルと相対させるのは一体ずつ。

 

 

「はぁぁぁぁ!」

 

「良いぞ、ハル!」

 

 

 春が一体両断したなら、足止めしていたシャドウを彼女の元へ促す。戦っている間は、また別のシャドウの足止め。

 

 

「ん、よいしょ」

 

『■■■■!』

 

 

 何時もの武器じゃすぐ終わっちゃうから、撃ったり蹴ったりして少し弱らせて。それで彼女の手が空いたらまた送りだす。ちょっかい出しとけば怖がってターゲット変えるし、思ったよりも理に叶っていて楽だ。

 

 

「きっと痛いよね! ごめんなさい…ねっ!!」

 

 

 と言いつつ笑顔で斧を振り回す彼女に思う所もあるが、まぁ概ね順調そうで何よりだ。

 

 

(ゲームのレベリングを手伝っている感覚……)

 

 

 そう言えば私と一緒にやりたいからと言ってりせがゲームを始めた時、こんな感じのことしたな。

 まだやっているのだろうか?

 

 

「…ん、おイタはNG」

 

 

 パン。と乾いた音にコンマ数秒遅れて、春に後ろから襲い掛かろうとしたシャドウが塵になっていく。

 

 

「……銃も使い分けれると楽。でも春の場合、範囲広いから近くで使わないようにね」

 

「あ、ありがとう…雪雫ちゃん……」

 

 

 「ん」と短く返事を返して回りを眺める。どうやらもうこのフロアにはシャドウが居ないらしい。

 

 

「……あまり同じフロアでウロウロしててもな…次に向かうぞ」

 

「う、うん!」

 

 

 まだ第2エリアの中間に差し迫ったところ。取り敢えずの目標である最深部まではもう半分ある。

 

 

(徐々に同時に処理をするシャドウの数を増やしても良さそうかな)

 

 

 どうやらこのフロアまでで距離感や戦闘のスピード感などは分かってきたみたいだ。…勿論、ペルソナ能力も交わればまたそれも変わってくるが。現状、不完全である以上、そこを無理に意識させる必要も無いだろう。

 ならより踏み込んだ経験をさせて……。

 

 

(モナがフォローに入ってくれるなら3体同時……、いや私がデバフすればもう1体追加も…)

 

 

 その後、段々と熱が入っていった雪雫に知らぬ間にこってり絞られた春であった。

 

 

 

 

 

 まったりとしたこの時間が好きだ。

 溜まっている仕事が片付き、特に予定も無い夜。

 

 のんびり好きな映画を付けながら、好きな子と過ごす。加えるならば今、私は彼女に膝を貸してもらっている最中……所謂膝枕だ。

 

 

「ん」

 

「どうしたの?」

 

 

 頭上から呟きが零れたと思えば、彼女はスマホを眺めて眉を寄せていた。

 

 

「──なんでも。友達がちょっと探し物しているみたい。……今の私には手伝うことは無いかな」

 

「ふーん……。探し物って?」

 

「ネコ……っていうと本人に怒られるかな」

 

「うん?」

 

「まぁ問題無い。きっと時間が解決する」

 

 

 全く内容が見えてこないが、まぁ雪雫がここまで遠回しに言うという事は私に話せない事……つまりは怪盗団絡みだろう。

 これは経験則からの意見だが、こういう仲間内での問題は大人が外から口出すよりも本人達に任せた方が心の成長に繋がるというもの。

 なので私は遠くから見守り、いざとなったら───。

 

 

「そういえばさ」

 

「んー?」

 

「まだやってるの? テラリウム」

 

「うぇっ!?」

 

 

 テラリウム。

 超有名なオープンワールドRPGゲーム。決まったルートは無く、様々な要素が散りばめられた世界を自由に冒険するコンセプトの元、この世で存在するRPGゲームで最も自由なゲームとも言われている。消費しきれない程の膨大なダンジョンもさることながら、ゲーム内のNPCとのロマンス要素も完備しており、最早もう一つの現実とも言える程。MODと言われる有志の拡張コンテンツの開発も盛んであり、環境さえあれば無限に遊べてしまう。しかも当然の様にマルチプレイ対応。時間泥棒である。

 因みにゲームの名前の由来は容量を表す単位の「テラ」と場所を表す「リウム」を合体させた造語らしい。

 

 元々、ゲームはそこまでやらなかったが、雪雫が日々楽しそうにプレイしているのを羨ましく……えぇと、一緒の話題で盛り上がりたくて始めたのだ。

 

 

「た、たまにやってるかなぁ……雪雫は?」

 

「私は最近はそんなに……他のゲームで忙しくて」

 

 

 あまりゲームをやらなかったか、それとも単純に雪雫とプレイ出来たのが嬉しかったのか、ハマりにハマった。ほぼ毎日雪雫を誘っていたし、一緒にプレイ出来ない日でも1人で黙々とやっていた。

 でもまぁ、そんだけ毎日やっていれば多少は飽きも回って来るもので、加えて私は仕事、雪雫は引っ越しなど忙しくなっていって段々とプレイ頻度は減っていった。

 

 

「色々沢山出てるもんねぇ、新しいゲーム」

 

 

 私自身そこまでアンテナを張っている訳では無いが、やはり雪雫がゲーマーであるが故、自然と耳に入って来るというもの。

 ついこの間も今月出たばかりのゲームをクリアしたと言っていた。どこにそんな時間があるんだろう。

 

 

「テラリウムは配信でやってるの?」

 

「い、いや……1人でひっそりと…………」

 

 

 運良く話が逸れたと思ったら、また戻ってきてしまったテラリウムの話。

 

 

「いまどんな感じなの?」

 

「いやー…大した事はしてないよぉ…ただゲーム内散歩してるだけというか…ははは……」

 

 

 言えない。いや、見せれない。

 NPCの容姿変更MODで雪雫にとーーっても良く似た女の子を嫁にしているのに加えて、ちょこっといかがわしいコンテンツ追加MODでたまにイチャイチャしているなんて。

 高校生の健全な教育の為にも、そして大人のメンツ的にも。

 

 

「今度久しぶりに一緒にやろうよ」

 

「あはは…その時は雪雫のワールドでやろうね。私のだと…そのみすぼらしいから、さ」

 

「えー」

 

 

 因みにりせのテラリウムの件は、ファンの中では割と有名な話である。

 

 

 

 

 

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