PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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83:eldest daughter.

 

 

9月15日 木曜日 晴れ

 

 

 2人の女子生徒が向かい合っていた。

 白髪の少女はその小さい口にパンを頬張り、茶髪の少女は綺麗な箸捌きで白米を口に運んでいる。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 2人は特段、仲が悪いという訳では無い。いや、寧ろ良いと言えるのだが、お互いの間に飛び交う言葉は少ない。

 一方が比較的無口な部類というのもあるが、単純に食事中のマナーの問題だ。

 

 

「ねぇ」

 

 

 茶髪の少女がタイミングを見て対面に座る少女に声を掛ける。

 

 

「?」

 

 

 白髪の少女の方も一度食べるのを止め、持ってきた飲料水で胃に流し込んだ後「なに」と一言呟いた。

 

 

「モルガナの居場所、知ってるでしょ」

 

 

 茶髪の少女…真は真っ直ぐに赤い両目を見つめながら問うた。

 いや、文面だけ見れば質問と言えるが、その声音と顔には確かな確信がある。

 

 

「……………」

 

 

 たっぷり数秒。

 沈黙を貫いた後、その視線から逃れるように瞳をゆっくり斜め上の方向へ動かす。

 

 

「知らな───」

 

「……はぁ」

 

 

 嘘を吐くならせめて目を見なさいよ。言外にそう言いながら、真は箸を置いた。

 その考えに至ったプロセスを説明する必要がある。状況証拠を並べて逃げ口を無くし、情報を吐かせる。

 尋問の常套手段だ。

 

 

「あのね───」

 

 

 双葉は言っていた。

 

「雪雫のセキュリティプログラムを組み直した」

 

 と、自慢気に言っていた。

 

 

 それはどうやら完全にゼロから創造した独自のシステムで、彼女のパソコンやスマホに搭載されている。

 そのセキュリティ強度は並大抵の物では無いらしく、一般的に手に入るセキュリティソフトを遥かに超えるものだとか。流石はメジエドというところか。

 

 まぁつまり何を言いたいのかと言うと、()()()()には崩せぬ鋼の要塞で彼女のプライベートは守られているということ。

 そう、双葉以外には。

 

 システムの管理者、加えて双葉自身が出不精というのもあり、遠隔でシステムの修繕、改善などが出来る………言い換えれば、双葉がその気になれば簡単に雪雫のパソコンやスマホにアクセス出来るのだ。

 

 そしてつい昨晩の事、雪雫はその気にさせてしまった。

 だって雪雫は昨日、ずっと音信不通だったのだから。

 

 

「イセカイナビがアプリであった事が災いしたわね。アプリの履歴、確認するの訳無いらしいわ」

 

「ちょっと。私のプライバシー」

 

 

 抗議の声が上がるが一端無視。

 だって仕方ないじゃない。私からの連絡に出ないし。3コール以内に出ろって言ったのに。

 何かあったんじゃないかって心配にもなるわよ。

 

 

「イセカイナビが起動したのは2回。モルガナが飛び出したあの後と、昨日の夕方。前者はオクムラパレス、後者はメメントス。まさか1人で行ったって訳じゃないわよね?」

 

 

 ああ、そうだ。

 もう一つある。今度はデータでは無く、目撃証言。

 

 

「それに昨日のお昼。武見さんの所でも買い物したらしいじゃない? 2~3人分くらいの薬とか」

 

 

 仮にモルガナが戻らなかった場合、彼を探してパレスに潜入する可能性もある。

 そう考えた私は放課後を利用して消耗品の買い出しに行ったのだが。

 

「あら? 昼にあの子買いに来てたけど……もう使い切ったの?」

 

 なんて武見さんが珍しくキョトンとしていたもんだから。

 

 

「誰とも連絡取らず、学校も休んで。……何してたのかな? 雪雫ちゃん?」

 

「むむむ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず放課後にパレスに来て」

 

 

 と、雪雫は観念した様に私にそう言った。

 

 

「ただデリケートな時期だから接し方気を付けて」

 

 

 とも。

 何それ、思春期?

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 宇宙基地。

 

 「人類の夢であり浪漫である」と某白髪の少女は言っていた。

 そしてそれは大きければ大きいほど良いとも。

 

 このパレスに足を踏み入れた時、目を輝かせる彼女の顔が脳裏に過ぎった。

 

 間違いなく今までのどのパレスよりも広大、そしてあまりにも非現実的。それこそ、映画のワンシーンを切り取ったかの様な風景に、皆一様に言葉を失っていた。

 

 

「こんな所に乗り込んでいったのか」

 

 

 喧嘩別れをしてしまった仲間に想いを馳せ、無事であって欲しいと祈りながら、奥へ進んで行った。

 未知の世界、欠けてしまった戦力、仲間の安否……様々な不安要素が折り重なり、私達の間には確かな緊張感が張り詰めていた。

 

 筈だった。

 

 

「美少女怪盗と申します!」

 

 

 ビシっと天を突き、高らかに宣言する少女に出会うまでは。

 

 

「……………」

 

 

 黒い羽根付き帽子を被り、近世の銃士を思わせる風貌の「自称美少女怪盗」の傍らには満足気に頷く探し人(猫?)。それからやや少し離れた所で呆れた視線を送る白髪の少女も居た。

 

 

「オタカラはワガハイ達が頂くぜ」

 

 

 その少女は一体だれか?

 何で雪雫はそっち側に居るのか?

 

 様々な疑問が浮かび、今一状況が呑み込めていないこちらを余所に、件の美少女怪盗は再び口を開く。

 やけに仰々しい、芝居がかった動作と共に彼女は指を指し向ける。

 

 

「貴方達は怪盗失格です! いいですか? 立派な怪盗とは─────」

 

「…………………」

 

「────そこの貴方! 何て考えているんです!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の流れはまぁ酷いもので、終始謎の美少女怪盗とモルガナの独壇場だった。

 予測不可能な言葉の応酬、罵倒に見せかけたただの文句。

 

 あの雪雫ですらも半歩後ろで呆れた視線を送るばかり。

 

 曲げたヘソを正す様になんとか隙を見つけては説得を試みたものの、正に取り付く島もない状態。結局、話が平行になったまま、モルガナは美少女怪盗と雪雫を連れてパレスの奥へと消えてしまった。

 

 勿論、追いかけようとした。

 しかしそうしようにも()()()()()()()で……。結果、美少女怪盗という新たなペルソナ使いの登場以外には大した進展も無く、撤退となった。

 

 そしてその後。

 時間にして3時間ほど経った頃。

 

 

「それで? 話を聞きましょうか?」

 

 

 私こと、新島真は再び白髪の少女と対峙をしていた。夜だと言うのに静まる様子が無い大都会。渋谷セントラル街に佇む某ファミレスで。

 

 

「奢りって聞いたから来たのに。尋問とは聞いていない」

 

「尋問なんて人聞きの悪い……。ただ話を聞きたいだけよ」

 

 

 はぁ…と諦めた様に溜息を吐く雪雫の前にはビックリするほどの大きさのハンバーグ。このお店の一押しメニューだ。手触りの良い木製の皿がまたいい味を出している。

 

 

「パフェも追加で。大きいやつ。あと、いちごミルク」

 

「……はいはい」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「そもそも、モナの件について私はどうこうするつもりはない」

 

 

 腹の欲をひとしきり満たした雪雫は、2杯目のイチゴミルクを飲みながらそう言った。

 

 

「私が思うに、今回の件はモナ自身の問題。彼自身が乗り越えない限り収まる事は無いでしょう」

 

「問題?」

 

「焦燥、嫉妬、嫌悪。思い浮かぶ言葉で並べるならそんな所。何に対してか、なんて聞かないで。そんなもの本人にしか分からないし、そのモナから相談を受けた訳では無い」

 

 

 言われてみれば確かに修学旅行から帰って来た後のモルガナの様子は少しおかしかったかもしれない。

 何と言うか、やけに張り切っていたというか。前から仕切りたがりの部分はあったが、さらに増していた様に感じる。自らの手柄を強く主張し、竜司や双葉などと張り合い、まるで「自分は有能だ」とアピールするかの様な。

 

 

「解決は出来ないけど、糸口にはなれるかもしれない。だから一緒に居る」

 

「モナの気持ちの整理がつく様に、ね……。だからパレスに私達を」

 

「ん、まずは話し合いの場を…って思ってた。ただちょっと状況が変わってきた。モナもモナで男の子。心のままに暴れさせた方が良いかもしれない。()()()()もあるし」 

 

「後輩、ね……」

 

 

 頭にリフレインする黒い羽根付き帽子を被った少女の声。

 新たに現れた謎のペルソナ使い。

 

 

「まぁ…モナの件は分かったわ。でも、まだ分からない事があるんだけど」

 

「…………」

 

「聞きたい事わかるよね? あの子は誰? そう…美少女怪盗、だっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう漠然と、女将修行をする姉を見てそう思った事がある。

 

 

 幼い頃。

 病床に伏せる私の元へ、姉は良く足を運んでくれていた。満足に外へ出れない私に、動けない私に色々な話をしてくれた。

 学校での出来事、幼馴染と遊んだ話、些細な日常の出来事に至るまで。

 そして勿論、家業の事も。

 

 いや、割合で言えば、家業……つまりは旅館に関する話の方が多かったかもしれない。

 それだけ姉にとって旅館の手伝いは日常で、生活の一部であるという事。私の頬を滑るあかぎれた姉の指が、その事実をより色濃くしていたのを憶えている。

 

 特段、私はそれに対して思う事は無かった。諦めていたと言ってもいい。

 健康体で生まれた時から次期女将として期待を寄せられていた姉と、病で弱り命すら危うい妹。

 自分自身の状況は良く分かっていたし、適材適所とすら感じていた。きっと私が親の立場なら、同じ様にしていただろうと。

 

 

 その姉に対する認識が変わったのは病気が治った後のこと。

 

 丁度、姉が高校に進学する頃か。

 以前とは違う健康な身体を手に入れ、床に縛り付けられなくなった私は今までの時間を取り戻す様に自由を謳歌していた。そんな私に対して誰もが当然の権利だと口を揃えて言い、温かい視線すら送られていた。

 

 しかし、それとは対照的に。

 姉の自由時間はみるみると消えていった。華の高校生だと言うのに部活は入らず、友達も幼馴染の千枝くらい。放課後と休日は決まって家の手伝い。

 彼女の顔にはあからさまに不満や不平の色が浮かんでいたが、それも「長女なんだから」となだめられていた。

 

 私はそれを見て思った。思ってしまったのだ。

 

 

「嗚呼、長女じゃなくて良かった」

 

 

 と。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

9月16日 金曜日 晴れ

 

 

 

「ありがとうね、話を受けてくれて」

 

 

 キーボードを叩く音と電話のコール音が忙しなく響くオフィス内。

 やや殺伐として雰囲気が漂うこの場に、不釣り合いな少女が2人、肩を並べて歩いている。

 

 

「ん、問題無い」

 

「正直困っていたんだ。次々断られちゃってね……」

 

「広告塔と企業は一心同体。双方の信用があって成り立つ関係。片翼が捥がれれば沈むのも道理。……この前の週刊誌の件は痛かったね。お陰でりせの事務所もNG出したとか。まぁ所属タレントは運営が仕事選ぶから。なりふり構わないなら次からはフリーのタレントを選ぶべき。……もしくは有名配信者? 危ない橋だけど」

 

「あはは……覚えておくよ」

 

 

 苦笑いを浮かべたパーマの少女、名を()()春。

 

 

「でもそう言うなら雪雫ちゃんはどうして仕事を受けてくれるの?」

 

「……少し前から()()()()フーズを探る話は出てた。大企業に探りを入れるなら内部から」

 

「おお、潜入調査……怪盗っぽい…」

 

 

 春は小気味良くぱちぱちと手を叩き、目を輝かせる。

 

 

「それに曲の提供くらいだったら問題無い。……それにしてもりせの話と少し違う。CMと広告写真の撮影は無し?」

 

「ま、まぁ……色々あったみたいで……。新しいCMにはアニメーション使うみたい」

 

「ん、ならアニメに合う曲を()()()

 

「へ?」

 

「丁度、未発表の曲が10曲くらいある」

 

 

 長い廊下を進み、エレベーターで10階ほど昇って辿り着いたのはだだっ広いだけの真新しい部屋。

 

 

「ここは?」

 

「うーん、まぁ私の仕事部屋、かな」

 

 

 「道理で」と雪雫は納得を返した。

 応接室にしては華が無く、かといって重役の部屋としては使われて無さ過ぎる。

 まるで買い与えられたばかりの子どもの勉強部屋だ。

 

 

「もう仕事を?」

 

 

 部屋の端っこに佇む本棚を眺めながら雪雫は問うた。

 目に映るのは経営学やら組織論などの小難しい本と、この会社の決算報告書や歴史などが纏められたファイルばかりだ。

 

 

「簡単なものなら……。()()、役に立つだろうからって。……ああ、安心して! 雪雫ちゃんの件は私担当だから…!」

 

「将来、ね。…………会社を継ぐの?」

 

「まぁ、そうなる…かな。私が()()だし………」

 

「……………」

 

 

 春は目を逸らしながら弱々しく言った。

 

 

「奥村に生まれた時点で私の将来は決まっているから。奥村の娘はそう言うものだ……なんてお父様は良く言うわ」

 

「春はどうしたいの?」

 

「私?」

 

 

 雪雫の返しが予想外だったのか、僅かに目を丸くする。

 

 

「私は……お父様の為になる事を……したい…かな。だって唯一の家族だもの」

 

 

 絞り出されたその言葉とその眼には明らかに迷いがあった。

 

 

「……なんて! 少ししんみりしちゃったね! そろそろお仕事しなきゃ、怒られちゃうよね!」

 

「────ん」

 

 

 そんな少女を前に雪雫は─────。

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