PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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88:Inconsistency is women’s second nature.

 

9月24日 土曜日 曇り

 

 

 

「ナイススイングだった」

 

「えへへ、ありがと」

 

 

 窓の外に広がる宇宙空間。闇に浮かぶ鋼鉄の要塞。かの有名SF映画の監督もビックリして腰を抜かしてしまうのではないか。そう思えてしまう様な場所で2人の少女は呑気にハイタッチをしていた。

 

 

「前よりも重みが増してた。練習した?」

 

「お父様に隠れて薪割をちょっと、ね」

 

 

 足元に転がる拉げた金属……機械型のシャドウ…だったもの。それらは皆一様に頭から真っ二つにされていた。その断面を見るに決して綺麗なモノでは無く、まるで獣が爪を立てた後の様な……。言ってしまえば力づくで引き裂かれた乱雑な切り口だった。

 下手人は斧を肩に担いで朗らかに笑う社長令嬢。見届け人は白い髪を携えた魔女。

 

 

「………物騒担当がまた増えたな」

 

「……そうだな」

 

 

 これには思わずスカルもジョーカーも苦笑い。

 

 

「豪快な戦い方ね」

 

 

 苦笑いを浮かべる男性陣の横で、感心した様に腕を組むクイーン。

 

 

 いや、お前も大概だけどな。

 

 スカルは口に出さずとも、目で訴える。

 パンチで金属にクレーターを作る女が、何を他人事みたいに言っているんだ、と。

 

 

「前より動けてるじゃねぇか、ハル!」

 

「そう、かな」

 

 

 バイオレンスな部分は一旦抜きにして。

 モナの言葉に謙遜を返す春だが、確かに彼女の動きは想像以上に良い。

 ペルソナを使えないという致命的な欠点はあるにしろ、近接戦闘に関して言えば申し分ない。流石、ウィッチが太鼓判を押すだけの事はある。

 

 

「にしても不思議だよなぁ。春はまだペルソナ使えないんだろ? ウィッチとは逆じゃねぇか」

 

「………ふむ、確かに。ウィッチの時は姿は変わらずとも、ペルソナの力は行使出来ていたな」

 

 

 フォックスが顎に指を添えながら、スカルの言葉を補足する様に言った。

 

 

「そうなの?」

 

「ん………」

 

 

 ジョーカー達は二度、ウィッチの覚醒を目にしている。

 一回目はメメントスでアリスを。二回目はオオヤマダパレスでジャンヌ・ダルクを。前者では姿は変わらず、後者の時にようやく怪盗服へと変身を遂げた。

 

 

「結局、あの時は何で変身しなかったんだ? フツーする流れだよな?」

 

「……私に言われても」

 

 

 スカルの当然の疑問にウィッチは困ったように眉を下げる。

 

 

「アリスはジャンヌ・ダルクとはまた別の存在……としか言えない。力の源……というか。同じペルソナだけど出自が全く別の所…な気がする」

 

「そうなの?」

 

「言語化は難しい。ただそう感じるだけ。召喚の方法も違うし」

 

「確かに。何かタロットカードみたいなの、壊してるもんね」

 

 

 パンサーが納得がいった様に手をポンと叩く。

 

 

「そのウィッチが言う力の出自…何か心当たりがあるのか? ただ暮らしているだけではこうはいくまい」

 

 

 フォックスの問いに対し、ウィッチはほんの少し視線を逸らす。

 

 

「……特に思い当たる節は───待って」 

 

 

 途端、ウィッチの眼が鋭く細められた。さっきまでハイタッチをしていた少女の緩やかな雰囲気は完全に消え去り、警戒心を顕わにする。

 

 彼女の勘は良く当たる。

 いや、勘という言葉で一纏めにするのは些か強引な表現だろう。視覚、聴覚、嗅覚……全身のあらゆる感覚器官から汲み取り、分析した情報を伝えているのだから。

 

 

「誰か来る」

 

 

 ウィッチの言葉に一同は一斉に身構える。

 

 

「ウィッチの言う通りだ! 人型の熱源2体! 相変わらずとんでもない嗅覚だなっ!」

 

 

 コツコツと2つの足音が響く。

 一方は堅い金属同士をぶつけた様な音、もう一方は上品な革靴の様な音だ。

 

 

『そこで何をしている?』

 

 

 ややくぐもった神経質そうな男の声が怪盗団へと投げられた。

 

 

「……………おっ?」

 

「何か、凄い事になってる…ね」

 

 

 声の主を一目見て、まずウィッチが興味深そうに……いや何故だか嬉しそうな反応を示し、続いてパンサーが言葉を詰まらせながら言った。

 

 その姿は正に暗黒卿。

 黒いスーツと黒いマント。そして身体のあちらこちらに何やらゴテゴテの機械が付いている。

 惜しむべきは黒いマスクの代わりに半透明の金魚鉢みたいなものを被っている位か。

 

 

「───想像以上にそれっぽいのが出て来たなー……」

 

「名前に卿付けた方がいい?」

 

 

 怪盗団の最年少コンビが感心混じりで口々に茶化す。

 しかしその眼は真剣そのもの。ウィッチに至っては今にも飛び掛かりそうな勢いだ。

 特に、オクムラの後ろに居るスーツを着た青年に対して。

 

 

「か、彼も入ってきたの!?」

 

 

 春がたまらず怯えた様に声を荒げる。

 無理も無い。その見てくれは数日前に路地裏で相対した青年と寸分違わないものなのだから。相も変わらずその顔に薄っぺらい笑顔の下に、下劣な下心が見え隠れしている。

 

 

「違う! あれは本人じゃない。見てくれは瓜二つだがな……」

 

「春。あれが前に教えた───」

 

「あ、認知上の……ってやつ…」

 

 

 ニタニタと下品な笑顔を浮かべる青年を見て、ウィッチは呆れ顔で溜息を吐いた。

 パレスで現実世界の様子と寸分違わず出て来たという事は、奥村邦和も彼の事を()()()()()に認識しているということ。

 

 

(……人を道具としか思ってない)

 

 

 大方予想は付いていた事ではあるが、こうも直球で来られると落胆も覚える。

 人の親らしく、少しの手心でも垣間見えると思ったがそうでは無いらしい。

 

 

『ガラの悪い連中とは手を切れと言った筈だ!』

 

「……前に言いましたよね? お父様の為に、私なりの最善を尽くす、と。それがその答えです!」

 

 

 娘の、春の啖呵に訝し気な顔を浮かべるオクムラ。

 しかしそれも一瞬の事。次第にえくぼを深くし、たまらず喉を鳴らし始める。

 

 

『そやつら…例の怪盗団か? ───そういう事か! 許しを請う為に差し出す訳か!』

 

「……許し?」

 

 

 オクムラの言葉にウィッチが苛立たしそうに反応を示す。

 

 

『損は裏切ってでも取り返す…。奥村の娘らしくなったじゃないか!』

 

「何故そうやって損得ばかりなのです!? 会社の悪評だって、全部その所為…。人を部品としか考えてないからでしょう!?」

 

 

 それがこのパレスの姿。

 ロボットの姿をした従業員達。動かなくなればすぐに廃棄され、すぐに代わりが補充される。

 春の言葉は実に的を得ている。

 

 

『得る為には、差し出す。人の上に立つにはより多くを差し出す覚悟を持つしかない。土俵が違うのだ! 間も無く私は政界という次のステージへ()()()()のだからな!』

 

「………自分の娘を犠牲にしてまで?」

 

『情など敗者の思考。蹴落とす冷徹さこそビジネス! 娘や会社などに拘っている場合では無いのだよ』

 

「全部が自分の為の踏み台……。酷いわね……」

 

「……本家の方はもう少し情あったのに」

 

 

 鎌を握るウィッチの手に力が込められる。

 口調は平時に近いが確実にイライラしている。そう感じさせるオーラが今の彼女にはあった。

 

 

『社長、こんな賊の手垢にまみれた女はウチには要らない。何か譲歩を頂かないと、父に取り次げないな』

 

 

 そしてさらに油を注ぐ春のフィアンセ。

 

 

『もはや正妻は望まない…。愛人でも何でも好きにするがいい』

 

「……愛人?」

 

『良いでしょう。手を打ちます』

 

 

 フィアンセの下衆な笑みがさらに色濃くなる。

 

 

「……私自身も、会社の富に浴して育った娘。会社の為の政略結婚ならと、一度は受けました。…でもこんなの、話が違います! お父様個人の野心の為に、この男のオモチャになれと!?」

 

『ふん、何を今さら。…奥村の娘にとってはそれこそが悦びだ。お前など、初めからその程度の価値でしかないわ』

 

「私は………」

 

 

 春の脚から力が抜けていき、崩れ落ちる。

 モルガナ達は言っていた。ここは自らの父の欲望が具現化した世界。つまり父の心の世界だと。

 正直少し期待をしていた。普段の冷徹な振る舞いの裏で情があるのではないか。何かのっぴきならない事情があるのではないかと。

 でも違った。心の世界で会った本当の父は現実以上に冷酷で、娘である自分すらも見下していて───。

 

 

『さぁ…来てもらおうか。オレん()へさ。』

 

 

 崩れ落ちた春へ忍び寄る彼は、段々とその姿を変えていく。人の形を作っていた影は崩れ、現れ出たのは巨大で無骨なロボット。

 結局、オクムラにとっては許嫁の彼すらも従業員と同じ道具に過ぎないという事だ。

 

 

『飽きるまで、タップリ遊んでやるヨ! 女子高生のイイナズケとか、超楽しそージャン!』

 

 

 フィアンセのシャドウはそのまま春へ腕を振り下ろし、そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 姉の姿を重ねて見ていた。

 

 家に縛られ、自分の将来を決める事の出来ない娘。

 

 雪子は最終的に家を継ぐことを決めた。当時は状況を考えてそうなるだろうな。何て呑気に考えていた。

 そんな無神経な私が、それに至るまでの雪子の苦悩を聞いたのは大分後の方になってからだ。

 

 別に仲が悪かった訳では無い。寧ろ良かっただろう。家に居る時は大抵ずっと一緒だったし、色々な話をした。

 でも家の話だけは。家業の話だけはお互い避けていた。

 話してしまえばどうしても向き合わなければならないから。

 

 

 もっと話せば良かった。

 

 

 なんて今更後悔している。

 結果的には丸く収まった。でも時々考える。

 

 私が寄り添っていれば、雪子は別の未来を選べたのではないか。

 私が寄り添っていれば、雪子が全部背負う必要は無かったのではないか。

 私が寄り添っていれば、雪子は─────

 

 後悔先に立たずと言うが、全く持ってその通りだと思う。

 今更悔やんでも既に決まってしまった未来、変える事は出来ない。

 

 

 ───でも、春は違う。

 

 

 まだ間に合う。まだ変えられる。

 私が雪子にしてあげられなかった事、私が抱えた後悔。

 それは──。

 

 

 

 共に考え、背中を押してあげる事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 眩しい。

 頭上から降る光が。外は真っ暗だと言うのに、人工的な光しか無い筈なのに温かい。

 

 

「……座り込んでいたら、前に進めない」

 

 

 光に導かれ上を向けば聖女がシャドウの攻撃を受け止めていた。

 

 

「雪雫…ちゃん……?」

 

 

 名を呼ばれた少女は勝気な笑みを浮かべて真っ直ぐに私を見る。

 

 

「立って。立ちなさい春。ここで折れたら、それこそ奴らの思い通り。オクムラの人形で終わっちゃう」

 

「…………」

 

「気に入らない事があるから、変えたいものがあるから怪盗服(それ)を着ているんでしょう?」

 

 

 そうだ。

 彼女の言う通りだ。

 

 何故、自分はここに居る?

 何故、怪盗団に入った?

 

 全て変える為だろう。

 自分で未来を掴み取る為だろう。

 

 

「行く先に壁があるなら壊せばいい。道が途絶えているならば作ればいい。それをするだけの力も、手段も、仲間も。春はもう持ってるでしょう」

 

 

 心の何処かで期待していた父の優しさ何て、欠片も存在しなかった。

 彼は自分が思っている以上に真っ黒で、娘の私すらも道具としか思って無い。

 

 

───だから何?

 

 

(寧ろ………)

 

 

 春はゆらりと立ち上がる。

 

 

(寧ろ、やりやすくなったわ!!!)

 

 

 瞬間、春の脳裏に声が響く。

 

 

 

『ようやく腹を決めたようね。宿命の家のお嬢様』 

 

 

 女の声だった。

 

 

『貴女には、裏切り無しでは、自由も無い』

 

 

 優雅であると同時に苛烈な女性の声。

 

 

『それでも求めるというなら、間違ってはダメ。……さぁ、貴女は誰を裏切るの?』

 

 

 愚問だ。

 

 

「心はとうに決まっています!」

 

 

 さようなら、お父様。

 私はもう、あなたには従わない!

 

 

『ならば、お前も廃棄だな』

 

 

 春に纏っていた透明な何かが、姿を現していく。

 豪勢なドレスを着た、優雅な貴婦人の様な姿だった。

 

 

「随分待たせちゃったね。でもこれでようやく戦える」

 

 

 シャドウの猛攻をいなしながらも、春の姿を見てウィッチは薄っすらと笑みを浮かべる。

 

 

「まずは彼…のシャドウからやっちゃう?」

 

「ん、賛成。もう遠慮はしない」

 

 

 ウィッチが言うや否や、防戦一方と思われていたジャンヌ・ダルクが途端に攻勢に回る。

 いなしていたシャドウの拳を旗で弾き、体勢が崩れた所を薙ぎ払う。

 シャドウはそのまま勢い良く吹き飛ばされ、壁へと激突した。

 

 

「合わせてね、春。遅いと、私が倒しちゃうから」

 

「む、競争だね。負けない、から」

 

 

 意気込む春はそのままの勢いで続ける。

 

 

「それと、今から私の事は()()()()と。そうお呼びなさい! 生まれ変わった私の力……ご照覧あれ!」

 

 

 そう、春…ノワールは高らかに宣言した。

  

 

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