PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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89:Always watching over you.

 

 

 そのペルソナはミラディと言った。

 

 

 世界中で愛される冒険活劇小説「三銃士」の登場人物。陰険な人物で自身の力のみを信じる、美貌と知恵を持った強かな女性。中でも同小説の主人公、ダルタニアンの妻であるコンスタンスを毒殺したエピソードは特に有名で、稀代の悪女としても知られる。

 つまり───。

 

 

「綺麗な薔薇には棘がある。ってね」

 

 

 黒い影がシャドウに向け駆け出す。

 弾丸の如く小さく、それでいて早い。図体ばかりが大きいシャドウでは捉える事は叶わない。

 拳を掻い潜り、瞬く間にシャドウの足元へと至った少女は間髪入れずペルソナを出現させた。

 

 

「まずは」

 

 

 シャドウの目の前に現れた聖女は少女の言葉を合図に旗を振り下ろす。

 

 

「───モナの分」

 

 

 瞬間、数多の斬撃が五月雨式にシャドウを襲う。

 その刃は聖女のものか魔女のものか。或いはその両方か。機械の鎧をも抉り取り、巨体に刻まれる無数の切創。

 

 

『なっ───』

 

 

 シャドウの敵意が完全に少女…ウィッチへと向く。

 何処か下に見ていた見た目か弱い少女から放たれた強力な一撃が文字通り刻み込まれてしまった。

 

 だから、彼は気付かなかった。

 

 

「次は、私を不快にさせた分」

 

 

 迫る巨大な拳を足場に見立て、シャドウの眼前を目掛けて飛ぶ。その顔に一蹴り浴びせようと、その細足に魔力をコーティングして。アリスの呪力が伴った一撃は見掛けにそぐわぬ威力でシャドウを蹴り飛ばす。

 

 

「最後は───」

 

 

 彼は気付かなかった。気付くはずも無かった。

 眼前に迫る小さな魔女の猛攻に、視野を狭めてしまっていた。

 

 猛撃を続けるウィッチのその後ろで、力を溜めていたもう1人の少女に気付かなかった。

 

 

「私の番!!」

 

 

 奥村春は、もう悲劇のヒロインでは居られない。

 

 今度はこちらの番。

 圧制者には棘を立てよ。邪魔立てするなら毒を盛れ。

 そうするだけの、それを選択出来る力が、あるのだから。

 

 

「ミラディ!」

 

 

 途端、スカートが開いた。

 淑女を守る布の城。何人たりとも目にする事は無かった秘密の花園。

 

 

「言ったでしょ? 綺麗な薔薇には棘がある。って」

 

 

 ウィッチがそう口角を上げると、ガシャン。と無骨な音が響いた。

 

 スカートの口から現れたのはいくつもの銃口。

 内に溜めていた毒が今、放たれる。

 

 

「さようなら。正直に言うと、最初から貴方のことは──無理でした!!!」

 

 

 ガトリングとバズーカが合わさった轟音と共に立ち込める黒煙。一体のシャドウに向けるにしては、あまりにも過剰火力。遠巻きで見ていたジョーカー達にまで伝わる熱波。彼女が内に溜めこんでいたものがどれ程のものだったのか。これを見れば一目瞭然だった。

 

 

「……いや、えぐっ」

 

 

 煙で姿は見えずとも、確認するまでも無いだろう。

 それをスカルの引き攣った声が如実にその事実を表していた。

 

 

「反応消滅……。あっという間、だな。出番が全く無い! カメオ出演にも満たないな!」

 

「次は譲るから……。それでナビ、オクムラは?」

 

「んー、近くには居ないな。逃げたらしい」

 

 

 そう。とウィッチは案の定と言う様に溜息を零した。

 

 

「はぁ…はぁ……。こ、これが…ペルソナ…、私の力……」

 

 

 息も絶え絶えに春改め、ノワールは呟く。

 戦闘中は無我夢中で気付かなかったかもしれないが、初めての召喚は想像以上に体力を奪われる。彼女とて、例外では無いらしい。

 

 

「……今日はこの位にしておきましょうか」

 

「そうだな」

 

 

 震える手足を抑えるノワールを見て、クイーンとジョーカーは顔を合わせる。

 

 パレスの主であるオクムラをみすみす逃すのは惜しい所だが、あくまでもパレスでの目的はオタカラであってシャドウでは無い。どうしてもシャドウが抵抗する為、これまで双葉以外とは対峙してきたが、戦闘を避けてオタカラを入手出来るならそれにこしたことは無い。

 加えてまだ先は長そうだ。完全に疲弊しきっているノワールをこれ以上連れまわすのは得策じゃないだろう。

 

 

「私、やったよ……!」

 

「ん」

 

 

 力が抜けて腕を必死に上げて、少女2人は再び手を合わせる。勝利の盃、覚醒の祝福の代わりだ。まぁ、今日の収穫はそれで十分だ。とジョーカーは2人を見て笑みを作る。

 

 彼女達のハイタッチを合図に、怪盗団はパレスを後にした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 春を家まで送り届けた帰り道。

 

 

「あれ?」

 

 

 爽やかな青年の声が響いた。

 

 

「あっ……」

 

 

 雪雫の自宅へと続く、表通りから少し外れた細道。人の通りは少なく、街灯も多くは無い。一度、家の内見の際にわざわざ付いてきた雪子に「夜は暗そうだから通らないでね」と釘を刺されたのは雪雫にとっては遥か彼方の記憶。

 そんな通りで、雪雫に声を掛けた青年が1人。

 

 小回りの効くクロスバイクを手で押しながら、男性にしては長めの茶髪を揺らして雪雫の元へ近づいてくる。

 

 

「明智吾郎」

 

「やぁ、久しぶり…だね。雪雫さん」

 

 

 丁度街灯の下、照らされたその容姿は声の通り爽やかなものであった。

 

 

「こんな所で何してるの?」

 

「何、ただのサイクリングだよ。僕、好きなんだよね」

 

「こんな夜遅くに?」

 

「夜の方が気が楽でね。昼は…ほら何かと人の目があるだろう?」

 

 

 彼はその整った眉を困った様に下げる。

 

 確かに。と雪雫は思った。

 明智吾郎は今、大衆から激しいバッシングを受けている。メジエドの一件以降、世間は怪盗団一色と言っていいほどの盛り上がりを見せている。今回のオクムラもそうだが日々怪チャンを始めとするインターネットでは、改心して欲しい人間の名前が飛び交い、ワイドショーでも怪盗団を後押しする声が大多数を占めて来た。

 そんな中で、ほぼ唯一、表立って怪盗団の在り方を真っ向から非難しているのが、この明智吾郎。彼は今、くしゃみをするだけでも叩かれる様な立場だ。これでは私生活もままならないだろう。

 

 

「何か人の目を誤魔化す良い方法とか知らないかい?」

 

 

 そんな背景があってか、明智の顔は一見はやつれている様に見える。

 だけど、本当にそうなんだろうか。と雪雫は眉間に皺を作る。

 

 

「何で私に」

 

「だってほら、君って有名人の割には目撃情報少ないだろう? いや、全くと言ってもいい。何か心得とかあるのかなって」

 

 

 彼はこの状況を楽しんでいる様にすら、雪雫には思えてくる。

 

 

「………別に。皆が気付かないだけ」

 

「そうかなぁ。君、目立つと思うんだけどなぁ………」

 

 

 近い様で遠い。

 柔らかい様で鋭利。

 笑っている様で笑っていない。 

 まるでユラユラと形定まらない蜃気楼。

 

 話せば話すほど、彼という人間が定まらない。

 

 

「あ、そう言えばさ」

 

 

 有り体に言えば、雪雫は明智の事が苦手なのだ。

 

 

「君こそこんな時間に何してるんだい?」

 

 

 重なって見えるのだ。

 八十稲羽で起きた事件。その犯人。普段の穏やかな雰囲気の下に、狂気を隠し持っていた彼が。

 

 

「……………」

 

「当ててみせようか」

 

 

 そんな雪雫の気も知らず、明智はにこやかな笑みを絶やさない。

 

 

「こんな時間に歩いているという事は、この道の先に君の家があるんだろう? この辺りで主要な交通機関はバスか電車。だけど時間が時間だ。バスはもう終わっている。なら君は電車を使ってここまで来た。って事になるよね? その制服姿を見るに学校帰り。だけど直接秀尽から帰って来た訳では無い筈だ。蒼山の方面に行くには、大通りを挟んで少し歩いた所の駅に行く必要があるからね。そこから来たのなら、わざわざこんな細道を使う意味が無い。という事は、乗ったのは別の路線だ。……今の時刻と駅までの距離から逆算すると丁度15分前、下りの電車の発車時刻。君はそれに乗って来た可能性が非常に高い。なら終点から駅までの区間。主要な施設を絞り込めばある程度の行動は推理出来る。そうだな……奥村さん家に行っていた。とか? 今までの傾向を踏まえるに、()()が接触している可能性は十分にある。娘さんも同じ学校だしね」

 

 

 どうかな。と明智は言った。

 雪雫は少し、気持ち悪いと思った。

 

 

「後半が飛躍しすぎ。主要な施設として個人宅が出てくるのは何故? 確たる証拠があるなら語るべき。無いなら口を閉ざすべき。今の言葉だけじゃ、明智の願望と妄想が入り混じったただの決めつけにしか聞こえない」

 

「……これは手厳しいな」

 

「だけど貴方は探偵。無意味に妄想は語らない筈。なら、証拠はあるけどそれを私に語れない可能性が高い。結論から言って、奥村の家に行ったのは正解。春と()()の話をしてて遅くなったから送っただけの事。家に行った時、身分証明書の提示を求められた。世論的に奥村が警備を強化した。当たり前の行動。でも多分、正規の警備員じゃない。その人の…ううん、家の周囲を取り締まっている人達の腰の辺り。服が少し膨らんでた。警棒にしては短すぎる。トランシーバーにしては大きい。だからきっとそれは拳銃。日本で拳銃を持っている人なんて相当限られてくる。まぁ普通に考えて警察。怪盗団の動きを警戒して警察が動いている。明智、前に会った時に『怪盗団の捜査チームに加わる』って言っていた。なら警備していた警察から貴方は情報を得れる立場にある。当然、私が行った事も。それを語れなかったのは警察内部の動きを漏らさない為……。そんなところ?」

 

「……ふっ」

 

 

 明智の口から空気が漏れた。たまらず、吹き出してしまったという感じだ。そして次第に、我慢を止めたのか彼は肩を震わせ無邪気な笑顔を浮かべ始める。

 

 

「ははっ、もしかして君って結構負けず嫌い?」

 

「……どうかな。ただ私は明智の推理にモヤっとしたから」

 

「そういう所を負けず嫌いって言うんじゃないかな。……僕達、案外似てるかもしれないね」

 

 

 あー面白かった。とクツクツと肩を震わせながら明智は、足を進め始めた。

 

 

「要件はただの世間話?」

 

「いや。……でも()()()()()()()()()。」

 

 

 明智は擦れ違いざま、雪雫の肩をポンと叩いた。

 

 

「僕が正しいって、証明してみせるよ」

 

 

 またね。と、片手をヒラヒラと振って明智は闇へと消えていく。 

 彼の足音が遠くに行ったのを確認して、雪雫も再び歩みを進める。

 

 

「………やっぱり、苦手だ」

 

 

 それがある種の同族嫌悪である事を、雪雫はまだ気付かない。

 




みなさん、お久しぶりです。
いつもありがとうございます。

実は裏で挿絵を用意してました。


【挿絵表示】


でも私には画力が一切ありませんので、色々なツールを駆使してやりました。
流れとしては

ゲームで雪雫をキャラメイクする

ポーズを取らせてスクショを取る。

それをペイントソフトでトレース&着色

完成

みたいな感じです。楽しかったです。

今後も作成するかは現状決めてません。好評だったら嬉しくて沢山作っちゃうかも知れないです。
兎も角、結構時間掛かったので載せておきます。
ご自分のイメージがあって崩したくない方はスルーしてください。

コンセプトは雪雫の総攻撃フィニッシュ(ジャンヌver)です。
30話のあとがきで言っていた奴ですね


同話の途中にも載せておきます。

長文失礼いたしました。
ではまた!
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