PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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92:vs Dark Lord.※挿絵有

 

10月3日 月曜日 晴れ

 

 

 

「空飛ぶ銀行で一々驚いていた頃が懐かしいわね……」

 

 

 広がる宇宙空間を目の前にして、溜息を零した。最近の事の筈なのに、遠い昔の記憶を語る様な口ぶりだ。

 

 

「……今からここに突っ込んでくんだよな…?」

 

 

 工場区画を抜けて辿り着いたエアロック。その単語を聞いた時、スカルはなんのこっちゃと首を傾げていたが、クイーンによると宇宙ステーションとかで使われている出入り口らしい。補足する様にナビとウィッチが何やら話していたが彼は全く憶えていない。だが、ただ1つハッキリしている事は、先に進む為には宇宙空間を生身で移動しなければいけないという事。

 

 

「ば、爆発とかしないよね……。よく映画とかで見るけど…」

 

 

 顔を青くして後退るパンサー。

 

 

「それは膨張の過剰描写。人の身体は柔軟で丈夫だから、爆発とかはしないらしい。精々2倍くらいに膨らむ程度」

 

「ま、そこまでいったら臓器がダメになって結局お陀仏、だがな!」

 

 

 最年少コンビのフォローになってないフォローに「全然安心出来無いんだけど」と彼女は声を荒げる。

 

 

「まぁ落ち着け。過去の例によると10秒くらいは案外平気らしい。あー目、鼻、口は堅く押さえておけよ? 真空状態の水分はすぐに沸騰するからな」

 

「怖えな、おいっ!」

 

 

 しかし怖気づいていても仕方が無い。この先のオタカラに辿り着く為にはここを通るしか無い。宇宙服とかの用意があれば直接目的地に行けるかもしれないが、生憎ここの従業員は全員ロボット。そんなものはない。短時間なら宇宙空間でも滞在可能というのなら、ここはもう思い切るしかないだろう。このエリアが文字通りなら、扉から扉まで自動で吸い寄せられる筈。移動の時間だって10秒もかからないだろう。

 

 

(……まぁ多分コレ、物資運ぶ用だと思うけど)

 

 

 クイーンは余計な事は言わない。ただでさえ皆不安に思っているのに、ここでエアロックが人間用じゃない事を伝えたらかえって煽ってしまう。

 

 

「まぁそんなに怖がる事も無いだろ。確かに見てくれは宇宙だが、示すデータに一部ズレがある。どうも完全な真空、という訳でも無いらしい」

 

「あくまでもここはパレス。奥村が科学者とかじゃない限り、そんな精巧な宇宙空間は再現されない」

 

 

 怯えるパンサーとスカルとは対照的に、年少組は宇宙遊泳出来ると分かってやや楽しそうだ。口振りは冷静だが、その瞳に宿る輝きが如実に表している。

 

 

「ええぃ、ままよ!!」

 

 

 スカルは意を決して扉のスイッチを押した。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「これが……オタカラ…?」

 

 

 何度かの宇宙遊泳を楽しみ、遂に辿り着いたその最奥。ノワールが宙に浮かんだ靄を見つめながら眉を顰めた。

 

 

「そうだ。まだ実体化はしてないがな」

 

「俺達がオタカラを狙っているという事を本人に認知させることで、初めて具現化される」

 

「そっか、それで予告状……」

 

 

 それなら。とノワールは決意を宿した瞳をジョーカーに向ける。

 

 

「ならお父様には私が直接渡します」

 

「…いいのかよ?」

 

「……まぁ正直、ノワールにやってもらうのが一番安全ね……。辛いとは思うけど」

 

 

 前に聞いた話をクイーンは思い返す。今の奥村邸は警備がびっしりで蟻一匹も入れない様な状況らしい。加えて、それには警察も噛んでいるとか。人の出入りは当然、郵便物なんかも厳重にチェックされるだろう。仮に直接渡さない場合、一番見て欲しい本人に伝わらない可能性すらある。

 

 

「しかし…ここまで来たは良いが…廃人化に関する事は何一つ出て来なかったな」

 

 

 フォックスが思案顔で呟く。労働環境、従業員への扱い。週刊誌に暴露された事、ネットの噂。それの裏は概ね取れたが、肝心の奥村邦和が精神暴走事件と繋がっている証拠はゼロだ。

 

 

「隠してんじゃねーの? ま、ここまでくりゃシメて吐かせた方が楽だろ」

 

「スカル。シメるじゃなく改心だ」

 

「あ…。わ、わりぃ」

 

 

 どちらにせよ、オクムラクニカズと直接対峙する必要があるという事。

 来る決戦の日に備えて、怪盗団は踵を返してパレスを後にする。

 

 

「……………ん…?」

 

 

 黒い仮面の人物が見ていた事も知らずに。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

10月4日 火曜日 晴れ

 

 

「ふん」

 

 

 その男は苛立っていた。彼をよく知らない人からしてみれば、そうは見えなかったかもしれない。だが身内から…奥村春に言わせてみれば明らかにソレを持つ手には力が込められていたし、必死に平静を装う声は焦りの表れにも感じられた。

 

 

「怪盗団、か」

 

 

 しかし彼はそれを表には決して出そうとはせず、何時も通りソファに踏ん反り返っている。そしてその低い声で自分に宛てられた紙を読み上げた。

 

 

 

 

暴利を貪る強欲の大罪人、

 

奥村邦和殿。

 

お前の利益と世界的な名声は、

従業員への非道で成り立っている。

 

ゆえに我々は全ての罪を、

お前の口から告白させることにした。

 

心の怪盗団ファントムより

 

 

 

 

 

 

 

10月5日 水曜日 雨

 

 

 

「────お父様の様子はこんな感じだった、かな。その後すぐ警備が強化されて……。私も()()()()とは言え、お家を追い出されちゃった」

 

……ん、今日だけ…?

 

「自分の娘も信用出来無いってか!?」

 

「もしくは警察との何らかの癒着があってそれを知られたくない……とか?」

 

 

 憤慨する竜司の隣で真は自身の顎に指を添える。

 

 

「確か、一週間くらい前から家に警察が来てたのよね? いくら世論が奥村の改心に傾いていたって、あまりにも行動が早すぎない? それに立場を隠して警備って……」

 

()()()()()、それありそう……。確かお父様、『怪盗団は警察にくれてやる』って言ってた…」

 

「…………マコちゃん?」

 

 

 ふと聞きなれない単語に、黙り込んでた雪雫が片眉を上げる。

 

 

「可愛いでしょ? 私いままで、同年代の友達出来なかったから…。あだ名とか付けるの憧れてたんだ」

 

「むず痒いけど…悪い気はしないわ」

 

 

 朗らかに笑う春と、恥ずかしそうに頬を染めながらも、嬉しそうにはにかむマコちゃんこと真。

 

 

「まぁ見かけによらず、可愛いものとか好きだもんね。()()()()()

 

 

 イセカイでは世紀末なのに。なんて雪雫が小馬鹿にしたように口角を上げれば、真は彼女に深い笑みを返す。

 

 

「雪雫ぁ? またお仕置きされたいの?」

 

「オマエラ、本当に緊張感ねぇな!」

 

 

 これから大仕事が待っているというのに、それも友人の実の父親を改心するというのに。生徒会コンビはイチャついているし、それを見ている蓮達はお菓子を頬張っている。これが世間を騒がす怪盗団の姿か。モルガナは思わず溜息を零す。

 

 

「えぇっと…、なんだっけ…。……そうだ! 兎に角、オクムラと警察との間で何か取引があったと見ていいだろう。向こうも何時までもワガハイ達を野放しにはしたくないだろうからな」

 

「言えてる。偽メジエドの件以降、私達の評判うなぎ上りだもんね! 明智君なんて干されちゃったし…。アンチ怪盗団の方が少ないんじゃない?」

 

「だがその分、心の無い言葉が飛び交う様になったのも事実だ。完全に手段と目的がすり替わってしまった。俺達が娯楽として消費され始めている」

 

「『はやくやれwwwwww』『怪盗団が出てくれれば何でもいいわw』──おイナリの言う通り、この手のコメントでSNSも怪チャンもびっしりだ。その上、奥村が予告状をマスコミに公開した事でメディアも入れ喰い状態。まさしく話題の中心、だな」

 

 

 世界が怪盗団の行動を、その一手を注目している。改心が成功しても失敗しても、大きな煽りを受けるだろう。そういう意味でも今回の改心は重い。

 

 

「けど行くしかねぇだろ! 今んなって『やっぱやめた』で済むかよ!」

 

「ん、竜司に同意。春の件がある。どちらにせよ、やるしかない」

 

「──うん、私もそれでいいと思う。昨日のお父様の口振り…反省の色は見えなかった」

 

 

 どの道、ブラックな労働環境を是としている時点で十分改心対象なのだ。春だってそこを変えたくて行動を移した。予告状も出してしまった以上、もう進むしかない。

 

 

「いつも通り、パレスのオタカラ…盗ってやろう!」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだありゃ!?」

 

 

 パレスの様子は様変わりしていた。

 ロボットの従業員達は忙しなく動き回り、パレスのあちらこちらで何かの放送が鳴り響いている。最初は怪盗団を警戒して…と思ったがどうもそうでは無いらしい。その証拠に周りのロボット達はジョーカー達に目もくれない。こうなった理由が自分達では無いのなら、やはり皆の視線の先のモノが原因だろう。

 

 

「お~UFO!?」

 

 

 ナビが言う通り、それは超巨大なUFOの様に見えた。オタカラがある建物の頂上。そこに覆いつくしてしまうほど巨大な円盤状の何かがある。

 

 

「工場で作っていたのはアレ?」

 

「…でしょうね。様子を見るにそろそろ飛び立つ所かしら」

 

 

 見上げれば見上げる程、巨大過ぎて途方に思えてくる。どうしたものかと眺めているとけたたましいサイレンと共に機械交じりの音声が鳴り響く。

 

 

『造船ドック、ユートピア・エスケープ号はまもなく発射シークエンスへ移行予定。メインコア回収、搭載作業完了後、発射シークエンスを開始します』

 

「……ん、エスケープトゥユートピア計画………」

 

「確かお父様は、政界という次のステージに飛び立つと言っていた…」

 

「会社すら踏み台……。つまりここを捨て、己の楽園に飛び立つという事か」

 

 

 それをこのタイミングで行うという事は、つまり怪盗団からオタカラを奪われない様に逃げるという事。宇宙という広大な闇の中、逃げられたら金輪際、見つける事は叶わないかもしれない。

 

 

「つまり───」

 

「ん、速攻」

 

 

 単純な話だ。至ってシンプルな。ゴールが決まっていて道のりも分かる。なら駆け抜ければいい。駆けて駆けて駆けて、障害は踏み倒す。それを体現したのが先陣を切って突っ込んでいったウィッチだった。彼女はいつも通り大鎌を片手にシャドウを切り伏せながら先導する。割と1人で解決しようと突っ走ってしまうのは彼女の悪癖だが、今はそれが吉へと転換された。特段大きな障害も無く、事前に用意したルート通りにオタカラ部屋に一同は辿り着く。

 

 

「…さぁて、追いつかれちゃったぜ? 社長さん」

 

 

 しかしそれでもギリギリだった。パレスの最奥へ辿り着いたのは、既にオクムラは頭上のUFOにオタカラを移し終えた後。あと一歩…いや半歩でも遅ければ、オクムラの影すら掴む事が叶わなかっただろう。だが、スカルの言葉通り追いついた。その事実、オクムラは青い顔をさらに青くして口を開く。

 

 

『わ……』

 

 

 ダラダラと汗を流し、膝を地につけたオクムラはそのまま額を地面に擦り付ける。所謂、土下座だ。

 

 

『悪かった! 私は改心した、この通りだ!』

 

「……お父様…」

 

 

 白々しい、とウィッチは思った。ノワールに「大丈夫だから」と諭されなければ、このまま斬ってしまったかもしれない。そう思ってしまう程、白々しい演技だった。

 

 

『私のイエスマンだった春…。学校も、習い事でも、お前は私の言いつけ通り……。そんなお前が立派になって……』

 

「急に、何?」

 

 

 あまりもの豹変ぶりに、クイーンは呆気に取られた様子で呟く。他の皆も同様の反応だ。

 

 

『ああ、覚えているか、春? 初めての運動会を仕事で見に行けなかったとき、お前は泣いた。それからだったか、お前が口答えしなくなったのは。……正直に言うと、逆に心配だったのだ。でもお前は、私に盾突いた。自立を、果たしたのだ……。嗚呼! 父としてこんな喜ばしい事があるか!』

 

「そんな昔のこと…まだ覚えて………」

 

 

 久しぶりだった。こんな優し気な声の父を見るのは。美味しいものを作るのに必死で、人を喜ばせたいと夢を語っていたあの頃と同じだ。

 

 

『許してくれ、春!』

 

「お父様……」

 

 

 春が同情する様な顔を浮かべて近づいてくるのが分かる。優しい春の事だ、きっと対話の道を選ぶのだろう。そしてその後ろの怪盗団も同様に。

 ああ、なんて………バカな奴らだ!

 

 オクムラは地面に頭を擦り付けながら、口元を歪めた。

 

 そう安々と認めてたまるか。私が敗者などと。私は勝者だ、成功者だ。お前達とは違う。蹴落とす冷徹さこそがビジネス。情だの仁義などは敗者の言葉。

 

 

(そうだ…そのままこっちに来い……)

 

 

 今やつらの足元には丁度トラップがある。内側からは決して解除出来無い、電磁バリア。一度囚われれば最後、奴らは私が飛び立つのを指を咥えて見ることしか出来なくなる。

 

 

(さぁ!)

 

 

 途端、オクムラは勝ちを確信してその顔を上げ、左手の起動スイッチを掲げた。敗者達の間抜け面を、その眼で拝む為に。

 

 

「─────遅い」

 

 

 言葉すら置き去りにする様な速度だった。その少女の声が耳に届いた時には、既に左手にはガラクタが握られていた。

 

 

『……なっ!』

 

 

 スイッチが斬られた。と認識出来た頃には、その少女は目の前でこちらを見下していた。

 

 

「さっきから黙って見ていれば。心にも無い事をベラベラと」

 

 

 白髪の間から覗かれる真っ赤な瞳が、得体の知れない恐怖心を煽る。

 

 

「頭を下げるのは現実の貴方の役目。許しを請うなら、他にやるべきことがあるでしょ。……さっさとオタカラを渡して、()()()()()に帰りナさい」

 

「雪雫ちゃん…!」

 

「春、惑わされないで。口ではこう言っているけど、パレスが消えないという事は、歪んだ欲望があるという事」

 

『……そうか…やはり……()()()()()()()()()()()()!』

 

 

 オクムラの物言いにウィッチはピクリと眉を揺らした。

 

 

『知っているぞ。白髪のお前と、そこの猫。本当はそいつらと対立しているのだろう?』

 

「……覗いてやがったか…」

 

『今ここで私に付けば生かしといてやろう…。一緒に居ても得にならない。そう思ったんだろう? お前達は正しい………。そいつらを売れ! 利益の為に切り捨てろ!』

 

 

 はぁ。と深い溜息がモナの口から漏れ出た。彼はやれやれと首を振ると、オクムラを小馬鹿にしたように肩を震わせ始める。

 

 

「………舐められたもんだなぁ。な、ウィッチ」

 

「ん」

 

「損得が全て? 悲しいな、社長さんよ。ハルと17年も共に暮らして、まだ気付けないのか? この世には、カネや名誉に代えられないモンが山ほどある! コイツらの代わりなんて居ない!」

 

「……取引するなら、もっとマシな手札を揃えるべき。まぁ、全部切るけど」

 

『…そうか。───交渉決裂だな!』

 

 

 オクムラが指を鳴らす。途端、建物内にはサイレンが鳴り響き、頭上のUFOからは次々と筒の様なモノが降りてくる。外壁に『サービス出勤』と書かれた筒の中から次々と現れる従業員ロボ達。社長の盾になる様に並べられたその姿は、文字通り捨て駒の様。あくまでも自分は使う側、という認知の表れだろうか。

 

 

「最後まで使い捨てか!」

 

『何とでも言うがいい! お前達ムシケラ如き、発進前に始末してくれる!』

 

 

 次々と上から降りてくる筒からは、大中小さまざまな従業員ロボットが排出され、あっという間に怪盗団を取り囲んでしまう。

 

 

「人海戦術…という奴か。1人1人は大したことは無いが……。こうも数が多いと厄介だな」

 

「数にモノを言わせる辺りが大企業らしいわね」

 

 

 規則的な動きで怪盗団に迫る機械の波を眺めながら、オクムラは椅子に腰掛け声を荒げる。

 

 

『行け! 生かして帰すな!!』

 




弾切れと言ったな
あれは嘘だ。

P5に欠かせないブチッを用意しました


【挿絵表示】


もう本当に弾が無いヨ
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