PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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誤字報告ありがとうございます。
めちゃくちゃ直して頂いてます……


93:Goodbye, dad.

 

 いまオクムラは飛び立とうとしている。UFOこと、ユートピア・エスケープ号に己の欲望を乗せて。既に動力(オタカラ)は搭載済み。時が来れば船は文字通りのユートピアを目指して飛び立ち、残された基地は侵入者である怪盗団を残して爆発。そういう寸法らしい。

 

 

『行け、社員共! 私の勝利の礎となれ!』

 

 

 オクムラの勝利条件は二つ。怪盗団を倒すか、定刻を迎えるか。対する怪盗団はタイムオーバーする前にオクムラを叩くしかない。しかしながら、その首を取るには些か従業員達の存在が邪魔だ。早期決着を強いられているものの、その数は膨大。これまでも何度か敵味方入り乱れる混戦はあったが、今回に限ってはそれの比じゃない。

 

 

「疾ッ」

 

 

 正面から迫る敵は自らの身の丈以上の武器で、後ろから迫る敵はペルソナの力で薙ぎ払う。小柄な体躯を余り余ってカバー出来るほどの広範囲攻撃。加えてウィッチ本来の素早さが加わるのだから、やはり入り乱れた戦場で置いても彼女は圧倒的だった。

 

 

『ウィッチ!』

 

「──ん」

 

 

 怪盗団きってのその戦闘力はさらに留まる事を知らない。個で圧倒的な存在感を持つ彼女は、仲間との連携でより磨かれる。

 

 

『ほんにゃら……。ほいほい、っと!』

 

 

 自らのペルソナ・ネクロミノコンの内部で鼻歌混じりにナビが指を走らせると、ウィッチの眼前に漂う複数の魔法陣。ドーム状に展開されたソレを見て、ウィッチは翔ける。地に群がるロボット達を飛び越え、展開された魔法陣を足場として利用。そして次の魔法陣目掛けて再び翔ける。直線的に、そして三次元的にドーム内をピンボールの弾の様に跳ね続ける。ナビの支援により展開された魔法陣は、ウィッチが触れれば触れるほど力と速度が増幅される様になっている。『ぶちかませ!』とナビが口角を上げる頃には、最早ウィッチを肉眼はおろか、モニターでも捉える事は困難であった。正に疾風迅雷。縦横無尽に翔ける魔女の存在を示すのは鎌の残光のみ。

 

 

「────」

 

 

 魔法陣内の敵を一体も残さず殲滅した後、ようやくウィッチは脚を止めた。大鎌を地面に突き立てて勢い余る速度を殺す。だが攻撃の手を緩めるつもりは毛頭無いらしい。その紅い瞳は次なる標的、真っ直ぐにオクムラクニカズに向いている。

 一息つく間も無く、着地した体勢のままウィッチはターゲットに向かって片腕を伸ばす。収束する魔法陣の残滓、ペルソナから溢れ出る呪力。その全てを指先で練り混ぜて、それは放たれる。

 

 

「─────メギドラ」

 

『っ! えぇい!』

 

 

 オクムラに向かって放たれた魔力の弾は眩い光を放ちながら、射線上の敵を撒き込んでいく。ナビとウィッチ、2人分の魔力が織り交ぜられた光弾は従来の威力よりも遥かに高い。当たれば一撃必死、とそう思われていたが。

 

 

『………我が社の人材層の厚さ、舐めるなよ』

 

 

 ボウリングのピンの如く立ちはだかった、複数の巨大な緑色のロボットによってその威力は完全に殺される。歯抜けになる形で中央の敵は消滅したが、最後方のオクムラまでは届かない。

 

 

「………惜しい。スプリット」

 

「全部倒すのが目的じゃないからね?」

 

 

 隙を見てウィッチに襲い掛かろうとしたロボを殴り飛ばしながらクイーンは溜息を吐く。

 

 

「ちょっと休憩する。クイーン、私から離れないで」

 

 

 

 何時もの調子で空気を読まずに言うもんだから、クイーンは思わず「は?」と眉を顰めた。何を言っているんだこの子は、と。敵は増え続ける一方。こうしてウィッチが欠伸をしている間にも、どんどんと取り囲まれていると言うのに。

 

 

「いいから、傍によって」

 

「え? きゃあっ!?」

 

 

 しかし有無を言わせないウィッチ。クイーンの腰に手を添えて、ぐいっと彼女を引き寄せる。急に行われたスキンシップに戦場にも関わらずクイーンは素っ頓狂な声を上げるし、それを見ていたナビも呆れた視線を送っていた。

 だがそんな雰囲気の中でも、迫るロボ達。ジリジリとにじり寄り、手を伸ばせば彼女達に触れる事が出来る位の地点に差し迫った時、突如地面から生えた黒い槍に串刺しにされる。それも一体だけではない。ある程度の範囲内に踏み込んだ機体、全員が同様に槍に貫かれていた。

 

 

「作戦会議するくらいの時間は稼げるから」

 

 

 ウィッチを中心に地面に広がる真円の影。当然、自然のモノでは無い事をクイーンは知っている。

 

 

「…アリス」

 

「ん。そういうこと」

 

 

 「ちょっと離れたら真も串刺しだから」なんて真顔で言うもんだから、クイーンは少女に縋り付く。『おい、イチャついてんじゃねー』とナビから気の抜けたヤジが飛んでくるが、ウィッチは気にしない。

 

 

「状況整理。戦闘が始まって十数分。従業員ロボが先陣を切って、オクムラ自身は後ろでたまにちょっかいを掛けてくる程度。思うに本人にそこまで戦闘能力が無いタイプ。戦い方がカネシロに似てる。私としては従業員ロボを全部倒して、オクムラを引きずり出す方法が一番手っ取り早いと思う。従業員の残りの在庫…おおよそ検討が付く」

 

 

 有り難いことに従業員ロボは役職によってその見た目が異なる。例えば小柄な青い制服を着たロボは「TYPEヒラ」。赤い服のノッポのロボは「TYPE係長」というように、割と分かりやすい。そしてここに至るまでの道中、TYPE部長までは既に戦闘経験がウィッチ達にはある。つまり部長までであれば効率的な対処が可能ということ。

 

 

「最初は沢山居たヒラタイプ、主任タイプはめっきり見なくなった。んで、さっき導入されたのが部長タイプ。型が役職にリンクしているなら、後から導入される奴ほど数は少ない」

 

「まだまだ沢山居るとはいえ、いずれ底を尽きるタイミングがある筈。私達が思っているよりも数も多くないかもね」

 

 

 現状、メンバーそれぞれが役割を分担して戦っている。というのも、ロボのタイプごとにその弱点がハッキリ分かれている為だ。例えば「TYPEヒラ」であればモナとパンサーが有利に戦える。「TYPE係長」であればスカルとクイーンが優勢だ。混戦状態の中で縦横無尽に翔け回っているのはペルソナを切り替えられるジョーカーとウィッチ位で、後のメンバーは敵に応じて代わる代わる……と言った様子だ。つまり、メンバー内で一番消費が激しいのがジョーカーとウィッチ。他の仲間達はある程度余力が残っている。

 

 

「実際、ヒラと主任が居なくなって、スカル、パンサー、クイーンが手空いてる状態。後続の機体が見込み通り数が少ないなら、このまま戦い続ければ徐々に余裕が生まれてくる。何処かのタイミングで、数の優位が逆転する」

 

「さっき導入されたのが部長……。それより上の役職となると…」

 

「役員?」

 

「……そう、なるかな」

 

 

 役員であればそうそう数は居ない筈だ。しかも()()()()()()()()()()であればもっと少ないだろう。オクムラが好き勝手扱える都合の良い道具という従業員への認知がロボとして表れているのだから。役員クラスとまでいけば、それはもう奥村の息が完全に掛かった役員にしか当てはまらない。役員と言えば会社の方針を決める立場。全員が全員、全く同じ思想を持っている筈が無い。ある程度の派閥、主張による対立だってある筈だ。現に週刊誌への内部リークが起こっているのだから、奥村だって完全に全てを思い通りに出来ている訳では無い。

 

 

「……出て来た部長は私が殲滅する。まだちらほらいる課長も。二機とも私が有利」

 

「信じて、良いのよね?」

 

「────当然」

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 恐らく、オクムラは私を狙う。さっきナビと連携した時、体勢崩した私を真っ先に攻撃してきたのが何よりの証拠だ。彼は何処まで行っても経営者という事には代わりない。従業員ロボを段階的に導入しているのは無駄なコストはカットしたいから。隙を突いてくるのは少ない労力で成果を挙げたいから。

 きっと私は暫く動けなくなるだろう。そこを間違いなく彼は狙ってくる。だからこれは一種の囮だ。真には言わなかったけど。餌をぶら下げて得物が隙を見せるのを待つ。隙を見せれば……()()()()()()()

 

 

「ジョーカー」

 

「………任せるぞ」

 

 

 大立ち回りが常のジョーカーを下がらせる。彼は文字通り切り札。何にでも対応出来るワイルドカードをわざわざ切る必要は無い。

 目を閉じて、呼吸を整える。機械の駆動音も、オクムラの怒鳴り声もカット。無意識で使っていた力を、自らの意識下に置く。

 

 

「────アリス」

 

 

 少女を中心に影が広がる。先程のモノとは比べ物にならない位ほどの大きさの影。敵のみを識別して自動的に攻撃を行うその影を、ウィッチは初めて意識的に使った。命を刈るばかりであった影の槍は従業員ロボの脚を突き刺して縫い付ける。

 

 

『なっ……』

 

 

 オクムラはここに来て初めて唖然とした。さっきまでそんな素振りを見せなかった少女が、ここに来て初めて超広範囲の攻撃を仕掛けてきたのだから。部屋の奥で踏ん反り返る彼には届かないが、残る従業員達を全員飲み込んでしまう程の範囲。

 

 

「……はぁ…」

 

 

 白い肌に一筋の汗が流れる。精神がごっそりと刈り取られる様な感覚に少女は視界は眩む。

 アリスの力は強大だ。だから無意識下で効率良く運用出来る様にウィッチはセーブして使っていた。だから魔法主体で戦う事を今まで選んでこなかった。あくまでも近接戦闘における補助として、自らに足りないものを補うツールとして使ってきた。それを今、先の事を考える必要が無いからこそ、フォローしてくれる仲間達が居るからこそ、彼女は自由に振る舞える。

 

 

(一か八か、───ペルソナの同時召喚)

 

 

 仮面が燃え、燃えた仮面は人の形を作っていく。魔人と並び立つように現れ出た聖女が旗を掲げると、屋内であるにも関わらず温かな光が差し込む。光はウィッチの白髪をテラテラと照らしている。

 

 

「……………一撃、一瞬で終わらせる」

 

 

 少女の頭上に出現した光の輪。聖女の魔力を束ねた聖なる暈。ヘイローと一般的に呼称されるそれは煌びやかな光を放ちながら徐々に広がりを見せていく。少女の身体を覆い、次第に地に伸びた影を丸々照らすほどにまでなった光輪。そこには触れるものを焼き切ってしまう程の熱量が込められている。

 

 影は蠢き、光は波打つ。少女が祈る様に手の平を合わせれば、その力の奔流はさらに激しく荒れ狂う。

 遠目から見ていたオクムラでもその異常性が分かった。だがもう遅い。戦力を導入するなら、アリスの召喚前に行うべきだった。もう既に、少女の準備は整っている。その金色の眼が冷たく敵を見据えている。

 

 

「───螟「蟷サ蟠ゥ螢」

 

 

 それは光と闇による波状攻撃。魔人と聖女、相反する力の衝突によって生じる特異点。音も視界も全て飲み込む一撃は、文字通り何も残さなかった。影に囚われていた部下達は塵一つ残さず消えている。

 

 

『……やってくれたな…小娘…』

 

 

 たった一人。それも年端もいかない、か弱い少女が残る部下を全て消してしまった。

 ………こいつは危険だ、危険な芽は摘むのが常。何時だってオクムラはそうしてきた。

 

 

『専務!』

 

 

 声を荒げる。あいつを始末しろと。力を使い果たし、満身創痍の少女に止めを刺せと。アイツさえ居なければ、あとはどうとでもなる。そう確信して。UFOから降り立った巨大な黒いロボ「TYPE専務」は従業員ロボ達の中でも最高傑作。弱点は無く、それでいてタフだ。残りの搾りカスを潰すには十分過ぎるほどの───。

 しかし専務ロボは動かない。社長である筈のオクムラの声を無視して、微動だにせず佇んでいる。

 

 

『何をしている、専務!? 早く止めを───』

 

「おい、ワガハイ達を忘れちゃあいねぇか? 社長サンよ」

 

 

 途端、専務ロボが激しい破壊音と共に地に倒れる。巨大なロボの陰から現れたのはウィッチを除く怪盗団。彼女に注視し過ぎるがあまり、意識の外に追いやってしまったオクムラの言う「残りの搾りカス」達。

 

 

「注意力散漫、とはこの事ね」

 

 

 クイーンが溜息を吐く。

 もうオクムラを守るものは居ない。専務はガラクタ。他の従業員は消え去った。じりじりと、ジョーカー達は歩み寄る。諦めろ、そう暗に言っている様だった。

 

 

『……私は…まだ………まだっ!』

 

 

 しかし、オクムラは諦めない。認める訳にはいかないのだ。自分が敗者だと。──それにまだ、切れる手札は残っている。

 

 

『……ハル! ハルは居るか!?』

 

『はい! お父様!』

 

 

 文字通りこれで最後。オクムラにとって一番使い勝手の良い人形。これ以上、便利な駒は彼には無い。

 

 

『私が倒れたらオクムラフーズは終わりだ! 分かっているな!?』

 

『勿論です! お父様!』

 

 

 オクムラの認知上の春。父のイエスマンで在り続けるその認知存在は、オクムラの為なら何でもする。人間の姿をしていた彼女はその身に影を纏い、晴れた頃には授業員と同じ様なロボットの姿となっていた。

 

 

「人形みたいに頷く事しか出来ない、ただの道具……。それがお父様にとっての私………」

 

 

 分かっていた。フィアンセの認知存在が居る時点で、自分も居るのだろうと。だがしかし、覚悟はしていたとしても、こうも目の当たりにしてしまうと、改めて残酷な現実を突きつけられた様な気分になる。

 そして現実は、何時だって想像以上のモノを突きつけてくる。

 

 

『ハル、賊どもを吹き飛ばせ。───自爆してな』

 

『はい、お父様』

 

「自分の娘に命じるつもりか! 犠牲になれと!?」

 

 

 オクムラには確信があった。ある種の信頼に近い確信が。戦う前のやり取りでハッキリ分かった事。こいつらは甘い。敵である筈の自身に、まずは対話を持ち掛けたのが何よりの証拠。情だの、仁義など、所詮は負け犬精神が染みついた奴らだ。こいつらは偽物であってもハルを攻撃することは無い。無抵抗のまま嬲られ、そして春ごと命を散らしていけばいい。唯一、懸念点であった白髪の少女はもう動け───。

 

 

(───待て)

 

 

 魔力の爆心地であった場所にはもう居ない。かと言って、怪盗団の奴らが保護している様子も無い。

 ───あいつは何処へ行った?

 

 

()()()

 

 

 オクムラの疑問に対する答えは空から降り立った。大鎌を構え、UFOから降り立った少女はその勢いのまま認知存在のハルに刃を突き立てる。

 

 

「む…意外と硬い」

 

 

 頭から一刀両断。そのつもりで振るったウィッチだったが思う様に行かずに、刃は頭の中腹で動きを止める。

 

 

『オ、オトウ、サ、マ……オトウ、サマ………』

 

 

 鎌が刺さったまま、うわ言の様に繰り返すハルは正に壊れた人形の様。フラフラとその身体を揺らすのみでそれ以上は何もする様子は無い。消滅、とまではいかなかったが、実質的な無力化には成功した様だ。

 

 

「……春」

 

 

 鎌からパッと手を離し、認知存在から離れるウィッチは呆然と佇む春の元へ。ショットガンを持つ彼女に手に自らの手を添えて、優しく的へと誘導する。ターゲットは勿論、認知存在のハル。そしてその後ろのオクムラクニカズ。

 

 

「雪雫ちゃん……」

 

 

 ショットガンを構える手が僅かに震える。添えられた小さな手が、その震えを軽減する。ぶれていた照準はしっかりと定められ、僅かに戸惑いが見れた引き金にはしっかりと指が掛けられた。

 

 

「卒業式。今までの自分とバイバイしよ?」

 

「………うん、そうだね」

 

『ま、待て─────』

 

 

 ズドン。

 放たれた弾は過去の自分を貫き、父にしっかりと命中した。

 

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