PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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94:Visible and invisible stars.

 

 

 命令に忠実な部下はもう居ない。身を呈して守ってくれる身内も居ない。身を守る術を、もう彼は持ちえない。

 

 

『……がっ!』

 

 

 放たれた弾丸は(人形)を打ち抜き、やがて胸元へ至る。命の奪う程の威力は無い。精々、身に纏う装甲にヒビを入れる程度。

 しかし、それはオクムラにとって十分過ぎるほどの衝撃だった。冷徹な経営者、非道な野心家の象徴とたらしめる鎧は自ら「敗者」と称した者達に打ち砕かれた。その事実が、オクムラクニカズを「敗者」とたらしめる。

 

 

「チェックメイトだ」

 

 

 怪盗団のリーダー…ジョーカーと呼ばれる男がこちらを見下ろす。いや、彼だけではない。皆がそろって私を見下ろしていた。地に這いつくばるこの敗者()を。

 

 

『……所詮、敗北者の血筋か…………』

 

 

 久方ぶりに誰かを見上げた。その底辺から見える景色は恥辱に塗れたものではあったが、それ以上に懐かしさと穏やかさを私に与えてくれている。

 

 

『彼との縁談は…私から断りを入れる……』

 

 

 どの道、婚約の話は…政界への進出は白紙に戻される。もう終わりなのだ。オクムラフーズは…いやオクムラは完全に終焉を迎える。

 

 

『申し訳ない……春…!』

 

「お父様……!」

 

 

 その謝罪は何を指すか。過去の出来事か、それとも未来に起こり得る出来事か。彼自身、完全に分かってはいない。それでもオクムラは頭を下げた。演技などではなく、心からの、今の自分に出来る精一杯の謝罪。

 

 

「あー……社長さんよ」

 

 

 そんな中、スカルが気まずそうに頭を掻く。当初は怒鳴りつけてやろうかと思っていたスカルだが、こうもしおらしく…しかも春の眼がある手前、この姿を無下に扱える訳も無く。

 

 

「精神暴走事件と廃人化……。アンタ、何か知ってる…よな?」

 

 

 歯切れが悪いままオクムラに問うた。

 

 

『……確かに私は、会社を成長させる為に、商売敵を潰す為に多額の金を払ってきた…………』

 

 

 そして語れるオクムラフーズの闇。会社の急成長、事業の急速拡大のメカニズム。おおよそは事前に推理してきた内容通りだった。オクムラフーズの成長曲線と過去の精神暴走事件を当て嵌めれば、おのずと浮かぶ答え。

 しかし──。

 

 

「……払ってきた?」

 

 

 含みのある物言いにウィッチは瞳を細める。

 

 

『私は…やってない! 契約があり、排除を依頼しただけだ!』

 

「依頼!? ……じゃあやはり、想像してた様な悪党がホントに居るって事か!」

 

 

 イセカイを悪用し、精神暴走に廃人化。悪行の限りを尽くしているという黒い仮面の存在。眉唾物だったその存在が、オクムラの証言によって初めて現実味を帯びてくる。

 

 

「……一体誰と…。どんな契約なのです!?」

 

 

 契約という事はオクムラはそこそこ近しい立場に居た筈。噂話程度だったマダラメやカネシロよりも語れる情報は価値があるのは明確。

 相変わらずけたたましいサイレンと次第に大きくなっていく崩壊音。残された時間は少ない。その中で何とか少しでも多く聞き出そうと質問を投げるが、オクムラは嗚咽を喘ぐばかりで言葉という言葉を発しない。

 

 

「───ん」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 途端、部屋が大きく揺れた。両足で立つのも困難な程の大きな振動が怪盗団を襲う。

 

 

「クソっ。もう時間切れか!? 見た目の割にショボイ基地だな!!」

 

「……待って…。この振動…基地の崩壊じゃない! UFOだ!」

 

 

 ナビの見立てでは基地の完全崩壊まではまだ時間があった。そもそも、オクムラ自身が基地を自爆させようとしたんだ。普通は巻き込まれない様に、オクムラ自身が居るこのパレスの最奥は最後に爆発させるのがセオリーだろう。現に他のエリアはまだ姿形を保っている。だからこうなった要因は他にある。そして建物全体を揺るがす様な巨大な存在など、この部屋には一つしかない。

 

 

『発射シークエンス起動。カウントダウン、開始』

 

「マジでか!」

 

 

 突如頭上から降る女性のアナウンス。意味は…語るまでも無いだろう。

 

 

「あー」

 

 

 一同が焦る中、何時にも増して緊張感の無い間の抜けた声がウィッチから漏れ出た。まるで昨日の夜ご飯を思い出したかの様な場違いなトーン。

 

 

「ごめん。そう言えばさっきUFO乗った時……変なボタン押しちゃった」

 

 

 そう言う少女は珍しく表情が豊かであった。困った様に眉を下げながらも、その口角はヘラヘラと僅かに上がり、仕舞いには舌を「てへっ」と覗かせる始末。こんな表情をコロコロ変える彼女は、それこそクイーンですら見た事が無い。強いて言えば、ミュージックビデオや歌っている時くらいか───。

 

 

「何やってんだオマエ!?」

 

『90秒前』

 

 

 そうこうしている間にも、カウントダウンは無情に進む。あと一分半でUFOは遥かなる闇に向け、コロニーを突き破るだろう。完全な再現では無いとはいえここは宇宙の中。コロニーに巨大な風穴でも開けられたら……きっとここに居る人間はひとたまりもない。

 

 

「もう時間が無いぞ!」

 

「オクムラはどうすんだよ!?」

 

「放っておけ! どのみちパレスは消える! 現実に戻って問いただせばいい! ウィッチ! オタカラは!?」

 

「ん、回収済み」

 

 

 「よしっ」とモルガナが言うと、一斉にドタバタとジョーカー達は走り出す。慌ただしい幕引きは最早お決まりか。計画を練って会議を重ねて改心を行っている割には、本番になると途端に行き当たりばったり。

 慌ただしく逃げ去る皆の背を見送りながら、ウィッチは1人オタカラを呑気に眺めていた。

 

 

「………オタカラが動力って思ってたけど、完全にそういう訳でも無いみたい? UFO、止まらないね」

 

 

 なら良かった。とウィッチは笑みを作り、しゃがみ込んだ。

 

 

「オクムラクニカズ。このままじゃパレスの消滅前に死ぬ。さっさとUFO乗って宇宙旅行でもしてて」

 

『………何?』

 

「消えるなら()()()()()で消えて。消滅までの僅かな時間くらいなら稼げる筈」

 

 

 元々オクムラはUFOに乗って宇宙を横断するつもりだったのだ。認知世界の産物とは言え、宇宙空間に耐えれるだけの耐久力がある筈だ。今となってはこのパレス内で一番堅牢な要塞だろう。

 

 

「……動かないなら、ペルソナで放り投げてもいいけど」

 

『……………分かった』

 

 

 ゆらりと立ち上がったオクムラはフラフラと覚束ない足取りでその船に乗り込む。音も無く機体の扉は閉じ、完全なる円盤となったソレは飛び立つのを待つばかりだ。

 

 

「……パレスは消える。消えれば全部元通り。生まれた場所に帰るだけ」

 

 

 コツン。とヒールを地面で鳴らしながら、少女は語る。謳うように。

 

 

「地中を這いずる根。御伽の国へ至る大穴。………探すならそこ」

 

 

 ひとしきり彼女はそう言うと、白髪を揺らしながら翔けて行った。

 

 

「──────」

 

 

 少女が去り、無機質なカウントダウンだけが響くその場所。崩壊と消滅がせめぎ合うパレスの最奥に、その人物は現れた。

 

 

「────メメントス」

 

 

  黒い仮面を携えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤ…ヤバかったぁ………」

 

「双葉の時よりもギリギリだったかも………」

 

 

 オクムラフーズ本社前。数多の会社がひしめくオフィス街には場違いな学生達。道行く会社員達の視線に晒されながらも取り繕う余裕も無く、彼らは膝に手を突いて息を切らしていた。

 

 

「いや…あの時よりはマシよ……雪雫が動けてるから……」

 

「その節はどうも、マコちゃん」

 

「その代わりに、とんでもない事しでかしてくれたがな」

 

 

 にへらと反省する素振りも見せない彼女にモルガナは苦々しい表情を浮かべる。

 

 

「そんな事よりよ。オタカラ回収出来たんだよな? どんなヤツだ?」

 

「ん、コレ」

 

 

 命辛々の脱出劇ですっかり忘れていたが、竜司の言葉で一同もハッと雪雫に視線を送る。待ってました、と言わんばかりに差し出す両手の上には長辺30cm程の紙で出来た箱。「ギャラクシー戦争シリーズNo.1 ギャラクシー号」と大きく書かれたその箱は塵一つ無いのにも関わらず、何処か古めかしさを醸し出していた。

 

 

「何これ…。プラモデル……?」

 

「ん。そうみたい。しかも色分けされてないヤツ。相当前のもの」

 

 

 真の言葉に頷く雪雫に「知識底無しかよ」と竜司が感嘆の声を漏らす。

 

 

「……お父様、あんな風になる前に、話してくれた事があるの。子どもの頃、どうしても欲しかったプラモデルがあったって。でも、お爺様にねだっても、結局買って貰えなかったらしくて…」

 

「プラモとか、千個くらい買えそうじゃん。春ン家」

 

「ううん。オクムラフーズは三代続いているけど、お爺様の代までは本当に小さな会社で……。おまけにお爺様、かなりの人情経営だったの。知り合いに無担保でお金貸したり……。お父様が子どもの頃は、よく家に借金取りが来てたみたい」

 

「……その反動か。他人を犠牲にしてまで、自らの幸福を追い求める様になったのは」

 

 

 パレスでのオクムラの言葉を蓮は思いだす。『情や仁義などは敗者の言葉』そう言っていた。それは自分達に向けて言ったものではなく、きっとオクムラ自身に言い聞かせるモノだったのかもしれない。

 

 

「おおっ!?」

 

 

 途端、素っ頓狂な声が双葉から上がった。少ししんみりと、良い雰囲気になっていた場を塗り替えるその明るい声は、興奮冷めやらぬと言った様子でスマホと一緒に蓮達へ向けられた。

 

 

「プラモ……ヤバイ…」

 

 

 映し出されているのは国内ではメジャーなオークションサイト。そのサイトの中央、映し出されている商品は雪雫が持つものと寸分違わぬものだ。

 

 

「一、十、百、千…万……って…嘘でしょ?」

 

「ん、プレ値ってやつだね」

 

 

 自分の見間違いでは無いかと真は何度も数字を数え直すがカウントに間違いは無い。この場に居る全員で高級ビュッフェに行ってもお釣りが来るその金額は、高校生の彼らにとっては馴染みの無いもの(内2名は除く)。

 

 

「待て。このオークションのモノよりもこっちの方が保管状態が良い。……となると。フフフ…ハハハハハ………! 牛丼何杯分だ、これは!?」

 

「祐介、もっと良いもの喰おうぜ……」

 

 

 祐介の肩をポンと叩きながら、憐憫を帯びた視線を竜司は送る。

 

 

「……なんか売る方向になってるけど、許さないから」

 

 

 段々とボルテージが上がっていく一同に、異を挙げたのは意外にも雪雫だった。彼女はその箱を潰れない加減でぎゅっと抱きしめて身をよじる。隠し事を謀る子どもの様に。

 

 

「これは春が…いや奥村が持っているべき。良くも悪くも会社が大きくなった切っ掛けなんでしょう? 今回の事を戒める為にも残しておかないと」

 

「雪雫ちゃん……」

 

「いやいや…でも雪雫さん。数十万だぜ? もっと上がる可能性があるんだぜ?」

 

 

 両手を卑しいセールスマンの如くコネコネと動かしながら迫る竜司。何とか良い思いをしようと彼は必死だ。

 

 

「それにさ、春の歓迎会もモナの復帰祝いもまだじゃん? 今回の打ち上げもあるしよ。ここは必要経費としてパーっと………」

 

「却下。お金にモノを言わせてパーティー何て春にとってはありきたり。どうせなら、春が今までしてこなかった事してあげるべき」

 

「例えば?」

 

「文化祭、とか。近いうちに秀尽のあるでしょ。真が言っていた」

 

 

 その単語を聞いた瞬間「良いね、ソレ」と目を輝かせて手を叩く春。社長令嬢という立場の所為でまともな学校生活を送れなかった春にとって、学校行事は憧れそのもの。お金にも代えがたい価値がある。それを分かっている、というか自分も若干その気がある雪雫の…生徒の主張は生徒会長に深く刺さった。

 

 

「……決まりね。珍しく役員っぽい事言うじゃない」

 

 

 自分の目が黒い内は、全学生に等しく有意義な学校生活を送って欲しい。勿論、怪盗団のみんなも同様だ。

 

 

「……パーッとやるのは良いが、暫くはオマエラ大人しくしておけよ? 少なくともオクムラが改心したかハッキリするまでは潜伏、だからな?」

 

「その、お父様の改心はいつ分かるの?」

 

「近い内…ってとこだな。まぁ今は様子見するしかあるまい。オクムラが示唆した実行犯……そいつに目を付けられていてもおかしくはないからな。用心しろよ、オマエラ」

 

「…ん………………」

 

 

 結局は待つしかない。何時まで経ってもこの潜伏期間は慣れる兆しが見えない。自らの…仲間達の破滅を回避する為に行動を起こしたのに、最後にするのは成功を祈る事。

 結局、傀儡に過ぎないのだ私も、君も。世界すらも。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 そして来る10月11日、火曜日。奥村邦和による記者会見当日。

 

 その日を境に世界は一変する。

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