春の訪れを告げる3月、今年も例年通り中央トレセンの中等部入試の結果が張り出された。
早くも会場のあちこちで受かったウマ娘の安堵の声が聞こえる。
受からなかったウマ娘は桜のように散り、皆笑顔で帰ってゆく。
この小説の主人公の私は、中央トレセンに受からなかった。
ただそれを聞けば倍率が高いのによくやったよと言われるかもしれないが、中央トレセンに受かることそれが目標であったのに受からなかった。私は受かったウマ娘より一歩劣ったことを知ってしまった。
生きてきた中で一番悔しいと思えた。
入試のレースで覚えているのは、栗毛のウマ娘が私より先にゴールをした。地元では一人しかいないウマ娘として誰にも負けない自信が私にはあった。それでもあの栗毛のウマ娘はゲートが開いてからずっと私に影を踏ませることなく逃げていたこと。
トレーニングしたところで何回やっても異次元のスピードからは勝てないとわかってしまったのだ。
だから私は走るのを辞めた。走ることだけがウマ娘の存在意義ではないと見せつけるために。
(毎日トレーニングサボらなければ……、嫌いなピーマンも残さず食べていれば、勝てていたかもしれないというのに……)
後悔後先立たずとはまさにこのことである。
中央トレセンに受かることなく1ヶ月が過ぎた。
近くの公立中学校に入学した。
何もせずとも時は進んでゆく、学校の授業は私一人いなくても進むように。
誰とも会話をすることなくまた貴重な1日が終わる。
「はぁ……。中央トレセンに受かってたらなぁ」
ため息と共に愚痴が出てしまう。あの栗毛のウマ娘に勝つことができていればとありもしない妄想を繰り広げながら、また貴重な1日を終えてしまう。
2ヶ月が過ぎた。
私は一つのG1レースに夢中になっていた。天皇賞春3200メートルの大舞台だ。
自分が走ることをやめても一流のウマ娘の走りをフォームをゴール板を先に駆けるウマ娘の姿を見るためテレビから見ることにした。
出走するウマ娘がパドックに集まってきた。どのウマ娘も非常にいい足をして……よく見れば履いてるシューズみんな履き潰されててボロボロじゃない!?
ウマ娘が使うシューズはよく摩耗するから定期的なメンテナンスが必要なはずなのに・・・?と私が思っている間に、テレビの前に映るウマ娘たちは履き潰したシューズを誇るようにパドックを周回した。
あの後の天皇賞のことは、履き潰されたシューズのことでレースの内容もゴール板を駆け抜けていったウマ娘のことも忘れていってしまった。