一人ぼっちの文学少女が孤独を埋めてくれる相手を見つけた話   作:ジョク・カノサ

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 翌週の木曜日の放課後、彼は約束通りに部室を訪ねてきた。

 

「お邪魔します……っと」

 

「……それ、何の荷物?」

 

「森田さんの著作ですよ! オススメって言っても僕にとっては全部面白いので……」

 

「全部持ってきた、という事」

 

「はい。この人の本はマイナーなのか図書室に無いんですよね」

 

 重そうに持ち込んだ鞄の中から幾つもの文庫本を取り出して彼は笑った。私はその中からタイトルとあらすじ、そして彼の大まかな作品紹介を聞いた後に一つを選び取った。

 

 早速それを読み始めた私に対して、当然手隙になった彼もまた本を選び取りページを捲る。

 

 そこからの時間、いつもと変わった点といえば自分以外の小さな息遣いと紙の音だけ。互いが互いの世界に没頭し、言葉でのやり取りは僅かしかない。

 

 なのに、不思議と感じる満たされるような感覚。そして静かで奇妙な時間はあっという間に終わって、夕暮れが目立ち始めた頃に感想は後日と多少の会話を交わした後に私達は解散した。

 

 また次の週の木曜日、彼は私が他に気になっていた数冊を持って部室を訪れた。

 

「暮れと比べるとこっちは……何というか、棘が無くなったように感じたわ」

 

「あれはこの人が初めて出した本なんですよ。だから荒削りというか、この人っぽさが濃いんだと思います」

 

「多少は一般向けを意識したという事ね。それでもまだまだクセがあるとは思うけど」

 

「そのクセが好きなんですよね、僕。だから暮れが一番好みなんだと思います」

 

 語り合いの中で見えてくる彼の性格と趣味趣向。そして私自身も知られていく。

 

 彼は他人を積極的に知り、そして相手を気遣う事を苦にしない優しさを持ちながらもどこか物事をドライに見ている。それに対して私は人との繋がりを厭い、同時に人と人との結び付きを神聖視している節がある。

 

 物語の見方を語り合う。その中では相手以上に自分が見えて、それが受け入れられている現状に安心する。

 

「あ、そうだ。今度は蓮見先輩のオススメを紹介してくださいよ」

 

「特定の作者以外の作品は読まないんじゃなかったの?」

 

「先輩の好みが気になったので。食わず嫌いもダメかなあと」

 

「……分かった、何冊か見繕ってくる」

 

 会話といってもその時間は無言の時間と比べて圧倒的に少なく、本の内容が伴わない話は基本的にしない。

 顔を合わせるのは一週間で一日だけ、放課後の部室でだけ。連絡先も交換しない。廊下ですれ違っても軽く会釈を返すだけ。

 

 あるのかも分からない繋がりが、心地好かった。

 

「……む、難しっ」

 

「そう? そこまで難解な表現は使われてないと思うけど」

 

「なんかこう、一文一文が重いというか。……あと、あの」

 

「?」

 

「アレな表現が結構あるというか。いきなり主人公が縛られてるところから始まって、その」

 

「……別にそれくらいは普通でしょう。それくらい、官能小説の比じゃないし」

 

「え……そ、そういうの読んだことあるんですか?」

 

 そんな時間が二ヵ月程続いて。

 

「……」

 

 彼は、ある日を境に来なくなった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 考えてみれば当然の事だと思う。私に告白をしたあの日以来、彼は欠かさず毎週木曜日の放課後に部室を訪れて、私とのコミュニケーションを行ってきた。

 

 それは言ってしまえば同じことの繰り返し。いくら自分の好きな本について語り合う場に恵まれなかったとしてもそれでは飽きるだろう。

 

 それに彼は読書自体はあまり好きじゃないと言っていた。私との会話に嫌気が差したのかもしれない。

 

 でも、彼は最後に部室に来たあの日もそれまでと変わらず笑っていた。世間から少しズレているのかもしれない私の言葉を受け止めて、私を肯定してくれた。

 

 それに。

 

 貴方は私の事が、好きなんじゃなかったの? 

 

 ねえ。

 

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