「もう、六月か。随分と早いな、季節の流れというのは」
学園襲撃から数週間、季節は梅雨。湿気が目立つ六月へと突入し、頼と鈴の転入時期より一ヵ月の時が流れた
「む…電話か」
治療薬の漢方を煎じていた頼は自分の携帯が鳴った事に気付き、携帯を手に取り、電話の主の名に軽いため息を吐いた後、応答する
「姉上。何の用ですか」
『あらら、昔みたいに
電話の向こうから聞こえてくるのは、悪戯っ子のような口調で、自分を「小頼」と呼ぶ女性の声。この子を彼は知っている、否、知っていた
「要件が無いなら切りますよ。あと実家に大量の漢方薬を送り付けてやりましょうか?」
『わぁぁ!ごめん!ごめん!小頼!姉さんが悪かったわ!貴方が渡日してから、一ヵ月が経ったけど日本はどう?』
「驚かされる事ばかりです。特に小鈴が言っていた織斑一夏という男、ライブメタルではなくISを動かせる男…実に興味深い」
『織斑……ああ!千冬先輩の弟さんね!いやぁ、懐かしいわぁ…小さい頃に何度か見たけど、結構な美形よね。まぁ、私の可愛い可愛い小頼には敵わないけどっ!』
「姉上。国際通話は非常に料金が嵩む訳ですが……切っても構いませんか?」
『えっ!?お姉さんとの通話がそんなに嫌なのっ!?ちょっと待ってなさい!ほら、二人からもお願いして!』
「……二人?」
矢鱈と通話を切りたがる頼に対し、何かの策がある様で姉は誰かに通話に出るように促す。その言葉に「二人」という単語を聞き、携帯片手に頼は首を傾げる
『
『
「………明々に芳々か。如何した?」
姉と入れ替わる様に電話口から聞こえてきたのは、二人の幼い少女の声。其れは中国に暮らす頼の妹たちの声である
『
『
『『だから、電話を切らないで。お願い、
声を揃え、電話を切らない様に懇願する妹たち。姉は知っていた、この二人を出せば、頼が断らない、否、断れないという事を姉は知っていたのだ
『という訳でお姉さんと御話しましょう、我が愛弟』
「妹たちを使うとは卑怯ですよ…姉上…」
『知らないの?日本にはこういう諺があるのよ、出る杭は打たれるって言う諺が!』
「明らかに使う場所を間違えてます。姉上は阿保ですか?否、阿保でしたね」
『勝手に納得された…!!!こほん…其れで鈴音とは上手くやれてる?』
「是、言わずもがなです。我等の仲に亀裂が生じる事等有り得ません」
『是、失言。貴方が楽しい学園生活を遅れているのが分かっただけで充分な収穫よ』
「其れは何よりです。では二度と掛けてこないでください」
『
「鬼ですか?貴女は」
最後に傍迷惑な事を口走る姉に冷ややかな声色で突っ込みを放ち、通話を終了させ、椅子に凭れ掛かり、軽く息を吐く
「ふぅ…」
「ダーリン。今ちょっと良い?」
「小鈴か。どうした?」
保健室の扉が開き、二対のツインテールを揺らしながら、最悪の恋人である鈴が姿を見せる
「今日は食堂に行ってみない?ルームメイトのティナが教えてくれたんだけど、ラーメンが絶品らしいの」
「
「流石は話の分かる人ねっ!ダーリン!そういうとこも
頼の腕に抱き着き、甘える様に擦り寄る姿は正に猫を彷彿とさせ、彼女の慎ましくも小柄な体型と相まって愛くるしい雰囲気を醸し出している
「ねぇ、聞いた?」
「聞いた、聞いた」
「え?なんの話?」
「だからね、織斑くんとフロックハートくん、其れに道くんの話よ」
「実はね--」
鈴を連れ立って歩く頼は食堂で騒がしく話す女子生徒達の会話が耳に入る。一部を聞き逃したが如何やら、自分の名が上がっていた様だ
「ふむ……騒がしいな」
「ダーリンの分も貰ってきてあげるわね。だから、此処で待ってて」
「是、
二対のツインテールを揺らし、食券売り場に駆けていく鈴を見送り、頼は座席に腰を下ろす
「よぉ、頼。お前が食堂に居るなんて珍しいな」
「確かに珍しいな。お前は食堂に来るタイプではないと思っていたのだが」
鈴を待つ間、座席で中国から取り寄せている愛読する新聞を読んでいた頼に一夏と箒が声を掛ける
「否、其れは
「幼き頃って、お前は何時代の生まれだ」
「私も使うぞ?普通に」
「貴様、話せるな。篠ノ之」
「そうだろう、そうだろう」
「えっ?なに?俺だけ除け者ですか?このヤロー」
同じ感性を持つ者同士で盛り上がる頼と箒、一方で完全に蚊帳の外の一夏は不満そうに投げやりな感想を口に出す
「ちょっとアンタ!あたしが居ない間を見計らって、頼とよろしくやってんじゃないわよ!」
盆に乗せたラーメンを持ち、頼と箒が盛り上がる姿を見ていた鈴が毛を逆立てた猫のように、箒に噛みつく
「誤解を招く言い方をするな。私はただ世間話をしていたに過ぎん」
「むっ……ダーリン?本当の事を言って」
「篠ノ之の言った通りだ。オレ様が愛するのは、お前以外に存在せん。この意味理解出来るな?鈴音」
「ふぇ……そ、そうよね……あたしとした事が取り乱したわ、ごめんね?頼…。箒も言い過ぎたわ」
頼に諭された瞬間に、借りて来た猫の様に大人しくなり、素直に謝罪を述べる鈴。昔の彼女を知る一夏は「誰だ、コイツは」的な視線を向けているが其れは関係ない
「ああ、別に構わない。好きな人が他の異性と親しくしていたら、気分が悪くなるのは当然の反応だからな」
「なんだ、箒。好きな人が居たのか?」
「黙れ、馬に蹴られて死んでしまえ。このデリカシーゼロワンサマーめ」
「貴様は繊細という字をノートに千回ほど書き取れ」
「一夏。アンタね、そういう事ばっかり言ってると友達失くすわよ?ぼっちになるわよ」
「えっ!?なに?なんで怒ってるの!?というか辛辣過ぎやしませんっ!?」
「よっしゃあ!決着は喧嘩で付けようぜっ!」
「「どっから湧いた!!!馬鹿猿っ!!!」」
矢継ぎ早に放たれる悪口の嵐に一夏が理解出来ないと言わんばかりに驚いていると、騒ぎを聞き付けたセオドアが乱入し、四人全員から突っ込みを受ける
「セッシー?フロックンを止めないの〜?」
「ええ、あのような馬鹿猿に構うだけの時間が無駄---ほぶっ!?」
「わぁ〜、セッシーが頭から紅茶にダイブしちゃった〜」
「セ……オド〜〜〜ア!!!」
「あん?なんだよ、セシ---あだだだだだっ!ちょっ!顔が痛いっ!セシリアさんっ!顔が千切れるぅぅぅ!!!」
騒ぎに参加せずに傍観者に徹していたセシリアはとばっちりを受け、飲んでいた紅茶に頭からダイブする。紅茶で濡れた体からは雫がしたり落ち、彼女の怒りをより一層に演出している
真っ先に怒りの矛先を向けられたのは従者のセオドアであり彼の顔面にアイアンクローが決まる
「皆様……?淑女の嗜みであるティータイムを邪魔した罪は大きいですわよ、お覚悟はよろしくて?」
「「…………無問題!」」
「問答無用!」
ディナータイムに起きた惨劇、此れを見ていた他の生徒たちは後に語る。あれは学園史に刻まれる伝説的大事件「血のディナータイム」であったと
数日後。頼は保健室である四人と対峙していた
「フランス代表候補生のシャルル・デュノアです。今日は身体検査を受けに来ました」
「ボクはデュノアの家庭教師をしていますシュヴァリエ・ランバージャックと申します。どうか、気軽にヴァリーと呼んでください」
「キミ、美しさとは何か分かるか?其れはこの私!マティアス・シュレンドルフに他ならない!私を愛称のマティと呼ぶ事を特別に許可してあげようじゃないか!歓喜したまえ!」
「口を開くな、鬱陶しい。あとそのナルシストをどうにかしろ。貴様と知り合いと思われたら、ドイツ軍人の恥だ」
身体検査をするに当たり、ヴァリーとマティアスは頼が担当になり、シャルルとラウラは鈴が担当となった。最初は男子である自分を女子の鈴が検査する事に意を唱えたシャルルであったが、本来の性別を知っている事を教えると渋々ながらも彼女の後に続いた
「其れにしても転校生の多い学校だな」
「ホントよね。うちのクラスはあたしとダーリンだけなのに」
「何とも不思議な学園だ」
新たな男性操縦者の登場に学園に波乱が訪れるが、彼は極度の勉強嫌いだった!しかしながら、家庭教師は其れを許さない!如何するの?逃げるんだよぉォォォ!
「文句があるなら、掛かってきやがれ!俺と喧嘩しようぜ!」