「……こちら、ランバージャック。デュノアは無事に対象との接触に成功し、対象との距離を縮めつつあります。進展があれば、また報告致します」
『頼んだぞ、ランバージャック。いざという時は第二段階に移行しろ、手段は問わない』
「
代表候補生を含めた級友が出払った教室内で、携帯を片手に全てに絶望したかのような眼差しで答えを返すヴァリー。その相手は、遠く離れた地で今か今かとシャルルの任務遂行を待ち侘びるデュノア社の幹部達である
現在、経営危機に瀕している企業建て直しの為にシャルルは任務を課せられ、その護衛に家庭教師を務めていたヴァリーが選ばれ、現在に至る
「…………聞き耳とは感心しませんね。
携帯を、パタンと閉じた後にヴァリーは背後に感じた気配に気付き、その主である頼に呼び掛ける
「不是。聞き耳等、人聞きが悪い……聞こえてしまっただけだ。其れとも、オレ様に聞かれて不都合があるのか?」
「いえ、特には。ですが……余り、ボクの邪魔をしないでいただきたい。君と敵対するのは、
「何が狙いかは皆目、見当は付かんが……小鈴に危害を加えるような事があれば………容赦はせんぞ。其処だけは肝に銘じておけ、ランバージャック」
最愛の人を守る気持ちは数あれど、頼はその中でも誰よりも強き想いを抱いていた。その理由は明白的にして至極当然、鳳鈴音という少女は彼にとっての太陽であり生きる意味、帰る場所、待つべき人、その全てが当てはまる最愛にして良き恋人。かつて、自分は弱く、脆く、誰の目にも映らぬ程に小さかった
『あのね、ぼくね…おっきくなったら、おいしゃさんになるの。だからね、そのときはね、ぼくとけっこんしてほしいの……だ、だめ?』
然し、彼女だけは彼を見捨てなかった。おどおどしながらも投げ掛けられた問いに彼女は今と変わらぬ八重歯を見せた笑顔で笑い掛けた
『うん!いいよ!らいなら、ぜったいにすご〜いおいしゃさんになれるよ!あたしがほしょうする!だから、かっこいいおいしゃさんになってね!』
その約束を守り、頼は只管に勉学に励み、医学界の神童と呼ばれるまでの存在に登り詰め、世界各国へと轟く名声を手に入れた。然しながら、彼にとってはその名声すらも微々たる通過点に他ならない。其れは何故か?その理由、
「其れはボクとて同じ。譲れない理由があります。その前に立ちはだかる者が誰であろうと、手を抜くつもりはありません。精々、背後には気を付けてください……M・道……いえ、道頼苑」
「貴様に寝首を掻かれるような、柔な鍛えた方はしていない。オレ様はオレ様の信念の元に戦い抜くだけだ、其れ即ち
白衣を翻し、颯爽と去りゆく小柄な背中。その背を見送る事しか出来ないヴァリーであったが、彼は理解していた。その内に秘めたる感情は異なるが、根は大事な者を思うが故なのだ
「………
「御苦労様。概ねの状況は把握しました、今後も調査を貴方に一任するわ」
IS学園生徒会室。窓の外に広がる景色を眺め、扇子を広げ、“暗躍”の文字を見せつける外はねした水色の髪型特徴的な少女。彼女の名は更識楯無、この学園最強の少女であり生徒会長の役職を持つ剣舞の主人である
「畏まりました、お嬢様……おっと…今は生徒会長でしたね」
「んもぅ!二人の時は名前で呼びなさいって言ってるでしょう?剣舞」
抜群のスタイルを活用し、剣舞の腕に纏わりつき、顎をさわさわと撫でるも、彼はその表情を崩そうとはしない
「御冗談を。私は執事、貴女は主人です。主従の垣根を超えるような真似は出来ません」
「相変わらず、堅いわねぇ……まあ、そこが貴方の魅力ではあるんだけど……。それはそうと、適合者達の方は如何なのかしら?」
揶揄っていたのも束の間、生徒会長の顔で楯無が問いを投げ掛ける。すると剣舞は執事服のような改造が施された制服の数あるポケットから、手帳を取り出す
「先ずはイギリス出身のセオドア・フロックハートですが、彼は素行に問題ありますが身分の高い産まれであるが故にその反面、座学にも秀でた頭脳を持っています」
「流石は名家と名高いフロックハート家の御子息、身に付けた教養は本物という訳ね」
「次に中国出身の道頼苑。彼は全ての教科に於いても常に完璧、並びに独学で学んだ医学の腕で一任されている保健医としての職務も的確であり完璧です」
「其れはそうよ、何せ彼は伝説と呼ばれる医師。其れにあれだけの設備を用意させたのだから、腕を存分に奮ってもらわなくては困るわ。まぁ……あの尊大な態度はいただけないけど……」
「マティアス・シュレンドルフ、シュヴァリエ・ランバージャックについては調査中ですが……何方も、油断のならない者たちです。特にランバージャックの方ですが……不穏な動きがあると、報告を受けています。何かを隠している可能性が高いかと」
「そう、なら先ずはランバージャックくんの調査を優先してもらえる?」
「畏まりました」
命令を受けた剣舞は生徒会室から、一瞬で姿を消す。残された楯無は眼下に広がる校庭を眺め、扇子をゆっくりと閉じる
「学園に振り返る火の粉は振り払う、其れが生徒会長である私の役目。受けて立ちましょう、デュノア社」
「うぅ……課題が終わらないよぉ…」
放課後の食堂、ヴァリーに課せられた大量の課題を前に死んだ魚のような目をしたシャルル。その姿を見た一夏は彼に近づいていく
「大丈夫か?デュノア」
「あぁ!織斑くん!助けて!課題が終わらないんだ!」
一夏に声掛けられた彼は、まるで救世主を見つけたように彼の足にしがみつく
「課題?ああ、ヴァリーが出してたヤツか」
「そうなんだよ!これ見てよ!筆者の気持ちってなに!?意味がわからないよ!」
課題のプリントを指差し、問題を見せるシャルル。フランス語で書かれている為に一夏には読めないが、問題は国語に出てくる物と変わらないようだ
「これはな、段落から抜き出すんだ」
「だん……らく…?なにそれ?日本の食べ物的なヤツ?」
(…………もしかして、この子…すごいバカ?)
頭の上に大量の疑問符を浮かべ、きょとんした表情を見せるシャルル。その姿に一夏は彼の本質を見た気がしたのは言うまでもない
「分かった!私はその人じゃないので、分かりません……!」
「ふざけてるんですか?君は」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」
答えかどうかも疑わしい解答を書かかれた答案を見て、シャルルの前に仁王立ちしていたヴァリーの瞳が、ギロリと動く
「た、たすけて!織斑くん!」
「………さて、頼達と夕飯でも食いに行くか」
「薄情者ぉぉぉ!!」
その日、学園の寮の一室から叫び声と啜り泣きが聞こえ、其れが学園史に残る「真夜中の叫び」という新たな伝説を生んだのは言うまでもない
学園に暗躍する二つの金色、其れは敵か?味方か?そして、隠された秘密とは?
「問題!勝つのはボクか、其れとも君か。正解はこのボクです」