ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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第10話「宝物と遺る物」

美しい夕焼けに照らしだされた街

それを一望できる展望台に、その人物は立っていた

 

『……ふむふむ』

 

怪人物は懐からオペラグラスのようなものを取り出し、目に当てる

 

覗いた先には、様々な人がいた

 

母と手を繋ぎ微笑む少女

仲のいい夫婦

初々しいデートをする学生カップル

飼い主に懐く犬

 

一通りそれらを眺め終わると、怪人物は感嘆に身を振わせる

 

『ーあぁ……美しい……』

 

怪人物はそう呟くと、懐から赤いセロハンのカードを一枚取り出し、街を透かせながら放り投げた

 

『フフフ……ハーッハッハッハッハ!!!』

 

『ワタシが美しいと感じたモノは、最早全てワタシのモノなのだよ』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『ー定期報告は以上だ』

「ありがとうルシル。色々と仕事任せちゃって悪いわね」

 

モニターに映るルシルが微笑む

今の彼女の姿はGBCTの制服に身を包み、一つに束ねて黒いキャップを被っている

 

『いや、構わない。岩神諸島(いわがみしょとう)はエルシアにも私にも住みやすいいい環境でむしろ助かっている。輸送してきた怪獣たちにも住みやすさは変わらないらしいのもありがたい話だ』

 

岩神諸島の事件解決から二週間

目立った事件は起きていなかったがGBCTとしてはとても忙しい日々だった

 

入隊を希望したルシルの在星手続きの諸々に5日ほどかかり、それと並行してリュウにも特例で住民票と隊員証が作られた。肉体年齢的には13歳ほどだったが入隊のために15歳とされ、歩夢(あゆむ)の遠い親戚として登録。晴れて「稲葉 竜」として籍を得ていた

 

この手続きと半ば同時進行でGPSを付けた怪獣の再保護と検疫も行われていた。現状全て完了したサルファルド、タラトスカ、プルメラス他6種8個体の怪獣が岩神諸島に輸送され、新たな生活をはじめていた

島ではルシルとエルシア、数名のGBCT事務員により管理施設の整備や調整が行われ、岩神諸島怪獣保護区の運営はほぼ完成しつつあった

 

『そういえば、アユム隊長。リュウの方はどうなんだ?』

「元気でやってるわよ。元気すぎるくらいに…」

 

はぁ、とため息を吐きながら指令室の隅を見る

 

デスクが与えられているのに当のリュウは床にあぐらを書いて両隣に山積みにされた様々な本を順繰りに読んでいる

 

読み終わった本は無造作に置かれ、リュウの周りはごちゃっと散らかっている

 

「リュウ。読み終わった本散らかすのはやめなって言ったでしょ」

「読み終わったらまとめて片付ける。その方が効率いいじゃん」

「……いつ頃読み終わりそう?」

「んー……半日くらい?」

「すぐ片付けろ」

 

はぁ、と嫌そうな顔でため息をついたリュウが渋々本を隅に寄せるのを見た歩夢のこめかみがひくつく

 

「……ご覧の通り悪ガキしてるわ…知識とかの蓄積早い分反抗期にも速攻でなりやがって…‼︎」

 

はは、とルシルが苦笑いで答える

 

水輝(みずき)の持ち帰ったパソコンの情報から推測するに、リュウは神代(かみしろ)博士が生み出した彼女の改造怪獣の「脳」として利用されるはずだった存在らしく、知識の飲み込みが異様に早かった

検査の結果として普通の人間とほぼ変わりないのは判明しており、それとあの島で生きてきた故の逞しい運動神経以外は普通の子供である

 

カタコトだった言葉使いも流暢になり、読み書きも順当に学んできている

 

が、元来アルマたちとワイルドに生きてきた故か結構喧嘩っ早く、「作戦なんてまだるっこしいことするくらいならオレがこれでやるよ」とテライグナイターを取り出すなど奔放さが目立つので保護者代わりの歩夢や教育係のランダル、大介(だいすけ)の手を焼かせている

 

「…そういえば、今日の掃除係はお前だったよな、リュウ。朝清掃はやったのか?」

「あっ」

 

大介の言葉にしまった、というような顔を見せたリュウ

ゆっくりと手にしていた本を置くが早いか、脱兎の如く逃亡し、指令室から出て行った

 

「コラァッ!!掃除係はきちっとやれとも言っただろうが!!」

 

大介がリュウが逃走した先を追いかけていく

 

その様子をげんなりと見ていた歩夢

モニター越しに見ていたルシルは愉快そうに笑っていた

 

『元からあなたたちといると退屈しなさそうだとは思っていたが、彼が加わってからは余計賑やかになったな』

 

苦笑いとため息を漏らしながらも、歩夢も微笑む

 

「まぁね。こんなことで騒げるほど平和なのは、いいことだし」

 

その平和が翌日、崩れることになるとはこの時は夢にも思わなかった歩夢であった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あ〜おっかねぇ…大介の兄貴もあんなに怒らなくていいのに…」

 

すっかり陽の落ちた中をリュウがトボトボと帰路につく

現在リュウは歩夢のアパートの隣部屋を借りており、御飯時以外は一人で過ごしている

 

と言っても未だに本を読む以外にすることはほとんど無いが

 

「…アユムにも言われてるし、そろそろ使いこなさないとだけど、なんか慣れないんだよな…スマホ?だっけ」

 

一応スマホは歩夢から買い与えられていたが実はほとんど使えていない。ハイテク機器にはまだ慣れないらしい

 

「ん?」

 

ふと前方を見ると道の端に人が集まっているのが見えた

 

「おーじいさん、人にぶつかっといて詫びも無しってのはねえだろ?」

「ぶ、ぶつかったのはそちらだろう⁉︎」

「あーそんなこと言っちゃう?傷ついたわぁ…こりゃなんか慰謝料でも詫びの品でも貰わないとな?」

 

2人の大柄な男が大事そうに肩掛けカバンを抱えたハンチング帽の老紳士に絡んでいた

老紳士は毅然と2人を睨んでいるが男たちは怯まず、そのカバンの肩紐に手をかけた

 

「年金とか持ってるんだろ?どうせ趣味もないんだろうし、俺たちがありがたく使ってやるよ」

「!?やめろ!!これはダメだ!!!」

 

結構な大騒ぎなのに通行人は見て見ぬふりをする人や、あまつさえスマホで録画を始める人までいた

 

「……またアユムとか兄貴に怒鳴られちまうな」

 

はぁ、とため息を吐いてリュウが2人の男の側に行き、老紳士を庇うように前に出る

 

「あ?なんだガキ?」

「今ちょっと大人の話してるんだよ。邪魔しないでくれ坊や」

 

明らかにこちらを舐めた態度の男2人にため息を吐きながら告げる

 

「大人とかよくわかんないけど、じいちゃん困ってるだろ?もうやめろよ」

「あ?ガキが何舐めた口をーぉごッ!?」

 

片方の男がリュウの襟首を掴んだのを確認した瞬間、その男が前につんのめる

 

リュウが思いっきり股間を蹴り上げたのだ

 

「……まぁ、今のは向こうからだし勘弁してほしいよなぁ…」

「てめぇ!!!」

 

もう1人の男の拳がリュウの顔に迫る

リュウは咄嗟に腰に挿したテライグナイターを取ろうとし、手を止める

 

ーガッ!!

 

「ーッ!?」

 

男の拳が頬に直撃、口の中が切れて血の味が広がる

 

「ハッ、大人なめんなガキがー」

 

勝ち誇るように態度を大きくした男の眼前にリュウの顔が現れる

 

大きく跳躍したリュウが男の肩を掴み、頭を振りかぶって盛大なヘッドバットをかます

 

不意の一撃に男はあっさり意識を手放し、糸が切れた人形のように倒れる

 

「ひ、ひぃッ!!」

 

股間を押さえて倒れていた男が気絶した男を引き摺りながら逃げていく

それを見送りながらリュウはぺっ、と口に溜まっていた血を吐き出す

 

「坊や、大丈夫か⁉︎見たところ中学生みたいだが、大したもんだ…」

 

絡まれていた老人がリュウの肩に手をかけ、心配そうに声をかけてくる

 

「あ、ああ、大丈夫。オレ、こう見えて高校生、だから」

 

歩夢から教えられていた言い訳でごまかすリュウ

老人は心配そうな顔を緩めてほ、と息をつく

 

「助かったよ。ありがとな、坊や」

「坊やじゃない。リュウだ」

「リュウくんか。いい名前だな。私は墨田(すみだ)という」

 

老人ー墨田は肩のバックを大事に抱え直しながらリュウに告げる

 

「スミダ…のじいちゃん。そのカバンはなんなんだ?あんなになってるのに、手放そうとしないで…」

「これか?これはだな…」

 

墨田がバックからゴソゴソと思っていたよりも大きな何かを取り出す

 

「…なんだ、それ?」

「カメラだよ。ちょっと年代物だがね」

「カメラ……本物は初めて見た……」

 

珍しそうにカメラを眺めるリュウを見て、老人は不思議そうに笑う

 

「珍しいな、いや…最近の子にはこっちのカメラは珍しいか」

「…オレはその……色々まだ勉強中だから……」

 

 

夕焼けが見える河川敷

墨田老人は眩しそうに夕焼けを眺めながらシャッターを切る

 

「……夕焼け撮って楽しいのか?」

 

側に腰掛けてそれを眺めていたリュウが問う

 

「ああ。いいものだよ。夕焼けは、それ自体は変わらないけど、その中を歩く人々、照らし出される街並みは変わっていく」

 

墨田老人は少し寂しそうに微笑む

 

「私は、変わらぬ夕焼けの中で変わっていく人々や街並みの思い出を、こうして写真に収めるのが好きなんだ。もうかれこれ、30年は撮りためてきた」

 

リュウの隣に腰を下ろした墨田老人はカバンの中から年代物のアルバムを取り出し、リュウに渡す

 

開いたアルバムの中には様々な夕暮れ時の写真が収められていた

夕焼けに染められた商店街

夕焼けを背に帰る子供たち

夕焼けの中を走る運動部らしい少年少女たち

 

「……すごい」

「はは、嬉しい言葉だ」

 

アルバムを閉じ、丁寧に墨田老人へ手渡す

 

「そうだ、リュウくん。記念に一枚撮らないか?」

「オレを?」

「ああ。今日という日の思い出に」

 

墨田老人は夕焼けを背にしたリュウにカメラを向ける

 

「…墨田のじいちゃんも写ろうぜ。それなら」

「私も…?」

「思い出…っての、そういうもんじゃないか?」

 

照れ臭そうに言うリュウの言葉に一瞬呆気にとられた墨田老人だったが、すぐに優しく微笑む

 

「……ああ、そうだな」

 

墨田老人は通りすがりの人に声をかけ、リュウと2人並んだ写真を撮ってもらった

 

「現像に少しかかるから、写真はまた今度渡そう」

「わかった。なら、またこの河川敷で会おうぜ、墨田のじいちゃん」

「ああ、また会おう。リュウくん」

 

墨田老人とリュウが別れる

リュウの背に笑顔で手を振る墨田老人

 

その姿を遠く離れたビルの屋上から見下ろす怪人物が1人いた

 

『…美しい…』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

スターゲイザーベース指令室

 

ピーッピーッ

 

雑務処理をしていた水輝がコンソールから発送されてきたメッセージが書かれた紙に気づき、それを手にして首を傾げる

 

「……なんですかね?これ…」

「?どうしたの水輝?」

「いえ、ファックスからメッセージが来たんですが…なんか変なことが書かれてまして」

 

歩夢に送信されてきたファックス用紙を見せる

 

 

《オモイデヲ イタダク ヒマラ》

 

 

「……悪戯かしら?」

 

眉を顰めて歩夢が首を傾げる

 

「うーん…でも、緊急ダイヤルとかではなくてわざわざファックス使ってくるもんですかね?」

 

どこか釈然としない水輝と謎の予告状のようなモノを見比べて歩夢は更に首を傾げた

 

 

夜闇に染まりつつある街並

それをビルの上から見下ろし、怪人物ー怪盗ヒマラはほくそ笑む

 

『さて、そろそろはじめるとすーんぁっ!?』

 

懐から取り出した赤いシートを構えようとしたヒマラが素っ頓狂な声を上げる

 

側に置いていた不思議な形状の手持ち棚を野良猫2匹が爪とぎに使おうとしていたのだ

 

『コラッ!やめなさい!これは大事なワタシの商売道具なんだ…‼︎離しなさい…‼︎やめろッ、爪を立てるな‼︎ いい子だから…‼︎』

 

キラキラとした装飾が余程気に入ったのか、猫たちは振り払われてもしつこく棚に迫ってくる

 

『こんのぉ……‼︎ ならばッ!!』

 

業を煮やしたヒマラはバッと胸の前で両手をクロスし……

 

『ぬぅんッ!!』

 

やたらカッコいいポーズで懐から一つの缶詰を取り出す

 

《にゃんこまっしぐら》

 

そう、高級ネコ缶である

 

いそいそと蓋を開けてソッと2匹分ネコ缶を置く

さすがにゃんこまっしぐら。警戒心の高い野良猫2匹もすぐさま飛びつき、棚から離れる

 

すぐさま棚を回収し、大事そうに脇に抱えたヒマラは改めて赤いシートを構え直し、夜闇の街へと投げ放つ

 

投げ放たれた赤いシートは空中で無数に分裂し、街を行き交う人々の後頭部に貼り付いていく

 

しばらく貼りついたシートたちはハラりと剥がれ、ヒマラの元へと戻っていく

 

戻ってきたシートたちを手に掴み、眺める

 

そのカードたちにはさまざまな光景が映し出されていた

 

家族と遊園地を楽しむ光景、文化祭のような場所を周るカップルの光景、老夫妻と共にのんびりした1日を過ごす光景……

 

『やはり美しい……思い出は宝石だな』

 

ヒマラは抱えた棚の引き出しを一つ開き、そこにシートを大事そうにしまっていく

 

『……次は、あの老人だな。フフフ…ハーハッハッハッーあ、ちょっと⁉︎ マントを引っ張るな⁉︎』

 

怪しげな高笑いを浮かべていたヒマラだが、ヒラヒラと動くマントに惹かれた野良猫たちに絡まれ、なんだか色々と締まらない感じになっていた

 

 

もうすぐアパートに到着するところだったリュウのGBCTパッドに着信が入っていたのに気づき、四苦八苦しながらリュウが通信に応える

 

「えーっと…もしもし、でよかったよな…?」

『リュウ、まだ家には帰ってない?』

「アユムか。まだだけど……なんか今日買い出しとかあったっけ?」

『そうじゃないんだけど、こっちで妙なものが届いたのと、リュウがいる辺りの近くで変な反応があったから調査をお願いしたくて』

「変なもの…?」

『うん。思い出をいただく、ヒマラとかなんとか』

「……なんだそれ?思い出?」

 

歩夢から聞いた言葉に引っかかるところがあったのか、リュウが思案するように頭を捻る

 

(最近どっかで聞いたような…)

 

と、ふと空を見上げた先でリュウは妙なものを目にした

 

どこからか跳んできた黒い怪人物が電柱の上に着地するのを

 

呆然と見ていたリュウの視線に怪人物も気づく

 

『あっ』

 

リュウの存在に気づき、明らかに狼狽した怪人物は民家の屋根を伝って去っていく

 

『…今のあっ、て何?』

「たった今変なヤツが目の前通り過ぎていった。追いかける」

『は⁉︎ えちょー』

 

GBCTパッドをしまったリュウが屋根に飛び乗り、ヒマラの方を追いかけていく

 

 

黒いマントを翻し着地したヒマラ

彼が立つそこは、ある民家の前

 

優雅さが伺える所作でヒマラはインターホンを鳴らす

 

「はいはい、どちらさまー」

 

民家から現れた老人ー墨田はそこにいた異様な存在を目にし、思わず後ずさる

 

「な、なんだあんた!?」

『ワタシはヒマラ。キミが持つ「宝物」を頂戴しにきたのさ』

 

そう告げたヒマラは懐から赤いシートを取り出し、墨田の頭に翳そうと近寄ってくる

 

「はぁッ!!」

『んぉっ!?』

 

そこに間一髪、リュウが割り込みヒマラを蹴り飛ばす

 

『全く…無粋なモノだなこの星も』

「じいちゃん、大丈夫か⁉︎」

「り、リュウくんか⁉︎あ、ああ、なんとか…」

 

リュウは墨田老人を庇うように立ちはだかり、ヒマラを睨みつける

 

「お前、墨田のじいちゃんに何をする気だ⁉︎」

『なぁに。彼の「思い出」を頂こうとしただけだよ』

「思い出…?」

 

フッフッフと不敵に笑いながらヒマラはマントを翻し、左手を広げる

 

『地球というこの星は、文明こそ遅れているが美しいモノに溢れている。気球、二宮金次郎像、イースター島のモアイ像、そして美しき夕暮れ!!……まぁ、夕暮れの街は盗むのに失敗してしまったがね…』

 

ゴホン、と咳払いをしヒマラはリュウを見据える

 

『今回ワタシが目をつけたのは、キミたちの思い出というワケだ。地球人の思い出は美しい…どれも儚げで、生きる活力に溢れ、何よりも同じモノが一つもない‼︎ こんな「宝石」は、宇宙中を探しても見つからないだろうねぇ…』

 

ヒマラは抱えた棚からひらり、と一枚のシートを取り出し翳して見せる

 

そこには少女の家族と共に過ごす遊園地での楽しいひと時が映し出されていた

 

『はぁ…美しい……』

「ふざけんな!思い出ってのは…その人だけのモノだろうが‼︎」

『また作り直せばいいじゃないか。ワタシが盗むのは美しい思い出だけ。別に、廃人にするワケじゃない。これは侵略ではないのだよ。そもそもワタシ、あんな野蛮なモノに興味はないからね』

「そういう話じゃない!!」

 

ヒマラはリュウの返答を聞き、額に手を当てやれやれと言った仕草を見せる

 

『このやり方なら穏便に済むと思ったが仕方ない』

 

ヒマラは左手を胸の前に翳し、奇妙な構えをとり、赤い光線を額から放つ。リュウが墨田老人を庇いその光線を回避すると、空を切った光線が墨田老人宅の玄関にあった狸の置物に命中し、その姿が消え失せる

 

『むっ!?』

 

再び光線を撃とうとするヒマラにリュウが肉薄、格闘戦に持ち込むがヒマラはリュウの拳や脚を左手一本で棚を抱えたまま受け流す

 

「くそっ⁉︎」

『フフフ、身体能力は高いようだが、まだワタシのような存在とは闘い慣れていないんじゃないかね?』

 

余裕綽々と言った様子でヒマラはリュウの顔面にマントを靡かせながら裏拳を浴びせ、吹き飛ばす

 

「がっ!?」

「り、リュウくん!?」

 

吹き飛ばされたリュウに墨田老人が心配そうに駆け寄る

 

『…そういえば、キミの思い出も随分面白いモノだったね…そこの老人のモノと一緒に頂戴するとしようか…‼︎』

 

歩み寄ってくるヒマラを睨みながらリュウが唇を噛み締める

 

『リュウ!聞こえる⁉︎』

 

その時、リュウのGBCTパッドが鳴り響く

 

「アユム⁉︎」

『詳しい事情は後で報告してもらうわ。今はとりあえずそこから出てまっすぐ行ったT字路を右に曲がって‼︎』

 

歩夢の言葉を聞いたリュウは墨田をおんぶすると、すぐさま言われたとおりに駆け出していく

 

『やれやれ、往生際の悪い少年だ…‼︎』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

歩夢の指示を聞きながらリュウは街を駆けていく

ヒマラもそれを追い、屋根や路地裏から現れては光線を放ってくる

 

何度目かの指示で曲がった先のモノを見てリュウはほぅ、と息を吐く

 

「そういうことか!」

 

 

『そこか!?……んん?』

 

リュウに追いついたヒマラが見たのは袋小路の先にあるゴミ捨て場

明日が回収日だからか、うず高くゴミ袋が重なっている

 

『……怪盗ヒマラも甘く見られたモノだな。美しくないが仕方ない。あとでいらないモノは捨てるとしよう』

 

と、ヒマラは再びあの奇妙な構えと共に光線を放つ

ゴミ捨て場に溜まったゴミ袋が跡形もなく消え失せる

 

『さて、ゴミはさっさと捨てなければ…』

 

ヒマラは小脇に抱えていた棚の引き出しを開け、そこから何かを取り出そうとする

 

そこに、一発の光線が棚を抱える手に命中した

 

『ぅあちッ!?』

 

思わずヒマラが棚を取り落とす

地面に落下する直前、ヒマラの足元を小柄な影が通り過ぎ、棚を掻っ攫っていく

 

『ぬぁっ!?』

 

棚を掠め取った存在の方を向き直り、ヒマラが目を丸くする

そこにいたのは、先程ゴミ袋ごとどこかに転送したはずの少年ーリュウだったのだから

 

『な、なぜここに!?』

「芝居を打たせてもらったのよ。怪盗さん」

 

リュウの隣から現れたのはGBCTマグナムを構えた歩夢

ヒマラの背後から更に大介とランダルもマグナムを構えて現れる

 

「正確に誘導に従ってくれて助かったわ、リュウ」

「あれくらいなら、オレでもできる。けど……」

 

どこか照れ臭そうに頬をかきながらリュウが続ける

 

「……オレ一人だったら逃してた。あり、がとう……」

「……全く、素直じゃないんだから」

 

にひひと笑う歩夢たちを睨みヒマラが怒り心頭に拳を握る

 

『ワタシの宝物を…‼︎ 許さん‼︎』

 

ヒマラが全身からエネルギーを解放。巨大化していく

夜闇に立ち上がり、ビルの明かりに照らされたその体はマントを捨てたスタイリッシュな姿へと変化していた

 

『ハーッハッハッハッハ‼︎ 踏み潰してあげよう、地球人の諸君‼︎』

 

見下ろすヒマラを見上げ、歩夢がイクサファーナスを構える

が、それをリュウが制する

 

「オレにやらせてくれ」

「……できるの?」

 

「ー負けっぱなしは性に合わない」

 

フッと笑うリュウを見て、歩夢はゴーサイン代わりにその背中を景気良く叩く

 

リュウがテライグナイターの銃身部分を回転

それと同時にウルトラマンの姿をしたテラスパークドールズが出現し、リュウが手に取りテライグナイターに読み込む

 

《ウルトライブ‼︎》

《ウルトラマンテラ!!》

 

ーテァッ!!

 

ヒマラの前に青の巨人ーウルトラマンテラが立ち上がる

 

2人の巨人は夜の街を舞台に睨み合いながら構え、互いに攻め時を読み合い始める

 

ヒマラは不敵に微笑み、くいくいっと手招きして挑発する

 

それを皮切りにテラが先制の蹴りをしかけるが、ヒマラはそれを左腕で受け止め、右脚の蹴りで返礼。それをテラも受け止め、一時硬直するがすぐに振り解き、拳と手刀の打ち合いが始まり、右腕をぶつけたまま鍔迫り合いのような睨み合いが続く

 

『少しは、やるようじゃないか…‼︎』

『舐めるな…‼︎』

『舐めちゃいないとも。ワタシは宝物の為ならばいつでも本気だよッ!!』

 

ヒマラがテラの腹に蹴りを打ち込み、テラが後退する

 

その瞬間、ヒマラの姿が眼前から消えていた

 

ー!?

 

テラが辺りを見回す

 

だが、ヒマラの笑い声が響くだけであの巨体は見られない

 

呆然としたテラの背後にヒマラは現れ、パチンッと指を鳴らす

 

咄嗟に振り向くテラにヒマラは蹴りを叩き込む

反撃に拳を振りかぶり放つが、ヒマラには当たることなく、再びその姿が消え失せる

 

「何あれ…⁉︎瞬間移動とか反則じゃん⁉︎」

『とんでもない技、だが……異星種族ならあれくらいやってくるヤツはざらにいる…』

 

隙を見せたテラに背後から組み付いたヒマラがテラの首を締め上げる

 

胸元のT字のカラータイマーが赤く点滅をはじめる

 

『この、野郎ッ!!』

 

振り解き、ヒマラを捕まえようとするが三度ヒマラの姿が消える

 

『クソッ…‼︎こんなのどうすれば…‼︎』

「目に見えるものだけを信じるな、リュウ!!」

 

狼狽するテラに地上から、歩夢の体を借りたイクサが言葉を投げかける

 

『目に見えるものだけって…』

「お前なら、俺たちよりもできるだろ?」

 

イクサの言葉を受け、リュウはテラのインナースペースで目を閉じ、深く深呼吸を始める

 

『何をしようと無駄だ。キミはワタシとの相性は悪い…‼︎』

 

目を閉じ、暗闇となった中でリュウは感覚を極限まで研ぎ澄ます

岩神諸島でアルマと過ごしていた時、夜の中周囲を警戒していた時のあの感覚を思い出していく

 

暗闇の中、背後からヒマラが拳を振りかぶる姿が見える

 

『そこだッ!!』

 

テラはその拳を掴み、カウンターとして右ストレートを放つ

が、その拳は空を切る。瞬間移動したヒマラが現れる先はー

 

『甘いね。もらったァ!!』

 

更に背後。テラの反撃を完璧に予知した攻撃。必殺の拳が迫る

 

ーその必殺の拳は、テラの左手に掴まれ止められていた

 

『んなァッ!?』

『甘いのは、お前の方だったな』

 

拳を捕まえたまま振り返り、テラは右手を振り上げる

 

テラが意趣返しとばかりに右手の指を鳴らす

 

ーテァッ!!

『ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

呆けたヒマラの顎をテラの渾身のアッパーがかち上げる

 

打ち上がったヒマラはくるくると回りながら夜空を横切り…

 

夜空の星の一つになったとさ

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『参った…降参だ。もうこれ以上はこの星からは何も盗らない』

 

人間大に戻ったヒマラは棚の横にあぐらをかいて座り、両手を上げて降参の意思を示す

 

「盗んだもの…思い出はきっちり返してくれるんでしょうね?」

『ああ、もちろん返すとも。ここまで見事に負けてそのまま逃げるのは、ワタシの主義には合わないからね』

 

ヒマラはそばに置いた棚を手に取り、棚を開き切る

 

中に入っていた赤いシートたちは解放され、光球となって街々に散っていった。思い出の持ち主へ帰っていったのだろう

 

『ああ……この光景もまた美しい……』

 

ヒマラはあぐらをかいたまま、空に散っていく「星」を眺め、感嘆の声を漏らす

 

ーカチャリ

 

その隣で、墨田老人がシャッターを下ろしていた

 

「ああ、本当に綺麗だ……」

『……この美しさがわかるものがいるとは、それだけでも宝物だな』

 

棚を抱えたヒマラが墨田老人の隣に立つ

墨田老人はヒマラの方を見遣ると、カメラからフィルムを取り出し、新しいものに取り替えた後、ヒマラに差し出した

 

『…これは?』

「思い出を盗るくらいなら、これで撮ったらどうですか?このカメラ、あなたに差し上げます」

「じいちゃん!?」

 

思いもよらぬ言葉にリュウが驚く

 

「いいのかよ…そのカメラで、夕焼けを撮るのがじいちゃんの好きなことだったのに…」

 

悲しげなリュウの顔を見て墨田老人は優しい笑みを浮かべて微笑む

 

「いいんだ。このカメラ以外にもカメラは沢山ある。それに、私はもう長くなく身よりもない。死んだ後に受け取ってくれる人がいなくなるくらいなら、もっとコイツにいろんな景色を見せてやりたい…」

 

墨田老人は驚くヒマラにも笑いかける

 

「あなたのような、美しいものを求める人にはきっと、良き相棒になってくれるはずですよ。どうか、こいつにもっと沢山のものを、見せてやってください」

 

墨田老人から、年代物のカメラを丁寧に受け取る

 

『……ふむ。確かにいい相棒だな。ワタシのように、美しいものを撮る天才とは、また面白い旅ができそうだ』

 

ヒマラはカメラを優しく撫でると、墨田老人たちから離れた場所に立ち止まり、指を鳴らす

 

その背後に給水タンクにも似た嫌に可愛らしい造形の宇宙船が着陸する

 

『では、ご機嫌よう地球の諸君。もう迷惑はかけないと思うから、大目に見てくれたまえ』

 

と、ヒマラは宇宙船に乗り込むと扉を閉めてそのまま宇宙へと飛び立っていった

 

 

「リュウくん」

「?なんだよ、墨田のじいちゃん」

「今日は久しぶりに、楽しくてドキドキしたいい一日だったよ。ありがとう」

 

リュウは墨田からのお礼を受け取り、照れ臭そうに頬をかいた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

後日、少しだけ真面目に訓練や雑務に励むようになったリュウ

 

そのデスク脇には、墨田老人と撮った夕焼けの一枚と、GBCTのメンバーみんなで並んで撮った「新しい思い出」が貼られたコルクボードが下げられていた




突如五道市全域に大雨が降り始める
それとほぼ同時期に怪獣たちが凶暴化し始める

原因の調査に急ぐGBCTたち
それを無視し、特殊自衛隊は強硬策を進め始める

そんな中、特殊自衛隊の支部に現れたのは
怒り猛る大地の牙だった

次回ウルトラマンイクサ
「天変と怒る大地」

「自分たちの愚かさを思い知りなさい…‼︎」
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