ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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第11話「天変と大地の怒り」

降りしきる大雨の中、大型の機体が泥を巻き上げながら疾走していく

 

ーゴァァァァァァァァ!!!

 

青い体表にゴツゴツとした鱗の生えた筋肉質な怪獣が機体ーGBCTセンチネルのタックルを受け止めるも、そのまま後方へと押し込まれていく

 

大介(だいすけ)!今のうちに!!」

『了解!』

 

センチネルが怪獣ーバデータを押さえ込む間に進行方向の先で土砂崩れが起きた地点でGBCTヘラクレスが救助活動を行う

 

大きな土砂をバケットアームで押し退け、埋まっていた車両を慎重に持ち上げ、開けた道路に置く

 

車両の中にいた人々を地上のリュウが手際良く救助し、滞空したGBCTキャリアーから下ろされたロープへ固定し、避難させていく

 

ーゴァァァァァァ!!!

「ぬぉっ!?」

 

センチネルが押さえていたバデータは鋭い爪でセンチネルの左アームを粉砕し、その拘束を解く

 

ーゴァァァァァァ!!!

 

残った右アームに持つランチャーから麻酔弾を放とうとする歩夢(あゆむ)をランダルが止める

 

『待て!バデータに薬物はほぼ効果がない!麻酔を打ち込んでも意味がないぞ』

「ッ、そうだけど…‼︎」

 

ーゴァァァァァァァァ!!!

 

逡巡する歩夢を待つことなく、バデータはセンチネルに迫る

 

ーバシュッ!!!

 

瞬間、どこかの地上からバデータの首に一発の砲弾が着弾する

突き刺さった砲弾はしばし点滅すると赤い光を放ち、大きな音を上げて爆発した

 

バデータの首周りの肉が大きく抉り取られ、血飛沫が飛び散る

 

ーゴァァ……ァァ……

 

よろめき、バデータが倒れ伏す

その目から生気が失われるまで、そう時間はかからなかった

 

「………総員、要救助者を救助次第、撤収」

 

センチネルのコクピットから指示を出した歩夢は脱力し、コクピットの側面ガラスを思いっきり殴りつけた

 

ぎりり…と千切れんばかりに歩夢は歯を噛み締めていた

 

 

望遠鏡からバデータの死亡を確認した黒いカッパを纏う人物は手にしていたバズーカ砲を下ろす

 

「ダビデ003、効果大。大型のタイプR怪獣の中でも頑強なバデータの表皮も破壊したことを確認。納品に問題なし」

 

防水加工済の黒いタブレットのチェック事項を埋めた人物はバズーカを回収し、側に置いてあったジュラルミンケースも回収

傍に止めてあったジープに乗り込む

 

カッパのフードを取った下からは真っ白な肩口をくすぐる程度の髪と赤い瞳が現れた

 

女性はそのままジープを発進させ、どこかに姿を消した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「先程撃破した怪獣、識別名バデータを加えて出現した怪獣はこの3日で既に7体。うち殲滅したのは5体、保護したのは2体。全く……なんなんだこの状況は!!」

 

報告書の束を机に叩きつけながら湯田(ゆだ)が舌打ち混じりに悪態をつき、メガネを直しながら頬杖をつく

 

「私たちに言われても、調査が全く間に合ってないわ。この大雨で各地に土砂災害やら浸水やらの被害が出て、あんたらと私たち共同で救助やらで手一杯過ぎてね」

 

歩夢の嫌味の籠った返答に湯田が更に眉間に皺を寄せ、苛立たしげに舌打ちを漏らす

 

「肝心な時に使えんヤツらだ。貴様らの生温い作戦のせいで数件被害が広がっているということを忘れるな…‼︎」

「………」

 

湯田の言葉に歩夢の目が泳ぎ、思わず口をつぐむ

 

 

5日前より五道市全域では大雨が続いていた

 

突如降り始めた雨、当初はそのうち止むだろうと軽視されていたが1日2日と経過するうちに人々は異常に気づきはじめ、3日も経つ頃には五道市に不安が満ちていた

 

その大雨に招かれるかのように、五道市各地で怪獣たちが多数出現していたのだ

 

ネルドラント、ゴルメデ、サルファルド、タラトスカ、デスドラゴ、ゴメノス、そしてバデータ

 

計7体もの怪獣が出現

かつての対処の情報があったサルファルドやタラトスカは迅速な保護に成功したが、他の怪獣たちは保護に手間取り、人的被害懸念により特殊自衛隊により殲滅が選択されてしまった

 

 

「湯田くん、ここで言い争う時間も惜しい。必要ない発言は慎むように」

 

底冷えのするような黒斗(くろと)の言葉に湯田は口を閉じ、襟を直しながら姿勢を正す

 

「原因の究明は急務ですが、ひとまず今は怪獣たちへの対処と大雨災害の支援が優先です。あなた方には多くを任せて申し訳ありませんが、怪獣の情報により長けた見方ができる以上、異変の原因究明もなるべく早くお願いします。歩夢隊長」

 

「……言われずとも。最初からそのつもりよ」

 

 

特殊自衛隊地上基地内に設けられた臨時指令室に帰ってきた歩夢を見て待機していた隊員たちが立ち上がる

 

『…どうだった?』

「……大方の予想通りよ。向こうは殲滅重視の考えを曲げるつもりはないらしいわ。大雨災害の支援と救難も優先しながら、ね」

「なんで、なんでだよ!!」

 

リュウがデスクを殴りつける

 

「大雨で追いやられてる怪獣たちだっている……怪獣も人間も困ってるのに、なんで怪獣は殺されても仕方ないんだ…‼︎」

 

「仕方なくなんか…ない!」

 

怒りを滲ませるリュウの言葉に水輝(みずき)が口を開く

 

「……私たちは、怪獣は死んでもいい命だなんて思わない。怪獣も、異星人も生きる命である以上、全力で向き合って助けられる命は見捨てたくなんか、ないです…」

 

「……だが、怪獣は俺たちよりも大きく強靭だ。怪獣をそう思うより前に、『脅威』としか見れない人間の方が多いことも、事実なんだ……」

 

無力感を滲ませながら大介が絞り出すように呟く

 

その言葉に歩夢も拳を握りしめながら俯く

 

「……だからこそ、私たちから理解して、変えていく」

 

歩夢は自分の頬を両手で思いっきり叩く

 

「ッッ…‼︎ だからこそ、私たちも動くわよ‼︎ ランダルと水輝は保護した怪獣や出現地域の再分析を!私と大介とリュウは五道市内のパトロールに行くわよ!要救助者を見つけるためにも、特殊自衛隊が目を付ける前に怪獣保護に移れるようにも!」

 

歩夢の指令を聞いた隊員たちが頷き、姿勢を正す

 

『了解ッ!!』

 

「誰かもう一人忘れてないか、隊長?」

 

と、もう一人分聞こえてきた声に振り返る

 

「ルシル!?」

 

そこにいたのは岩神諸島で怪獣たちの様子を見ていたはずのルシルだった

 

「ガイアルドから胸騒ぎのようなものを感じたんだ。だから向こうのスタッフとガイアルドに怪獣たちのことを任せてこちらに戻らせてもらった。勝手な判断をしてすまない」

 

ルシルがキャップを外しながら歩夢に頭を下げる

 

「…ううん、助かる。今は一人でも多くの人が欲しいもの」

「ならよかった。怪獣の方の調査は私に任せてくれないか?この星の怪獣だと勝手は違うだろうが、いくらか怪獣の体には知識があるから力にはなれるはずだ」

「じゃあランダルと水輝と一緒にお願い!」

「了解した」

 

ルシルが敬礼すると同時に各自がそれぞれの持ち場に向けて準備を始める。が、その中で歩夢がハッと何かに気づく

 

「ああっ!?私のセンチネル片腕壊れたまんまじゃん!?」

『頭の今まで忘れていたのか…』

 

「俺のヘラクレスに同乗…だとリュウが乗るスペースが無くなるな…」

「オレは兄貴の膝にでも乗るよ」

「いや流石に気が散る……」

「じゃあアユムの膝にー」

「いやなんかそれはもっとダメな気する!?」

 

リュウが歩夢の言葉に首を傾げていると臨時指令室の扉が開く

 

「GBCTセンチネルならもう直しとるぞ。スペアパーツがあったから助かった」

 

黒いスーツを着た青年が歩夢に手を振りながら指令室に入ってくる

 

駿河(するが)⁉︎こっち来てたの⁉︎」

「久しぶりじゃなぁ、歩夢。ちと用事があってな」

 

と、呆けている他のメンバーを見てからニッと笑って駿河と呼ばれた男は親しげに歩夢と肩を組んでピースして見せる

 

「ああ、初めましての人は初めまして〜ワシは永嶺(ながみね) 駿河(するが)。コイツの幼馴染で腐れ縁じゃ。よろしくな」

 

「隊長の幼馴染⁉︎」

「幼馴染……たしか、小さい頃から一緒の友達…でよかったか?」

「おー坊主が報告にあった怪獣に育てられたって子供か。そう、そういう感じじゃの。よろしくな」

 

興味深そうにリュウを眺めてニマッと笑いながらその頭をぐしぐしと撫でる

 

「で、用事っていうとヴィクターの関係?」

「まぁ、そうじゃな。ワシは直接用事があるわけじゃないんじゃが、同僚の付き添いでな。久々に歩夢の顔も見ときたかったしのぉ」

「ヴィクター……たしかGBCTと特殊自衛隊の支援組織…でしたっけ?」

「そうじゃ、ワシはそこのB班室長をやっとってのぉ。今日はワシのいるB班じゃなくてA班の連中が特殊自衛隊とちと打ち合わせやら新作の受け渡しを行っとる。ワシはほんとただの付き添い」

 

 

異常生体研究機関 ヴィクター

 

GBCTや特殊自衛隊の支援組織であり、撃破された怪獣や異星人の解析やそのデータを応用した新兵器や新装備の開発を行なっている組織である

 

研究理念に合わせて部署が分かれており、A班は巨大生物の効率的な殲滅を、B班はより巨大生物を理解することを理念としている

 

 

「まぁともかく、センチネルの方は修理ついでに終わらせとるから安心して使いな歩夢。ワシはまぁ、まだここおるし暇ならなんか手伝うわ」

「はいはい。まぁ、私もせいぜいこき使わせてもらうかもね」

「おお怖。昔っから人使いあらいのぉまったく」

 

へらへら笑いながら手を振る駿河ににやりと笑いかけながら歩夢たちが出撃に向かう

 

「……まぁそんな感じじゃし、ランダルの旦那、なんかやることあるか?」

『山ほどあるな』

 

それを聞いた駿河はネクタイを緩める

 

「ーそんじゃ、腐れ縁の幼馴染分は働いてやろうかのぉ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

特殊自衛隊地上基地の一室

 

スーツに身を包んだ白髪赤目の女性が執務机に黒斗の前にアタッシュケースを置き、開く

 

そこには特殊な形をした銀色の弾頭が5つ保管されていた

 

「運用試験済、結果は良好。取り急ぎ5発は量産済です」

「確かに預かりました。状況が状況ですから間に合って何よりです」

 

アタッシュケースの内容を確認し、蓋を閉じてデスクの下に置く

それを確認した女性は懐から鎖に繋がれた銀の懐中時計を取り出して蓋を開け、時計を見ると黒斗に抑揚のない声で告げる

 

「これで渡すべきものは渡し終えました。私はこれで」

「ああ、ご苦労様でした。A班室長ガウル・エオ」

 

女性ーヴィクターA班室長ガウル・エオは機械的に一礼し、部屋を後にする

 

 

休憩室に戻ってきたガウルの前、壁から黒い闇が噴き出し、その中から一人の人物が現れる

 

「ワタシが頼んでいたものも用意できていますか?」

 

黒い儀礼服の人物ー霧慧神獣教(きりえしんじゅうきょう)・教主の火煙(ひえん)はガウルに問いかける

ガウルは無感情にアタッシュケースを一つ手渡す

 

火煙が開いたそこには数十の怪獣の生体サンプルが保管されていた

 

「もう一つはそちらの本拠に既に運搬している。動作確認済だ」

「仕事が早くて助かります。これで我らが神の浄化がまた一つ、形を為すことができる」

 

ガウルはそれに心底興味無さそうにどこへともなく視線を向ける

 

「礼などいらない。ただ契約に従っているだけのこと」

 

ガウルの姿に一瞬ノイズが走り、赤い目が光る黒い異形の姿が重なる

 

「私が貴様らの望みを助け、代わりに貴様らが私の願いの成就のための裏工作をする。我々の関係はそれ以上でも、それ以下でもないはずだ」

「ええ、承知していますとも。貴女は我が神が呼び寄せた使徒の一人なのですから」

 

怪しげな笑みを浮かべた火煙をガウルは心底嫌そうに睨みつけた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

大雨が降りしきる中、玲武(れいぶ) 苑樹(えんじゅ)は雨に濡れる体を気にも留めずに遠くに見える特殊自衛隊第三保管庫を見据えながら銅鏡を覗いていた

 

銅鏡の鏡面には脈動する青い光が第三保管庫の方から伸びているのが見えていた

 

苑樹は鏡面をなぞり、ティグリスと繋げ、その手に札を取り出した

 

 

特殊自衛隊第三保管庫内にけたたましいサイレンが鳴り響く

 

「状況の報告を!!」

 

上官らしき人物が部下に命ずる

 

「本基地南西3000m先に怪獣出現!!モニターに映します!!」

 

コンソールの操作と共にモニターに映し出されたのは琥珀色の瞳を怒りに輝かせる虎に似た怪獣ーティグリスの姿だった

 

ーグァァァァァァウゥゥゥ!!

 

怒りの咆哮と共にティグリスは保管庫に向けて真っ直ぐ突撃してきていた。道中の建造物や基地施設が吹き飛ばされて爆風が上がる

 

「ヤツは確か…何度か報告のある地底怪獣!?識別名は確かティグリスだったな…⁉︎」

「識別名ティグリス、第5防衛ラインに到達!」

 

接近してくるティグリスに対して基地の自動防衛設備の砲撃が放たれるが、頑強なティグリスの表皮にはさして効果が出ておらず、道端の石ころを蹴り飛ばすかのごとく防衛設備が破壊されていく

 

「だ、第5防衛ライン突破されました!!」

「守備隊を出撃させろ!GBCTの連中にも連絡を!!なんとしてもこの保管庫に到達させるな!!」

 

上官がギリリ、と歯を軋ませモニターごしのティグリスを睨む

 

「この保管庫には、資材Aと新開発された兵器があるのだ……破壊も、それの暴発による被害の拡大も防がねばならんのだ!!」

 

 

泥を跳ね上げ、現場に急行していくGBCTセンチネル

雨に濡れ、視界の悪くなったフロントガラスからなんとか怪獣を視認した歩夢が唾を飲む

 

『あの怪獣…確かあの巫女と一緒にいた怪獣!?』

「苑樹さんと…⁉︎そういえば前にもたしかに…」

 

以前ガンQと戦った時にティグリスがまるでこちらを援護するようにガンQの分身に攻撃を加えていたことを思い出す

 

「なんで…なんであなたがこんなこと⁉︎」

 

センチネルは進撃を止めないティグリスの前に割り込み、その頭部のツノを掴み、押しとどめる

 

「止まって!!ここから先に進み続けたら、あなたは討伐対象になってしまう!!」

 

ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

必死に呼びかけながらティグリスの巨体を押し込んでいく

だが、ティグリスは怒りの咆哮と共にセンチネルごと進撃を続けていく

 

ジリジリと前進するティグリスの前足が、第4防衛ラインを越えてしまった

 

更に第3防衛ライン前のミサイル砲台が展開され、ティグリスの体に雨霰と降り注ぎ、爆発を起こす

 

ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

苦悶の咆哮を上げるティグリスだが、その体にほとんど傷はなく、進撃を止めることはない

 

「イクサ……」

 

一度後退したセンチネルを自動操縦モードにし、歩夢がイクサファーナスを構える

 

 

『……どうするつもりだ』

「ティグリスも苑樹さんも止めて、特殊自衛隊たちにも攻撃させないようにする…‼︎」

『攻撃してきたのは苑樹とティグリスからなんだぞ……オレたちの説得を聞かなかったらどうする!?』

 

 

「説得してみせるッ!!」

 

 

歩夢の思わぬ叫びにイクサが言葉を失う

 

「……苑樹さんは不可能だって言った。許す道理がないこともわかる。特殊自衛隊が、多くの怪獣の命を奪ったことだって許されることじゃない…」

 

「でも!!憎み合うことも正しいとは思わないッ!!!」

 

歩夢の言葉にイクサは返す言葉を見つけられなかった

 

(……なんで、なんでそんなにお前はまっすぐなんだよ…)

 

(お前の命がかかってるわけじゃない、怪獣なんて倒しちまう方が簡単で、誰も傷つかないはずなのに……)

 

(なんでお前は、そんな棘の道を進んで、なんで、お前は戦えるんだ…⁉︎)

 

(ーなんで、そんな甘い考えが、誰かを守る力になるんだよ…ッ!!)

 

 

歩夢がイクサファーナスにカードをスロットする

 

《アユム:イクサイテッド》

 

眩い光の中で歩夢の前にウルトラマンイクサが現れる

 

『……どうなっても、知らねぇからなッ!!!』

 

歩夢の拳とイクサの拳が打ち合わされる

 

《リンケージ:ウルトラマンイクサ》

 

 

ーサァァッ!!!

 

降りしきる雨の中、ティグリスの前に現れたイクサがその体を掴み持ち上げ、その進撃を食い止める

 

ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

怒りのままに振るわれる爪がイクサの肌を切り裂く

その痛みに耐えながら、イクサがティグリスの胴に蹴りを打ち込み、その体を大きく後退させる

 

ーサァァッ…‼︎

 

ーグァァァァウゥゥゥ……‼︎

 

ティグリスの怒りに満ちた琥珀色の瞳の中に苑樹の姿が浮かび上がる

 

【やはり、あなた方が立ちはだかりますか】

 

ギリ、と唇を噛み締め、苑樹がウルトラマンイクサを、稲葉 歩夢を睨む

 

【退きなさい…今までの愚行は、まだ直接手を下すまでではないと我々は不干渉を貫いていました……】

 

 

【ですが、此度はもう我慢なりません‼︎ それだけの愚行を、そこにいる人間たちは大地に働いた‼︎ 大地の巫女として、龍脈に生きる彼らの代弁者にして使役者として、わたくしが直接裁きを下さねばならないのです!!】

 

 

ーグァァァァウゥゥゥ!!!

 

苑樹の怒りに呼応してか、ティグリスの体が赤く輝き発熱する

高熱を放つ体に滴る雨が瞬間的に蒸発していく

 

怒気と熱気を纏うティグリスはイクサに飛びつき、その左肩に噛み付き、深々と牙を突き立てた

 

ーサァァッ…‼︎

 

そのままティグリスに押し倒されたイクサだが、なんとかそのツノを掴み、ティグリスを押し戻す

 

「話を聞いて!あなたの怒る理由は何!?」

【聞いてどうするのです⁉︎ そんな理由で怒るなと説教でもするつもりですか⁉︎】

「違う!!あなたたちのことを教えて欲しいの!!」

 

イクサが上体を持ち上げ、ティグリスの赤熱化した牙を掴み持ち上げていく

 

「私たちはあなたたちのことを知らなすぎる。だから知らなくちゃいけない!私たちがあなたたちと手を取り合うためにも、私たちがあなたたちをどれだけ虐げていたのかを!」

 

ーサァァッ!!

 

渾身の力を以てイクサはティグリスを投げ飛ばす

 

近づいていた第3防衛ラインから大きく引き離されながらもティグリスは地面を転がり、再び体を持ち上げる

 

【知らなすぎる…えぇ、そうです。あなたたち人間は、何も知らない。ティグリスが、イツシが、岩の神ガイアルドが、他にも多くの怪獣がこの星の龍脈と共に生き、龍脈を管理してあらゆる命の礎になっていることを、多くの命を支えていることも】

 

ティグリスの瞳が琥珀色から山吹色に変化し、怒りの炎が滲み出る

 

【ですが、理解したところで変わらない!あなたたちが理解し、歩み寄ったところで大部分の人間は龍脈への干渉を止めない!むしろ…むしろ龍脈を知った人間は、そのエネルギーを奪い破壊力とする最悪の兵器をそこに生み出しているのだから!!!】

 

「……最悪の、兵器…?」

 

苑樹の言葉に歩夢はイクサごと振り向き、第三保管庫を見据えた

 

更に激しく大雨が降る中、雷鳴が鳴り響き始めていた

 

 

金本(かねもと)支部長!!何を悠長なことをしている⁉︎」

 

第三保管庫指令部に姿を現したのは湯田だった

苛立たしげに袖口をいじりながら上官ー金本支部長を怒鳴り上げる

 

「し、しかし、こちら側としても防衛設備をフルに活用してヤツの進軍を防いでいまして。それに今は、識別名ウルトラマンイクサが我々と怪獣の間にいる以上、強力な兵器を使用したらウルトラマンまでー」

 

金本の報告を聞き、湯田は更に苛立たしげに舌打ちを漏らす

 

「構わん。テラジュームアンタレス発射用意!!」

「な、正気ですか湯田副司令!?」

「正気も正気だ!ここを万一にでも破壊されれば、後方の市街地にも大きな被害が出る可能性がある。そうなれば我々の責任問題となり、最悪規模縮小、怪獣どもを殲滅する力を大きく失うことになる」

 

鼻と鼻があたりかねない距離まで金本まで詰め寄り、湯田が冷たい金属色の瞳で睨みつける

 

「ここでテラジュームアンタレスを使えば、失うのは『得体の知れない宇宙人一人』とほぼ半壊した防衛設備だけだ。後者はどうせ一度撤去する必要があるなら、ここで諸共吹き飛ばしてしまえばその手間も省けるだろう?」

 

湯田の浮かべる笑みに恐怖のようなものすら感じつつ、金本は後ずさり、コンソールに体をぶつける

 

「金本支部長!?」

「………テラジュームアンタレス、起動シークエンスに入れ‼︎」

 

絞り出すように告げた金本の言葉を聞き、部下たちが動き出す

 

それを見た湯田は笑みを浮かべ金本の肩を叩く

 

「ー良い判断だ。キミは優秀な司令官になれるぞ」

 

湯田は振り返り、待機させていた機動隊たちに指示を下す

 

「白兵部隊はダビデ003を装備して地上に待機!万が一にテラジュームアンタレスで撃破不可能だった場合、ダビデ003の多重攻撃により仕留める!!」

『了解!!!』

 

散開していく隊員たちを見送り、湯田はモニターに映るティグリスとウルトラマンイクサを憎々しげに睨みつけた

 

「得体の知れん怪獣に宇宙人め……我々人類の叡智に跪かせてやる」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

霧慧神獣教本拠地下

 

ーゴァァァァ…

ーギャオオオオオオオオン…

ーキシャォォォウゥゥゥ……

 

大空洞の中、何体もの怪獣たちが触手に飲み込まれ姿を消していく

 

それを空洞内の高台から見据える火煙の背後から一人の人物が現れる

 

「翡翠の母神、だったか?そちらの調子はどうだ?」

 

現れた人物の問いに火煙は微笑みを浮かべながら答える

 

「ええ、全ては我らが神の導き通り」

「だが、ここも恐らく直に嗅ぎつけられるぞ。そのオモチャも使えば」

 

人物が指したのは大空洞の各所に設置された砲台のような装置

装置から地面に突き刺さったパイプからは青白いエネルギーが装置に向けて流動していた

 

「必要なら、力を貸そうか?」

 

人物はその手にフェイクZライザーを取り出し構える

 

「必要ありませんよ。それも、我が神から啓示されています」

 

火煙は薄い笑みを浮かべたまま答える

 

「あなたは龍脈の《猛虎》と《龍》を。彼らが姿を現す今、仕留めておかねば後々厄介ですからね。ファイブキングの力が使えるあなたならば、双方は無理でも片方は潰せましょう」

 

懐から一つ、小さな木彫りの仏像のようなものを取り出す

 

「ここの邪魔に来る彼らは、霧慧の神の力でおもてなししましょう」

 

ーギュイィィィアァァァァァァァァ!!!!

 

大空洞に集まっていた怪獣たちが食い尽くされ、イザーティアが触手を振り回し咆哮を上げる

 

「ああ、惑える異界の母神よ。どうかしばしのお待ちを。あなた様には、真の姿になってもらわねばならぬのです」

 

火煙の言葉と共に周囲の装置が起動。イザーティアに高濃度に圧縮されたエネルギーの照射が始まる

 

ーギィィィィィィィィィィィィ!!!

 

最初こそそのエネルギーに身を焼かれるだけだったイザーティアだが、その身を徐々に変質させ、繭のような形態になるとそのエネルギーを吸収し始める

 

「……良い子だ」

 

 

ーグァァァウゥゥゥ!!!

ーサァァッ!!

 

赤熱化したティグリスとイクサが激突し、押し合う中、第三保管庫前の平地に地下から大型の砲台がせり上がり、砲台が延伸され固定される

 

ロックオンサイトに収めたモニターを金本が睨む

 

「ターゲット、ティグリス!射程圏内に入りました!」

「ターゲットロック完了!」

 

大砲らしき兵器に充填されゆく青白いエネルギーをティグリスを押さえ込むイクサ、歩夢が目にして息を呑む

 

「あの青白い光…確か、岩神諸島の地下で…⁉︎」

『あの地下で見た鉱石と似たエネルギー……いや、これはほぼ同じエネルギーだぞ⁉︎』

 

困惑するイクサの背にエネルギーを纏った爪が突き立てられ、振り下ろされる

 

爪撃によろめき、膝を突いたイクサを跳び越えたティグリスが怒りの咆哮を上げる

 

【龍脈の気を吸い上げていたのはアレか‼︎ その存在、許されざるものだと知れェッ!!!】

 

ーグァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!

 

苑樹の怒りを上乗せし、ティグリスが疾走する

防衛ラインが次々と乗り越えられる中、大砲ーテラジュームアンタレスに龍脈のエネルギーたるテラジュームエネルギーがチャージ完了される

 

「テラジュームエネルギー抽出、充填完了!いつでも発射可能です!」

「テラジュームアンタレス、発射ァァ!!!」

 

疾走するティグリス目掛けて破壊の蒼白光が放たれる

 

「ダメぇッ!!!」

 

ふらつく体を奮い立たせたイクサがティグリスとテラジュームアンタレスの前に割り込み、青いエネルギーシールドを最大出力で展開、その破壊光線を受け止める

 

ーサァァァァァァッ!!!

 

イクサはどの力でもテラジュームアンタレスのエネルギーを受け止め切るのは難しいらしく、そのエネルギーシールドに鈍い嫌な音と共にヒビが入っていく

 

 

同刻 五道市の地下深く

 

苑樹が龍脈と呼ぶ大空洞の中

テラジューム鉱石が仄かに照らし出す地下運河の集積地たる地底湖

 

くすみ始めたテラジュームの光が揺れる中で地底湖から巨体が持ち上がる

 

長い首を持ち、鈍色の鱗に覆われたその姿はどこか東洋の伝説に伝わる龍を想起させる

 

体と共に持ち上がるは、その尾

ーいや、それは確かに尾ではあったが同時に数多の『龍の首』でもあった

 

龍脈の結節点たる地底湖から姿を表した鈍色の龍は紅い、紅い光を瞳に宿し地上を見上げる

 

そこに宿るのは、強い「怒り」

だが、ゆらゆらと揺れるそこには別の感情も揺らいでいるように見えた

 

 

ーキュオォオォオォォォォォォォォォン!!!!

 

 

龍は澄んだ、それでいて力ある咆哮を響かせながら、青白い燐光を纏うその体を地底湖から浮遊させていく

 

ー裁くべき不浄のはびこる地上に向けて




超兵器テラジュームアンタレスの極光に倒れるイクサ
苑樹の怒りと共に荒ぶるティグリスの爪は尚止まらない

そして現れるは怒れる龍脈の化身

皆と協力し、龍脈異常の原因と突き止めたリュウと大介
大地の怒りを止めるために向かう地下の大空洞にて
霧慧の神の化身が立ちはだかる

次回ウルトラマンイクサ
「龍脈と霧慧の黙示録」
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