ーねぇ、
「…何?■■」
ー私たち、友達よね?
「もちろんそうだよ。当たり前じゃない」
【ワタシノコト ナニモシラナカッタクセニ】
「ーッはぁッ!?」
水輝がベッドから跳ね起きる
ぐっしょりと汗に濡れたパジャマが肌に張り付き、不快さを際立たせる
「ーうぷッ」
吐き気をこらえ、水輝が流し台に向かい胃の中身を全て吐き出す
荒い息が早朝の一人の部屋に響き、流し台に背を預けて座りうずくまる
水輝が悪夢に目を覚ました中、五道市の空には闇が渦巻いていた
ーキャハハハハハハハハハハハ……‼︎
渦巻く闇の奥、赤い目を光らせる「顔」が人間界を見下ろし、嘲笑うように笑っていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スターゲイザーベース 作戦司令室
自分のデスクに腰掛け、水輝はノートパソコンをぱちぱち、とゆっくり操作していた。表示された画面には今や水輝が一任しているGBCTの広報ページが開かれている
毎週更新のそれを更新していたのだが、目に見えて作業が進んでいなかったのだ
「水輝、おーい」
「……へ、あ、うぇっ⁉︎ なんですか隊長?」
完全に不意を突かれた形で驚いた声を上げながらノートパソコンを勢いよく水輝が閉じる
「いや…なんかボーッとしてるから、呼んでも返事ないし…」
「あっ、えっと…ち、ちょっと考えごとしてまして…すみません…」
水輝が前髪をいじりながらはは、と苦笑する
『…本当にそれだけか?なんか顔色悪い気するが…』
「それについては、昨日ちょっと寝不足でして…多分そのせいかも」
イクサにも乾いた笑いで答える水輝を
そんな中、スターゲイザーベースに普段聞きなれないチャイムのような音が響き、自動音声のアナウンスが流れる
《まもなく、スターゲイザーベースは定期点検のために着陸いたします。整備担当職員は準備を、それ以外の乗組員の皆様は着陸の際の揺れにご注意ください》
「定期点検…?」
「そういえば、水輝は初めてだったわね」
歩夢が伸びをしながら答える
「この基地、スターゲイザーベースはリパルサーフィールドっていう反重力場の生成で浮かんでるって設計してるの。ヴィクター社が異星人の技術の応用で作り出した最新システムだから、年に数回の定期メンテナンスが必要になるのよ」
「なるほど。ずっと浮かんでるのなんでだろうって疑問でしたが、まさかそんな秘密があるとは…」
「秘密というか、ヴィクター社の社外秘の技術の塊だから細かいことは私みたいな責任者かヴィクター社の連中にしかわからないのよね。私も一応仕組みは理解してるけど原理とかは完全に専門外な技術だったし」
歩夢が苦い顔をしながら答える
「えっと…メンテナンスとなると、私たちは?」
「あくまで機体外とか機関室がメンテナンスされるだけだから担当外の私たちは地上基地で待機ね。ランダルと大介は技術あるからメンテナンス担当に駆り出されてるし、リュウはなんかトレーニングするらしいけど……」
「なるほど、了解しました」
と水輝がノートパソコンや幾つかの資料をまとめて移動の準備をはじめる
「……そういえば、最近なんか広報以外にもやってくれてるみたいだけど…何してるの?」
「えっと……ホシちゃんたちとの交流会とか開けないかなと交流してまして」
「交流会…?」
「はい。ランダルさんは人々に知られてますが、まだまだ異星人の皆さんの理解ってされてないと思いますし、怪獣たちと同じようにホシちゃんたちのことも知ってもらえてたらな、と思いまして…」
「なるほどね……」
と、歩夢は水輝に一歩近づいて一つ忠告をする
「焦ったらダメよ、水輝。理解されて欲しいのは、私たちも同じだけど、急なことをしたらどちらにも混乱を招くから何かする時は私にもきっちり報告するように」
歩夢の言葉を聞いて水輝は少し俯く
「ーはい、わかってます…」
水輝が先に待機室へ向かう背を見る歩夢にイクサが声をかける
『なんか、お前がそこまで隊員心配するの珍しいな。いつも任せる時は任せてる感じだが』
「まぁね。一応エキスパートチームなんだし…私が口出しするよりも任せた方が安定して活躍してくれたりするし」
歩夢は腕を組み難しい顔をする
「……ただ、今の水輝はなんか焦ってるというか…怖がってる感じがしたのよね。だからちょっと心配で」
『焦ってる、な……確かになんか余裕は感じなかったな……』
更に顎に手を当て歩夢は首を傾げる
「……焦ってる、といえば…なんかこの前からリュウも変なのよね」
点検作業が開始される中
地上基地の直上では暗雲が渦を巻いていた
ーキャハハハハハハハハ……‼︎
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スターゲイザーベース内トレーニングルーム
リュウは1人トレーニング用のドロイドマシンと組み手に打ち込んでいた
ここに来た時よりも格闘に慣れてきている様はよく見て取れ、最高レベルに設定してあるドロイドマシンにもよく対応・対抗できていた
組み手を終え、ドロイドマシンの電源を落とす
リュウの表情はどこか曇ったままだった
『オマエ、ウルトラマンの癖にまだどちらでもないな?』
『オマエには芯がない』
ジャグラス・ジャグラーと名乗ったあの怪人
彼が告げた言葉がまだリュウの中で渦を巻いていたのだ
「オレの…芯……」
リュウは懐から黒いテラスパークドールズを取り出す
ジャグラス・ジャグラーの黒いテラスパークドールズは脈動するかのように光を放っていた
ージリリリリリリリリリリリリリ……
と、脱ぎ捨てていた上着から聞き慣れない音が響いてきた
上着から音源を取り出すと、それはGBCTパッドだった
ージリリリリリリリリリリリリリ……
見ると誰かからの通信のようだった
(……こんな音鳴ったっけ…?)
疑問に思いながらも任務だったらマズイと通信に出る
「もしもー」
瞬間、何か頭をー否、脳を直接鷲掴みにされた感覚が走り、リュウが倒れた
ージリリリリリリリリリリリリリ……
手から落ちたGBCTパッドからは、未だに黒電話の音が響いていた
ージリリリリリリリリリリリリ……
ージリリリリリリリリリリリリ……
ージリリリリリリリリリリリリ……
基地の各所から全く同じ着信音が響いてくる
機関員が、メンテナンス職員が思わずスマホや通信端末を取り、耳に当てる
耳に当てた職員が通信端末を取り落とし、虚な目を近くの人々に向ける
未だに着信音を響かせる端末を拾い、近くで困惑している人に笑顔を見せながら端末を向ける
「電話、だよ……?」
突如鳴り響いたGBCTパッドを歩夢も取り出していたが、イクサが警告する
『待て‼︎ それから変な気配がする‼︎』
「へっ⁉︎」
歩夢はそれを聞き、GBCTパッドをひとまず地面に置く
「……なんだってGBCTパッドから…?」
『そこからだけじゃねぇ…‼︎ この施設のそこかしこから似たような気配が漂ってきてー』
イクサが言い終わる前に、廊下の端から何人もの人々が姿を現す
まるでゾンビのような足取りでこちらに近寄ってくる彼らからは生気が感じられない
「歩夢隊長ぉ……」
「……電話ですよぉ……?」
恍惚としたような笑みを浮かべ、中には口の端から涎をこぼしている者も何人かいた
「なんだか知らないけど、捕まったらヤバそうね⁉︎」
歩夢が踵を返し走る
(なんとか水輝たちと合流しないとー)
が、走る先からも人々は現れ、歩夢に電話や端末を向けてくる
「くっ⁉︎」
一瞬反応が遅れた歩夢の服に人々がしがみつき、引き倒される
「しまー」
背中から床に押さえられ、身動き取れなくなった歩夢の耳に端末が当てられ歩夢も意識を飲み込まれる
待機室にいた水輝も机に突っ伏す
その手からGBCTパッドが落ちた
地上基地にいた人々は皆、虚な目で彷徨うか、深い眠りの中に落ちてしまっていた
ーキャハハハハハハハハハハハハ…‼︎
その上空では暗雲から覗く「顔」が嘲笑を浮かべ続けていた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ねぇ、水輝、水輝ってば」
聞き覚えのある声に水輝が顔を上げる
そこには学生服を着た少女がいた
「どうしたの?ぼーっとして」
不思議そうにこちらを見つめてくる少女
それを水輝は驚愕に目を見開いて見つめることしかできなかった
「……里奈…?」
水輝の親友
「?そうだよ?どしたの?」
「だって、いや、そんな……」
覚えている
忘れるはずがない
忘れていいはずがなかった
「そんな…?」
【ー殺したはずなのに?】
不気味な声が響く
目の前の少女は変貌し、破れた腹から臓物と血が垂れ流されていた
「ひっー」
水輝が思わず後退り、椅子から転げ落ちる
いつの間にか教室から雨が降りしきる屋外に変化し、湿った地面に尻餅をつく
目の前には線路
そしてその上に、体の各所を痛々しく捻じ曲げ、血だらけで転がる里奈が転がっていた
「はぁっ、はぁっ……⁉︎」
荒い息を繰り返す水輝の方を里奈の首だけがぐるりと回転して見据えてくる
【私も忘れないよ】
【私を殺した】
【私を何も知らない親友さん】
ぱっくりと裂けた口が吊り上がり、不気味な笑みを作る
「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
水輝は立ち上がり、無我夢中で逃げる
その先には、暗闇しか広がっていなかった
リュウが目を覚ましたのは液体に満たされたシリンダーの中
不思議なことに息苦しさは感じないことに目を白黒させていると、こちらを1人の女性が覗き込んできた
『やっと、やっと完成する…‼︎ 私の理想が、私が見た夢が‼︎』
白衣を着た眼鏡の女性
どう見ても常軌を逸した濁った目をしたその女性の姿に思わずたじろぐ
ようやく目が慣れてきた中、女性の後ろに広がる光景が見えてきて思わずシリンダーに貼りつく
そこにあったのは、檻に閉じ込められた多数の怪獣たち
処置台と思われる大きな台座には大小様々な肉片や血濡れた器具が転がっていた
その奥には多数のコードに繋がれた悍ましい怪獣の姿が、リュウがウルトラマンとなった時に初めて倒したエヴォルデウスの姿が見えていた
「ここ、は……」
リュウ自身の記憶にはなくとも知っていた
歩夢たちから見せられた研究ファイル
そこで自分が、怪獣の頭脳となるために育てられた子供だと知った
実感のなかった知識が繋がる
ここは、自分がまだ赤ん坊の時にいた場所だと
『愛しい我が子……ようやく、ようやく愚かな人間に私が正しかったと思い知らせることができる……‼︎』
恍惚とした表情と焦点の合わない瞳でこちらを覗き込む
その顔をシリンダーのガラス越しにリュウが殴りつける
「我が子……オレはアルマの息子だ。お前の子なんかじゃない!」
神代博士の顔がニッ、と狂気的な笑みに歪む
【いいや。お前は私の息子だよ】
【お前は、私の怒りの体現者。私の復讐の体現者】
【その事実は変わらない】
その言葉にリュウが顔を歪める
「……違う。オレは、オレは人間だ!ウルトラマンテラだ!」
【何故ウルトラマンとしてお前は存在している?】
「オレは……オレは…みんなを……ッ」
【守りたいから?守ることすらできないのに?】
リュウが思わず拳を引き、後退る
その背にシリンダーの壁が当たる
肩を震わせる神代博士の背後、コードに繋がれていたエヴォルデウスがコードを引きちぎりながらこちらに迫り、神代博士を頭から飲み込む
【守るからお前は弱くなる。壊せばいいんだ】
【人間の愚かさをお前はよく知るはずだ】
【怪獣の息子として生きたお前なら、尚更に!!】
ーキィヤァァァァァァァァハハハハァァァァ!!!
エヴォルデウスの咆哮と共に建物が崩壊していく
リュウはその手にテライグナイターとテラスパークドールズを取り出す
《ウルトライブ!》
《ウルトラマンテラ!!》
テラがまるで巨大迷宮のような構造の大地に降り立つ
その目前にエヴォルデウスが大地を捲り上げ現れる
ーテァッ!!
ーキィヤァァァァァァハハハハハハハァァァァ!!!
テラが疾走、エヴォルデウスの肩口にチョップを打ち込む
しかしその一撃に小揺るぎもしないエヴォルデウスに負けじとテラはパンチを撃ち込むが反撃のパンチを受け、吹き飛ばされる
『ーッ⁉︎ アルマ、力を貸してくれ‼︎』
《ウルトランス‼︎》
《アルマンドラ・ソウル‼︎》
アルマンドラの力を宿したテラの両腕に装甲が追加され、エヴォルデウスの雷光を防ぎながら突撃していく
ーテァッ!!
装甲で強化された拳を撃ち込むがエヴォルデウスはびくともしない
【分かっただろう?
【お前は、何も守れない】
エヴォルデウスの一凪ぎがテラのウルトランスすら解除し、吹き飛ばす
『かはっー!?』
【その力は壊すためが一番なんだよ】
【私の正しさを証明するために】
【そして、怪獣たちを傷つける人間を滅ぼすために】
立ち上がれないテラの背中をエヴォルデウスが踏みつける
『くそっ…くそぉっ…‼︎』
テラが、その中のリュウが地面を殴りつける
その時、リュウの手の中に新しいテラスパークドールズが現れる
ージャグラス・ジャグラーのテラスパークドールズが
目を覚ました歩夢は燃え盛る村の中に立っていた
ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ!!!
咆哮する狼獣
『バケモノめ!!』
『殺せ!!』
『逃すな!!』
飛び交う悲鳴と怒声
胸の奥にこびりついたあの夜の事件そのままだった
山奥で出会った怪我をした怪獣ールーガルフを助けて
それを見た村の人に無理矢理引き剥がされて
それを見たルーガルフが巨大化して暴れて
「……私の村は、壊滅した」
到着した戦車隊の砲撃
住民が投げつける鋤や農具
それらに傷付けられ、弱っていくルーガルフ
それを見据えて歩夢は唇を噛み締める
【お前は何もできなかった】
【見殺しにするしかなかった】
【愚かで無力なお前はー】
「んなことー」
現実世界
何人もの人々に押さえつけられた歩夢がガバッと顔を上げる
「ーわかってるんだよチクショォォォ!!!」
突如覚醒した歩夢を淡々と再び押さえつけ、携帯を当てようとする
「イクサ!久々にお願い!」
『よしきた!!!』
歩夢の瞳がオレンジに輝く
目に見えていつもの歩夢以上に洗練された動きで拘束を振り払い、周りの人物たちを気絶させていく
最後の一人を気絶させ、歩夢の体でイクサが拳を鳴らす
「手加減はしといたぜ。悪ぃな」
目を閉じ、歩夢に体を返す。歩夢がどこへともなく声を上げる
「誰だか知らないけど、あんな夢で私は迷わないわ。辛かったのも、苦しかったのも、アレが悪夢だってことも何もかも覚えてる」
ビシッと指を天に突きつける
「だからこそ!私は怪獣たちを知って共存するために前に進むのやめないのよ!!」
その声を聞いた故か、頭上から耳障りな声が響いてくる
ーキャハハハハハハハハハハハハハ…!!!
「
『おうよ!!』
《リンケージ:ウルトラマンイクサ》
ーサァッ!!!
イクサが身を翻しながら地上基地の側に降り立つ
渦を巻く暗雲から暗い雲が吐き出され、空が翳っていく
【ワタシの悪夢から出てくるなんて規格外】
【でも、ワタシはそれだけじゃないわよ】
どこからか響く女性の声と共に暗雲から雷が降り、数体の怪獣が姿を現す
ーグァァァァウゥゥゥゥゥゥ…‼︎
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィィ
ルーガルフとガンQが姿を現し、イクサに殺到してくる
ルーガルフの突進を受け止め、いなしながらガンQが放つ光弾を手刀で撃ち落とす
「怪獣なら手を出せないって思ってるなら大間違いよ。幻影ってわかってる相手に私たちは手加減しない!」
ルーガルフにキックを撃ち込み、退けながらイクサが、歩夢がホシウミノツルギを手に掴み、イクサファーナスに剣身を通す
《共鳴せよ、二つの魂!!》
イクサがデュアルブレイヴに変身し、ホシウミノツルギを構える
ーキヒヒヒヒヒヒィィィィィ
転がってきたルーガルフを蹴りどかし、ガンQが光弾を連続して放つ
それを斬り裂きながらイクサがホシウミノツルギを引く
《優しき水!!》
《アクア・ピュリファイ・シュトローム!》
清浄なる水の力がホシウミノツルギの剣身に纏われる
ーサァッ!!!
振り抜かれた一撃がガンQとルーガルフを捉え、清らかな水の渦が飲み込み浄化ー消滅させる
「さぁ、こうなったら出てこざるを得ないわよね」
【キャハハハハハ……これで終わりじゃないわよ】
更に暗雲から稲光が降り、今度は幻影のイザーティア・ゲヘナが姿を現す
ーギィィィヤァァァァァァァァ!!!
『イザーティア・ゲヘナまで…⁉︎』
「ーッ」
歩夢の脳裏に踏み潰されたイザーティアの姿が過ぎるが、それを歩夢はかぶりを振って振り払う
「……だから、何度やってもー」
【これでもォ?】
嘲笑う声を聞き、イクサがハッとイザーティア・ゲヘナの足元を見る
そこには虚な目をした人々が集まっていた
「人質……ッ⁉︎」
思わず動きを止めるイクサ
その隙を逃さず、イザーティア・ゲヘナの触手がイクサを打ち据える
『てめぇ…‼︎ 卑怯なことしゃがって!!』
【キャハハハハ…‼︎ 褒め言葉どうも!弱いあんたたちはたかだかおもちゃを並べるだけで攻撃をやめてくれるからありがたいわァ‼︎】
よろめくイクサの頭上の空間が揺らめき、半透明のクラゲのようなビジョンが現れる
現れたクラゲから青い雷光がイクサに降り注ぎ、ダメージを与える
ーサァァッ!?!?
雷光によろめき、膝をつくイクサと歩夢の脳裏に様々なビジョンが流れ込んでくる
【人間は弱い。ほとんどの人間は、こんなショーを見せてあげるだけで心が折れて立てなくなる。滑稽な生き物だわ!】
助けられなかった命を手に涙を流す
戦火に包まれた中を駆けるランダル
エヴォルデウスに踏みつけられるテラーリュウ
そして、暗闇の中歪んだ少女の幻影に囲まれ、耳を塞ぐ水輝
見せられたのは、悪夢に苦しむ仲間たちの姿だった
【むしろ夢から覚めて残念だったわねェ。アナタは、現実で苦しみながら死んでいくのよ……】
嘲笑する声に歩夢は毅然と、微笑みながら返す
「どこの誰かは知らないけど…私たちの仲間を舐めすぎよ」
「水輝たちは、そんなにやわじゃないわよ‼︎」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
里奈と私は間違いなく親友だった
気は合うし、お互いのことはなんでも話して、なんでも知っていた
知っているつもりだった
でも、それは幻想だった
ある日里奈は私に弱音を吐いたことがあった
『私、向こうでうまくやっていけるかな……』
海外留学が決まっていた里奈が私に吐露した弱音
『大丈夫!里奈なら大丈夫だよ!』
本心ではあった
なんでもそつなくこなすし、成績もいい里奈なら留学先でもきっと色々なことに頑張れる。そう思っていた
でも、それは私の思い込みだった
里奈は、翌日電車に飛び込んで自殺した
成績に思い悩んで、とてつもない不安に襲われていたことを後になって知った
親友が、死んでしまいたくなるほど悩んでいたことを、私は気づかなかった。知ろうとしなかった
私が、見殺しにした
【そう、アナタが殺した】
ぐちゃぐちゃになった里奈が、里奈たちが水輝に囁いてくる
【苦しかった、辛かった】
【親友だから話したのに】
【冷たい水輝は私を見殺しにした】
【親友なんて言葉だけ】
ーくすくすくすくすくすくすくすくす
「ごめん、ごめん里奈ぁ…‼︎」
耳を塞いで水輝がうずくまる
【罪滅ぼしのつもり?】
【ジャーナリストになって】
【怪獣の、宇宙人の味方をして】
【またアナタのエゴで誰かが追い詰められる】
【あ〜あ、かわいそう……】
里奈たちの言葉が水輝に降り注ぐ
水輝は唇を噛み締め、耳を塞いでいた手をどかして立ち上がる
「……罪滅ぼしなんかじゃない…‼︎」
【……なんですって?】
「……ホシちゃんたちを、怪獣たちを助けたいのは罪滅ぼしなんかじゃない!!」
水輝は、涙を浮かべながらも、震える膝を叩いて続ける
「たしかに、里奈が死んだこと、私が死なせたことは忘れてない。忘れられるはずがない…‼︎ジャーナリストで、誰にも知られない誰かの本当を届けようとしたのは、たしかに罪滅ぼしだった…‼︎」
水輝はぐちゃぐちゃになった里奈を見上げる
「でも、でも怪獣を、ホシちゃんたちを助けたい、知りたい気持ちは罪滅ぼしなんかじゃない…‼︎ 彼女たちが、私たちと同じように生きてることを知ったから…歩夢隊長の熱意を知ったから‼︎」
「だから、だから私は前を向く…‼︎ GBCT隊員の、篠宮 水輝として‼︎」
「前を向くんだ!!」
歩夢の姿がいつもの隊員服に変わる
それを里奈たちは不愉快そうに見下ろす
【なによそれ。私はアナタに未来を奪われたのに。アナタだけ前を向くって…ふざけたことをー】
『ーごめんね、水輝』
里奈たちが、幻影が闇と共に弾ける
そこに現れたのは、生前の姿そのままの優しい笑みを浮かべた里奈だった
「里奈…?里奈なの⁉︎」
『そうだよ水輝。久しぶり。美人になっちゃったね』
里奈は膝をついた水輝と視線を合わせ、その頬に両手を当てる
『ごめん、水輝。一人にしちゃって』
「……私こそ、ごめん。私が、里奈をー」
『それは違うよ、水輝』
『私はたしかに、水輝の言葉に助けられた。弱かった私はそれでも死を選んじゃっただけ』
『ーなんの気はない言葉だろうけど、水輝の言葉はすごく暖かかったの。ありがとう』
里奈は涙を流す里奈の手を引く
ハッ、と水輝は目を覚ます
その目の前を小さな光の球が飛んでいく
立ち上がり、涙を拭った水輝はその光を追って部屋を出る
光の導きで外に出た水輝は、稲光や触手攻撃で苦しむイクサを、人質にされている人々を目にする
『水輝。私を使って』
光の球は水輝の持つGBCTマグナムに収まり、青い燐光を放ち始める
水輝は静かに頷き、その銃口をイクサを捕らえていたクラゲに向けた
「……ありがとう、里奈。私、前を向くから。あなたの分まで、進んでいくから…‼︎」
水輝が銃口を引き絞る
放たれた青白い優しい光の弾丸がクラゲを捉え、その体がバチバチとショートしたようにスパークし炎上する
【グギャァァァァァァァァ!?!?!?!?】
壮絶な悲鳴と共にイザーティア・ゲヘナの幻影が揺らいで消滅し、操られていた人々が倒れ伏す
炎上しながら墜落したクラゲが爆発
その中から、クラゲを裏返したような紫の3対の目と触手状の腕を持つ異形の怪獣ーナイトメアメザードがよろめきながら現れる
【なんデ!?ナンで人間ゴトきがァァァァ!?!?】
歪んだ声で絶叫するナイトメアメザード
腹部の人間のような顔の口からも黒い体液がぼたぼたとこぼれ落ちている
その足元に倒れふす人々の頭上からバリアフィールドが展開される
イクサが目をやると地上で水輝がGBCTパッドを操作し、バリアドローンを呼び出していた
「隊長ッ!!今です!!!」
水輝の言葉にイクサが頷く
ホシウミノツルギを二度引き、その鍔に左手を重ねる
《束ねよ!2つの勇気!!》
ホシウミノツルギに虹色の光が溢れ出す
ーキュウェェェアァァァァ……‼︎
ナイトメアメザードは命乞いをする様にその手の触手を揺らすが、もう遅い
『「デュアルライズ、バーストォォォォォォ!!!」』
ーサァァッ!!!
振り抜かれたホシウミノツルギから放たれた虹色の光線がナイトメアメザードの腹部に直撃、その全身に虹色の光をスパークさせ炎上、爆発四散させる
ナイトメアメザードの爆発四散と共に晴れていく空を見上げ、微笑んだ水輝がイクサの方を向く
「ね、言ったでしょ。水輝もまたエキスパートだって」
『ああ、たしかに。対したガッツだ』
イクサは水輝にサムズアップを送り、水輝もそれに満面の笑みで答えた
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
数刻前 悪夢の中
『ァァァァァァァァ!!!』
リュウはテライグナイターにジャグラーのテラスパークドールズを読み込ませる
が、読み込んだテライグナイターはなんの音声も発さなかった
『な……なん、で⁉︎』
『ーそりゃあ、お前の芯がないからだよ』
驚愕するリュウの目前に、黒い影の怪人が現れ告げる
『芯が……ないから……?』
『守りたい、が何を守りたいか言い切れない。かと言ってお前は激情を燃やすほど怪獣も、人間も憎んじゃいない。だからお前には、力だけあって芯がねぇのさ』
怪人はリュウを見下ろし、乾いた笑いを漏らす
『ー闇も、何もないところから生まれやしない。今のお前は、暴れさせる闇も持ってないってことだ』
「ーッ!?」
リュウが目を覚ます
トレーニングルームの壁に寄りかかったまま、リュウは先の悪夢を思い返し、唇を噛み締めてトレーニングルームの壁を殴りつけた
立ち上がったリュウは、GBCTの制服とGBCTパッドをトレーニングルームに放置し、Tシャツ姿のままよろよろとどこかへ去っていった
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
特殊自衛隊の地下施設
後ろ手に縛られ、冷たい床に転がされていた
その耳に喧しいサイレンの音と破壊音が響いてくる
「………?」
痛む体をなんとか起こし、薄目を開ける
薄暗い中、赤いサイレンの光が点滅する独房
その前に警備の隊員が蹴り飛ばされてくると共に異形の怪人が姿を現す
『んん?お前は……なるほど、面白いヤツがいるもんだな』
怪人ージャグラス・ジャグラーはその手にした日本刀を閃かせ、牢屋の柵を容易く斬り裂いて苑樹に近づくとその手を縛る手錠を砕く
『ほら、ついでに助けてやるよ。立てるか?』
「あなた……は……?」
『オレか?通りすがりのただの悪党さ』
差し出された手を掴み、苑樹が立ち上がる
自分の体を触り、あるものが無いことに気づく
「バトルナイザー…アレを取り返さないと…‼︎」
『ああ、そうか。それがねぇとお前らは死活問題だもんな』
殺到してきた隊員たちの頭上に剣閃を飛ばしながらジャグラーが呟く
剣閃にかすりもしていないはずの隊員たちは糸が切れた人形のように脱力して倒れ伏す
『それもついでだ。多分あそこだろうなぁ』
「ひゃっ!?」
ジャグラーは覚束ない足取りの苑樹をお姫様抱っこの形に抱え上げる
『ちょっくら急ぐぜ、お姫様♪』
軽口を叩いたジャグラーが急加速し、苑樹が思わず目を瞑る
目を開くと、すでに目的の場所に到達したらしく、ジャグラーは苑樹を下ろす
「ここは……」
そこは研究室のような部屋だった
周りには倒れ伏した白衣の人々がおり、部屋の中央には機械に繋がれた銅鏡ーバトルナイザー:EARTHがあった
「‼︎わたくしのバトルナイザー‼︎」
苑樹が思わず走り出し、それに手を伸ばす
が、手が届く直前でそれは別の誰かの手に取られていた
「へぇ〜こいつはとんでもなくゴクジョーな宝物だなぁ…」
銅鏡を手に取っていたのは、使い込まれたコートを纏う長身の男だった
「なーそれはわたくしのものです!返しなさい‼︎」
怒声を上げる苑樹を見て白々しく口笛を吹く男を睨み、ジャグラーが刀を構える
『その気配…お前リシュリア星人か…珍しいな』
「こっちの宇宙にもリシュリア星人はいるのか。別宇宙ってのも中々面白いもんだなぁ〜」
男は油断なく銅鏡をコートの懐にしまい、腰のホルスターから不思議な意匠の黒い銃を抜く
「自己紹介が遅れたな。俺はイグニス。ゴクジョーのお宝を狙って宇宙を股にかける、トレジャーハンターってヤツだ」
GBCTを離れ彷徨うリュウ
その前にボロボロの苑樹とトレジャーハンターを名乗る男、イグニスが現れる
苑樹は怪獣と共に生きたリュウにその立ち位置を問う
答えられないリュウにイグニスは代わりに「リュウ自身のゴクジョー」とは何かと語りかける
不思議な3人の邂逅
それを阻むかのように謎の機巧が空より襲来する
次回ウルトラマンイクサ
「闇と自分自身のゴクジョー」
「オレは、オレはどこに行けばいい…」