ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

2 / 37
第2話「信念と見えない涙」

ーゴアァァァァァァァァ!!!

 

センチネルの攻撃でイクサが怯んだ隙を見てサルファルドは地中に向けて高速潜行を始める

 

『あ、待ちやがれ怪獣!!』

 

それを追おうとするイクサの脛にセンチネルの豪快なラリアットが命中、思いっきり前方にすっ転んでしまう

 

『おぶぅっ!?』

「追わせるわけないでしょこの凶暴異星人!!」

 

センチネルを器用に操縦し、イクサに卍固めをしてまで引き留めてきている間にサルファルドは地中へと逃げていってしまった

 

『ああッ、クソッ!』

 

悔しそうにイクサが地面を叩く

と同時にその胸の青い光を放つ結晶ーカラータイマーが赤く音を立てながら点滅し始める

 

『くっ…⁉︎ この星だとエネルギーが保たねぇ…この姿のままは難しいってわけか……』

 

イクサはなんとかセンチネルの卍固めを振りほどき立ち上がると、空へ向かって飛び上がりそのまま姿を消してしまった

 

「あんにゃろ…逃げやがった…‼︎」

 

心底悔しそうにセンチネルと共に拳を握る歩夢(あゆむ)にランダルがため息をこぼす

 

『……怪獣保護も行うGBCTの隊長とは思えないセリフ吐いてるぞ、歩夢』

 

 

スターゲイザーベース作戦指令室

 

『報告、承りましたが……今回も芳しくない戦果ですね』

 

モニターに映る自衛隊服の男の言葉に歩夢が不満そうな顔を向けている

 

モニターに映る男は特殊自衛隊総司令官・大紋(だいもん) 黒斗(くろと)

怪獣の掃討を仕事とし、それ故にGBCTとは噛み合わないことの多い特殊自衛隊のトップにしてかつての歩夢の同僚である

 

「怪獣たちを理解しようとするってのは試行錯誤。成果だって、すぐに出てこないのよ……」

『にしても全くの成果がないのは問題なのですよ。キミたちの活動資金もタダではありませんし』

 

ぐうの音も出ない黒斗の指摘に言葉を詰まらせる歩夢

 

『怪獣のことを理解し対処するGBCT、怪獣を討伐して対処する我々。大衆から見たら変わりなんてありませんし』

「いいや、違う。ぜんっぜん違う!!」

 

黒斗の言葉を歩夢が強く否定する

 

「特殊自衛隊のやり方だけじゃ、どこまでもどこまでも血生臭いやり合いが続くだけ。そんなのが正しい対処とは思えないの!」

『ですが貴女たちのやり方で怪獣には対応できていない。それもまた事実です』

 

丁寧な口調ながらズバリと黒斗が言い放つ

 

「成果なら…サルファルドを対処して見せて見せるわよ。黙って見てなさい!!」

『…………わかりました。ですがー』

 

黒斗が表情を険しくしながら続ける

 

『次、貴女がたの作戦が失敗した場合は我々があの怪獣を排除します。そのつもりでいてください』

 

それだけ言い残した黒斗は通信を切る

拳を握りしめていた歩夢は悔しさをぶつけるようにその拳をデスクに振り下ろした

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

辺り一面が炎に包まれていた

 

こだまする悲鳴、耳障りな咆哮

炎の都市を闊歩する巨獣たちはほぼ瓦礫となった街の蹂躙をまだ続けていた

 

ーやめろ、やめろォォォォォ!!!

 

弓を構えた小さな人影が巨獣に矢を向け、射る

小さな矢がダメージを与えることなどもちろんなく、巨獣たちは止まらない

 

ーやめろ……やめてくれ……‼︎

 

青年の叫びも虚しく、街は焼け落ちていった

神の決めた定めと街を動かず残った青年の同胞たちだった炭と瓦礫だけが残る街で、青年は喉が千切れんばかりに叫んだ

 

『ー力が欲しいか?』

 

眼前に現れた光の輪がそう告げる

 

ーああ、欲しいさ。力が欲しい

 

ー怪獣どもを狩り尽くす力が、あんな連中に滅ぼされる星が二度と生まれないようにする力が!!

 

その言葉を聞き届けた光の輪から光が放たれ、青年の左手の甲に装着される

 

光の輪は徐々に形を為し、ガントレットのようなデバイスーイクサ・ファーナスとなる

 

そして青年の姿もまた変化していた

力を持たぬ体から、力ある赤い巨人の姿ーウルトラマンの姿に

 

 

『ー夢、か。この姿でも夢なんか見るんだな』

 

目を覚ましたイクサが浮き上がる

イクサがいるその場所は五道町のはずれにある神社の裏

 

エネルギーが尽きかけていたイクサはあの後、小さな光球状の姿になってエネルギーを回復させるために休息をしていたのだ

 

『しっかしこの姿は色々不便だよなぁ……動物に追われるわ、子供に騒がれるわ…散々だったぜ……』

 

ふぅ、とため息を零しながら神社の方に出ようと境内を覗き込む

寂れた神社に人の気配は無く、だが灯籠や石畳、その周囲はよく掃除・手入れされている

 

【シィィイイィイイ……】

 

どこからか蛇のような呼吸音が響く

その気配と音に気づき振り返るイクサ

 

『ーな』

 

そこにいたのは神社の社殿にぐるりと巻きつき、こちらを見下ろしていた蛇のような姿の半透明な怪獣が鎌首をもたげ、こちらを見下ろしていた

 

『怪獣!?こんなデカいヤツまでいたのか!?』

 

光球のまま身構えるイクサ

 

「イツシ、お鎮まりください」

 

社殿から響いた少女の声に応えるかのようにイツシと呼ばれた怪獣はその姿を霧散させる

 

「こんにちは、異邦の人。偶然とはいえ、玲武(れいぶ)神社へようこそ」

 

社殿から姿を現したのは巫女服を纏う長い黒髪の少女

その手には錆びついた六角形の銅鏡のようなものが握られている

 

『……オレのことがわかるのか?』

「はい。わたくしたちの血筋故、あなたのような方のことも普通の地球人よりも理解できます」

『血筋だぁ?』

 

イクサが頭を捻る

巫女は銅鏡を片手に抱え、右手を胸に当てる

 

「わたくしたち玲武の一族は、かつてこの星に辿り着いた怪獣を操り己の力とする異星の民の末裔。彼らが遠い先祖としていた存在の名前が、わたくしらの姓として受け継がれています」

 

何かに気づいた素振りを見せた巫女が慌てて頭を下げる

 

「申し遅れました。わたくし、玲武(れいぶ) 苑樹(えんじゅ)と申します。玲武家百七十代目当主であり、この神社の巫女をしております」

 

それをただ聞いていたイクサだが、向こうの名乗りを聞いたからか答える

 

『イクサ……ウルトラマンイクサだ。怪獣ハンターをしている』

 

ぶっきらぼうに答えたイクサに苑樹が口に手を当てながら思案する様子を見せる

 

「ウルトラマン……怪獣ハンター……」

『な、なんだよ。オレみたいなのに理解があるんじゃないのか?』

 

苑樹は表情を改め、イクサに告げる

 

「イクサさん、この星で怪獣を殺すことはやめてください」

『……お前もあのロボット娘みたいなこと言うのか?』

「GBCTの方々にも何度か警告しています。わたくしどもの怪獣という存在への捉え方と、彼女らの考え方は大きく違いますから」

 

苑樹はイクサの隣から前に歩み出て、イクサに向き直る

 

「わたくしどもはかつて、怪獣を道具として使う民でした。ですが、ある代の当主が使役できる怪獣を探す中である特別な怪獣たちを見つけるのです」

 

苑樹がイクサに銅鏡の鏡面部分を見せる

 

【グルルルルル……】

 

そこにどこか暗い場所が投影され、怪獣らしい獰猛な黄金の目が映し出される

 

『怪獣…‼︎』

「このティグリスや、先程のイツシたちがそうです。彼らは、この星の命脈、地脈と呼ばれるエネルギーの流れの要石のように存在していたことに先祖は気付きました」

 

銅鏡を下げ、苑樹は澄んでいながら確かに決意のこもった強い瞳でイクサを見据える

 

「この星にとって怪獣たちは星の命の要。貴方が追ってきた外来種たる怪獣は侵略者と同義ですが、その外来種たちもティグリスたちが駆逐するでしょう」

 

「ですから、貴方が怪獣を狩る必要はありません。彼らの在り方を変えるのは彼ら自身であり、人間も、貴方がた超常の存在も、何人たりとも手を出す領域ではないのです」

 

光球の姿のままイクサはその言葉を黙って聞いていた

 

『……怪獣が星の命の要…そんなワケがあるか…』

 

そして苑樹の言葉を真っ向から否定した

 

『怪獣は……怪獣どもは星の命を食い尽くす害獣だろうが…‼︎ 弱い人間を、生き物を何ごともないように踏み潰す…そんな怪獣たちが命の要なワケないだろう!?』

「怪獣たちは自然と星の一部。彼らは無益な殺生も過剰な命の搾取もしません。怪獣たちが狂乱するのは、彼らの命を繋ぐ大地を汚染した人間への怒りから…」

『連中のために弱い人間は死ねって言いたいのか!?』

 

「自身以外の命を命とも思わずに壊し続け、奪い続けてそれを止めようともしない人間たちの方こそ、彼らに黙って死ねと言うつもりなのですか…⁉︎」

 

先程までと違う強い語気で苑樹が告げる

 

「……怪獣災害が人々から命や日々の生活を奪うこと、それは悲しいことだと理解しています。でも、ただ被害者だからと当然のように刃を彼らに向けることこそが正しいとわたくしは考えられない」

 

「何よりも、貴方のような奪う命の道理も重さも知ろうとしない人が正しいなんてことはあり得てはならない…」

 

苑樹はイクサに背を向ける

 

「……わたくしから告げたいことは告げました。これ以上はもう、彼らが決めることです」

 

「貴方がもしこの星の大地に刃を向けるならば、大地に生ける彼らの牙は貴方に向けられるでしょう」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ー神聖なる獣たちの牙は今や、我々に向けられました。それらから逃れることは罪人たる我らには不可能」

 

夕闇に染まる森林の中を似つかわしくない黒い法衣のような服を纏った人々と私服姿の人々の混ざった一団が行進していく

 

先頭の人物以外は口々に何やらボソボソと経文のような、呪文のような言葉を呟き続けている

 

「ですが恐れることはありません。彼らの神聖なる牙は穢れを削ぎ、彼らの吐く炎は魂を浄化する。彼らに身を委ねれば我々は、誰よりも早く救われて楽土へと至れるのです」

 

森林が開けた地点。空から見れば窪地となっているその場所で先頭の人物は足を止め、法衣の懐から何かを取り出し、右手に乗せて掲げる

 

香炉のようなそれからもうもうと灰色の煙が昇り始める

 

「ーさぁ、救いの時は近い。我らが救いの獣を目覚めさせ我々に救済を!!そして、無辜の民にも救済を!!!」

 

人物の高らかな宣言と合わせて人々は膝を突き、大声で経文のようなものを読み上げ始める

 

ーキリ・エルト・キリエ・リキエル・キリ・キリ・キリエル

 

人々の声が重なる

救われたいと必死に読み上げる声、淡々と読み上げる声

様々な声が重なり、異様な音階を生み出していく

 

敬虔な信徒たちを満足そうに見て回りながら集まる人々の最後尾に至った人物は人々を振り返りながら笑う

 

「ーそう、神は既に在るのです。霧慧(きりえ)の神はここに在る」

 

中性的な声で人物が呟き、胸に手を置く

その姿に何か別の影が重なり、心臓にあたる位置が赤く脈動し輝く

 

「ワタシはその教えを伝えるのみ。霧慧の神が望んだ救済を、この世界にも届けるために」

 

 

スターゲイザーベース

GBCT作戦司令室

 

『……サルファルドの分析結果が出た』

「ほんと!?」

 

ランダルの言葉に書類と睨めっこしていた歩夢が顔を跳ね上げる

クマが目立つ顔をパンパンと叩き目を擦りながら歩夢がランダルの示すモニターを見る

 

『……サルファルドは典型的な地下生活型のタイプRの肉体組成と構造を持つ。この種特有の器官として火山ガスに似たガスを生成する器官を持つんだが、問題はそこだ』

 

ランダルがリモコンを操作し、モニターに映るサルファルドの体内構造の詳細を映し出す

 

『……この器官はそもそも、サルファルドが主食として食しているとされる火成岩類を消化していく過程で発生する火山性有害物質を排出する機構として機能している。だが、我々が現在対応しているあの個体はこの器官がどうもうまく機能していない』

「ということは…体調不良起こしてるってこと?」

『……そういうことだ』

 

歩夢の言葉にランダルが頷く

 

『……通常ならば消化過程で濾過されて排出される毒素が蓄積、自然治癒しようにも毒素の蓄積でうまく治癒能力が機能しなくなっているのだろう。わざわざ地上に出現して暴れていたのは蓄積した毒素で苦しんでいたからと考えるのが妥当だと考えられる』

「体壊して苦しかったわけだ……尚更早く助けてあげないと」

 

歩夢の顔が真剣なものに変わる

 

「あのウルトラマンが現れる前に……」

 

ランダルはその顔を見やり、タブレット端末を操作しながら告げる

 

『……早る気持ちは分かるが、お前自身の望みを、信念を無視するなよ。歩夢』

「私自身の信念……」

 

ランダルの言葉を聞き、歩夢は胸に手を当てる

 

『……怪獣を理解したい。救えるなら救いたい。お前がそう思って特殊自衛隊を抜けてまでわざわざこんな新規部隊を作った信念は本物だろう』

「………」

 

静かに目を瞑り、歩夢が深呼吸をする

 

「……もちろん。わかってるよランダル」

『……ならいい』

 

歩夢はいつもの笑顔でランダルに向き直る

 

「サルファルドの器官不良を治すためには体内毒素をどうにか無くす必要があるから、毒素を分解する酵素圧縮弾が必要だよね」

『……GBCTキャリアーとセンチネルに搭載しておこう。作業指揮は私が行うからお前は仮眠をとれ。慣れないデスクワークで疲れてるだろうが』

「あはは…やっぱバレてるか……ありがと。そうさせてもらうわ…」

 

ランダルに残る作業を任せた歩夢は司令室端の休憩スペースにあるソファに寝転がり、目を瞑る

やれやれと肩を竦めながらランダルはもう寝息を立てはじめた歩夢にブランケットをかけ、作業に移る

 

 

ールォォォォオォォォン!!!

 

狼のような遠吠えが響く

燃え上がる村の炎に照らし出された巨大な影は狼のような姿をしており、爪を振り回し村の建物の破壊を続けていた

 

ーやめて!お願いだからやめて!!

 

少女の泣き叫ぶ声が響く

だが、怪獣にそれが届くことはない

 

そんな中、夜闇を引き裂く轟音と共に怪獣の体に砲弾が突き刺さり、爆発していく

 

ールオァァァァァァ!?!?

 

悲鳴のような咆哮を上げ、怪獣が自身に向けられた砲塔を睨む

その目は血のように真っ赤に輝いていた

 

ーガルくん!!ガルくんもうやめてよぉ…‼︎

 

少女の叫びは号砲と怪獣の咆哮に掻き消される

少女の目の前で傷つきながら怪獣は砲塔の主である洗車を踏み潰していっていた

 

ールアァァァァァァァァ!!!

 

響き渡る咆哮

どこかその吠え声は泣いているように少女は、歩夢は聞こえていた

 

 

パチっと目を覚ます歩夢の耳に喧しい警報が響く

 

「ランダル!!」

 

ブランケットをソファに放りながら歩夢が跳ね起きる

 

巖蓮山(がんれんざん)近くの盆地帯地下から巨大な生体反応。地表に向けて移動してきている。サルファルドで間違いないだろう』

「おいでなすった…‼︎ 弾頭の搭載は?」

『酵素弾頭の準備が予定より遅くなってしまった。キャリアーの方は50%終わってるがセンチネルの方はまだ20%ほどだ』

「だったらセンチネルの方は換装作業中断してキャリアーへの搭載作業を優先!キャリアーからの射撃でサルファルドの治療と地下への誘導をー」

 

『それには及びません。歩夢隊長』

 

歩夢の言葉を通信してきた黒斗の言葉が遮る

 

「黒斗隊長…⁉︎」

『怪獣は我々特殊自衛隊が排除します。GBCTの出る幕は今回ありません』

「どういうこと⁉︎ サルファルドへの対処はそちらだってー」

『そうも言ってられなくなったから、ですよ。怪獣が現れつつある盆地帯、その近辺で霧慧神獣教(きりえしんじゅうきょう)の信徒一団らしい集団が目撃されているのです』

 

黒斗が告げた言葉に歩夢の顔が引き攣る

 

霧慧神獣教(きりえしんじゅうきょう)

怪獣たちの出現確認とほぼ同時期に現れた新興宗教団体

怪獣を神の使いと崇め、崇拝しており、特殊自衛隊やGBCTの活動妨害などをしてくる過激なものもいるため両隊から警戒されている謎多き集団である

 

「霧慧の連中……何のつもりで…⁉︎」

『それは我々も理解しかねます。ですが、彼らもまた一般市民であり避難が確認できてない以上悠長にあなた方の作戦を並行させていくわけにはいかなくなった……すみませんが、理解してください』

 

黒斗の言葉は尤もだった

 

「ーッ、ランダル!先にセンチネルで出る!後からキャリアーで追いついてきて!!」

『待て、歩夢!?』

 

ランダルの制止を振り切り、歩夢が出動していく

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

巖蓮山近くの盆地帯

鳴動する大地から巨体が姿を現す

 

ーゴァァァァァァァァァァァァ!!!

 

サルファルドが咆哮を上げる

その姿を見ていた霧慧の信徒たちが歓声を上げる

 

「おお、神の使いだ…‼︎」

「やっと俺たちは救われるんだ…‼︎」

 

その信徒たちの一団にあの先導者の姿はなくなっていた

それに構うことなく信徒たちはふらふらとサルファルドに向かって歩き出していく

 

 

「いよっとォォォォォォォ!!」

 

サルファルドの目前にGBCTセンチネルが着陸する

シールドとハンドガンを装備しながらサルファルドに向き直る

 

ーゴァァァァァァァァ!!!

 

サルファルドは体をよじらせながら各所の排出口から白いガスを噴出させる

 

「苦しいよね…でも大丈夫!もう少しだけ待ってて!!」

 

歩夢がセンチネルのハンドルを倒し、サルファルドの進行を食い止める

なんとか踏ん張り、サルファルドを押し込んでいく中コクピットに周囲の映像が映し出される

 

そこに映るサルファルドへと近づく信徒たちを見、歩夢が渋面を見せる

 

「センチネル、オートパイロットオン。ちょっとの間任せたよ!」

 

歩夢がコクピットを開き、飛び出していく

 

 

「そこの人たち!!避難して!!」

 

歩夢が声を張り上げ、信徒たちの集団へと駆けていく

歩夢の言葉に耳を貸そうとしない信徒たちの体を掴み、なんとか引き戻そうと引っ張るが、邪魔そうに手を払いのけられる

 

集団の眼前にいる歩夢が躍り出る

 

「止まりなさい!ここから先は危険なのよ!」

「邪魔しないでよ!!」

 

信徒の一人が叫ぶ

 

「俺たちはもうすぐ救われるはずなんだ…救われたいんだよ!」

「悩みもないようなヤツが邪魔するなよ!!」

「俺たちには神の使いがくれる救いが必要なんだ!!」

 

信徒たちが歩夢に掴みかかるようににじり寄り抗議する

その勢いに押され、歩夢も中々声が上げられない

 

ーゴァァァァァァァァァァァァ!!!

 

そうこうしてる内にサルファルドはセンチネルを押し返し、こちら側に侵攻してくる

 

「神の使い様…‼︎」

「私から救ってください!!」

「俺にも、俺にも救いを!」

 

歩夢を押し除け、尚も信徒たちがサルファルドに近づこうとする

 

押し除けられた歩夢は静かに腰のホルスターからGBCTブラスターを抜き、最後尾の信徒の足元に向けて発砲する

 

いきなりの発砲に驚き、信徒たちが立ち止まる

 

「死ぬのが救いならここで私が撃ち殺してもいいってことよね?」

 

底冷えするほど冷ややかな目で歩夢が信徒たちを睨む

それに恐怖した信徒たちが恐怖し、後退りを始める

 

「嫌がるくらいなら死のうとなんかするんじゃない…あの怪獣に、殺させるようなことを!!するな!!」

 

歩夢の怒声に信徒たちは正気を取り戻したのか怪獣から離れるように走り始める

 

それを見た歩夢はホッと一息ついてその誘導を始める

が、その中の何人かが咳き込みながらよろめく

 

「どうしたの?何がーゴホッ、ゴホッ⁉︎」

 

突然の息苦しさに歩夢も咳き込む

サルファルドの方を向くと、身をよじるたびに噴き出すガスが目に止まる

 

「そっか…あのガスが⁉︎ーゴホッ、ゴホッゴホッ!!」

『歩夢!!まさか地上に出てないだろうな⁉︎サルファルドのガスは無色透明で空気より重い腐食性ガスだ!!吸い続けたら肺が腐るぞ!』

 

腰のGBCTパッドからランダルの通信が響く

 

「なる、ほど…ね……カフッ」

 

口元を押さえながらGBCTパッドを取り出し、センチネルをこちらに呼び寄せ、シールド部分を変形させコンテナのようにする

 

「皆さんこちらに!!このコンテナの中に避難してください!!」

 

自身も咳き込みながらも避難している人々を助け起こしたり肩を支えたりしながらセンチネルのコンテナへと乗せていく

 

「ヒュー……ヒュー……ゴホッ、ゴホッゴブッ!」

 

残る数名を乗せようとして歩夢が派手に咳き込み、膝をつく

 

ーゴァァァァァァァァァァァァ!!

 

サルファルドが目と鼻の先まで迫り、歩夢たちを見下ろす形になる

苦しみからかサルファルドは足下の歩夢たちに構うことなくこちらに進んでくる

 

ーサァァァァッ!!

 

そのサルファルドを赤い巨影が蹴り飛ばす

 

「ゴホッ……ウルトラマン……‼︎」

 

歩夢が赤い巨人を睨む

現れたウルトラマンイクサも彼女に気付き、そちらに視線を移す

 

『何やってんだあんた⁉︎ 死ぬ気か‼︎』

 

イクサの声は無論歩夢には通じないが、歩夢の姿を見たイクサはそう叫けばざるを得なかった

 

ーゴァァァァァァァァァァァァ!!!

 

現れたイクサを敵と見做し、襲いかかるサルファルドにショルダータックルを決め、左腕のイクサファーナスを起動しハンティングタリスマンを読み込む

 

《フォージング:EXゴモラ》

《ハンマーアップ:スピア》

 

EXゴモラスピアを生み出し、振り回してサルファルドに叩きつける

サルファルドの硬い表皮すら削る一撃にサルファルドは怯み、その隙を逃さずイクサがスピアを突き出す

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

が、その一撃は肩口に当たった射撃で止められる

 

撃ったのは歩夢だった

センチネルは避難民を搭載し終えて盆地帯の外へと向かっている中、残った歩夢はイクサを睨み、GBCTブラスターを構えていた

 

『お前……‼︎』

「ゴホッ、ゴブッ‼︎」

 

歩夢が膝を突き、派手に咳き込む

押さえた手の間からドロッと血が溢れた

 

『おい!死ぬぞお前!!こんな時まで何やってー』

 

ーゴァァァァァァァァ!!

 

襲いかかってくるサルファルドをスピアで受け止めながらイクサは歩夢を見下ろす

 

「ヒュー……ヒュー……もう恨ませたくないから……誰も…」

『何だって?』

 

歩夢が荒い呼吸と咳を漏らしながらも言葉を紡ぐ

 

「怪獣、だって苦しいの……ゴホッ、怖いと思うことも……あるはず……なのに、ゴブッガッ!……理解しようとする人がいないから……奪ってるようにしか見えない……」

 

「人々を……見殺しにしない……ゴフッ、怪獣たちにだって、誰も殺させない……‼︎ その為に、私は……GBCTは……たた、か…う……」

 

歩夢が地面に倒れ伏す

ヒューヒューと漏れる荒い息も途切れ途切れになりつつある

 

『恨ませない…見殺しにしない……?なんなんだよそれッ!!』

 

イクサがサルファルドを蹴り飛ばし、歩夢の方を向き膝を突く

 

『お前の今のやり方は!お前が死んでも恨むヤツがいないみたいなやり方じゃないか!!』

 

イクサの呼びかけに当然ながら歩夢は応えない

 

『オレはお前を恨むぞ……‼︎ ここまで啖呵切るだけ切って、何も見せずに死んでいくお前を……ここまで無茶しておいて、呆気なく死んでいくお前を!!』

 

『だからーオレがお前を死なせねぇ!!』

 

スピアを捨て、イクサが両腕を交差する

その体が赤い光球になり、歩夢の体へと降りていく

 

 

光り輝く空間の中で歩夢は目を覚ます

 

「ここは…?私、意識を失って……」

『ここはオレの中みたいなもんだ』

 

背中側から掛けられた声に歩夢が振り向く

そこには人間と同じ身長になったイクサが立っていた

 

「あのウルトラマン…⁉︎ 中ってどういう…」

『お前はほとんど死んでたんだよ。ガスで肺とかやられて、もうすぐ死ぬところだった』

「……やっぱり…無茶しすぎたか…」

『当たり前だろうがバカ!!』

 

イクサが歩夢を指差す

 

『だから、オレとお前の命を繋いでお前を助けた。この状態なら、ゆっくりとだがお前の体も治っていくし、オレと一心同体の間はお前は健康体でいられる』

 

「なるほど、一心同体………はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

歩夢が思わず肩を抱いて体を庇う

 

「な、なんでそんなことに……あんた男でしょ⁉︎乙女の体に許可なく入り込むとか最低よ!!」

『気持ち悪いことを言うな!!緊急事態なんだから仕方ないだろうが!!!』

 

しばらく困惑していた歩夢だが、自分の中で整理をつけたのか、イクサの方を向き直る

 

「……仕方ないし納得しとくわ。あんたと話もしたかったから、これなら一石二鳥だし」

『話だぁ?なんの?』

 

歩夢が胸をぽんと叩く

 

「もちろん、何でもよ。あんたが怪獣を倒すことにこだわる理由とか、あんたの出身の話とか、あんたが好きなものとか食べ物とか」

 

イクサに向けて手を差し出す

 

「知らなきゃ始まらない。理解だって、話し合いだって」

 

「その一歩を今から始めるの」

 

不思議そうに見ていたイクサはぷいとそっぽを向く

 

『はっ、勘違いするな。お前を見殺しにするのは寝覚めが悪いから助けただけだ。この星にしばらくいる為にも、隠れ蓑になりそうなものが必要だったしな』

 

「何よそれ……あ、でもわかったことあるわ。あんたはこの星にやるべきことがある、そしてなんだかんだあんたは悪人じゃない。悪人なら、私のことなんか放っとくはずだもの」

 

『お前なぁ……』

 

イクサが呆れたように頭を掻く

 

『イクサ。オレの名前だ』

「イクサって言うのね。私は歩夢、稲葉 歩夢よ」

 

自己紹介を終えた歩夢は自分の左手にイクサが付けているイクサファーナスと同じガントレットが装着されていることに気づく

 

「これって…」

『言ったろ、一心同体だって。歩夢がそれを使って変身したらオレはこの地球で3分間だけ本来の姿で戦えるってわけだ。精神も二人分だから色々勝手は違うだろうがな』

「なるほど」

 

歩夢は得心がいったように頷く

その手に現れたカードを開いたイクサファーナスの甲にスロットする

 

《アユム:イクサイテッド》

 

「そんでもって、こう!」

 

歩夢が左拳を突き出し、イクサも左拳を突き出して打ち合わせる

 

《リンケージ:ウルトラマンイクサ》

 

「ハァッ!!」

ーサァァァァッ!!

 

拳を掲げ、上に突き出した歩夢とイクサの姿が重なり、巨大な姿へと戻っていく

 

 

サルファルドの目前に光の柱が屹立する

 

そこから現れたのはウルトラマンイクサ

だが、その姿は少し異なるものになっていた

 

深紅に銀のラインが入っていた体には新たに青いラインが入ったものになっていたのだ

 

『うわっ⁉︎本当にウルトラマンになってる⁉︎』

『余所見してんな!来るぞ!!』

 

ーゴァァァァァァァァ!!!

 

咆哮するサルファルドがイクサに迫る

戸惑いながらもイクサはその突撃を真正面から受け止め、そのヘラ状のツノを掴み、押さえる

 

『苦しんで暴れる余力がまだあるなら…ッ!』

ーサァァァァァァァァッ!!!

 

ツノごとその頭を持ち上げ、イクサはその胸に張り手を当ててよろめかせる

 

ーゴァァァァァァァァ!!!

 

暴れるサルファルドの腕をいなし、チョップを当てて怯ませ、さらにラリアットをかましてその体を転倒させる

 

ーサァッ!!

 

構え直し、ふらふらと立ち上がるサルファルドを見据えるイクサ

そこにGBCTキャリアーが飛来してくるのが見える

 

『ランダル、ナイスタイミング!』

 

それを確認するや否や、イクサはサルファルドの体を押さえキャリアーの方を向かせて羽交締めのようにする

 

『……押さえてくれているのか?』

 

ランダルの目前のイクサが頷く

それに応え、ランダルも特殊酵素弾頭の照準をサルファルドに合わせる

 

『……特殊酵素弾頭、発射!』

 

特殊酵素弾が直撃し、サルファルドがもがく

その体を離し、イクサがキャリアーと共に怪獣を見守る

 

ーコォオォォ…?

 

サルファルドは自分の体を不思議そうに撫で回す

排出口からはガスがもう漏れ出してはいなかった

 

『……成功したようだな』

 

ランダルが安堵の呟きを漏らし、イクサが怪獣を見て頷く

 

ークォォォォォォン

 

サルファルドはぺこりと頭を下げるような動作をすると共に地面を掘り出し、地中へと帰って行った

 

『あれで良かったのかよ?歩夢』

『大成功よ。サルファルドは元々火成岩が主食らしいし、また体調を崩したりしない限り無闇に暴れたりはしないはず』

 

歩夢の言葉を聞き、イクサがそっぽを向く

 

『それは多分の話だ。多分である以上、奴がまた現れて襲ってこない保障はない』

『それならそれでまたあの子のことを調べるまでよ。サルファルドのことをきちんと理解できたなら、彼も私たち人間も争わない選択肢はきっとあるはず』

 

怪獣が去ったことを確認し、イクサは空へと飛び立つ

キャリアーに乗るランダルは飛び去るイクサのことをじっと見送る

 

 

一部始終を特殊自衛隊基地の執務室で中継越しに見ていた黒斗が通信を待機していた戦車隊に繋げる

 

「撤収を。今回のターゲットは沈静化しました。深追いの必要はありません」

『了解。撤収に移ります』

 

通信を切り、モニターも取り下げる

黒斗は執務机に向き直り、雑務を再開し始めた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『……歩夢、歩夢。応答しろ歩夢』

「はいはい、ランダル。何度も呼ばなくても聞こえてるわよ」

 

センチネルのコクピットに戻った歩夢がGBCTパッドの通信に応答する

 

『……体は無事か?対ガス装備も無しに無茶をする』

「なんとかね。サルファルドが無事で何より…誰も死ななくて済んだし、作戦大成功ってヤツね!」

『……ああ、それは間違いない』

「ならスターゲイザーベースで祝勝会でもしましょうか。まぁともかく今日は一旦帰投して報告をまとめないとね」

 

ランダルとの通信を終わらせ、左腕を見る

装着されたイクサファーナスがウルトラマンと一体化したことを否が応でも現実だと証明してくる

 

『お前のやり方、これからも見せてもらう。だがそのやり方が通じないと思ったらオレはオレのやり方でやらせてもらう』

「言ってなさい。私は意地でもこのやり方を諦めないから」

 

歩夢はそう不敵に笑って答えた

 

 

サルファルドが去った窪地の大穴

 

霧慧神獣教の指導者らしい人物が黒手袋に覆われた手を大穴にかざす

何かに引き寄せられるように飛び出してきた小さなものがその手に収まる

 

一つはイクサが持つハンティングタリスマンと同じ構造のもの

もう一つは今なお脈動する緑色の細胞片のようなもの

 

それらを眺め、指導者ー霧慧神獣教の教主・火煙(ひえん)は微笑む

 

「救済の星は落ちた。ならばワタシは、我々はただ祈りを捧ぐのみ」

 

火煙は踵を返し、木立の影の中に姿を消して行った




歩夢と一心同体になったイクサ
だが怪獣に歩み寄る歩夢と怪獣を狩るイクサの息は合わない

意見の衝突が続く中、新たな怪獣・タラトスクが出現
息の合わない二人は怪獣を取り逃がしてしまう

歩夢の信念とイクサの信念
その衝突の先に解決策はあるのか

次回ウルトラマンイクサ
「決裂と約束」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。