ウルトラマンイクサ   作:リョウギ

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第18話「妄念と沙羅の花」

岩神諸島(いわがみしょとう)見学へ歩夢(あゆむ)たちが出発する2日ほど前

 

玲武(れいぶ)神社の裏手の井戸で水浴びを済ませた苑樹(えんじゅ)

 

白い簡素な着物を着て呼吸を整え、手にした銅鏡の鏡面をなぞる

が、鏡面は何も反応しない

 

「……やはり、あの時力を使いすぎましたか…」

 

はぁ、と苑樹がため息を吐く

銅鏡の鏡面を着物の袖で拭い、空を見上げる

 

「久しぶりの里帰りとしましょう。何やら嫌な予感もする今、早急に力は取り戻しておかねば…」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「里帰り…?」

 

苑樹と向かい合ってちゃぶ台に座り、朝ご飯を食べるリュウが呟く

 

「わたくしの力、それとわたくしの神器を清めて霊力の補充をしたいのです。わたくしの生まれ故郷にある玲武神社の総本社には、龍脈の源泉につながる祠がありますから、そこで身と神器を清めて大地から力をもらうのです」

「ここ、分社だったのか…」

 

黙々とご飯を食べながら苑樹がリュウを見やる

 

「ついて来ますか?来ても見るものなどないとは思いますが」

「…もちろん行く。一つでも多く苑樹のことを知りたいからな」

 

その言葉に苑樹はこめかみをひくつかせ、軽く頭を押さえる

 

(…そういう意味合いではないとわかりますが…なんとも気の抜ける人ですね、この方は……)

 

はぁ、と一つ息を吐き苑樹が告げる

 

「出発はこの後すぐにです。ご飯を食べて片付けたら、すぐに支度をしてくださいね」

「ああ、わかった」

 

 

五道市から電車やらバスを経由すること2時間ほど

 

山間の集落になっている小さな村ー宙舟(そらふね)村に2人は到着した

 

最低限の荷物をリュックに背負ったリュウと同じくスポーツバッグを肩から下げた苑樹が村の入り口に下りる

 

「こちらです。総本社に部屋がありますからしばらくそこに泊まりましょう」

「ああ」

 

苑樹の先導にリュウは大人しくついていく

 

「玲武家の、お久しぶりだねぇ」

「ご無沙汰していました」

 

「玲武の、これ持っていきな。畑でいい野菜がいっぱい取れたんだ」

「いただきます。美味しそうな野菜ですね」

 

行き交う村の人々に笑顔で会釈や挨拶を返しながら苑樹は総本社へと進んでいく

 

後ろについていくリュウはどこか奇異の視線のようなものを感じ、なんだか居心地の悪さを感じていた

 

「玲武の、とうとう婿をもらったのか…いい男ですなぁ…」

 

「ち、違いますッ⁉︎」

 

老人の言葉を思わず苑樹が大声で否定する

苑樹がリュウを睨みつけるが、リュウはたじろぎ首を傾げるだけだった

 

(……婿って、なんのことだ…?)

 

 

玲武神社総本社

 

鳥居をくぐった先の神社は存外簡素な作りで、五道市端の分社とさほど大きさに違いはなかった

 

山の側に立つ神社の裏手にはしめ縄が入り口に施された洞窟がぽっかりと口を開けていた

 

「わたくしは早速、清めの儀に入ります。総本社の合鍵を渡しておくので、好きに使ってください。書物やらも読んでもらっていいですが、くれぐれも中のものは壊さないでください」

 

苑樹が古びた鍵をリュウに手渡す

 

「…その清めの儀、見てちゃダメか?」

「……清めの儀は身を清める儀、つまりわたくしは裸体にならねばならないのですからしてー」

「あっ、す、すまない…ッ‼︎」

 

フン、と鼻を鳴らし苑樹が奥の洞窟へと歩いていく

 

残されたリュウはひとまず荷物を置きに総本社へと入って行った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

古びた社の中は外見に似合わず綺麗だった

苑樹曰く、定期的に掃除と瞑想に戻るらしい

 

離れの方に見つけた座敷に荷物を置くと、リュウは神社の中を歩いて回った

 

本殿には中央奥に仏像が置かれ、天井付近にはぐるりと絵巻のようなものが貼られていた

 

(…なんだか怪獣に似てる…?ガイアルドとかに似てるのもいる…)

 

貼られた絵巻に書かれていた動物たちはどこか今まで見てきた怪獣たちによく似ていた。中にはガイアルドに似た存在もいる

 

一部の怪獣たちの側には、まるで怪獣たちを従えるかのような人物も描かれていた

 

(これ、歴代の玲武の人たち…ってことか?)

 

イグニスを交えた話し合いの時に苑樹から玲武の血筋が持つ力については聞いていた

 

玲武の血筋は気の遠くなるほど長い時を怪獣と、大地と共にしてきたのだろうということが、古びた書から読み取れた

 

 

玲武神社総本社の裏手の洞窟

 

その内部に広がる地底湖に苑樹は目を閉じ、身を沈めていた

 

地底湖の中央には小さな祠があり、銅鏡ーバトルナイザー:EARTHが今納められている

 

【ーシィィィィィィィ………】

 

地底湖の水面を鏡面に、白い蛇のような姿の怪獣が映し出される

 

「……イツシ。すみません、しばらくご無沙汰していました」

 

【ーシィィィィィィィ……】

 

水面に映る蛇ーイツシは苑樹を労わるように舌を鳴らす

 

身を清め、瞑想する中で苑樹は思考を巡らせていた

 

 

『人間はきっと変わっていける。だから私は最初に変わって、伝えていく道を選んだの』

 

『こうして言葉を交わせるなら……憎み合う以外にあるんじゃねぇのか!?』

 

 

その脳裏に浮かぶのは、歩夢とイクサの言葉

 

「……人間は変われる、憎み合う以外にできることがある…」

 

あの時怒りに包まれて素直に受け取ることができなかった言葉

身を清めた今、苑樹の胸にはその言葉が響き始めていた

 

苑樹は自身の胸に手を当てる

 

「……ですが…ですが、それでは今まで汚されてきた大地は…」

 

【ーグァァァウゥゥゥゥゥゥ…】

 

更に水面に影として現れたティグリスが低い穏やかな唸りをあげる

 

「ティグリス……?」

 

【ーグァァァウゥゥゥゥゥゥ…】

 

「わたくしが、信じたいことを信じろ…?」

 

影のティグリスが頷く

しかし苑樹は唇を噛み目を伏せ、首を振る

 

「それは、それはダメなのです。わたくしは大地の代弁者、玲武の家に生き、玲武の呪われた血を宿すもの…」

 

苑樹は雑念を祓うように地底湖の水で顔を洗い、拭う

 

「……わたくしは…大地の意志として生きねば、許されぬのです」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

神社の散策が終わって手持ち無沙汰になったリュウは何か気になっていた裏手の森の方に足を向けていた

 

(なんだか、居心地がいい感じがする……)

 

苑樹の話だと五道市から離れてはいるが、龍脈のエネルギーが多い地点らしい

 

そんな森の中を散歩していると、そこかしこに山地開発用の重機やら機材などが並んでいる

 

どうやら、この森は開発途中であるらしい

 

「開発工事を中止にしないか?なんでだ?」

 

ふと、奥の方から話が聞こえてきた

 

林道の先、少し開けた土地に数人の人間が集まっていた。スーツ姿の男が数名、工事担当らしい作業着の人物が数名

 

「いや、こんな(ほこら)がある場所お祓いもなしに壊したら何があるか分からんだろうよ…」

 

人物たちの言葉に出ていた祠はリュウからも見える位置にあった

古びた祠でしめ縄が巻き付けてあった。苔むしてはいたが、定期的に掃除はされているようで荒れている様子はなかった

 

「まさか祟りだのオカルトを信じてるのか?バカバカしい」

「バカバカしいわけあるか⁉︎そういう曰く付きのモノを何度も見てきたからこそ心配なんだよ‼︎」

 

何か口論しているらしく、厄介ごとに巻き込まれそうな気配を感じたリュウは引き返そうと身を引く

 

その側を白い着物を着た少女がすれ違い、祠の方に駆けていく

髪に刺した白い花が揺れていた

 

「あ、おい…⁉︎」

 

止めようとしたリュウだが既に遅く、少女は祠の前に集まる人々の側まで行ってしまった

 

「あの、そこの祠に用事があるのですが…」

 

スーツ姿の男が振り返り、少女を睨む

 

「嬢ちゃん、悪いが今取り込み中なんだ。どっか行ってくれるか」

「そこの祠にお供えをさせてもらうだけでいいんです」

「……わからねぇガキだな、邪魔なんだよ」

 

男は少女の肩を突き飛ばす

尻餅をついた少女がその手に抱えた紫の鈴のような花束を取り落とす

 

「おい、そんな子供に何手上げてるんだ⁉︎」

 

リュウがたまらず飛び出し、少女を助け起こす

 

「チッ、ガキが増えやがった…」

 

男は面倒臭そうに吐き捨て、リュウたちを睨む

 

「いいか、ここは俺たちが高い金出して買い取った土地だ。俺たちがどうしようが文句は言わせねぇ。こんな小汚ぇ祠をどうしようがなぁ‼︎」

 

男が祠を蹴り飛ばす

 

「やめて‼︎」

 

流石に見かねた作業着の男がスーツの男を止めに入る

 

「おい⁉︎そこまでやるこたぁねぇだろ⁉︎」

「こういうのは地元の古臭い連中がいつまでもつけあがってきやがるから多少強引にでもやってやりゃいいんだよ‼︎」

 

あまりにも横暴な物言いの男をリュウが睨む

 

「……なんだその目は?ケッ、生意気なガキだ」

 

スーツの男は振り返り、怒声を上げる

 

「とっとと重機を持って来い!さっさとこの祠立て壊して、発電所用の土地開発終わらせるぞ‼︎」

 

去っていく男たちをしばらく睨み、少女の方を見る

 

「…大丈夫か?」

「はい、少し着物が汚れてしまいましたが…」

 

地面に散らばった花を見て少女が悲しそうな顔を見せる

 

「せっかく採ってきた花が、無駄になってしまいました……」

「……オレが採ってこようか?」

「いいんですか…?」

 

リュウは頷く

少女はそれを見て薄く微笑む

 

「では、お願いします。道が険しいので、共に来てくれるだけでも心強いのです」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あの祠には、ある武士のお方が祀られているのです」

 

花の咲く場所への道中、半ば獣道のようになった険しい道を歩く中少女が口を開く

 

「侍…?」

「はい。400年ほど前の江戸の世のはじめで生きた武士のお方です。ある化生を退治するために山に入り、一日の下その化生(けしょう)を退治せしめた後はこの山にそのまま住まい、生を終えられたお方…」

 

歩を進めながらリュウは首を傾げる

 

「そんな人を祀る祠……?偉業を為したのはわかるけど、それで祠を建てるものなのか…?」

 

リュウの問いに少女は少し俯く

 

「…そのお方は、死して怨霊となって近くを通る人々に害を成すようになったのです」

「怨霊…?」

 

少女は目を伏せ、頷く

 

「その武士様は、かつて自分が住まう地だった場所に近づくものを斬り捨てる怨霊として現れ続けた。近づく人に底知れぬ怒りをぶつけるようなその姿から、その武士様は怨霊鬼ー朱戀鬼(しゅれんき)と呼ばれるようになりました」

 

「ある時、訪れた旅の祓魔師(ふつまし)錦田小十郎影竜(にしきだこじゅうろうかげたつ)というお方が朱戀鬼を説き伏せ、この地に無闇に立ち入らぬこと、祠を建て彼の悲しみと怒りに拠り所を与えることを約束とし、その祓魔師が刀を納めて封印なさったのです」

 

リュウはその話を聞き、改めて問う

 

「……そんな場所、その武士の祠になんでキミは花を供えに行っていたんだ?」

 

少女は足を止め振り返り、薄く微笑んで答える

 

「いくら静寂を望んでいても、あのお方が1人きりなのは可哀想だと思った、ただそれだけのことです」

 

 

少女の案内に従ってたどり着いたのは、森の奥に広がる花畑だった

 

そこには一面に白と紫の花が咲いていた

少女が持っていた花束と同じ、鈴のような形をした花だ

 

「……綺麗な花畑だな」

 

あまりの綺麗さにリュウが声を漏らす

少女は微笑み、屈んで紫の花を摘んでいく

 

「フウリンソウという花です。どこからか種が飛んできたのか、ここに大きな花畑を作っているのを見つけたので、あの武士様にもこの香りや美しさをお見せできればと定期的にお供えを……おや?」

 

花を摘む手を止め、少女が花畑の隅の大岩に目を留める

 

「……あれは、なんでしょうか?」

「ん?」

 

リュウも大岩の方に目をやる

何か黒いものが突き刺さっているのが見えた

 

「……つい先日には、あんなものはなかったのですが…」

 

首を傾げる少女と共にその岩に近づいていくリュウ

 

突き刺さっていた黒いものが見えてくると、思わずリュウは眉を顰めていた

 

「………なんだ、コレ…?」

 

そこに突き刺さっていたのは黒い短剣……と呼ぶには珍妙な形状をした剣だった

 

流麗なカーブを描く黒い刀身に紫の刃

その刃が伸びる柄の部分。そこにはグリップに覆いかぶさるような形で「頭」がくっついていた

 

深く裂けた口にオレンジ色の吊り上がった目

ひどく凶悪な面構えだったが、どこかイクサやテラたちウルトラマンのようにも見える顔だった

 

「……なんでしょうか、これ?」

「こんな形の刀とか、昔あったとか…?」

「そこまで詳しいわけではありませんが、こんな珍妙なものは見たことがありませんね…」

 

訝しみながらもとりあえず抜いておこうとリュウが手を伸ばす

 

しかし、触れようとした瞬間電流のような衝撃が走り、思わず手を下げてしまう

 

「ーッ⁉︎」

 

驚くリュウの前で岩に突き刺さる剣の顔、その目が輝き口を開いた

 

《ーオレ様に手を触れる前に一つ聞く》

 

「しゃ、喋った⁉︎」

「よ、妖怪変化…⁉︎」

《違う。オレ様はオレ様だ》

 

剣は言葉を続ける

 

《答えろ。オレ様を手にして、オマエは何をする?》

 

「何をする?いや、ただオレはお前を一応回収しとこうとしただけなんだが……」

《本当にそうか?》

 

《オマエは、何か迷っているんじゃないのか》

 

胸の底を見透かされたような言葉に思わずリュウが言葉を詰まらせる

 

「ーッ、なんで、そんな話になるんだ」

《図星か?》

「……そうかもな…」

 

2人(?)が会話を続ける中、少女が不思議そうに剣を眺める

 

「言葉を話す剣…付喪神様でしょうか…?」

《違う。オレ様はオレ様、魔剣ベリアロクだと言ったはずだ》

「魔剣…ベリアロク…?」

 

自らを魔剣と名乗った剣ーベリアロクは言葉を続ける

 

《オレ様の使い手はオレ様自身が決める》

《……尤も、今の使い手とははぐれてしまっているがな》

 

「使い手とはぐれた…?持ち主がいるのかお前?」

《一応の使い手だがな》

「大変…探していらっしゃるかもしれません…」

「じゃあ、やっぱり持っていくしかないか…」

 

はぁとため息を吐きながらリュウがベリアロクの柄を掴む

引っ張って抜こうとするが、短剣サイズのはずのそれは岩に縫い付けられているかのように引き抜けない

 

「ぬ、抜けない…ッ⁉︎」

《言ったはずだ。オレ様の使い手は、オレ様自身が決める》

《オマエには2万年早い》

「この野郎ッ…⁉︎」

 

意固地になって岩に足を踏ん張らせて思いっきり抜こうとするがベリアロクは抜けるどころか小揺るぎもしない

 

その時、少女が険しい顔でバッと振り返る

 

「……?どうした?」

 

ベリアロクを抜くのを諦め、ぜぇぜぇと息をするリュウが首を傾げる

 

「ー祠が……祠が…ッ!!!」

 

絶叫のような声をあげ、少女が駆け出す

 

「お、おい⁉︎何があったってんだ⁉︎」

 

リュウは慌ててその背を追いかけていく

 

1人(?)残されたベリアロクも何かを感じ取っていたらしく

 

《…ほう、面白い気配がするな》

 

と呟いていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ショベルカーがあの祠の建つ広場に入っていくのを開発業者の男ー生天目(なばため)はニヤニヤと見守っていた

 

妙な子供たちやらに絡まれ、無能な作業員に口答えされてイラついていたが、その無能たちをクビにし雇い直した作業員たちは祠などに恐れもせずに作業をはじめてくれたからだ

 

「コレでやーっと、ここらも綺麗に更地にできるわけだ」

 

ショベルが祠の屋根に突き刺さり、メキメキと崩していく

しめ縄がちぎれ、扉はひしゃげていく

 

ぐしゃりと下げられたショベル、その下には一本の錆びた刀が紛れていることに誰も気づかない

 

ーパキンッ

 

ショベルに押し潰され、刀が折れ砕ける

 

祠が潰れたのを確認したショベルカーは祠の残骸ごと土を持ち上げようと地面にショベルを突き刺す

 

 

【ーォオォオォォォォオォォォン!!!!!】

 

 

瞬間、空が突如曇り、底冷えのするような冷気が立ち込めると共に、おどろおどろしい声が響き渡った

 

 

【ーォオォォォォオォォォォオォォォ!!!】

 

森の奥ー祠の方向から響いてきた悍ましい声にリュウは思わず身を竦ませ、少女は顔を青ざめさせ口を手で覆う

 

「ああ、ああ……祠が…壊されてしまった……‼︎」

 

 

清めの儀を終えた苑樹も森の方から響く声に気づき、顔を上げる

 

「まさか、朱戀鬼(しゅれんき)の祠が…⁉︎」

 

血相を抱えた苑樹は銅鏡を手に駆け出していた

 

 

ゆらりと森の中から立ち上がる巨体

血濡れた黒い甲冑を纏い、欠けた兜に歪んだ角をそなえた鎧武者、否落ち武者のような巨人はかがみ込み、平地で呆然と武者を見上げていた生天目を見下ろす

 

兜の下、能面のような白い顔と吊り上がった赤い目が目前に迫ることをやっと認識した生天目が恐怖に顔を歪めながら尻餅をつく

 

「ひっ、ひぃいいぃ!?!?」

 

【ーカハァァァァァァ……】

 

かくり、と開いた口から濃密な闇が溢れだす

怨霊鬼ー朱戀鬼は側のショベルカーをおもむろに鷲掴みにする

ショベルカーに乗っていた作業員が顔を真っ青にし、腰を抜かしながら這い出てそのまま逃げていく

 

【ー沙羅(さら)を傷つけるは…オマエかぁ…?】

 

朱戀鬼が歪んだ声を放つ

 

「は、はぁひっ⁉︎ し、しらない、しらないよ⁉︎」

 

【ーとぼけるなァァァァァァ!!!】

 

怒りに目を光らせ、朱戀鬼がショベルカーを握り潰す

 

「はひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」

 

朱戀鬼は再び生天目に顔を寄せる

 

【ーこの地を、踏み荒すは皆、沙羅を傷つけんとする。人間は皆そうだった。オマエもそうだ。オマエも、沙羅を傷つける。沙羅を、おれから奪おうとする……】

 

ギギギ…ッと鎧の軋む音と共に朱戀鬼の体から瘴気が噴き出す

 

【ーどうして我らを引き裂こうとするぅ……ッ!!!】

 

朱戀鬼は腰に挿した刀を抜き放ち、大上段に構える

その意図を読み取ってしまった生天目が恐怖のあまりに涙や鼻水を流しながら後ずさろうとするが体が思うように動かない

 

【ー天んんん……誅……ッ!!】

 

「はっ、ひゃあぁぁぁあぁぁあぁぁあ!!!!」

 

《ウルトライブ‼︎》

《ウルトラマンテラ‼︎》

 

振り下ろされた刀を青い腕が掴み、刀を止める

 

【ー!?】

ーテァァァッ…‼︎

 

朱戀鬼が刀を掴む腕の持ち主ー現れたウルトラマンテラを睨む

 

『やめろッ‼︎』

【ーオマエェェ…ッ!!】

 

朱戀鬼は刀を振るい、テラの手を振り解き、そのまま刀を振るってテラの体を袈裟に斬る

 

ーテァァァッ!?

 

斬られ後退したテラ

斬られた傷口を押さえる巨人を、憤怒の炎が揺らめく赤目で睨み、朱戀鬼はかたん、と開けた口から黒い瘴気を吐き出す

 

【ーオマエもか……オマエも、オマエも沙羅を傷つけるか…‼︎沙羅を奪うのかァァァァッ!!!】

 

半狂乱になりながら刀を振るい、朱戀鬼が迫る

 

《ウルトランス‼︎》

《アルマンドラ・ソウル‼︎》

 

振るわれた刀をアルマンドラの力を纏ったテラは腕の装甲を使って受け止め、受け流していく

 

振るわれる刀を止め、刀を押さえつけながら朱戀鬼を引き寄せ、顔を突き合わせる

 

『やめろ‼︎ 祠を、眠る場所を荒らされたことは確かに辛いかもしれない…でも、だからって誰かを傷つけていいわけがないだろ⁉︎』

【ー黙れェッ!!どうして、どうして我らを引き裂こうとするゥゥゥゥゥゥ!!!】

 

かぁぁっと朱戀鬼は口から瘴気の黒い炎を吐き出し、テラを焼く

たまらず刀を離すテラの胴体に蹴りを入れ、その体を押し倒す

 

ーテァッ…⁉︎

 

ーァァァァアアァァァァアア!!!

 

朱戀鬼は刀を振り回し、行き場のない想いを吐き出すかのように叫びを上げる

 

【ー沙羅は渡さぬゥゥ…傷つけもさせぬゥゥゥ……ッ‼︎ 沙羅、沙羅、沙羅ァァァァァァァァァァァァ!!!!】

 

ーウゥゥゥアァァァァァアアァァァァ!!!

 

朱戀鬼が刀を振りかぶりながらテラに迫る

 

振りかぶった刀を防がんと、テラが腕を上げる

 

ーギャリィィィィィィィィィィンッ!!!

 

鋭い刃音が、あたりに響き渡った

 

 

《ー怨霊か…面白い。斬ってみるか》

 

 

『!?』

 

思わぬ声にテラが顔を上げる

 

朱戀鬼の刀を受け止めていたのは、巨大化した魔剣ベリアロクだった

 

『お前、デカくなれたのか!?』

《オマエじゃない。オレ様はベリアロクだ》

 

ギャリィンッ‼︎と刀をかち上げ、そのままの勢いでテラの手元へ飛来。その右手に収まる

 

『は、えぇっ!?』

《不本意だが、オマエに使われるのも多少は面白そうだ》

《今は使われてやる。アイツらが見つかるまでだがな》

 

ーウゥゥゥアァァァァ!!!

 

朱戀鬼が刀を振るう

そこに合わせてベリアロクで受け止め、弾き返しながら朱戀鬼の鎧を引き裂く

 

鎧の表面が裂けると共に黒い瘴気が噴き出す

 

【ーオァァァアァァァァ!?おのれェェェェ…ッ‼︎】

 

苦しみながらも朱戀鬼はテラを睨み、突撃してくる

 

『これなら……‼︎ はぁッ!!!』

 

テラもベリアロクを順手に持ち替え、その刀を迎え撃つ

 

ーギャリィッ、ギャリンッ、ギャリリィィィッ!!!

 

狂乱しながらも鍛錬が垣間見える刀捌きを見せる朱戀鬼

 

拙いながらもそれに対応し、ベリアロクで弾いていくテラ

 

2人の巨人の剣撃が、薄曇りの中を火花で照らす

 

刀をぶつけたまま鍔迫り合いに持ち込む2人

 

ーテァァァッ!!!

 

今度はテラが朱戀鬼を徐々に押し込んでいき、その刀をかち上げ、胴に鋭い一閃を当てる

 

【ーぐぅアァァァァァァァァァァァァッ!!!】

 

胴鎧を大きく斬り裂かれた朱戀鬼が膝を突く

かち上げられた刀が地面に突き立つ

 

祠のあった平地にようやく辿り着いた苑樹が肩で息をしながらテラと朱戀鬼を見上げる

 

 

《今だ。オレ様の力を使え》

 

ベリアロクがテラに告げる

 

テラはベリアロクを逆手に構え直し、朱戀鬼を見据える

 

【ーァァァアァ……沙羅ァ……ッ‼︎】

 

慟哭のような声をあげ、傷を押さえて朱戀鬼が震えている

 

テラはベリアロクからその手を離した

 

テラの手から離れたベリアロクが、足元の地面に突き刺さる

 

《……何?》

 

『お前を手にして、何をするか…あんたの言った通り、オレはまだわからない。見つけられていない』

 

テラはウルトランスも解き、朱戀鬼を見据える

その能面のような頬を、涙が伝って落ちた

 

『ーだけど、少なくともこれは言える。オレは、あの人を斬りたくはないんだ』

 

《……そうか》

 

テラーリュウの言葉にベリアロクはただそう返す

 

【ーガァァァァアアァァァァ!!!!】

 

朱戀鬼が獣のような叫びをあげ、面を上げる

目が更に赤く輝き、面の右頬に亀裂が走り黒い瘴気が噴き出す

 

『!?おい、もうやめてくれ‼︎ オレはあんたから何も奪うつもりも、戦うつもりもないんだ…‼︎』

 

【ー渡さぬ、渡さぬ渡さぬ渡さぬ渡さぬゥ‼︎ 沙羅は、沙羅の命は、誰にも奪わせぬゥゥゥ!!!】

 

朱戀鬼は刀を大地から引き抜き、テラに突撃してくる

 

 

「ーやめてッ、三郎(さぶろう)様ァッ!!!!」

 

 

突如響いた声に、朱戀鬼はピタリと動きを止めた

 

その声の主は平地の入り口に立っていた

 

髪に挿した白いナツツバキー沙羅の花を揺らしながら少女は歩み出し、朱戀鬼たちへと近づいていく

 

「……あなたは…⁉︎」

 

その少女を見て苑樹が驚いたように目を見開く

 

朱戀鬼がぎしり、と首を動かし、少女の方を見る

 

少女は一筋の涙を流し、目を伏せる

その体から淡い光の粒がいくつもこぼれだし、少女の頭上に蜃気楼のような朧げな巨体を露わにする

 

土色の体表を持つ、黄色い4つ目とくの字型の4本のツノを持つ、4足歩行の怪獣がそこに現れていた

 

ーキュウァァ…‼︎

 

赤ん坊のような声を上げるその怪獣の幻を見て、朱戀鬼は刀を取り落とし、体を震わせる

 

【ー沙羅……沙羅ァッ!!!】

 

『この怪獣が、沙羅⁉︎ じゃあ、武士が倒した化生(けしょう)ってー』

 

【ー化生などではないッ!!!】

 

朱戀鬼が声を張り上げる

 

【ー沙羅は……沙羅はか弱き命だ。すぐに消えゆくような、正に沙羅の花のような…それでいて沙羅は、どこまでも力強く…どこまでも、どこまでも全力にその命を燃やし、生を歩んだ、歩みきった…ッ‼︎】

 

朱戀鬼が面を上げる

その瞳が赤から青に変わり、滂沱の涙を流していた

 

【ー美しかった…そんな沙羅が、どこまでも美しかった…‼︎ 化生を退治して欲しいと送り出された先で出会った沙羅の、赤子のごとき純心さにおれは、刀を振るえなかった……】

 

【ー帰ることもできぬおれは、沙羅と共に過ごした…過ごしゆくうちに、沙羅はほんの数刻ほどしか生きれぬのだと、その短い刻に命を燃やして生きるのだと悟った……立ち上がり、老いゆく沙羅を見て、懸命に短い刻を生きゆくその様が…戦で無為(むい)に散る命を見てきたおれには、どうしようもなく美しかったのだ……】

 

沙羅と呼ばれた怪獣の幻影を映したまま、少女ー沙羅は口を開く

 

「…はじめて三郎様がわたしに刀を向けた時、わたしは刀の意味も知らない赤子でした。いつ殺されてもおかしくない。そんなわたしを、三郎様は傷つけなかった。優しく、見守るだけでいてくれた」

 

朱戀鬼は拳を握り、震わせる

 

【ー夕刻、帰らぬおれを不審に思うた村人は、痺れを切らして沙羅を殺しにきた。許せなかった。かけがえのない、数刻の命を、奪われることが…おれの前から、沙羅が命を遂げずに消えてしまうことが…‼︎】

 

「夕方、わたしが三郎様を知り、生きたいという願いを自覚し始めた時……村人がわたしを殺さんと現れた時……三郎様は、わたしを守ってくれた。狂人と(そし)られる様になってまでも……」

 

【ー構わなかった‼︎ おれが見つけた宝を、儚くとも力強い、命の輝きを守れるならば……奪うことしかできなかったおれが、最期に守ることができるならば……ッ、おれは狂ってしまってもよかったのだ…】

 

手を突き、朱戀鬼が慟哭する

 

【ー沙羅が死に絶え、骸を転がした時…沙羅は、その命を繋いだことを知った……だからおれは、おれはこの地に残り、踏み荒す愚か者を斬り続けた……鬼と呼ばれ、死して真なる鬼になっても……沙羅が繋いだ命を守ることだけが、おれの、おれの全てだったから……】

 

その言葉を聞いたテラが平地に跪く

テラの行動を察した苑樹が入り口付近まで下がると共に、テラは地面を掘り返す

 

その中から、縞模様の黄色い大きな卵が姿を現した

どくん、どくんと鼓動に合わせて淡い光を漏らすそれは、確かに生きていた

 

 

朱戀鬼ー三郎は、400年守り抜いたのだ

 

 

沙羅の幻影が朱戀鬼の顔を舐め、涙を拭う

 

「もう、もう良いのです三郎様。わたしは、あなたと過ごしたたったの一日が、とても暖かだった。ただ寄り添ってくれたあなたが、とても嬉しかった」

 

「もう、眠っても良いのです。三郎様…」

 

ーキュウァァ…‼︎

 

テラが地中から卵を優しく持ち上げ、朱戀鬼に向き直る

 

『卵は、沙羅が繋いだ命は、オレたちが必ず守る。必ず次の命まで、繋いでいくし、そこから先も守っていく』

 

『……だから、だから安心して眠ってくれ。三郎さん』

 

テラが真摯に告げた言葉を受け取った朱戀鬼は立ち上がり、深々とテラに向けて頭を下げる

 

【ーかたじけない。よろしく頼む。光の人よ】

 

顔を上げた朱戀鬼の体が、徐々に光となって解け始める

 

 

「行きましょう、三郎様。今度は共にー」

 

【ーああ、沙羅。長らく待たせてしまったな】

 

 

人の想いが変じた怨霊鬼だったもの

一日の命を燃やし生き、魂となって寄り添い続けた怪獣

 

全く違う影は2人並び、山々の向こうへと去っていく

 

 

曇り空が開け、翳りゆく夕陽に照らされた2人の姿が光となり消え、2人の光は螺旋を描き、寄り添うように天に登っていった

 

卵を抱いたテラはそれを見送り、苑樹は少女がいた場所に残った紫のフウリンソウの花束を、空へと放り投げた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

卵を抱えたテラは岩神諸島へと飛び、中央島の中心付近の大岩山、ガイアルドの下に降り立つ

 

ーゴァァァァ……

 

テラの想いを汲んだガイアルドは、中央島中心の大岩山の山肌を窪ませるように変質させる

 

ちょうど卵が収まるようになったそこにテラは卵を優しく寝かせる

 

どくん、どくんと穏やかに脈打つ卵を見届け、立ち上がったテラを見てガイアルドは頷く

 

テラもそれに頷きを返し、村へと飛翔して戻っていった

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

夜となった宙舟(そらふね)

 

村の側に止まった屋台に座った初老の男性がラーメンを啜りながら酒をあおる

 

「いやぁ…今日は奥の四角森(よつづのもり)にあの怨霊鬼が復活したとかで、一時はどうなるかと思ったよ……」

 

「へぇ…そいつはおっかないですなぁ……」

 

白い長髪を揺らし、同じく白い髭を蓄えた強面の店主が相槌を打ちながら鍋のスープを混ぜる

 

「でも、うるとらまん?だったっけ、そいつがなんとかしてくれたってよ。玲武(れいぶ)の巫女さんも手伝って封じ直してくれてもう安心らしい。いやぁ…やっぱ玲武の巫女さんはすげぇや……」

 

上機嫌で酒をあおる客の男性の言葉を聞き、店主がぴくりと肩を揺らす

 

「……玲武の巫女?帰ってきたのかい?」

 

「あ?ああ、帰ってきてるよ。いつもは一日そこらで帰っちまうけど、今回はしばらくいるみたいでな」

 

酒を飲み干し、ついでにスープも飲み干した客は手を合わせ、代金を置く

 

「ごちそうさん。おっちゃん、ラーメン美味かったよ」

「まいど……」

 

去っていく客を見送った店主はニヤリと笑みを浮かべる

 

「そうかぁ……ようやく帰ってきたかぁ……」

 

店主は手にした笛で、屋台の側面を叩く

ガタゴト、と屋台が揺れた

 

 

上機嫌で村への道を歩んでいく客だった男性

 

ほろ酔いで鼻歌を歌いながら帰る夜道には鼻歌以外の音はなく、田舎故に電灯もほとんどない

 

はずだった

 

【 遊ぼ 】

 

無邪気な子供の声が背後から響き、立ち止まる

 

ほろ酔いだった男は一気に酔いが覚め、真っ青な顔で脂汗をかき始める

 

大昔、男は祖母から聞いていたのだ

 

【 遊ぼ 遊ぼ 】

 

『夜道を一人歩いていると、誰もいないのに遊びに誘うものがいる』という怪談を

 

あの頃、実際に遭遇した友人や大人がなんにんもいて大騒ぎになっていたことも思い出した

 

だが、男は忘れていた

 

『決して、声に応えて振り返ってはならない』ということを

 

「はぁっ、はぁっ……‼︎」

 

怖いものみたさか、恐怖故の半狂乱か

男は背後を振り返ってしまった

 

 

【 オビコ と 遊ぼ 】

 

 

宙舟村の近くの夜闇に男の絶叫が響き渡った

 

再び静寂が戻る夜の闇の中、どこからか夜鳴きそばの笛の音が響いてきていた




宙舟村の側に夜鳴きそばの笛が響く

夜道に捨てられた人々は口々に言う
「オビコを見た!」と

闇に生きる化生・オビコボウシは苑樹の前に現れ告げる

「約束の勝負の時だ」と

次回ウルトラマンイクサ
「玲武の巫女とオビコの約定」

【 遊ぼ オビコ と 遊ぼ 】

ほら、あなたの後ろにもー
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